「ドルトンの法則」の版間の差分

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'''ドルトンの法則'''(ドルトンのほうそく、{{Lang-en|Dalton's law}}<ref name="atkins">{{Cite book|和書|author = P. W. Atkins|translator = [[千原秀昭]]・[[中村亘男]]|title = アトキンス物理化学|edition = 第6版|origyear = |year = 2001|publisher = [[東京化学同人]]|id = |isbn = 4-8079-0529-5|oclc = |volume = 上|pages = 21-22}}</ref>[[気体]]の性質につ[[法則]]で[[混合気体]]の全体としての圧力([[圧]])は、気体成分それぞれ圧力([[分圧]]の[[加法|和]]に等しいいう法則である<ref name="atkins" />。'''分圧の法則'''とも呼ばれる。[[1801年]]に[[ジョン・ドルトン]]により発見された
'''ドルトンの法則'''(ドルトンのほうそく、{{Lang-en|Dalton's law}})、あるは'''分圧の法則'''とは、[[混合気体]]の[[圧]]各成分の[[分圧]]の[[加法|和]]に等しいを主張する[[法則]]である<ref name="atkins">[[#atkins|アス『物理化学』]] pp.21-22</ref>
[[1801年]]に[[ジョン・ドルトン]]により発見された。


この法則は、気体が理想的な混合をしている[[系 (自然科学)|系]]における近似法則である。理想混合系において、複数の気体からなる混合気体を容器に入れたときのある[[温度]]での圧力(全圧)は、それぞれの気体を[[単離]]して同じ容器に入れたときの同じ温度での圧力(分圧)の和に等しい。つまり、成分 {{mvar|i}} の分圧を {{mvar|p{{sub|i}}}} とすると、全圧 {{mvar|p}} は
[[系_(自然科学)|系]]の中に''T'' 種の気体が存在し、全圧を ''P''、''i'' 番目の成分の分圧を ''p''{{sub|''i''}} とすると、次式が成り立つ。
{{Indent|
: <math>P = p_1 + p_2 + \dots + p_T = \sum_{i=1}^T \,p_i</math>
<math>p =p_1 +p_2 +\cdots =\sum_i p_i</math>
}}
で与えられる。[[化学反応]]によって[[物質量]]の増減が生じないとき、[[理想気体]]の混合系は理想混合系となる。理想気体の[[状態方程式 (化学)|状態方程式]]から、成分 {{mvar|i}} の物質量を {{mvar|N{{sub|i}}}} とするとき、[[熱力学温度|温度]] {{mvar|T}}、[[体積]] {{mvar|V}} での分圧 {{mvar|p{{sub|i}}}} は
{{Indent|
<math>p_i =\frac{N_iRT}{V}</math>
}}
で与えられる。ドルトンの法則から全圧は
{{Indent|
<math>p =\sum_i p_i =\left( \sum_i N_i \right) \frac{RT}{V}</math>
}}
となる。理想気体において状態方程式の形は気体の種類によらない。これは混合系においても同じで、容器内の気体の分子数にのみ依存し、個別の分子の種類にはよらない。また、全圧に対する分圧の比は
{{Indent|
<math>\frac{p_i}{p} =\frac{N_i}{\sum_i N_i} =x_i</math>
}}
となり、[[モル分率]]に等しくなる。


理想混合系において、混合による[[ヘルムホルツエネルギー]]の変化はない。言い換えれば、各成分を単離した純粋系におけるヘルムホルツエネルギーの和に等しい<ref name="tazaki">[[#tazaki|田崎『熱力学』]] p.175</ref>。つまり、温度 {{mvar|T}}、体積 {{mvar|V}}、物質量 {{math|1=''N''=(''N{{sub|i}}''){{sub|1=''i''=1,2,...}}=(''N''{{sub|1}},''N''{{sub|2}},...)}} の理想混合系におけるヘルムホルツエネルギーは
したがって、ある 2 種類以上の気体からなる混合気体をある容器に入れたときの圧力(全圧)は、それぞれの気体だけを同じ容積にいれたときの圧力(分圧)の和に等しい。すなわち、気体の圧力と体積の関係は、気体[[分子]]の種類によらずほぼ一定である。言い換えれば、圧力は容器中の気体の分子数にのみ依存するもので、個別の分子の種類にはよらない。
{{Indent|

<math>F(T,V,N) =F_1(T,V,N_1) +F_2(T,V,N_2) +\cdots =\sum_i F_i(T,V,N_i)</math>
全圧が、系全体を占める気体原子の分子数に依存することから次のことが言える。[[ボイル・シャルルの法則]]から、
}}
: <math>P = n_1\frac{RT}{V} + n_2\frac{RT}{V} + \dots = \left(\sum_{i} \,n_i\right)\frac{RT}{V}</math>
で与えられる。{{mvar|F{{sub|i}}}} は純粋な成分 {{mvar|i}} の系のヘルムホルツエネルギーである。

圧力はヘルムホルツエネルギーの体積による[[偏微分]]で与えられるので
また、分圧、[[物質量]]がそれぞれ''p''{{sub|1}}、''p''{{sub|2}}、''n''{{sub|1}}、''n''{{sub|2}}である2つの気体について、次式が成り立つ。
{{Indent|
: <math>\frac{p_1}{p_2} = \left(n_1\frac{RT}{V}\right)/\left(n_2\frac{RT}{V}\right)
<math>p(T,V,N) =-\frac{\partial F}{\partial V} =-\sum_i \frac{\partial F_i}{\partial V}</math>
= \frac{n_1}{n_2}</math>
}}
となる。ここで
{{Indent|
<math>p_i(T,V,N_i) =-\frac{\partial F_i}{\partial V}</math>
}}
は成分 {{mvar|i}} を単離して、同じ温度と体積にしたときの圧力、つまり分圧である。これを代入すればドルトンの法則が導かれる。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書
|author= 田崎晴明
|title= 熱力学 現代的な視点から
|series= 新物理学シリーズ
|year= 2000
|publisher= [[培風館]]
|isbn= 4-563-02432-5
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* {{Cite book|和書
|author= P. W. Atkins
|others= [[千原秀昭]]、[[中村亘男]] 訳
|title= 物理化学 上
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|year= 2001
|publisher= [[東京化学同人]]
|isbn= 4-8079-0529-5
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}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

2014年12月28日 (日) 08:39時点における版

ドルトンの法則(ドルトンのほうそく、英語: Dalton's law)、あるいは分圧の法則とは、混合気体圧力が各成分の分圧に等しいことを主張する法則である[1]1801年ジョン・ドルトンにより発見された。

この法則は、気体が理想的な混合をしているにおける近似法則である。理想混合系において、複数の気体からなる混合気体を容器に入れたときのある温度での圧力(全圧)は、それぞれの気体を単離して同じ容器に入れたときの同じ温度での圧力(分圧)の和に等しい。つまり、成分 i の分圧を pi とすると、全圧 p

で与えられる。化学反応によって物質量の増減が生じないとき、理想気体の混合系は理想混合系となる。理想気体の状態方程式から、成分 i の物質量を Ni とするとき、温度 T体積 V での分圧 pi

で与えられる。ドルトンの法則から全圧は

となる。理想気体において状態方程式の形は気体の種類によらない。これは混合系においても同じで、容器内の気体の分子数にのみ依存し、個別の分子の種類にはよらない。また、全圧に対する分圧の比は

となり、モル分率に等しくなる。

理想混合系において、混合によるヘルムホルツエネルギーの変化はない。言い換えれば、各成分を単離した純粋系におけるヘルムホルツエネルギーの和に等しい[2]。つまり、温度 T、体積 V、物質量 N=(Ni)i=1,2,...=(N1,N2,...) の理想混合系におけるヘルムホルツエネルギーは

で与えられる。Fi は純粋な成分 i の系のヘルムホルツエネルギーである。 圧力はヘルムホルツエネルギーの体積による偏微分で与えられるので

となる。ここで

は成分 i を単離して、同じ温度と体積にしたときの圧力、つまり分圧である。これを代入すればドルトンの法則が導かれる。

脚注

参考文献

  • 田崎晴明『熱力学 現代的な視点から』培風館〈新物理学シリーズ〉、2000年。ISBN 4-563-02432-5 
  • P. W. Atkins『物理化学 上』千原秀昭中村亘男 訳(第6版)、東京化学同人、2001年。ISBN 4-8079-0529-5 

関連項目