正倉院文書

正倉院文書（しょうそういんもんじょ）は、日本の古文書群。奈良県の東大寺正倉院宝庫に保管されてきた文書群。

正倉院宝物に関する文書も含まれるが、中心となるのは皇后宮職・造東大寺司の下職である東大寺写経所が作成した文書群である。狭義には中倉の写経所文書を正倉院文書と呼ぶ（この他に北倉文書がある）。戸籍など奈良時代の社会を知る史料が含まれており、古代史の研究に欠かせない史料群として重要視されている。

成立

写経所文書は、天平期を含む8世紀の約50年間（神亀4年（727年）～宝亀7年（776年））にわたって作成された東大寺写経所の帳簿類である。

この中には、戸籍や計帳、正税帳など諸国から進上された文書が反古紙として再利用された紙背文書を多く含んでいる。

律令制下で官庁が作成した文書や諸国からの報告書のほとんどは短期間（戸籍の保存期間は比較的長く30年）で廃棄されていたが、廃棄文書の一部が東大寺写経所で帳簿として再利用された。（偶然）写経所文書が正倉院に納められ、保存されたことにより、奈良時代の戸籍・正税帳などの貴重な史料が今日まで残ることになった。現存する最も古い戸籍は大宝令による大宝2年（702年）のものである。

正倉院文書の研究

江戸時代後期、穂井田忠友（平田篤胤に学んだ国学者）によって写経所文書の紙背にある史料が注目された。穂井田は1833年-1836年（天保4-7年）に、元の戸籍・正税帳などの状態を復元すべく一部の文書を抜出して整理し、45巻（正集）にまとめた。明治時代以降は内務省、宮内省により整理が続けられ、667巻5冊の形態になった。これにより文書の研究は大きく進んだが、一方で写経所文書は断片化されてしまい、かつての形態とは異なってしまっている。

建築史家・福山敏男は写経所文書に含まれていた石山寺関係史料の復元考察を行い、石山寺の造営過程（761年-）を浮かび上がらせた（「奈良時代に於ける石山寺の造営」1933年、『日本建築史の研究』所収）。福山の研究以降、写経所文書の研究も進められている。

正倉院文書は『大日本古文書』（編年文書、25冊、1901年-1940年）に活字化されている。また『正倉院文書研究』（吉川弘文館）をはじめ、多くの研究がある。

正倉院文書の原本は非公開である。正倉院の曝涼にあわせて、毎年秋の「正倉院展」（奈良国立博物館）において数点が公開されるのみである。

関連項目

• 安都雄足
• 紙背文書
• 古代の戸籍制度
• 死亡帳

関連文献

• 丸山裕美子　『正倉院文書の世界－よみがえる天平の時代』　中公新書、2010年4月

外部リンク

• 東京大学史料編纂所[1]　データベースに「奈良時代古文書フルテキストDB」（大半は正倉院文書）がある。