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'''UAC ターボトレイン'''とは、[[ユナイテッド・エアクラフト]](UA)が製造した高速列車である。[[カナダ]]では[[1968年]]から[[1982年]]まで、[[アメリカ合衆国]]では1968年から[[1976年]]まで運行された([[1980年]]まで[[アムトラック]]には継承されなかった)。使用される車両は、両端に機関車を、その間に客車を配置した[[動力集中方式#プッシュプル方式|準動力集中方式]](のうち、ベンデルツークといわれるもの)。機関車は[[ガスタービンエンジン]]で発電した電力で[[電動機|モーター]]を駆動する[[電気式ガスタービン機関車]] (GTELs)で、営業使用された史上初のものであり、[[振り子式車両]]としても初期のもののひとつである。
'''UAC ターボトレイン'''とは、[[ユナイテッド・エアクラフト]](UA)が製造した高速列車である。[[カナダ]]では[[1968年]]から[[1982年]]まで、[[アメリカ合衆国]]では1968年から[[1976年]]まで運行された([[1980年]]まで[[アムトラック]]には継承されなかった)。使用される車両は、両端に機関車を、その間に客車を配置した[[動力集中方式#プッシュプル方式|準動力集中方式]](のうち、ベンデルツークといわれるもの)。機関車は[[ガスタービンエンジン]]で発電した電力で[[電動機|モーター]]を駆動する[[電気式ガスタービン機関車]] (GTELs)で、営業使用された史上初のものであり、[[振り子式車両]]としても初期のもののひとつである。
[[Image:UAC Turbo train at Kingston.jpg|thumb|300px|right|UAC ターボトレイン]]
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== 詳細 ==
== 詳細 ==
車両思想のルーツは、1950年代の[[:en:Chesapeake and Ohio Railway|チェサピーク・オハイオ鉄道]]に遡る<ref>{{US patent|2859705}}, 機関車の詳細、前頭部貫通路、運転台パース図等, Alan R Cripe</ref>。それは、まだガスタービンエンジンの使用は想定されていなかったが、振り子機構(その詳細は[[振り子式車両]]を参照せよ)、両端に配置された機関車、[[二枚貝]]の殻が合わさったような前頭部の貫通ドアなど、高速走行のためのさまざまな革新的な研究がなされていた。
車両思想のルーツは、1950年代の[[:en:Chesapeake and Ohio Railway|チェサピーク・オハイオ鉄道]]に遡る<ref>{{US patent|2859705}}, 機関車の詳細、前頭部貫通路、運転台パース図等, Alan R Cripe</ref>。それは、まだガスタービンエンジンの使用は想定されていなかったが、[[振り子式車両|振り子機構]]、両端に配置された機関車、[[二枚貝]]の殻が合わさったような前頭部の貫通ドアなど、高速走行のためのさまざまな革新的な研究がなされていた。


この列車は前述のとおり両端の機関車の間に客車が挟まれる方式で、客車には日本のものと大きく異なる振り子機能が搭載されていた。各車両は車端部の屋根部分で両側の車両から吊り下げられており、カーブにさしかかると、1軸[[連接台車]]から[[空気バネ]]をはさんで車体と結ばれ、さらに車端部の屋根部分へと伸びた複雑なリンク機構が作用し、天井付近を回転の中心として車体下部が外側に振り出される<ref>{{US patent|3424105}}, 連接車における1軸台車, Alan R Cripe.</ref>(この特許にリンクの構造や車体断面図があるので参照せよ)。車両は、重心を低くするために床の高さを通常のものより75cm低くしてある。一方、日本のものは、台車の上で車体が左右にローリングするもので、その回転の中心は床の少し上くらいとなり、カーブの内側となる車体は通常よりも内側に倒れ込む。
この列車は前述のとおり両端の機関車の間に客車が挟まれる方式で、客車には日本のものと大きく異なる振り子機能が搭載されていた。各車両は車端部の屋根部分で両側の車両から吊り下げられており、1軸[[連接台車]]から[[空気バネ]]をはさんで車体と結ばれ、さらに車端部の屋根部分へと伸びた複雑なリンク機構があり、カーブにさしかかるとこれが作用し、天井付近を回転の中心として車体下部が外側に振り出される<ref>{{US patent|3424105}}, 連接車における1軸台車, Alan R Cripe.</ref>(この特許にリンクの構造や車体断面図があるので参照せよ)。車両は、重心を低くするために床の高さを通常のものより75cm低くしてある。一方、日本のものは、台車の上で車体が左右にローリングするもので、その回転の中心は床の少し上くらいとなり、カーブの内側となる車体は通常よりも内側に倒れ込む。


1軸台車の連接機構を持つため、原則として編成を組み替えることができない。客車を増減したいときのために、前頭部に貫通ドアが設けられており、2編成を連結する際には幌で結ばれた。
1軸台車の連接機構を持つため、原則として編成を組み替えることができない。客車を増減したいときのために、前頭部に貫通ドアが設けられており、2編成を連結する際には幌で結ばれた。


これらの機構は[[特許]]であり、アメリカ運輸省が[[:en:Northeast Corridor|ノースイースト・コリドー]]で高速試験を行う(後述)際、エンジンを[[ディーゼルエンジン]]ではなくガスタービンエンジンに変更した以外は、特許をほぼ踏襲した。エンジンは有名な[[プラット・アンド・ホイットニー]](P&W)[[:en:Pratt & Whitney Canada PT6|PT6]]に小変更を加えたST6。このエンジンは4,000〜5,000[[馬力]]を発生し、[[トルクコンバータ]]を介して減速した上で発電機を駆動する。また、[[第三軌条方式|第三軌条]]から集電する装置も搭載していたので、手前にトンネルのある[[ニューヨーク州]]の[[グランド・セントラル駅]](のちに[[ペンシルバニア駅 (ニューヨーク)]])までエンジンを停止した上で乗り入れることができた。
これらの機構は[[特許]]であり、アメリカ運輸省が[[:en:Northeast Corridor|ノースイースト・コリドー]]で高速試験を行う(後述)際、エンジンを[[ディーゼルエンジン]]ではなくガスタービンエンジンに変更した以外は、特許をほぼ踏襲した。ガスタービンエンジンは有名な[[プラット・アンド・ホイットニー]](P&W)[[:en:Pratt & Whitney Canada PT6|PT6]]に小変更を加えたST6。このエンジンは4,000〜5,000[[馬力]]を発生し、[[トルクコンバータ]]を介して減速した上で発電機を駆動する。また、[[第三軌条方式|第三軌条]]から集電する装置も搭載していたので、手前にトンネルのある[[ニューヨーク州]]の[[グランド・セントラル駅]](のちに[[ペンシルバニア駅 (ニューヨーク)]])までエンジンを停止した上で乗り入れることができた。


このエンジンは非常に小さく、軽い。軽さは補機を入れてわずか300[[ポンド]](135[[キログラム]])しかないため、エンジンはドームの下に配置され、空いた半車分のスペースは客室とされ、その部分は「パワー・ドーム・カー」とされた。両端の機関車には、振り子機能はない。
このエンジンは非常に小さく、軽い。軽さは補機を入れてわずか300[[ポンド]](135[[キログラム]])しかないため、エンジンはドームの下に配置され、空いた半車分のスペースは客室とされ、その部分は「パワー・ドーム・カー」とされた。両端の機関車には、振り子機能はない。
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[[1967年]][[12月20日]]、[[:en:Northeast Corridor|ノースイースト・コリドー]])にあるアメリカ運輸省の高速試験線において、ガスタービン車両における世界最高速度170.8[[mph]](時速275キロメートル)を樹立した。この試験線は[[ニュージャージー州]]の[[トレントン (ニュージャージー州)|トレントン]]〜[[ニューブランズウィック (ニュージャージー州)|ニューブランズウィック]]間のPCの幹線上にあり、記録は3両編成の列車で達成された。この記録は、現在に至るまで、北米における量産車の最高速度記録である。なお、カナダでの最高速度記録は140.6mph(時速226km)である。
[[1967年]][[12月20日]]、[[:en:Northeast Corridor|ノースイースト・コリドー]])にあるアメリカ運輸省の高速試験線において、ガスタービン車両における世界最高速度170.8[[mph]](時速275キロメートル)を樹立した。この試験線は[[ニュージャージー州]]の[[トレントン (ニュージャージー州)|トレントン]]〜[[ニューブランズウィック (ニュージャージー州)|ニューブランズウィック]]間のPCの幹線上にあり、記録は3両編成の列車で達成された。この記録は、現在に至るまで、北米における量産車の最高速度記録である。なお、カナダでの最高速度記録は140.6mph(時速226km)である。


2000年代初期にはボンバルディア・トランスポーテーションが150mph(時速240km)で走行可能な新たな振り子式ガスタービン動車[[ジェットトレイン]]を試作し、VIA鉄道とともにカナダ政府にアプローチしたが、実現しなかった。
2000年代初期には[[ボンバルディア・トランスポーテーション]]が150mph(時速240km)で走行可能な新たな振り子式ガスタービン動車[[ジェットトレイン]]を試作し、VIA鉄道とともにカナダ政府にアプローチしたが、実現しなかった。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
*[http://www.sikorskyarchives.com/train.html TurboTrain] [[シコルスキー・エアクラフト]]による営業開始前のパンフレットと解説
*[http://www.sikorskyarchives.com/train.html TurboTrain] - [[シコルスキー・エアクラフト]]による営業開始前のパンフレットと解説
*[http://www.rapidotrains.com/turbo01.html ターボトレインの鉄道模型]
*[http://www.rapidotrains.com/turbo01.html ターボトレインの鉄道模型]




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2008年6月22日 (日) 09:47時点における版

UAC ターボトレインとは、ユナイテッド・エアクラフト(UA)が製造した高速列車である。カナダでは1968年から1982年まで、アメリカ合衆国では1968年から1976年まで運行された(1980年までアムトラックには継承されなかった)。使用される車両は、両端に機関車を、その間に客車を配置した準動力集中方式(のうち、ベンデルツークといわれるもの)。機関車は、ガスタービンエンジンで発電した電力でモーターを駆動する電気式ガスタービン機関車 (GTELs)で、営業使用された史上初のものであり、振り子式車両としても初期のもののひとつである。

UAC ターボトレイン

詳細

車両思想のルーツは、1950年代のチェサピーク・オハイオ鉄道に遡る[1]。それは、まだガスタービンエンジンの使用は想定されていなかったが、振り子機構、両端に配置された機関車、二枚貝の殻が合わさったような前頭部の貫通ドアなど、高速走行のためのさまざまな革新的な研究がなされていた。

この列車は前述のとおり両端の機関車の間に客車が挟まれる方式で、客車には日本のものと大きく異なる振り子機能が搭載されていた。各車両は車端部の屋根部分で両側の車両から吊り下げられており、1軸連接台車から空気バネをはさんで車体と結ばれ、さらに車端部の屋根部分へと伸びた複雑なリンク機構があり、カーブにさしかかるとこれが作用し、天井付近を回転の中心として車体下部が外側に振り出される[2](この特許にリンクの構造や車体断面図があるので参照せよ)。車両は、重心を低くするために床の高さを通常のものより75cm低くしてある。一方、日本のものは、台車の上で車体が左右にローリングするもので、その回転の中心は床の少し上くらいとなり、カーブの内側となる車体は通常よりも内側に倒れ込む。

1軸台車の連接機構を持つため、原則として編成を組み替えることができない。客車を増減したいときのために、前頭部に貫通ドアが設けられており、2編成を連結する際には幌で結ばれた。

これらの機構は特許であり、アメリカ運輸省がノースイースト・コリドーで高速試験を行う(後述)際、エンジンをディーゼルエンジンではなくガスタービンエンジンに変更した以外は、特許をほぼ踏襲した。ガスタービンエンジンは有名なプラット・アンド・ホイットニー(P&W)PT6に小変更を加えたST6。このエンジンは4,000〜5,000馬力を発生し、トルクコンバータを介して減速した上で発電機を駆動する。また、第三軌条から集電する装置も搭載していたので、手前にトンネルのあるニューヨーク州グランド・セントラル駅(のちにペンシルバニア駅 (ニューヨーク))までエンジンを停止した上で乗り入れることができた。

このエンジンは非常に小さく、軽い。軽さは補機を入れてわずか300ポンド(135キログラム)しかないため、エンジンはドームの下に配置され、空いた半車分のスペースは客室とされ、その部分は「パワー・ドーム・カー」とされた。両端の機関車には、振り子機能はない。

製造と使用

カナダ

1966年5月、カナディアン・ナショナル鉄道(CN)はモントリオールトロント間の列車に使用するために、7両編成を5本発注した。製造はモントリオール・ロコモティブ・ワークスで、UACカナダ(現P&Wカナダ)が製造したST-6エンジンの供給を受けた。当初、CNは2編成を連結し、14両編成・定員644名で運転する計画だった。しかし、実車が完成すると計画を変更し、9両編成3本とした。余った車両は4両編成2本に組成してアムトラックに売却したが、うち1編成は1973年の試運転中に貨物列車と接触、焼損した。

ターボトレインの公開試運転は1968年12月に大勢の報道関係者や電機産業メディアを招待して行われた。不運なことに、その運転中にキングストン郊外の踏切でトラックに衝突。問題は冬のカナダ寒さに起因するブレーキシステムの凍結が原因とされ、1969年1月早々から予定していた営業運転ができなくなった。

1973年後半になって、ケベックシティ・ウインザー・コリドーのトロント〜モントリオール間でようやく営業運転が開始された。CNでは略して「ターボ」と名付け、停車駅はドーバル、キングストン、ギルドウッドのみとした。往復ともトロントまたはモントリオールを12時45分と18時10分に発車し、モントリオールまたはトロントに16時44分と22時14分に着くというダイヤであり、夕方の1往復は土曜運休であった。昼間の列車の所要時間は3時間59分であり、夕方の列車は4時間14分であったが、それまでの最速列車ラピッドより1時間以上の時間短縮となった。

CNとしてのターボトレインの運行は1978年までで、以降はVIA鉄道へと引き継がれ、1982年12月31日まで運転された。後継となったのは、ボンバルディア・トランスポーテーションの電気式ディーゼル機関車が牽引するLRCである。CNの記録によれば、ターボトレインの利用率は97%を超えた。

アメリカ

ターボトレインは1968年よりアメリカでも使用が開始されていた。運転経路はボストンニューヨーク間で、運行会社は、初期はニュー・ヘブン鉄道(NH)、のちにペン・セントラル鉄道(PC)、そしてアムトラックへと継承された。

アメリカでは、ターボトレインは当初3両編成で、1972年からは5両編成で運行された。最高営業運転速度は時速160kmであった。

1967年12月20日ノースイースト・コリドー)にあるアメリカ運輸省の高速試験線において、ガスタービン車両における世界最高速度170.8mph(時速275キロメートル)を樹立した。この試験線はニュージャージー州トレントンニューブランズウィック間のPCの幹線上にあり、記録は3両編成の列車で達成された。この記録は、現在に至るまで、北米における量産車の最高速度記録である。なお、カナダでの最高速度記録は140.6mph(時速226km)である。

2000年代初期にはボンバルディア・トランスポーテーションが150mph(時速240km)で走行可能な新たな振り子式ガスタービン動車ジェットトレインを試作し、VIA鉄道とともにカナダ政府にアプローチしたが、実現しなかった。

関連項目

脚注

  1. ^ アメリカ合衆国特許第 2,859,705号, 機関車の詳細、前頭部貫通路、運転台パース図等, Alan R Cripe
  2. ^ アメリカ合衆国特許第 3,424,105号, 連接車における1軸台車, Alan R Cripe.

外部リンク