「相 (言語学)」の版間の差分
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2008年2月25日 (月) 23:34時点における版
文法範疇 |
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典型的には形態統語的な範疇 |
典型的には形態意味的な範疇 |
形態意味的な範疇 |
相(そう)とは、言語学、文法学上の用語で、動詞の文法カテゴリーの一つであり、動詞が表す出来事の完成度の違いを記述する文法形式のことを言う。アスペクト(aspect)ともいう。出来事を完結したまとまりのあるものと捉えるか、未完結の広がりのあるものと捉えるかによる語形交替などをいい、また出来事が瞬間的なのか、継続的か、断続的か、反覆するのか、やがて終わるのかといった全過程のどの局面にあるのかと面に着目して区別を行うことをもいう。
もともとロシア語などのスラヴ語に見られる完了体と不完了体の対立を表すものであった。なおロシア語の場合、日本語訳に「相」ではなく「体」が使われている。
かつて古典語の文法では voice (態)を相と訳しているものが多かったが、現代ではaspectの訳として相をあて、voiceの訳としては態をあてるのが一般的である。
スラヴ語などでは時制と独立のカテゴリーとして存在するが、多くの言語では相と時制が組み合わされた形態として存在する(例えば現在進行形、現在完了形など)。
なお、結果や経験を表す完了相 (perfect) と、出来事を全体としてとらえる完結相 (perfective) はしばしば混同されるが、全く異なる。後者は完全相、全体相、完成相とも呼ばれる。
日本語
日本語では、
- 雨が降っている・雨が降っていた(非完結相)
- 雨が降る・雨が降った(完結相)
というように、助動詞「いる」があると出来事の一部を取り出す非完結相を表し、「いる」が無いと出来事を全体としてとらえる完結相を表す。なお、「る」と「た」は時制を表す。
また、「雨が降っている」は、出来事が継続していることを表しているが(進行相)、「椅子に座っている」のように、「いる」が瞬間的に変化する動詞につけられた場合、変化の結果が持続していることを表している(結果相)。さらに「雨が降り始めた」(起動相)、「雨が降り止んだ」(終結相)というように複合動詞を用いることでさまざまな相を表す。
なお、共通語では例えば同じ「買っている」でも、「彼は今帽子を買っている」「彼は昨日この店で帽子を買っている」のように進行相・完了相の両方に用いられる。しかし中国・四国地方を中心とする方言には、前者を「買いよる」、後者を「買うちょる」(つまりテの有無)などと明確に区別する特徴がある。
日本手話
日本手話においてアスペクト(相)の問題は研究途上にある。知られているところでは次のようなものが挙げられる。なお(かっこ)内の説明部分がアスペクト変化の文法的要素。続く部分が日本語訳。
- 歩く(歩く動作を継続する) (継続相) 「ずっと歩く」
- 歩く(歩く動作を断続的にくり返す)(習慣相) 「いつも(定期的に)歩く」
- 歩く(歩く動作を途中でやめる) (直前相) 「歩く前にやめた」
-
ずっと歩く
-
いつも(定期的に)歩く-ループ状にくり返す。
-
歩く前にやめた
英語
- He began to talk. (起動相)
- He continued to talk. (継続相)
- He was talking. (進行相)
- He stopped talking. (終止相)
ただし、現在進行形を取らない限り通常の動詞は終止相と考えられる。
ロシア語
ロシア語では、多くの動詞に関して完了体と不完了体がペアで存在する(動詞の性格により一方しかないものもある)。 例えば、 делать(不完了体:作る)と сделать(完了体:作り上げる、作ってしまう)など。完了体の現在形は(機能的には「現在」は考えられないので)実際には未来を表す。 形態としては例のように接頭辞(動詞によって違う)の有無のほか、語幹の形が少し違う場合、また全く異なる形態で示される場合もある。
参考文献
- 『日本語動詞のアスペクト』(金田一春彦編、鈴木重幸・藤井正・高橋太郎・吉川武時著、むぎ書房、1976年、ISBN 4-8384-0104-3)
- バーナード・コムリー『アスペクト』(原著:1976年、ケンブリッジ大学出版刊、日本語訳:山田小枝訳、むぎ書房、1988年、ISBN 4-8384-0100-0)
- 工藤真由美『日本語のアスペクト・テンス・ムード体系―標準語研究を超えて―』(ひつじ書房、2004年、 ISBN 4894762315)
- 工藤真由美『アスペクト・テンス体系とテクスト―現代日本語の時間の表現―』(ひつじ書房、1995年、ISBN 4938669595)