投棒

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古代エジプトで投棒によって狩猟が行われていた様子
古代エジプトの王(ファラオツタンカーメンの墓にあった狩猟用のこん棒
オーストラリア先住民アボリジニが使用するブーメランを含む投棒
北米に住む先住民ズニ族兎狩に使用するRabbit Stick

投棒(なげぼう)、投げ棒とは、棒状の物を投擲すること、もしくは投げるための棒である[1][2]狩猟[3]や競技の他、人間の足と足の間に投げ込んで転倒させるなどの戦闘に用いられる[1]投げ棍棒ともいう[4]

野生類人猿ゴリラオラウータンチンパンジーなどにも敵を追い払ったりするのに枝などの棒を投げる行動が見られ、原始的な時代から使用されていたと考えられる[3]

ドイツのシェーニンゲンドイツ語版から更新世に生きていた原人ホモ・エレクトスホモ・ハイデルベルゲンシス)によって木から作られた槍「シェーニンゲンの槍」が発掘されている[5][6][3]現生人類によるものとしては、ポーランド南部の後期旧石器時代の遺跡から、マンモスの牙を使ったブーメラン状の骨角器が見つかっている[7]

現代でもオーストラリアアフリカアメリカなどの広い地域でこん棒を投げる狩猟が存在する[3][8]

用途[編集]

兎狩に使用されるこん棒を、ギリシア語ではλᾰγωβόλον(ラテン文字化:lagobolon)と呼ぶ[9]

英語ではRabbit Stickドイツ語版と呼び、アメリカ南西部の先住民ホピ族ナバホ族ズニ族ガブリエレノ族などがウサギ、プレーリードッグコヨーテなどの小動物狩りに使用している[10]

インドでは、Valari英語版もしくはvalai thadiと呼び、象牙[11]・木・金属から作られたこん棒を投げて、ウサギ、シカなどを狩っていたほか、戦争にも使用したため1801年にはイギリスにより禁止された[12]

競技
  • こん棒投 - パラ陸上競技投擲種目
  • キイッカ英語版(kyykkä) - フィンランドのこん棒を投げる伝統競技
  • モルック - フィンランドのこん棒を投げる競技
  • 鶏投げ - イギリスのブラッド・スポーツ。柱に縛った鶏にコクステール(cokstele)というこん棒を投げるゲーム。
  • Aasa'tinuma - アメリカ南西部に住む先住民が行うラビットスティックを使用した狩猟を模した競技[10]
  • インドではValari英語版を用いた National Valari Championship が開かれた[13]

文化[編集]

作品
SF映画『2001年宇宙の旅』の冒頭において、人類の祖先の猿が謎の石板に触って知性を獲得した後に棒状の骨を持ち、敵を打ち倒し、棒状の骨を投擲して空中に浮かぶ骨から宇宙に浮かぶ宇宙船に切り替わるまでが人間の知性と道具の進歩を表す象徴的なシーンとして映画史上最も美しいと評価されている[14]

出典[編集]

  1. ^ a b 投棒 コトバンク
  2. ^ ヒトはなぜ立ちあがったか: 生態学的仮說と展望著:渡辺仁 1985年 p324
  3. ^ a b c d 秀幸, 田中「1222706 ヒトの進化過程における投擲動作の起源について」『日本体育学会大会号』第42回(1991) 42B、1991年、907頁、doi:10.20693/jspeconf.42B.0_9072022年7月22日閲覧 
  4. ^ 図解 近接武器 著者: 大波篤司 No98
  5. ^ ネアンデルタール人は高度な狩猟技術を有していた(英研究)”. カラパイア. 2022年7月22日閲覧。
  6. ^ Le bâton de jet, il y a 300 000 ans à Schöningen- Hominidés”. www.hominides.com. 2022年7月22日閲覧。
  7. ^ Valde-Nowak, Pawel (1987年10月). “Upper Palaeolithic boomerang made of a mammoth tusk in south Poland” (英語). Nature. pp. 436–438. doi:10.1038/329436a0. 2022年7月23日閲覧。
  8. ^ GERARDO ALDAMA JR KUMEYAAY California Indian Rabbit Sticks”. www.kumeyaay.info. 2022年7月22日閲覧。
  9. ^ Nefedkin, Alexander. “Lagobolon: hunting weapon of the ancient Greeks on Pharsalian coins of the fourth century BC”. 2022年7月22日閲覧。
  10. ^ a b Oceania”. web.prm.ox.ac.uk. 2022年7月22日閲覧。
  11. ^ valari” (英語). The British Museum. 2022年7月22日閲覧。
  12. ^ Nov 7, M. T. Saju / MT Saju /. “Tracing the Tamil boomerang connection” (英語). The Times of India. 2022年7月22日閲覧。
  13. ^ International Valari Federation (IVF)”. www.valari.org. 2022年7月23日閲覧。
  14. ^ [https://www.facebook.com/畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター/posts/798171603610758 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの投稿(798171603610758)] - Facebook

関連項目[編集]

外部リンク[編集]