コンテンツにスキップ

塩化タングステン(VI)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
塩化タングステン(VI)
識別情報
CAS登録番号 13283-01-7 チェック
PubChem 83301
UNII L32HZV95ZE チェック
EC番号 236-293-9
RTECS番号 YO7710000
特性
化学式 WCl6
モル質量 396.61 g/mol
外観 濃青色結晶、湿気に敏感
密度 3.52 g/cm3
融点

275 °C, 548 K, 527 °F

沸点

346.7 °C, 620 K, 656 °F

への溶解度 加水分解
塩化炭素への溶解度 可溶
磁化率 −71.0・10-6 cm3/mol
構造
結晶構造 α:菱面体, β: 六面体
配位構造 八面体形
双極子モーメント 0 D
危険性
主な危険性 酸化剤; 加水分解されて塩化水素を発生
関連する物質
その他の陰イオン フッ化タングステン(VI)
臭化タングステン(VI)
その他の陽イオン 塩化モリブデン(V)
塩化クロム
関連物質 塩化タングステン(IV)
塩化タングステン(V)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

塩化タングステン(VI)(Tungsten hexachloride)は、タングステン塩素からなる化合物で、化学式はWCl6である。濃紫青色で、標準状態では揮発性固体として存在する。タングステンの化合物の合成の際の重要な出発物質である[1]。電荷を持たない六塩化物のその他の例には、塩化レニウム(VI)塩化モリブデン(VI)がある。非常に揮発性の高いフッ化タングステン(VI)も知られている。

d0イオンとして、塩化タングステン(VI)は反磁性誘導体を形成する。六塩化物は八面体形分子構造で等価なW-Ci間の距離は、2.24-2.26 Aである[2]

合成

[編集]

金属タングステンを、密閉チューブ内で600℃に加熱し、塩素化することで得られる[3]

W + 3 Cl2 → WCl6

性質と反応

[編集]

室温では、青黒色の固体である。より低温では、ワインレッド色になる。赤色の相は、その蒸気を急速濃縮することで得られ、徐々に加熱することで青黒色の相に戻る。加水分解されやすく、湿った空気とさえ反応して、橙色の酸塩化物である塩化酸化タングステン(IV)WOCl4二塩化二酸化タングステンWO2Cl2を与える。二硫化炭素四塩化炭素塩化ホスホリルに可溶である[3]

トリメチルアルミニウムによるメチル化で、ヘキサメチルタングステンとなる。

WCl6 +3 Al2(CH3)6 → W(CH3)6 + 3 Al2(CH3)4Cl2

ブチルリチウムで処理することで、エポキシドの脱酸素に必要な試薬を得られる[4]

塩化物リガンドは、Br-NCS-RO-(Rはアルキルまたはアリル)等の多くの陰イオンリガンドに置き換えることができる。

還元すると、段階的に塩化タングステン(V)塩化タングステン(IV)を与える。

安全性

[編集]

非常に腐食性の高い酸化剤であり、加水分解されると塩化水素を発生する。

出典

[編集]

[5]

  1. ^ J. W. Herndon; M. E. Jung (2007). "Tungsten(VI) Chloride". Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis. Wiley. doi:10.1002/9780470842898.rt430.pub2. ISBN 978-0471936237.
  2. ^ J. C. Taylor, P. W. Wilson (1974). “The Structure of β-Tungsten Hexachloride by Powder Neutron and X-ray Diffraction”. Acta Crystallographica B30 (5): 1216-1220. doi:10.1107/S0567740874004572. .
  3. ^ a b M. H. Lietzke; M. L. Holt (1950). Tungsten(VI) Chloride (Tungsten Hexachloride). Inorganic Syntheses. 3. p. 163. doi:10.1002/9780470132340.ch4 
  4. ^ M. A. Umbreit, K. B. Sharpless (1990). "Deoxygenation of Epoxides with Lower Valent Tungsten Halides: trans-Cyclododecene". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 7, p. 121
  5. ^ "LoginWiz"11 August 2019 Tungsten