ロータックス 912

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ロータックス 912
3Xトリム 3X55トレナーに搭載されたロータックス 912ULS 100 hp (75 kW)
要目一覧
種類 レシプロエンジン
製造国  オーストリア
製造会社 ロータックス
最初の運転 1984年
主な搭載機 ライトスポーツ機
超軽量動力機
生産年 1989年-現在
派生型 ロータックス 914
ロータックス 915 iS
ロータックス 912ULS 100 hp (75 kW) ブルーヨンダー・マーリン EZ英語版への搭載
ロックウッド・エアーカム英語版へ2基のロータックス 912ULS推進式エンジンが搭載されている
3翼油圧定速プロペラ英語版を備えたダインエアロ MCR01英語版調整排気英語版を搭載したロータックス 912ULS

ロータックス 912(英語:Rotax 912)は、減速機付きの水平対向4気筒自然吸気4ストローク航空機用エンジンである。冷却方式は、シリンダーヘッド水冷シリンダー空冷である。当初の燃料供給方式はキャブレターであったが、後に燃料噴射式となった。小型機やホームビルト機の市場を席巻しているロータックスは、2014年に5万台目の912シリーズエンジンを生産した[1]。当初はライトスポーツ機英語版超軽量動力機オートジャイロ無人航空機用にのみ使用されていた912シリーズエンジンは、1995年に認定航空機用として承認された[2]

設計と開発[編集]

ロータックス 912は、超軽量動力機モーターグライダー用に未認証状態で1989年に初めて販売された[3]。オリジナルの80馬力(60 kW)912 ULエンジンは、排気量1,211 cc(73.9 立方インチ)、圧縮比は9.1:1。

このエンジンは、前世代の航空機用エンジン(ライカミング O-235英語版など)とは異なり、空冷シリンダーに水冷ヘッド[4]を搭載し、歯車比2.43:1のPSRU減速ギアボックスを使用して、5,800 rpmという比較的高いクランク軸速度を、従来からのプロペラ形状に合わせた2,400 rpmに減速している。このギアボックスは、一般的にトラブルフリーが証明されている[3]。912A、F、ULの標準減速比は2.27:1で、オプションで2.43:1である。潤滑はドライサンプ式で、燃料供給はデュアルCVキャブレターまたは完全冗長型の電子制御式燃料噴射を使用する。電子制御式燃料噴射型のロータックス 912iSは最近の開発である。

912の潤滑システムが多くのドライサンプ設計と異なるのは、オイルポンプではなくクランクケースブローバイガスの圧力によってオイルが貯蔵タンクに押し込まれる点である。このため、飛行前の点検には独特の手順が必要となる。ディップスティックでオイルレベルを確認する前に、給油口キャップを外してプロペラを回転させ、ゴボゴボという音が聞こえるまでエンジンにオイルを吐き出させる。これは、すべてのオイルがタンク内に押し込まれ、オイルレベルが正確にチェックできるようになったことを示している[3]

912は、コンチネンタル O-200英語版などの同等で旧型エンジンよりも燃費が良く、軽量であるが、元々はオーバーホール時間限界英語版(TBO)が短かった。導入時のTBOはわずか600時間で、これは以前のロータックスエンジンの2倍だったが、同等のサイズとパワーを持つ既存のエンジンよりもはるかに短かった。TBOが短く、工場製の型式証明を受けた航空機として使用するための認証を受けていなかったため、当初は世界市場の可能性が制限されていた。しかし、このエンジンは1995年にアメリカ連邦航空局(FAA)の認証を取得し、1999年にはTBOが1,200時間に増加した[3]。2009年12月14日にはTBOが1,200時間から1,500時間、シリアルナンバーにより1,500時間から2,000時間まで引き上げられた[5]。低燃費化に加えて、自動車用燃料(モーガス)での運転の認定を受けているため、特に有鉛航空機用ガソリン英語版が入手困難な地域でのランニングコストを低減することができる[4]。912は有鉛燃料の使用も可能だが、燃料タンクや減速ギアボックスに有鉛スラッジが溜まりやすいため、推奨できない。また、航空機用ガソリンは推奨の合成油とは相性が悪く、鉛をサスペンションに保持できないため、有鉛燃料を使用する場合は追加のメンテナンスが必要となる。

115馬力(86 kW)のターボチャージャーを搭載したロータックス 914英語版が導入された。1999年には912S/ULSが導入された[3]。排気量は1,352 cc(82.5立方インチ)に拡大され、圧縮比10.8:1から100馬力(75 kW)を発揮した。912Sは、ヨーロッパで人気の高いダイアモンド DA20英語版に採用されているAとFと同様に認証を受けている。912の人気は、欧米でライトスポーツ機のカテゴリーが導入されたことで広がり、エンジンの小型・軽量を十分に引き出すよう設計された工場製航空機が数多く登場することになった。100馬力(75 kW)版は、ゼニス STOL CH 701英語版テクナム P2002英語版など、多くのライトスポーツ機に採用されている。80馬力(60 kW)版は、ピピストレル サイナス英語版アーバン エア英語版 ランバダなどの新世代の効率的なモーターグライダーに十分な出力を供給する。また、テクナム P2006T英語版などの一部の双発機にも搭載されている。

2012年3月8日、同社は、燃料噴射装置ECUを搭載した100馬力(75kW)版の912 iSを発表した[6]。この派生型の重量は63 kg(139ポンド)で、標準の912Sよりも6 kg(13ポンド)増加している。未認証の912 iSはライトスポーツ機やホームビルド機市場を狙っており、912 iScは認証を取得。生産は2012年3月に開始され、エンジンのオーバーホールまでの推奨時間は2000時間である[7]

2014年4月1日、パワーとトルクを向上させ、燃費を改善した新型912 iS スポーツのアップグレードを発表した[8]。2015年7月には、さらなる派生型である135馬力(101kW)のロータックス 915 iS英語版が発表された[9]

パイロットへのロータックスの警告[編集]

小型航空エンジンのメーカーとしては珍しく、ロータックスは、エンジン設計の認証版と未認証版の両方について、オーナーズ・マニュアルに詳細な警告を掲載している。パイロットは、912エンジンは、以下の航空機には適していないと警告されている。

  • 安全な着陸ができない状況での使用
  • 回転翼機での使用
  • 夜間飛行(冗長電力が装備されていない場合)、または
  • 曲技飛行

マニュアルには、ロータックスは、エンジンがあらゆる航空機に使用できるという保証はなく、エンジンがいつでも停止または失速して、不時着の可能性があることが記載されている。このような警告に従わないと、重傷や死亡につながる可能性があるとマニュアルは付け加えている[10]

派生型[編集]

エンジンには、以下の派生型がある。

912 A#
JAR22で認証。80馬力(60 kW)、デュアルキャブレターと電子点火装置付き
912 F#
FAR33で認証。80馬力(60 kW)、デュアルキャブレターと電子点火装置付き
912 iS
未認証。100馬力 (75 kW) の直噴燃料噴射とECU付き[7]
912 iSc
認証取得済み。100馬力(75 kW)、直接燃料噴射とECU付き
912 iS Sport
未認証。アルミ製エアボックス、長めのインテークランナー、出力設定97%以下で動作させるとエコモードになる[11][12]
912 S#
FAR33で認証。912A/F/ULより大口径で100馬力(75kW)、デュアルキャブレターと電子点火装置付き
912 UL#
未認証。80馬力(60kW)、912A/Fに似ている。
912 ULS#
非認証。100馬力(75kW)、912Sに似ている。
912 ULSFR#
未認証のフランス当局仕様。100馬力(75kW)

指定の#は以下の略である。

  1. 固定ピッチププロペラ用フランジ付きシャフト、P.C.D. 100 mm
  2. 固定ピッチプロペラ用フランジ付きシャフト、P.C.D. 75 mm、P.C.D. 80 mmおよびP.C.D. 4インチ
  3. 定速プロペラ用フランジ付きシャフト P.C.D.75 mm、P.C.D. 80mm、P.C.D. 4インチ、定速プロペラ用油圧調速機用駆動部
  4. 固定ピッチプロペラ用フランジ付きシャフト P.C.D. 75 mm、P.C.D. 80 mm、P.C.D. 4インチ。定速プロペラ用のアダプター、駆動部、調整機を取り付けることが可能。

搭載機[編集]

*3I Sky Arrow

仕様(ロータックス 912 UL/A/F)[編集]

一般的特性[編集]

  • タイプ: 対向シリンダー付き4気筒4ストローク液冷/空冷エンジン、独立オイルタンク付ドライサンプ強制潤滑、油圧バルブタペットによる自動調整、デュアルCDキャブレター、機械式ダイヤフラムポンプ、電子デュアルイグニッション、電気始動機、統合減速ギア 1:2.273 または 1:2.43
  • ボア: 79.5 mm (3.13 in)
  • ストローク: 61 mm (2.40 in)
  • 排気量: 1,211.2 cm3 (73.91 in3)
  • 長さ: 561 mm (22.1 in)
  • 幅: 576 mm (22.7 in)
  • 乾燥重量: 60 kg (132.3 lb) 電気始動機、キャブレター、燃料ポンプ、エアフィルター、滑油系統を含む

構成部品[編集]

  • 動弁装置: OHV、油圧リフター、プッシュロッドロッカーアーム
  • 燃料タイプ: 無鉛:87オクタンAKI(カナダ/アメリカ)/90オクタンRON(ヨーロッパ)以上。有鉛燃料やAVGAS 100 LLも使用できるが、非推奨。
  • 滑油系統: トロコイドポンプ、カムシャフト駆動のドライサンプ
  • 冷却システム: 水冷シリンダヘッド、空冷シリンダ

性能[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Rotax Rolls Out 50,000 912-Series Engine” (2014年6月6日). 2014年6月7日閲覧。
  2. ^ Federal Aviation Administration (2016年10月11日). “Type Certificate Data Sheet No. E00051EN”. 2016年11月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年8月16日閲覧。
  3. ^ a b c d e Busch, Mike (2017年6月1日). “Opinion: Savvy Maintenance - Outside the Box: The Rotax 912 is Delightfully Different”. AOPA Pilot (Aircraft Owners and Pilots Association). https://www.aopa.org/news-and-media/all-news/2017/june/pilot/savvy-maintenance-rotax-912 2020年4月10日閲覧。 
  4. ^ a b Rotax (2012年9月). “Operators Manual for Rotax engine type 912 series”. 2015年6月21日閲覧。
  5. ^ Rotax (2009年12月). “Extension of Time Between Overhauls (TBO) for Rotax Engine Type 912 and 914 (Series)”. 2010年2月11日閲覧。
  6. ^ “Rotax Introduces 921iS”. Sport Aviation: 14. (May 2012). 
  7. ^ a b Bertorelli, Paul (2012年3月8日). “BRP/Rotax Rolls Out New Engine”. AVweb. http://www.avweb.com/avwebflash/news/BRP_Rotax_NewEngine_912iS_206291-1.html 2012年3月14日閲覧。 
  8. ^ Rotax lowers fuel burn, boosts performance with 912 iS Sport”. aopa.org (2014年4月). 2015年7月22日閲覧。
  9. ^ Rotax-Owner.com - ROTAX 915 IS: BRP UNVEILS A NEW TURBOCHARGED ROTAX AIRCRAFT ENGINE”. rotax-owner.com. 2015年7月22日閲覧。
  10. ^ BRP-Rotax (2012年9月1日). “Operators Manual Rotax Type 912 Series”. 2014年6月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年8月5日閲覧。
  11. ^ Sport Aviation: 14. (May 2014). 
  12. ^ Rotax 912 iS: Better than predicted”. generalaviationnews.com (2013年6月27日). 2016年8月10日閲覧。

関連項目[編集]

関連する一覧

外部リンク[編集]