ブリルアン関数 (―関数、Brillouin function、ブリュアン関数、ブリユアン関数[ 1] とも)[ 2] [ 3] は以下で定義される特殊関数 である。
B
J
(
x
)
=
2
J
+
1
2
J
coth
(
2
J
+
1
2
J
x
)
−
1
2
J
coth
(
1
2
J
x
)
{\displaystyle B_{J}(x)={\frac {2J+1}{2J}}\coth \left({\frac {2J+1}{2J}}x\right)-{\frac {1}{2J}}\coth \left({\frac {1}{2J}}x\right)}
ブリルアン関数は通常、
x
{\displaystyle x}
は実数 の変数、
J
{\displaystyle J}
は正の整数 /半整数 である(下記を参照)。この場合では関数の値の範囲は-1から1となり、
x
→
+
∞
{\displaystyle x\to +\infty }
で+1に、
x
→
−
∞
{\displaystyle x\to -\infty }
で-1に漸近する。
この関数は、理想的な常磁性体 の磁化を計算する際に現れることでよく知られている。特に、物質の微小磁気モーメントの全角運動量量子数 Jと外部磁場
H
{\displaystyle H}
に対する磁化
M
{\displaystyle M}
の依存性を説明する。磁化は以下で与えられる[ 2] 。
M
=
N
g
μ
B
J
⋅
B
J
(
x
)
{\displaystyle M=Ng\mu _{\rm {B}}J\cdot B_{J}(x)}
ここで
N
{\displaystyle N}
は単位体積あたりの原子数,
g
{\displaystyle g}
はg因子 ,
μ
B
{\displaystyle \mu _{\rm {B}}}
はボーア磁子 ,
熱エネルギー
k
B
T
{\displaystyle k_{\rm {B}}T}
に対する、外部磁場中の磁気モーメントのゼーマン エネルギーの比
x
=
g
μ
B
J
H
k
B
T
{\displaystyle x={\frac {g\mu _{\rm {B}}JH}{k_{\rm {B}}T}}}
k
B
{\displaystyle k_{\rm {B}}}
はボルツマン定数
T
{\displaystyle T}
は温度。
ブリルアン関数の導出は以下の通りである[ 2] 。この関数は理想的な常磁性体の磁化を説明する。
z
{\displaystyle z}
を磁場の方向とする。それぞれの磁気モーメントの角運動量(軌道角運動量 )のz-成分は
−
J
,
−
J
+
1
,
…
,
+
J
{\displaystyle -J,-J+1,\ldots ,+J}
の2J+1個の状態のうちのいずれかを取る。これらの状態は外部磁場
H
{\displaystyle {\boldsymbol {H}}}
により異なるエネルギーをもつ。量子数
m
{\displaystyle m}
と結びついたエネルギーは
E
m
=
−
m
g
μ
B
H
=
−
k
B
T
x
m
/
J
{\displaystyle E_{m}=-mg\mu _{\rm {B}}H=-k_{\rm {B}}Txm/J}
と表される。ここで
g
{\displaystyle g}
はg因子 、
μ
B
{\displaystyle \mu _{\rm {B}}}
はボーア磁子 、
x
{\displaystyle x}
は前述の通り定義される。それぞれの相対確率はボルツマン因子 によって与えられ
P
(
m
)
=
e
−
E
m
/
(
k
B
T
)
/
Z
=
e
x
m
/
J
/
Z
{\displaystyle P(m)=e^{-E_{m}/(k_{\rm {B}}T)}/Z=e^{xm/J}/Z}
である。ここで
Z
{\displaystyle Z}
(分配関数 )は全確率の総和を1にするための規格化定数である。
Z
{\displaystyle Z}
を計算することにより、
P
(
m
)
=
e
x
m
/
J
/
(
∑
m
′
=
−
J
J
e
x
m
′
/
J
)
{\displaystyle P(m)=e^{xm/J}/\left(\sum _{m'=-J}^{J}e^{xm'/J}\right)}
を得る。以上より軌道量子数
m
{\displaystyle m}
の期待値 は
⟨
m
⟩
=
(
−
J
)
×
P
(
−
J
)
+
⋯
+
J
×
P
(
J
)
=
(
∑
m
=
−
J
J
m
e
x
m
/
J
)
/
(
∑
m
=
−
J
J
e
x
m
/
J
)
{\displaystyle \langle m\rangle =(-J)\times P(-J)+\cdots +J\times P(J)=\left(\sum _{m=-J}^{J}me^{xm/J}\right)/\left(\sum _{m=-J}^{J}e^{xm/J}\right)}
である。分母は等比級数であり、また分子は等比等差級数の一種[ 4] であるため、正確に総和を求めることができる。代数計算を行うと、上記の式は
⟨
m
⟩
=
J
B
J
(
x
)
{\displaystyle \langle m\rangle =JB_{J}(x)}
と表されることがわかる。単位体積あたり
N
{\displaystyle N}
個の磁気モーメントがあるとすると、磁化密度は
M
=
N
g
μ
B
⟨
m
⟩
=
N
g
J
μ
B
B
J
(
x
)
{\displaystyle M=Ng\mu _{\rm {B}}\langle m\rangle =NgJ\mu _{\rm {B}}B_{J}(x)}
である。
ランジュバン関数(赤)と
tanh
(
x
/
3
)
{\displaystyle \tanh {(x/3)}}
(青)の比較
古典的な極限では、モーメントは磁場中で連続的に整列し、
J
{\displaystyle J}
は全ての値をとり得る (
J
→
∞
{\displaystyle J\to \infty }
) とみなせる。この場合、ブリルアン関数はより簡単なランジュバン関数 (Langevin function) になる。ランジュバン関数はポール・ランジュバン にちなんで名づけられた。
L
(
x
)
=
coth
(
x
)
−
1
x
{\displaystyle L(x)=\coth(x)-{\frac {1}{x}}}
x
≪
1
{\displaystyle x\ll 1}
の場合、即ち
μ
B
H
/
k
B
T
{\displaystyle \mu _{\rm {B}}H/k_{\rm {B}}T}
が小さい場合、ブリルアン関数の振る舞いは、
B
J
(
x
)
≃
J
+
1
J
x
3
{\displaystyle B_{J}(x)\simeq {\frac {J+1}{J}}{\frac {x}{3}}}
と近似される。よって、磁化の式は
M
=
C
⋅
H
T
{\displaystyle M=C\cdot {\frac {H}{T}}}
となり、キュリーの法則 を導くことができる。ここで
C
=
N
g
2
μ
B
2
J
(
J
+
1
)
3
k
B
{\displaystyle C={\frac {Ng^{2}\mu _{\rm {B}}^{2}J(J+1)}{3k_{\rm {B}}}}}
はキュリー定数である。また、
g
J
(
J
+
1
)
{\displaystyle g{\sqrt {J(J+1)}}}
は有効ボーア磁子数とよばれる。
x
→
∞
{\displaystyle x\to \infty }
の場合、ブリルアン関数は1に近づく。磁気モーメントは印加磁場に対して完全に整列し、磁化が飽和する。
M
=
N
g
μ
B
J
{\displaystyle M=Ng\mu _{\rm {B}}J}
^ 『学術用語集』物理学編(増訂版) [リンク切れ ]
^ a b c C. Kittel, Introduction to Solid State Physics (8th ed.), pages 303-4 ISBN 978-0471415268
^ Darby, M.I. (1967), “Tables of the Brillouin function and of the related function for the spontaneous magnetization”, Brit. J. Appl. Phys. 18 : 1415–1417, doi :10.1088/0508-3443/18/10/307
^ “アーカイブされたコピー ”. 2008年9月18日時点のオリジナル よりアーカイブ。2008年8月2日 閲覧。