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メジホキサミン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
メジホキサミン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Clédial, Gerdaxyl
法的規制
  • (Prescription only)
薬物動態データ
生物学的利用能21%[1][2]
半減期2.8 hours (acute);[1][2]
4.0 hours (chronic)[3]
識別
CAS番号
32359-34-5 チェック
16604-45-8 (fumarate)
16604-44-7 (picrate)
ATCコード N06AX13 (WHO)
PubChem CID: 36109
ChemSpider 33212
UNII KWU7C2A1NT チェック
KEGG D07341  チェック
別名 Medifoxamine fumarate; N,N-Dimethyl-2,2-diphenoxyethylamine
化学的データ
化学式C16H19NO2
分子量257.33 g·mol−1
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メジホキサミンINN:medifoxamine、DCF:médifoxamine)とは、N,N-ジメチル-2,2-ジフェノキシエチルアミンの事である。

20世紀の末に、非定型抗精神病薬または抗不安薬として用いられた、薬物の1つである。

薬物動態

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吸収・分布

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ヒトに対してメジホキサミンを経口投与すると、一部が消化管から吸収される。さらに、肝臓での初回通過効果を強く受ける[3]。経口投与を行った場合のメジホキサミンのバイオアベイラビリティは、21パーセントである[1][2]。身体に吸収されたメジホキサミンは、血液脳関門を突破して脳内にも入る。

代謝

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吸収されたメジホキサミンは、ヒトの体内で代謝を受けた際に、生理活性を有した重要な化合物が2つ生成することが知られている。それは初回通過の際に肝臓において生成する。1つ目は、第3級アミンの部分が脱メチル反応を受けた、N-メチル-2,2-ジフェノキシエチルアミンであり、これには「CRE-10086」という番号が与えられている[3]。もう1つは、エーテル結合が1つ加水分解されて、フェノールが外れた、2-(N,N-ジメチル)-1-フェノキシエタノールであり、こちらには「CRE-10357」という番号が与えられている[3]

消失半減期

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ヒトでのメジホキサミンの体内からの消失速度は、非線形である。体内の濃度が低ければ、消失半減期は約2.8時間である[1][2]。しかし、体内での濃度が高いと、消失半減期は約4.0時間に延長する[3]

作用機序

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メジホキサミンは、血液脳関門を突破して脳内に入る薬物である。脳内で、メジホキサミンは様々な作用を引き起こして、神経伝達物質に影響を与える。

メジホキサミンの作用

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神経伝達物質として利用される物質の1つであるドパミン再取り込みを、メジホキサミンは弱く阻害する[3][4][5][6]。また、脳内で神経伝達物質として利用される物質の1つであるセロトニンの再取り込みを阻害する作用は、さらに弱く、そのIC50は、1.5 μMである[3]

これとは別に、メジホキサミンには、セロトニン受容体を弱くブロックする。具体的には、5-HT2A受容体に対して、そのIC50は、950 nMである[7]。また、5-HT2C受容体に対して、そのIC50は、980 nMである[7]

代謝産物の作用

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メジホキサミンは体内で代謝されて化学構造が変えられても、未だに生理活性を失わない化合物を生成する。それが、CRE-10086とCRE-10357である[3]

CRE-10086

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CRE-10086が、セロトニンのトランスポータに結合して、そのトランスポータの作用を妨害する際のIC50は、450 nMである[3]。また、5-HT2A受容体をブロックする際のIC50は、330 nMである[3]。そして、5-HT2C受容体をブロックする際のIC50は、700 nMである[3]

CRE-10357

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CRE-10357が、セロトニンのトランスポータに結合して、そのトランスポータの作用を妨害する際のIC50は、660 nMである[3]。また、5-HT2A受容体をブロックする際のIC50は、1600 nMである[3]。そして、5-HT2C受容体をブロックする際のIC50は、6300 nMである[3]

セロトニン受容体への作用に関して

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メジホキサミンと、その代謝産物の、その他のセロトニン受容体に対する作用は、非常に弱い。5-HT1A受容体に対しても、5-HT1B受容体に対しても、5-HT1D受容体に対しても、5-HT3受容体に対しても、少なくとも、10 μMの濃度ですら充分な作用を示さない[3]

つまり、セロトニン受容体のブロックに関しては、5-HT2A受容体と5-HT2C受容体に対して、選択的である。

マウスに対して

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マウスに対して、メジホキサミンは鎮静作用も興奮作用も示さない[3]

構造活性相関

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構造活性相関を考える上で、メジホキサミンと構造的に似ている化合物として、メジホキサミンと同じく第3級アミンの窒素に2つのメチル基が結合した部分構造も持った、3環系抗うつ薬のアミトリプチリンイミプラミンが挙げられる[3][7][8]

しかしながら、メジホキサミンは3環系抗うつ薬と、作用に関しては、あまり似ていない。と言うのも、3環系抗うつ薬は一般に抗コリン作用も有するのだが、メジホキサミンには抗コリン作用は無い上に、3環系抗うつ薬は一般にアドレナリンα1受容体をブロックする作用も有し、特にアミトリプチリンやイミプラミンのような第3級アミンの構造を有している場合には強くアドレナリンα1受容体をブロックするのだが、メジホキサミンにはアドレナリンα1受容体をブロックする作用も無い[3][4][9]。また、3環系抗うつ薬は一般にノルアドレナリンの再取り込みも阻害するのだが、明らかに、メジホキサミンにはノルアドレナリンの再取り込みを妨害する作用は無い[10]

ただ、それでも二重盲検法での調査の結果では、うつ病の治療に使用した限りにおいて、3環系抗うつ薬のイミプラミンやクロミプラミンとも、さらに、やや構造の異なる抗うつ薬のマプロチリンとも、その治療効果は似たり寄ったりであった[3][11][8][9]

用途

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メジホキサミンには、非定型抗精神病薬[12]、抗不安薬としての用途が挙げられる[13]

ただし、ヒトにおいて、100 mgから300 mg程度の投与量において、次第にメジホキサミンに対して耐性が出てくることが判明した[3]

歴史

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メジホキサミンは1990年前後にフランスの市場に、世界で初めて医薬品として登場した[14]。その後、隣国のスペインやモロッコでも市場に登場した[15][16][17][11][18]

これに対して、アメリカ合衆国は1995年になっても認可しなかった[11]

結局、肝毒性が問題とされ、1999年にモロッコの市場から姿を消し、2000年にはフランス市場からも回収された[18][19][20]

出典

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  1. ^ a b c d Saleh S.; Johnston A.; Turner P. (October 1990). “Absolute bioavailability and pharmacokinetics of medifoxamine in healthy humans.”. British Journal of Clinical Pharmacology 30 (4): 621–624. doi:10.1111/j.1365-2125.1990.tb03823.x. PMC 1368255. PMID 2291875. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1368255/. 
  2. ^ a b c d Dörwald FZ. (4 February 2013). Lead Optimization for Medicinal Chemists: Pharmacokinetic Properties of Functional Groups and Organic Compounds. John Wiley & Sons. pp. 259–. ISBN 978-3-527-64565-7. https://books.google.com/books?id=YTeY9ZEfNccC&pg=PA259 
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t Gainsborough N.; Nelson ML.; Maskrey V.; Swift CG.; Jackson SH. (1994). “The pharmacokinetics and pharmacodynamics of medifoxamine after oral administration in healthy elderly volunteers.”. European Journal of Clinical Pharmacology 46 (2): 163–166. doi:10.1007/bf00199882. PMID 8039537. 
  4. ^ a b Saleh S.; Turner P. (September 1992). “Ocular hypotensive effects of medifoxamine”. British Journal of Clinical Pharmacology 34 (3): 269-271. doi:10.1111/j.1365-2125.1992.tb04136.x. PMC 1381400. PMID 1389953. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1381400/. 
  5. ^ Vaugeois JM.; Pouhé D.; Lemonnier F.; Costentin J. (1994). “Neurochemical and behavioral evidence for a central indirect dopaminergic agonist activity of the antidepressant medifoxamine in mice”. European Neuropsychopharmacology 4 (3): 323-324. doi:10.1016/0924-977X(94)90140-6. ISSN 0924-977X. 
  6. ^ Berk M. (2000). “Depression therapy: Future prospects”. International Journal of Psychiatry in Clinical Practice 4 (4): 281-286. doi:10.1080/13651500050517830. PMID 24926578. 
  7. ^ a b c Martin P.; Lemonnier F. (1994). “The role of type 2 serotonin receptors, 5-HT2A and 5-HT2C, in depressive disorders: effect of medifoxamine” (フランス語). L'Encephale 20 (4): 427-435. PMID 7988407. 
  8. ^ a b Olié JP.; Galinowski A.; Lehert P.; Lemonnier F.; Lôo H. (1993). “Randomized double-blind comparative study of the efficacy and tolerance of medifoxamine and imipramine in depressed patients” (フランス語). L'Encephale 19 (4): 333-340. PMID 8275921. 
  9. ^ a b Randhawa MA.; Hedges A.; Johnston A.; Turner P. (1988). “A psychopharmacological study to assess anti-muscarinic and central nervous effects of medifoxamine in normal volunteers”. Human Psychopharmacology: Clinical and Experimental 3 (3): 195–200. doi:10.1002/hup.470030307. ISSN 0885-6222. 
  10. ^ ANNUAL REPORTS IN MED CHEMISTRY V20 PPR. Academic Press. (11 September 1985). pp. 35–. ISBN 978-0-08-058364-8. https://books.google.com/books?id=j-3Cd_SWIksC&pg=PA35 
  11. ^ a b c Mitchell PB. (1995). “Novel French antidepressants not available in the United States”. Psychopharmacology Bulletin 31 (3): 509-519. PMID 8668756. 
  12. ^ Holroyd-Leduc, Jayna; Reddy, Madhuri (9 March 2012). Evidence-Based Geriatric Medicine. John Wiley & Sons. pp. 299–. ISBN 978-1-118-28181-9. https://books.google.com/books?id=VfPIUfcwrFkC&pg=PT299 
  13. ^ Annual Reports in Medicinal Chemistry. 22. Academic Press. (2 September 1987). pp. 323–. ISBN 978-0-08-058366-2. https://books.google.com/books?id=oJeTSJveeuAC&pg=PA323 
  14. ^ Saleh S.; Johnston A.; Edeki T.; Turner P. (April 1990). “Tolerability and kinetics of intravenous medifoxamine in healthy volunteers”. International Clinical Psychopharmacology 5 (2): 97-102. doi:10.1097/00004850-199004000-00003. PMID 2380545. 
  15. ^ Elks J. (14 November 2014). The Dictionary of Drugs: Chemical Data: Chemical Data, Structures and Bibliographies. Springer. pp. 759–. ISBN 978-1-4757-2085-3. https://books.google.com/books?id=0vXTBwAAQBAJ&pg=PA759 
  16. ^ Index Nominum 2000: International Drug Directory. Taylor & Francis. (January 2000). pp. 638–. ISBN 978-3-88763-075-1. https://books.google.com/books?id=5GpcTQD_L2oC&pg=PA638 
  17. ^ Morton IK,; Hall JM. (31 October 1999). Concise Dictionary of Pharmacological Agents: Properties and Synonyms. Springer Science & Business Media. pp. 173-. ISBN 978-0-7514-0499-9. https://books.google.com/books?id=mqaOMOtk61IC&pg=PA173 
  18. ^ a b Consolidated List of Products Whose Consumption And/or Sale Have Been Banned, Withdrawn, Severely Restricted Or Not Approved by Governments. United Nations Publications. (2003). pp. 135-136. ISBN 978-92-1-130230-1. https://books.google.com/books?id=leVCukUgNlsC&pg=PA135 
  19. ^ Dumortier G.; Cabaret W.; Stamatiadis L.; Saba G.; Benadhira R.; Rocamora JF.; Aubriot-Delmas B.; Glikman J. et al. (2002). “Hepatic tolerance of atypical antipsychotic drugs” (フランス語). L'Encephale 28 (6 Pt 1): 542-551. PMID 12506267. 
  20. ^ Papakostas GI.; Fava M. (2010). Pharmacotherapy for Depression and Treatment-resistant Depression. World Scientific. pp. 88–. ISBN 978-981-4287-59-3. https://books.google.com/books?id=zigp-66vq0MC&pg=PA88