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ポッパラングール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ポッパラングール
保全状況評価[1]
CRITICALLY ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 霊長目 Primates
: オナガザル科 Cercopithecidae
亜科 : コロブス亜科 Colobinae
: ラングール属 Trachypithecus
: ポッパラングール T. popa
学名
Trachypithecus popa
Roos, Helgen, Miguez, Thant, Lwin, A.K. Lin, A. Lin, Yi, Soe, Hein, Myint, Ahmed, Chetry, Urh, Veatch, Duncan, Kamminga, Chua, Yao, Matauschek, Meyer, Liu, Li, Nadler, Fan, Quyet, Hofreiter, Zinner & Momberg, 2020[2]
和名
ポッパラングール
英名
Popa langur[2]

分布域

ポッパラングール学名: Trachypithecus popaポパラングールとも呼ばれる) は、哺乳綱霊長目オナガザル科ラングール属に分類される霊長類。

ミャンマーポッパ山周辺のみ生息し[3]森林破壊密猟などによる影響で、個体数は200-260匹ほどでレッドリストでも絶滅寸前に指定されている[4][1][5][6]

2020年に新種として認定されたが[7][6]ファイヤールトン(フェイヤールトン)英語版の亜種だとそれまでは考えられており[8][9]、英ロンドン自然史博物館では、イギリス領インド帝国時代に収集された標本が1900年代から保管されていた[4][6]

分布

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ミャンマーポッパ山ナッ信仰における聖地[7])周辺にしか生息していない[3]。主にポッパラングールが見られる場所はポッパ山国立公園内とパンラング及びパダリン洞窟野生生物保護区英語版内、ペグ―山脈英語版ヤテッピャン山の4地点である[5][8][2]ミョージー僧院でも似たようなサルを発見したが、ポッパラングールとファイヤールトンの雑種であった[2]

少なくとも100万年前から生息していたとされている[6]

保全状況

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そのポッパ山周辺でも200-260匹しか生息しておらず、レッドリストでも絶滅寸前に指定されている[4][1]。絶滅に瀕している理由はポッパ山において起きている森林破壊密猟だと考えられている(ミャンマーは2024年現在、森林に関する法の実効性が弱いほか、2021年ミャンマークーデターによる政治的混乱によって、国立公園でも環境破壊や密猟が発生する状況にある[8][5][6]。そのほかにもパンラング及びパダリン洞窟野生生物保護区英語版内では石灰岩の採掘がおこなわれているのでそれによる被害もある[5]

なお、ポッパ山は死火山なので噴火による被害の心配はない[10]

形態・生態

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が1mほどあり、目の周りが丸く縁どられており、白くなっている。頭頂部には長い毛が生えている[3][4]。腹部も灰褐色をしており、手と手首は黒い[6]。体重は約8kg[6]。食性は葉食性[11]

発見

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もともと、英ロンドン自然史博物館では、イギリス領インド帝国時代に収集された標本が1900年代から保管されていた[6][4]。しかし、2020年に到るまで、新種とは思われておらず[6][4]、ファイヤールトンの亜種だと考えられていた[8][9]

2018年、カメラトラップを用いた調査で、目が白いサルの姿が確認される[3][6]ヤンゴンファウナ・アンド・フローラ・インターナショナル研究員らが行ったポッパ山の調査で、サルの糞が収集された[6]

2020年、ドイツ霊長類センターファウナ・アンド・フローラ・インターナショナルによるDNAミトコンドリアDNA骨格の調査が行われた[7][12]。そして、DNAの違いや、体毛・骨格の違いから新種のサルの糞であることが判明、またロンドン自然史博物館にあるサルの標本とDNAが一致することが分かった[7][6]。この調査結果は2020年11月11日に『Zoological Research』で発表され、新種として認定された[10][12][13][2]

余談として、ポッパラングールが新種に認定されたことで、ファイヤールトンの個体数は記録上減少したことになった[9]。記載論文ではファイヤールトンはT. phayrei(狭義のファイヤールトン)・T. melamera(英名Shan State langur、亜種から独立種に昇格)・T. popa(本種)の3種に分割された[2]

人間との関係

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保全状況節でも記したように、人間によって行われている森林破壊やその他の環境破壊によって、ポッパラングールは絶滅寸前の状態である[5][6][4][1]

このような、人間によって絶滅の危機に瀕していること言うことで、ドイツ霊長類センター研究員やファウナ・アンド・フローラ・インターナショナル研究員らはポッパラングールの保護を呼び掛けている[10][8]

また、マンダレー地方域に住む地元民(ほとんどは20代)は「Mahagiri」という団体を設立し、ポッパラングールをマスコットとして扱っている[8]。ほか、同団体はこのように環境破壊によって生物が失っていくことを多くの人に伝えるために、マスコットのポッパラングールが描かれたマグカップやTシャツを売ったり、11月11日を「ポッパラングールの日」としている(11月11日はポッパラングールが新種として認定された日[12][13][2][8]

脚注

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出典

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  1. ^ a b c d Matauschek, C.; Meyer, D.; Lwin, N.; Ko Lin, A.; Lin, A.; Momberg, F.; Roos, C. (2022). Trachypithecus popa. IUCN Red List of Threatened Species 2022: e.T196344474A196344962. doi:10.2305/IUCN.UK.2022-1.RLTS.T196344474A196344962.en. https://www.iucnredlist.org/species/196344474/196344962 2022年7月29日閲覧。. 
  2. ^ a b c d e f g Roos, Christian; Helgen, Kristofer M.; Miguez, Roberto Portela; Thant, Naw May Lay; Lwin, Ngwe; Lin, Aung Ko; Lin, Aung; Yi, Khin Mar et al. (2020-11-18). “Mitogenomic phylogeny of the Asian colobine genus Trachypithecus with special focus on Trachypithecus phayrei (Blyth, 1847) and description of a new species” (英語). Zoological Research 41 (6): 656–669. doi:10.24272/j.issn.2095-8137.2020.254. ISSN 2095-8137. PMC PMC7671912. PMID 33171548. https://www.zoores.ac.cn/article/doi/10.24272/j.issn.2095-8137.2020.254. 
  3. ^ a b c d WWFジャパン (2024年7月24日). “メコン地域で224種の新種発見!最新報告を発表”. WWFジャパン. 2024年7月24日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g 新種の霊長類発見、生息数少なく絶滅の危機 ミャンマー”. CNN.co.jp. 2024年7月24日閲覧。
  5. ^ a b c d e Alberts, Elizabeth Claire (2020年11月12日). “Myanmar’s new langur species is ‘very beautiful,’ but critically endangered” (英語). Mongabay Environmental News. 2024年7月25日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m ミャンマーで新たに発見された霊長類は「すでに絶滅の危機に瀕している」”. jacyou.com. 2024年7月24日閲覧。
  7. ^ a b c d Center, Deutsches Primatenzentrum/German Primate (2020年11月29日). “See the New Primate Species – Popa Langur – Discovered in Myanmar” (英語). SciTechDaily. 2024年7月25日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g Bhattacharya, Bikash Kumar (2024年3月25日). “Protecting a Newly Identified Species in Myanmar” (英語). Bluedot Living. 2024年7月25日閲覧。
  9. ^ a b c McKinney, Tracie (2020年11月24日). “The world’s newest monkey species was found in a lab, not on an expedition” (英語). The Conversation. 2024年7月25日閲覧。
  10. ^ a b c Alberts, Elizabeth Claire (2020年11月12日). “Myanmar’s new langur species is ‘very beautiful,’ but critically endangered” (英語). Mongabay Environmental News. 2024年7月25日閲覧。
  11. ^ McKinney, Tracie (2020年11月24日). “The world’s newest monkey species was found in a lab, not on an expedition” (英語). The Conversation. 2024年7月25日閲覧。
  12. ^ a b c New primate species discovered in Myanmar with the help of a 100 year-old Natural History Museum specimen” (英語). www.nhm.ac.uk. 2024年7月25日閲覧。
  13. ^ a b Mitogenomic phylogeny of the Asian colobine genus Trachypithecus with special focus on Trachypithecus phayrei (Blyth, 1847) and description of a new species”. ResearchGate (2020年11月11日). 2024年7月25日閲覧。

関連項目

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