コロブス亜科

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コロブス亜科
キングコロブス
地質時代
中新世 - 現代
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 霊長目 Primates
: オナガザル科 Cercopithecidae
亜科 : コロブス亜科 Colobinae
学名
Colobinae Jerdon, 1867[1][2]
タイプ属
Colobus Illiger, 1811[2]
和名
コロブス亜科[3][4][5][6]
コロブスモンキー亜科[7]

コロブス亜科(コロブスあか、Colobinae)は、哺乳綱霊長目オナガザル科に分類される亜科。

分布[編集]

赤道付近のアフリカ大陸、南アジアおよび東南アジア[6]

アフリカ大陸に分布する種もいるが、多くの種はアジアに分布する[4][6]

形態[編集]

頬袋がない[6]。下顎の門歯が、上顎の門歯よりも突出する種が多い[6]。大臼歯の咬頭が発達する[6]。唾液腺が発達し、胃がくびれ2つの室に分かれる[6]。これにより1つの室では酸性に傾くことがなく、食物を発酵させるバクテリアと共生することができる[6]。このバクテリアの働きにより植物の葉の主成分であるセルロースを分解したり、食物に含まれる毒物も中和することができる[6]。胃がくびれて表面積が大きくなることで栄養価の低い食物を大量に貯蔵したり、胃を通過する時間を長引かせることで発酵させる時間もできるなどの利点もあると考えられている[6]。2017年に発表されたRagunan動物園の飼育個体(ジャワルトン、シルバールトン、テングザル、モモジロリーフモンキー)へのPTCの投与実験による観察例やこれらの種の苦味受容体TAS2R38遺伝子の分子系統解析から、TAS2R38が機能を失い感度が低くなることで苦味を感じにくく葉食へ適応した可能性が示唆されている[8]

第1指(親指)が退化傾向にあり、ほぼ消失している種もいる[6]。コロブス属の属名Colobusは、古代ギリシャ語で「ちぎれた」の意がある語に由来し、第1指が退化していることに由来する[7]

分類[編集]

テングザル
N. larvatus
ザンジバルアカコロブス
Pi. kirkii
クロカンムリリーフモンキー
Pr. melalophos
アカアシドゥクラングール
Py. nemaeus
キンシコウ
R. roxellana
ハヌマンラングール
S. entellus
ジャワルトン
T. auratus

アフリカに分布する属をColobini族、アジアに分布する属をPresbytini族に分ける説もある[1]。アフリカの種とアジアの種は、およそ11,000,000 - 10,000,000年前に分岐したと考えられている[5]

最古の化石記録として、アフリカで発見されたマイクロコロブス・トゥゲネンシスMicrocolobus tugenensis(約10,000,000年前)がある[5]

アジアに分布する種のうち旧リーフモンキー属(ハヌマンラングール属・ラングール属・リーフモンキー属)に分類される種の呼称として、ラングール(langur 南アジアに分布する種を指すことが多い)、ルトン(lutung マレー語由来)などがある[7]。リーフモンキーは旧リーフモンキー属広範を指すこともあるが、島嶼部に分布する種を指すことが多い[7]

以下の現生種の分類・和名・英名は、日本モンキーセンター霊長類和名編纂ワーキンググループ(2018)に従う[3]

生態[編集]

主に森林に生息するが、乾燥した疎林や農耕地・市街地に生息する種もいる[6]。 後述するように主な食物である植物の葉の分布が均一であるためか、あまり遊動することがない[4][6]。行動圏が平均で約30ヘクタール[6]。一方でニルギリラングールは6 - 260ヘクタール、ハヌマンラングール類では5 - 1,300ヘクタールと変動が大きい[6]。シシバナザル属では行動圏や1日の移動距離が大きいという報告例があるが、標高の高い地域に分布するうえに冬季がある環境に生息するためだと考えられている[4]。ハヌマンラングール属・ラングール属・リーフモンキー属の構成種では、果実や花が多い時期に行動圏が拡大するという報告例もある[4]。 攻撃行動や性行動・社会的行動はあまり複雑化しておらず、これは1日の大半を個々に採食に費やしているため社会的行動が発達する機会や、樹上棲の種が多いため捕食者による危険(協力して食物を探したり、捕食者を警戒する機会)が少ないことなどが原因であると示唆されている[6]。活動時間において休息の割合(一例としてテングザルでは昼間の76 %)が大きく、これは葉の消化には時間がかかるためだと考えられている[4]

ほとんどの種が植物の葉を食べ、一部の種では葉以外の食物に関する報告例のないものもいる[6]。一方で多くの種は、植物の茎・蕾・花・果実・種子も食べる[6]。キノコ、地衣類、朽木、虫こぶ、昆虫などを食べる種もいる[6]。一例としてジャワルトンでは採食時間のうち27 - 37 %、カオムラサキラングールでは50 %以上を果実の採食時間が占めるという報告例もある[4]。それぞれの個体が落ち着いた場所をみつけると座り込んで、長時間にわたり採食を行うことが多い[6]

1回に1頭(まれに2頭)の幼獣を産む[6]

人間との関係[編集]

ハヌマンラングール類はハヌマーンと結び付けられ、神聖な動物として崇拝の対象とされることもある[6]

食用とされたり、毛皮が利用される[6]。腸内の凝固物(結石)などが、薬用になると信じられていることもある[6]

森林伐採や農地開発などによる生息地の破壊、食用や薬用の狩猟などにより生息数が減少している種もいる[6]

出典[編集]

  1. ^ a b Colin P. Groves, "Order Primates," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 111-184.
  2. ^ a b “OPINION 1202: Colobinae Jerdon, 1867 (1825) (Primates): Conserved”, Bulletin of Zoological Nomenclature, Volume 39, Part 2, International Commission on Zoological Nomenclature, 1982, Pages 91-94.
  3. ^ a b 日本モンキーセンター霊長類和名編纂ワーキンググループ 「日本モンキーセンター 霊長類和名リスト 2018年11月版」(公開日2018年12月16日・2020年4月15日閲覧)
  4. ^ a b c d e f g 松田一希「テングザルから紐解くコロブス亜科の多様な生態と社会」『霊長類研究』第27巻 2号、日本霊長類学会、2011年、75-93頁。
  5. ^ a b c 中務真人・國松豊 「アフリカの中新世旧世界ザルの進化:現生ヒト上科進化への影響」『Anthropological Science (Japanese Series)』第120巻 2号、日本人類学会、2012年、99-119頁。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y Thelma E. Rowell 「コロブスとリーフモンキー」早木仁成訳『動物大百科 3 霊長類』 伊谷純一郎監修、D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、106-117頁。
  7. ^ a b c d 岩本光雄「サルの分類名(その3:コロブスモンキー、ラングールなど)」『霊長類研究』第3巻 1号、日本霊長類学会、1987年、59-67頁。
  8. ^ Laurentia Henrieta Permita Sari Purba, Kanthi Arum Widayati, Kei Tsutsui, Nami Suzuki-Hashido, Takashi Hayakawa, Sarah Nila, Bambang Suryobroto, Hiroo Imai, "Functional characterization of the TAS2R38 bitter taste receptor for phenylthiocarbamide in colobine monkeys," Biology Letters, Volume 13, Issue 1, 2017.

関連項目[編集]