パキポディウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
パキポディウム属
Edwards's Botanical Register 第16巻(1830年)におけるパキポディウム・サキュレンタム Pachypodium succulentum の図版
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク上群 superasterids
階級なし : キク類 asterids
階級なし : asterids I
: リンドウ目 Gentianales
: キョウチクトウ科 Apocynaceae
: Malouetieae
: パキポディウム属 Pachypodium
学名
Pachypodium Lindl.
タイプ種
Pachypodium tuberosum
(≡ パキポディウム・サキュレンタム Pachypodium succulentum)

本文参照

パキポディウム[1][2]あるいはパキポジウム[3]は、キョウチクトウ科パキポディウム属Pachypodium)の木本の総称である。マダガスカルおよびアフリカ原産で、塊根植物(コーデックス)の分野で観賞用植物としての人気があるが、全種がワシントン条約附属書に指定され、輸出入に何らかの制限が設けられている(参照: #保全状況)。

分類[編集]

パキポディウム属最初の記載種、パキポディウム・サキュレンタム

パキポディウム属は1830年にイギリスの植物学者ジョン・リンドリーにより Edwards's Botanical Register 第16巻、t. 1321 で初めて記載された。この時本属の種として記載されたのは Pachypodium tuberosum で、これは1781年に小リンネSupplementum Plantarump. 167)上で記載した Echites succulentus と同一と見做されたものである[4]今日の命名規約に合わず[注 1]、リンドリーによる記載と同年に Echites succulentus からの組み替えとしてロバート・スウィートにより発表された Pachypodium succulentum パキポディウム・サキュレンタム という学名に差し替えられている[5]。なおこのパキポディウム・サキュレンタムは南アフリカ産のものであり、マダガスカル産の種として最初に記載されたものは1882年のジョン・ギルバート・ベイカーによるパキポディウム・ロスラーツムPachypodium rosulatum)である[6]

属名パキポディウムはギリシア語 παχύς (pachýs)〈太い〉と ποδός (podós)〈足〉の合成語であり、本属の株姿をそのまま表したものである[2]

下位分類[編集]

分類および分布情報はキュー植物園系データベースである Govaerts, Goyder & Leeuwenberg (2021)、学名のカナ転写や一部につけられている園芸名は特記の無い限り横町 (2016)主婦の友社 (2019:166, 171, 172) に従う。

分布[編集]

大半の種がマダガスカル原産で、アフリカ南部産のものも数種存在する[2]

生態[編集]

丘陵の岩場や乾燥した平原などに自生し、日光を非常に好む[2]

形態的特徴[編集]

常緑または落葉低木-小高木[3]。茎は地上性で10メートルぐらいになるものから地下性のものまであり、単立するか枝分かれするかし、形は円柱状・紡錘状・球状・岩塊状となる[3]

葉は通常は幹あるいは枝の先端に束生し、大きく、やや平行の側脈が多数見られ、多肉質ではない[3]。普通は葉の両側もしくは葉の基部上縁に1対(種によっては3本)の刺を持ち、多くの種では枝にも刺が見られる[3]

花は腋生えきせいあるいは頂生で1ないし多数、一般に大型で色は白色・紅紫色・黄色・赤褐色・赤色など[3]。花の形状はキョウチクトウ科の一般的な形に準ずる[3]

果実は2つが対となる長大な蒴果である[3]。種子は細長く、一端に冠毛を有する[3]

利用[編集]

観賞用[編集]

パキポディウム栽培の入門種とされるパキポディウム・ラメリー

パキポディウムは塊根植物(コーデックス)の中でも特に人気があり[2]、日本にもいくつかの種が導入されている[3]。特にパキポディウム・ラメリーPachypodium lamerei)は生長が早く性質も丈夫であるため入門種として最適とされる[20]

栽培方法[編集]

#生態で触れたように日光を好む。温室内で栽培された株などは直射日光に当てると一時的に葉が焼ける場合もあるが、日光に徐々に慣らし、可能な限り屋外で直射日光に当てて育てる[2]。少なめの用土や乾きやすい鉢を使用している場合は生育期に屋外で雨ざらしにして育てた方が調子良く育つ[2]。気温が下がると落葉し始めるが、この際に徐々に水やりの回数を減らし、翌シーズンに芽吹くまでは断水する[2]。冬期は5度以下にすることは避ける[18]。休眠中にもよく日光に当てる必要がある[2]

その他[編集]

マダガスカル産のパキポディウム・ラメリー[注 2]の水気の多い肉質は家畜の飼料とされ、旱魃が長引く場合には絞り出した液を飲料とすることもある。また細切れにしたものは清涼感を得るために顔に塗られる[21]

マダガスカル産の Pachypodium rosulatum subsp. gracilius(園芸名: 象牙宮)の樹液は強力な傷薬になると考えられ、傷口に垂らせば微生物感染を防ぐことができる模様である[22]

またこれもマダガスカル産のパキポディウム・ルテンベルギアナムの樹皮の繊維はカラムシのそれに似た繊維を持ち、かつては織物に用いられていた[23]

保全状況[編集]

パキポディウム属はその構成種の全てが絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(通称: ワシントン条約、CITES)の附属書に掲載され、多かれ少なかれ規制の対象となっている。まずパキポディウム・アンボンゲンセPachypodium ambongense)・パキポディウム・バロニーPachypodium baronii)・パキポディウム・デカリーPachypodium decaryi)の3種はワシントン条約附属書Iに掲載され、商業目的の国際取引は一切禁止されている。そのほかの種に関しては全てが附属書IIに指定されることになり、国際的な取引に当事者国両国の許可が必要となり得る。ただし

  • 種子や花粉
  • 試験管で得られた実生か組織培養体で、固体あるいは液体の培養基中にあり、無菌状態のコンテナで輸出入されるもの
  • 人工的に繁殖させた植物体の切り花

以上に関しては同条約の項目の適用対象外となる[24]

上記の種のうちパキポディウム・バロニーについては2015年にIUCNレッドリストでの評価が行われ、保護区内で見られず野火や園芸業界用の採集のせいで減少し続けたために絶滅危惧種(Endangered)と評価されている[25]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ パキポディウム属がこの時新設されたものである以上既存の種との命名の重複が発生する心配もないため、本来は種小名を(属名のラテン語は考慮に入れた上で)維持して Pachypodium succulentum とする必要があった。
  2. ^ 厳密には出典の Markgraf (1976:282) においては Pachypodium lamerei var. ramosum (Constantin & Bois) Pichon という変種についての記述となっているが、この変種と基本変種との差は Lüthy (2004) により否定されている。

出典[編集]

  1. ^ 横町 (2016:11).
  2. ^ a b c d e f g h i j 主婦の友社 (2019:110).
  3. ^ a b c d e f g h i j 初島 (2000).
  4. ^ Rapanarivo & Leeuwenberg (1999:1).
  5. ^ Govaerts, R., Goyder, D. & Leeuwenberg, A. (2021). World Checklist of Apocynaceae. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; http://wcsp.science.kew.org/namedetail.do?name_id=145261 Retrieved 6 October 2021
  6. ^ Rapanarivo & Leeuwenberg (1999:2).
  7. ^ a b 主婦の友社 (2019:112).
  8. ^ a b 主婦の友社 (2019:114).
  9. ^ 横町 (2016:23).
  10. ^ E. C. Stuart Baker (1864–1944; 鳥類学者) もしくはジョン・ギルバート・ベイカー (1834–1920; 植物学者)
  11. ^ a b c Rapanarivo & Leeuwenberg (1999:3).
  12. ^ a b 主婦の友社 (2019:115).
  13. ^ 熱帯植物研究会 編 編「ハリキョウチクトウ P. lamerei Drake.」『熱帯植物要覧』(第4版)養賢堂、1996年、410頁。ISBN 4-924395-03-X 
  14. ^ 横町 (2016:19).
  15. ^ 横町 (2016:14).
  16. ^ 横町 (2016:16).
  17. ^ 横町 (2016:17).
  18. ^ a b 主婦の友社 (2019:111).
  19. ^ IUCN (国際自然保護連合) 編 編『世界の絶滅危惧生物図鑑』丸善出版、2014年、47頁。ISBN 978-4-621-08764-0 (原書: Species on the Edge of Survival, HarperCollins Publishers, 2011; 原典: Species of the Day
  20. ^ 主婦の友社 (2019:112).
  21. ^ Markgraf (1976:282).
  22. ^ Markgraf (1976:296).
  23. ^ Markgraf (1976:284).
  24. ^ Appendices (CITES). 2021年10月6日閲覧。
  25. ^ Members of the IUCN SSC Madagascar Plant Specialist Group. (2015). Pachypodium baronii. The IUCN Red List of Threatened Species 2015: e.T69222313A69234796. doi:10.2305/IUCN.UK.2015-4.RLTS.T69222313A69234796.en. Downloaded on 06 October 2021.

参考文献[編集]

フランス語:

英語:

日本語:

関連文献[編集]

英語:

外部リンク[編集]