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ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス
Gāius Iūlius Hygīnus
誕生 紀元前64年
死没 17年
職業 著作家
代表作 『神話集』 (Fabulae)
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ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスラテン語: Gāius Iūlius Hygīnus [ˈɡäːius ˈi̯uːlʲiʊs̠ hʏˈɡiːnʊs̠], ガーイウス・ユーリウス・ヒュギーヌス)は、ラテン語著作家

生涯

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人物については明確ではないが、一説によれば出生はスペインアレクサンドレイアとされる[1]。奴隷であったがローマに連れてこられ、アレクサンデル・ポリュヒストールの講義を聴講し、のちに奴隷から解放されたという[1]スエトーニウスによると、皇帝アウグストゥスによってパラティーヌスの図書館長に任命された[1]。詩人のオウィディウスと友誼を結ぶが、やがて皇帝の不興をかい貧窮に陥り、クラウディウス・リキニウス (Gaius Clodius Licinusから援助を受けたとある[1]

作品

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ヒュギーヌスは多作家であった。ジャンルも地形学から伝記、詩人ヘルウィウス・キンナ英語版ウェルギリウスの詩についての注釈、農業・養蜂に関する論文と多岐にわたって著作活動を行なったが、それらの原本はすべて失われている。

ヒュギーヌスの名前で現存するのは『神話集』と『天文詩』[注釈 1]の二つで、これらは、おそらくヒュギーヌスの神話論を略記した学生の覚え書きであると思われる。ただし、作者のヒュギーヌスとガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスは別人だという説もある[3]

神話集(Fabulae)
300程の神話と天界の系譜についてのエピソードが短く、そっけなく、そして粗雑に語られている。当時の編者たちはこの作品の価値を、ギリシア悲劇作家の失われた作品についての"adulescentem imperitum, semidoctum, stultum"(無教養な若さ、半端な知識、愚か)[4]と評した。両アントニヌス時代(138年 - 180年)[注釈 2]の教育を受けたローマ人なら誰でもギリシア神話を知るべきと期待されていたため、ヒュギーヌス[5]はぞんざいな形式で、最低限のことだけを書いたのかもしれない。ギリシア神話には内容が部分的に異なるバージョンが多く存在していたとされるが、それらの多くが失われている現在、『神話集』は貴重な文献である。

しかし、『神話集』の大半も失われている。900年頃にベネヴェント書体英語版で書かれた写本が1冊だけバイエルン州フライジング英語版の修道院に残っており[6][7]1535年にはその写本を基にして最初の印刷版が作られるが、Jacob Micyllus[注釈 3]は不注意かつ無批判的に書き写した。ちなみに、"Fabulae" という題名をつけたのもMicyllusである。15世紀16世紀、印刷の過程で写本は印刷所でばらばらにされ、生き残ったのはたった2つの断片のみであった。1つは1864年にレーゲンスブルクで、もう1つは1942年にミュンヘンで発見された[8]。両方ともミュンヘンで保存されている[9]。なお、バチカン図書館には15世紀に写された不完全なテキストがある。

Ratdolt版の『天文詩』。木版画はカシオペヤ座アンドロメダ座アメリカ海軍天文台
天文詩Poeticon astronomicon
最初に出版されたのは1482年ヴェネツィアで、出版者はErhard Ratdolt、題名は"Clarissimi uiri Hyginii Poeticon astronomicon opus utilissimum"だった。星座の星々を一覧にしたものであるが、語られる主な事柄は星座にまつわる神話である。エラトステネス作とされる『カタステリスモイ』などを基にしている。

両方の作品とも要約である。文体(スタイル)、ラテン語の能力のレベル、初歩的な間違い(とくにギリシャ語の翻訳)は、ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスのような著名な学者の作品とは思えず、別人説の根拠となっている。

日本語訳

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脚注

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注釈

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  1. ^ 『ギリシャ神話集』では「天文論」と訳している[2]
  2. ^ ローマ皇帝アントニヌス・ピウス(在位138年 - 161年)とマルクス・アウレリウス・アントニヌス(在位161年 - 180年)を指す。
  3. ^ 『ギリシャ神話集』では「ヤコブス・ミキュルス」、ドイツ名「ヤーコプ・モルスハイム/メルツアー」としている[1]

出典

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  1. ^ a b c d e 松田 2005, p. 335.
  2. ^ 松田 2005, p. 336.
  3. ^ Edward Fitch, reviewing H. I. Rose,Hygini Fabulae in The American Journal of Philology 56,4 (1935), p 422.
  4. ^ H.I. Rose 1934
  5. ^ Arthur L. Keith, reviewing H. I. Rose Hygini Fabulae 1934 in The Classical Journal 31.1 (October 1935) p. 53。「アイスキュロスの多数の劇、リウィウスの歴史の大部分など値段もつけられない消えてなくなった財宝を与えられた幸運の一方で、この学生の勉強は研究者の努力の精神的な糧となるべく存在する」。
  6. ^ A Codex Freisingensis, noted by Fitch, reviewing Rose, Hygini Fabulae 1934:421.
  7. ^ 松田 2005, p. 339.
  8. ^ 松田 2005, pp. 340–341.
  9. ^ M.D. Reeve on Hyginus, Fabulae in L.D. Reynolds, ed., Texts and Transmission (Oxford) 1983, pp 189f.

参考文献

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  •  この記事にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Hyginus, Gaius Julius". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 14 (11th ed.). Cambridge University Press.
  • P.K. Marshall, ed. Hyginus: Fabulae 1993; corrected ed. 2002.
  • Rose, H. I. Hygini Fabulae (1934) 1963. The standard text, in Latin.
  • ヒュギーヌス 著、松田治・青山照男 訳『ギリシャ神話集』講談社〈講談社学術文庫〉、2005年2月10日。ISBN 4061596950 
    • 松田治「解説」『ギリシャ神話集』講談社〈講談社学術文庫〉、2005年2月10日、334-347頁。 

外部リンク

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