将棋の殿様
将棋の殿様(しょうぎのとのさま)は落語の演目のひとつ。上方落語における大名将棋(だいみょうしょうぎ)もこの項目で説明する。
概要
[編集]講談が元になったいわゆる「釈ネタ」で、大久保彦左衛門の逸話がもとになったといわれる。初代三笑亭可楽が時の将軍・徳川家斉の御前で演じた、という伝説が残る。
あらすじ
[編集]ある藩(『大名将棋』では紀州)の殿様が、突然将棋に凝りだした。家来たちが相手を務めることになるが、殿様は相手がよそ見している間に都合の悪い駒を動かしたり、「余の桂馬は名馬であるから、5つ6つ跳ぶのは当たり前じゃ」などと言ってルールにない指し方をしたり、王手になると「王将の八艘飛びじゃ」と言って盤から取り除いたりするため、殿様が連戦連勝。やがて殿様は、「勝者が、敗者の頭を鉄扇でたたく」というペナルティを追加し、家来は皆、頭がたんこぶだらけになる。
その頃、長く療養をしていた家老の田中三太夫(『大名将棋』では石部金吉郎)が久しぶりに登城してくる。家来から一部始終を聞いた家老は、やがて殿様に対局を申し込まれる。対局を初めてすぐに殿様は「控えろ。その歩を取ってはならぬ!」などとわがままを言うが、家老は「敵の指図で戦を進める者はおりません。たとえこの場で打ち首になろうとも、この歩だけは断じて動かすわけにはまいりません」と、軍略・政略に通じる正論を言ってそれを許さない。
わがままを封じられた殿様は、家老にあっという間に負ける。「では、鉄扇を拝借いたしまして、この爺めが殿の頭を……」家老は剣の達人として恐れられていたため、殿様は不安に思いながら家老の手元に頭を差し出す。すると、家老は殿様の頭ではなく、膝をたたく。「皆の者、将棋盤を焼き捨てい。これからは家中で将棋を指すものには切腹を申しつける」
殿様は、今度は落語に凝りだす。殿様は家来たちに自作の落語を聞かせるが、「空を飛ぶ鶴を見てうらやましくなった亀が地団駄を踏んだ。これが本当の『石亀の地団駄』じゃ」など、あまり面白くない。家来たちは笑わなければ鉄扇でたたかれるのではないかと思い、無理に笑っている。殿様の語りは、なぜか次第に厄祓いの口上になり、
「鶴は千年亀万年。東方朔は九千歳、浦島太郎は八千歳。三浦大介百六つ、かほどめでたき折柄に、いかなる悪魔がきたるとも、この厄祓いがひっとらえ、西の海へ真っ逆さまに、ザブリーン」「笑いましょ、笑いましょ」
バリエーション
[編集]- 東京では厄祓い口上の場面はほとんど演じられず、殿様が将棋禁止を申しつける場面で噺を切る。
- 中盤に「鉄扇でたたかれ続けるなら、いっそ武士をやめて焼き芋屋をやりたい」とこぼす家来を登場させ、最後に家老にいさめられた殿様が同様に「城を出て焼き芋屋を始めたい」と言わせてサゲる演じ方がある(3代目笑福亭仁鶴など)。
- 殿様の落語を聞いて「頭が痛い」と言った家来に対し殿様が「今度はたたいていないではないか」と問うと、家来が「今度は頭の中が痛うございます」と言ってサゲる演じ方がある(3代目桂小春団治など)。
出典・参考
[編集]- 武藤禎夫『定本 落語三百題』解説