起立性調節障害

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起立性調節障害(きりつせいちょうせつしょうがい;Orthostatic Dysregulation(OD))は思春期に発症しやすい自律神経機能不全である。1960年代に、小児科医の大国がドイツの文献を日本に紹介したことで知られるようになった。当時は、ODは思春期の一時的な生理的変化であり身体的にも社会的に予後は良いとされていたが、最近の研究によって、重症ODでは自律神経による脳や全身臓器への循環調節が障害され日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校状態やひきこもりを起こし、学校生活やその後の社会復帰に大きな支障になることが明らかになった。また、心理社会的ストレスによって自律神経機能に影響を与え、ODを悪化させることから、心身症としての診療や周囲の対応を必要とする。すなわち発症の早期から重症度に応じた適切な治療と家庭生活や学校生活での環境調整が不可欠である。

日本小児心身医学会はODガイドライン(ODGL)を2007年に出版、2009年に一般書籍として出版、2015年に改訂版を出版した[1]。これによって全国で標準的な診断・治療が可能となった。

疫学[編集]

10歳から16歳に発症しやすい。日本の小学生の5%、中学生の約10%にみられ男女比は 1:1.5〜2 と報告されている。

症状[編集]

身体症状としては、立ちくらみ、失神または失神様になる、起立直後から生ずる頭痛、動悸息切れ・食欲不振・腹痛倦怠感などが、ほとんど毎日くり返し、とくに午前中に症状が増悪する。また午後から夕方にかけて徐々に症状が軽減し、夜には体調が回復する。就寝時刻には目がさえてなかなか寝付けないことが多い。症状が増悪すると、朝の起床困難が著しく遅刻や欠席をくり返す。登校できないにもかかわらず、夜には体調が回復しゲームやテレビを楽しめるため、この病気を知らない周囲の大人は、仮病か、怠けているのではないか、と考えるようになる。子どもを叱責したりして、親子喧嘩になることも多い。

精神症状としては、いらいら、やる気のなさ、焦りなどがみられる。周囲の大人が子どもの日常行動に対して、叱責、批判したりすると、さらに精神症状が悪化することがある。

現時点では循環動態の違いから、以下のサブタイプが知られている。

  1. 起立直後性低血圧 (instantaneous orthostatic hypotension ; INOH)
    • OD の中で最多。起立直後に一過性の強い血圧低下を認め、同時に眼前暗黒感などの強い立ちくらみを覚える。頻脈も伴うことが多い。
    • 末梢血管交感神経活動の低下により細動脈の収縮不全があると考えられる。更に静脈系への貯留も著明で、静脈還流が低下すれば、拡張期圧も上昇し脈圧が低下する。
  2. 体位性頻脈症候群 (postural tachycardia syndrome ; POTS)
    • 起立失調症状は認めるが、1., 2.のような起立中の血圧低下を伴わず、起立時頻脈を認めるものである。小児ではINOH 同様に多い。
    • 起立中の腹部、下肢への血液貯留に対して過剰な交感神経興奮、エピネフリンの過剰分泌が生ずると考えられる。
  3. 遷延性起立性低血圧 (delayed orthostatic hypotension)
    • 起立数分以降に血圧が徐々に下降し、起立失調症状が出現する。
    • 起立中の静脈還流低下による心拍出量減少に対して、代償的な末梢血管支配交感神経活動の上昇が不十分であると考えられる。
  4. 血管迷走神経性失神(vasovagal syncope)
    • 起立中に突然に収縮期と拡張期血圧低下をきたし、起立失調症状が出現、立っていられなくなり、失神、失神前状態を生ずる。顔面蒼白や冷汗などの前駆症状を伴うこともある。
    • 血管迷走神経性発作による。起立中の頻脈、静脈還流の低下により、心臓が空打ち状態となり、その刺激で反射的におこるとされている。前 3 者のサブタイプの経過中に生ずることもある。

(近年、脳血流低下型、高反応型など新しいサブタイプが報告されたが(日本自律神経会、2012)、非侵襲的連続血圧測定装置(Finometerなど)や近赤外分光計(NIRS)による脳循環測定装置など特殊な装置を必要とする。)

<診断の進め方>

日本小児心身医学会 OD診断・治療ガイドラインでは、以下の手順で診断を進める。重要なことは、OD症状を生ずる他疾患を除外すること、新起立試験を必ず実施することである。症状だけでODと診断してはいけない。

1)以下の11の身体症状のうち、3つ以上あれば(あるいは2つでも症状が強い場合)、ODをうたがい、次の2)に進む。(これにはエビデンスがあり、報告されている)

①立ちくらみ、②失神、③気分不良、④朝起床困難、⑤頭痛、⑥腹痛、⑦動悸、⑧午前中に調子が悪く午後に回復する、⑨食欲不振、⑩車酔い、⑪顔色が悪い

2)ODに似た症状を引き起こす他の疾患を除外診断する。

(例)鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患など、基礎疾患を除外する。

3)新起立試験を実施し、以下のサブタイプを判定する。

    1.起立直後性低血圧(軽症型、重症型)

    2.体位性頻脈症候群

    3.遷延性起立性低血圧

    4.血管迷走神経性失神

 (脳血流低下型、高反応型など新しいサブタイプが報告されているため、1~4のいずれかに判定されない場合にはその可能性も含めておくことが望ましい)

  ガイドライン改訂版(2015)では、失神または失神様症状があればヘッドアップチルトテストの実施をも推奨している。

4)検査結果と日常生活状況の両者から重症度を判定する(ODガイドラインを参照)

5)「心身症としてのOD」チェックリストを行い、心理社会的関与を評価する。(ODガイドラインを参照)

(注意)以下の診断基準は過去には使用されていたが、エビデンスがないため、ODガイドラインでは削除された。[編集]

分類 no 症状
大症状 A 立ちくらみあるいは目まいを起こしやすい
B 立っていると気持ち悪くなる、ひどくなると倒れる
C 入浴時、あるいはいやなことを見聞きすると気持ちが悪くなる
D 少し動くと動悸、あるいは息切れがする
E 朝起きが悪く、午前中調子が悪い
小症状 a 顔色が青白い
b 食欲不振
c 強い腹痛
d 倦怠あるいは疲れやすい
e 頭痛
f 乗り物酔い
g 起立試験による脈圧の狭小化(16mmHg以上)
h 起立試験で、収縮時血圧が安静時より21mmHg以上低下する
i 起立試験で脈拍数が1分間あたり21以上増える
j 起立試験で典型的な心電図がみられる

「しばしば」「時々」「たまに」の質問もして、それも考慮して陽性かどうかを判定する。

(治療;ODガイドラインによる)[編集]

生活指導(非薬物療法)と薬物療法を併用する。環境調整や心理療法が行われるときもある。

症状に応じて、新起立試験やヘッドアップチルト試験を実施、循環調節機能を評価し、非薬物療法や薬物療法の効果を正確に判定する。

生活指導(非薬物療法)[編集]

  1. 運動療法
    • 毎日の散歩程度の運動をすすめる。
    • たとえば1日15分の歩行など、毎日運動をする習慣をつける。心拍数が120を越えない程度の軽い運動(腹筋などの臥位でおこなう運動など)で良い。
  2. 肉体操作
    • 起立時には、いきなり立ち上がらずに、30 秒程かけてゆっくり起立。
    • 歩行開始時は、頭位を前屈させれば、脳血流が低下しないので起立時の失神を予防できる。起立中に、足踏みをする。両足をクロスに交叉する。更に頭を前屈する。
  3. 規則正しい生活リズムのすすめ
    • 夜更かし、朝寝坊をやめる。昼寝をしない。難しいが、強制してストレスにならないようにその子にあわせて指導する。
  4. 暑い場所は避ける
    • 高温の場所では、末梢血管は動脈、静脈とも拡張し、また発汗によって脱水をおこし、血圧が低下する。入浴は短時間。梅雨、夏場は注意。
  5. 下半身圧迫装具
    • 下半身への血液貯留を防ぎ、血圧低下を防止する装具(弾性ストッキングや、ODバンドのような加圧式腹部バンド)は、適切に利用すると効果あり。
  6. 食事の注意
    • 塩分は循環血漿量を増やし血圧を上げるために必須である。したがって、食事やおやつを通じてやや多めの食塩摂取をする。


水分のこまめな摂取も必須である。スポーツドリンクは塩分も摂取できる。こまめに水分を摂取し、一日を通して2リットルほどの水分を摂取すると良いとされる[2]

薬物療法[編集]

ミトドリン、アメニジウム、プロプラノロールなどがある。

脚注[編集]

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  1. ^ 日本小児心身医学会 小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン(改訂版) 一般外来向け 子の心とからだ 2015; 23: 408-444
  2. ^ Rowe, P. C. (2014). "General Information brochure on Orthostatic Intolerance and its treatment." The Pediatric Network.