起立性調節障害

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起立性調節障害(きりつせいちょうせつしょうがい)とは、自律神経失調症の一種、OD(英語 orthostatic dysregulation; ドイツ語 orthostatische Dysregulation)と略される事もある[1]。生活リズムが乱れている様に見える[2]が、自律神経失調症状のひとつと考えられている[3]。怠慢なのではなく、「起立や座位で脳血流が減少し、思考力と判断力が低下する」身体の病気である[2]。このような理解に基づき、本人を責めることなく、適切な治療や支援を行うことによって回復する[4][5][6]。治療法や支援方法については、「起立性調節障害#治療」を参照。

10歳から16歳に多く、日本の小学生の5%、中学生の約10%にみられ男女比は 1:1.5〜2 と報告されている[2]概日リズムが5時間程度うしろにズレている事が原因で午前中に交感神経活動が活性化しない[7]。一方、夜間に交感神経が活発化するため寝付きが悪くなる[2][7]、つまり『宵っ張りの朝寝坊』になりやすい[8]。また、上気道のアレルギーを併発する割合が高いとする報告がある[9]

症状[編集]

循環器系の障害として捉えられており[3]、身体的な症状としては朝起きられない・めまい・立ちくらみ(脳貧血)が一番多くみられ、その他にも動悸息切れ睡眠障害・食欲不振・腹痛頭痛倦怠感など人によりさまざまな症状が現れる。血液による酸素と栄養の供給が悪いため、疲れやすく疲れからの回復が遅れる[8]

分類[編集]

下記に細分化される。(長崎大学 第2回小児心身医学勉強会資料より引用[10])。

  1. 起立直後性低血圧 (instantaneous orthostatic hypotension ; INOH)
    • OD の中で最多。起立直後に一過性の強い血圧低下を認め、同時に眼前暗黒感などの強い立ちくらみを覚える。頻脈も伴うことが多い。
    • 末梢血管交感神経活動の低下により細動脈の収縮不全があると考えられる。更に静脈系への貯留も著明で、静脈還流が低下すれば、拡張期圧も上昇し脈圧が低下する。
  2. 遷延性起立性低血圧 (delayed orthostatic hypotension)
    • 起立数分以降に血圧が徐々に下降し、起立失調症状が出現する。
    • 起立中の静脈還流低下による心拍出量減少に対して、代償的な末梢血管支配交感神経活動の上昇が不十分であると考えられる。
  3. 体位性頻脈症候群 (postural orthostatic tachycardia syndrome ; POTS)
    • 起立失調症状は認めるが、1., 2.のような起立中の血圧低下を伴わず、起立時頻脈を認めるものである。小児ではINOH 同様に多い。
    • 起立中の腹部、下肢への血液貯留に対して過剰な交感神経興奮、エピネフリンの過剰分泌が生ずると考えられる。
    • 詳細については英語版wikipedia 「Postural orthostatic tachycardia syndrome」を参照。
  4. 神経調節性失神 (neurally-mediated-syncope ; NMS)
    • 起立中に突然に収縮期と拡張期血圧低下をきたし、起立失調症状が出現、立っていられなくなり、失神、失神前状態を生ずる。顔面蒼白や冷汗などの前駆症状を伴うこともある。
    • 血管迷走神経性発作による。起立中の頻脈、静脈還流の低下により、心臓が空打ち状態となり、その刺激で反射的におこるとされている。前 3 者の経過中に生ずることもある。

診断[編集]

(日本小児心身医学会 OD診断・治療ガイドライン2015より)

日本小児心身医学会 OD診断・治療ガイドラインでは、以下の手順で診断を進める。重要なことは、OD症状を生ずる他疾患を除外すること、新起立試験を必ず実施することである。症状だけでODと診断してはいけない。

1)以下の11の身体症状のうち、3つ以上あれば(あるいは2つでも症状が強い場合)、ODをうたがい、次の2)に進む。(これにはエビデンスがあり、報告されている)

①立ちくらみ、②失神、③気分不良、④朝起床困難、⑤頭痛、⑥腹痛、⑦動悸、⑧午前中に調子が悪く午後に回復する、⑨食欲不振、⑩車酔い、⑪顔色が悪い

2)ODに似た症状を引き起こす他の疾患を除外診断する。

(例)鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患など、基礎疾患を除外する。

3)新起立試験を実施し、以下のサブタイプを判定する。

    1.起立直後性低血圧(軽症型、重症型)

      血圧回復時間が25秒以上[11]

    2.体位性頻脈症候群

      起立時の心拍数が115以上、または起立中の平均心拍増加が35以上[12]

    3.遷延性起立性低血圧

      起立数分以後に血圧が徐々に下降し、収縮期血圧が15%以上、または20mmHg以上低下[13]

    4.血管迷走神経性失神

 (脳血流低下型、高反応型など新しいサブタイプが報告されているため、1~4のいずれかに判定されない場合にはその可能性も含めておくことが望ましい)

  ガイドライン改訂版(2015)では、失神または失神様症状があればヘッドアップチルトテストの実施をも推奨している。

4)検査結果と日常生活状況の両者から重症度を判定する(ODガイドラインを参照)

5)「心身症としてのOD」チェックリストを行い、心理社会的関与を評価する。(ODガイドラインを参照)

生活指導(非薬物療法)と薬物療法を併用する。環境調整や心理療法が行われるときもある。

治療[編集]

生活指導(非薬物療法)[編集]

  1. 運動療法
    • 毎日の散歩程度の運動をすすめる。
    • たとえば1日15分の歩行など、毎日運動をする習慣をつける。心拍数が120を越えない程度の軽い運動(腹筋などの臥位でおこなう運動など)で良い。
  2. 肉体操作
    • 起立時には、いきなり立ち上がらずに、30 秒程かけてゆっくり起立。
    • 歩行開始時は、頭位を前屈させれば、脳血流が低下しないので起立時の失神を予防できる。起立中に、足踏みをする。両足をクロスに交叉する。更に頭を前屈する。
  3. 規則正しい生活リズムのすすめ
    • 夜更かし、朝寝坊をやめる。昼寝をしない。難しいが、強制してストレスにならないようにその子にあわせて指導する。
    • 就寝1時間前までに入浴を行い、心身をリラックスさせ、身体が冷えないうちに睡眠をとる。
  4. 暑い場所は避ける
    • 高温の場所では、末梢血管は動脈、静脈とも拡張し、また発汗によって脱水をおこし、血圧が低下する。入浴は短時間。梅雨、夏場は注意。
  5. 下半身圧迫装具
    • 下半身への血液貯留を防ぎ、血圧低下を防止する装具(弾性ストッキングや、ODバンドのような加圧式腹部バンド)は、適切に利用すると効果あり。
  6. 食事の注意
    • 塩分は循環血漿量を増やし血圧を上げるために必須である。したがって、食事やおやつを通じてやや多めの食塩摂取をする。

水分のこまめな摂取も必須である。スポーツドリンクは塩分も摂取できる。十分な血圧を維持するため、こまめに水分を摂取し、一日を通して2リットルほどの水分を摂取すると良いとされる[4][14]

就寝時には、頭部を足よりも約30センチほど高くして寝ると、起床時の症状が少なくなる[15]。また、朝カーテンを開けて部屋を明るくすることで目覚めやすい環境を作ったり、血行をよくするため優しく体をさすってあげたり、血行をよくする効果のあるシャワーやお風呂を用意してあげたりすることも推奨される[16]

薬物療法[編集]

ミドドリン、アメニジウム、プロプラノロール、ジヒデルエルゴタミンの投与が有効である。

また、起立性調節障害に有効であるとされる物質として次のようなものがあり、薬剤に用いられる[4]。以下、三つのタイプに分けて紹介する。

  1. 血液量を増加させる物質(フルドロコルチゾンエリスロポエチンなど)
  2. アセチルコリンエステラーゼの働きを抑制する物質(ピリドスチグミンなど)
  3. 血管収縮を改善する物質(ミドドリンエフェドリンプソイドエフェドリンテオフィリンなど)と薬剤(SSRIなど)

加えて、起立性調節障害に特徴的な症状である「朝起きられないこと」や「立ちくらみがすること」には、昇圧剤メトリジンリズミックなど)の使用が有効であるとされる[17]。昇圧剤投与時には、支援者(保護者など)が次のようなサポートを行うことが推奨される[17]

  1. 早朝(起床の1時間前)に、寝床の中で服用させる。同時に、カーテンや雨戸を開け、部屋に日光を入れる
  2. そのまま1時間寝かせておく(起きられれば無理に寝かせなくても良い)
  3. 1時間後に起こす
  4. 消化の良い朝食を用意する(朝食の時間が苦にならないよう、無理矢理食べさせるのではなく、楽しい会話をしながら見守る)

環境調整[編集]

学校関係者や保護者に起立性調節障害への理解を深めてもらい、本人が適切な配慮やサポートを受けられる環境を整えるとともに、医療機関との連携を深め、医療機関・学校関係者・保護者が適切に連携して支援する体制を整えていくことが必要である[2]

出典[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ 大国真彦、「起立性調節障害」 medicina, 3巻, 4号, 1966/4/10, doi:10.11477/mf.1402201263
  2. ^ a b c d e 起立性調節障害 日本小児心身医学会
  3. ^ a b 野沢出、中山久代、霜村真一 ほか、若年女性における起立性調節障害の検討 Equilibrium Research Vol.52 (1993) No.4 P.577-583,, doi:10.3757/jser.52.577
  4. ^ a b c Rowe, P. C. (2014). "General Information brochure on Orthostatic Intolerance and its treatment." The Pediatric Network.
  5. ^ 大国真彦『起立性調節障害―朝、起きられない子どものために―』芽ばえ社、2009年、59-101頁。
  6. ^ 田中英高『起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応』中央法規、2017年、68-120頁。
  7. ^ a b 田中英高、起立性調節障害 (PDF) 少年写真新聞社 中学保健ニュース第1439号付録
  8. ^ a b 専門医向け 小児起立性調節障害 診断・治療ガイドライン 2011 (案) (PDF)
  9. ^ 日比茂樹、渡辺慎、筏津裕美 ほか、アンケート調査による栃木県内某大学生のアレルギー症状および起立性調節障害の頻度調査 アレルギー Vol.43 (1994) No.2-2 p.414-, doi:10.15036/arerugi.43.414
  10. ^ 規律性調節障害 (PDF) 長崎大学 第2回小児心身医学勉強会 平成17年8月3日施行,平成18年4月一部改変
  11. ^ ODの病態と治療|子どものこんな症状は、起立性調節障害|起立性調節障害 Support Group” (日本語). inphs-od.com. 2018年4月23日閲覧。
  12. ^ ODの病態と治療|子どものこんな症状は、起立性調節障害|起立性調節障害 Support Group” (日本語). inphs-od.com. 2018年4月23日閲覧。
  13. ^ ODの病態と治療|子どものこんな症状は、起立性調節障害|起立性調節障害 Support Group” (日本語). inphs-od.com. 2018年4月23日閲覧。
  14. ^ 田中英高『起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応』中央法規、2017年、90頁。
  15. ^ 大国真彦『起立性調節障害―朝、起きられない子どものために―』芽ばえ社、2009年、98頁。
  16. ^ 田中英高『起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応』中央法規、2017年、93頁。
  17. ^ a b 大国真彦『起立性調節障害―朝、起きられない子どものために―』芽ばえ社、2009年、75-78頁。

外部リンク[編集]