昇圧剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

昇圧剤(しょうあつざい)とは、著しい血圧低下が見られた際に、一時的に血圧を上昇させることを目的として投与される薬剤のことである。強心剤についてもここで述べる。

用途[編集]

何らかの原因により一過性に血圧が急速に低下して、輸液負荷でも改善が見られない場合に、昇圧剤の投与を開始する。

カテコラミン製剤[編集]

ドーパミン(DOA)[編集]

ドーパミンは内因性カテコラミンであり、ノルアドレナリンの前駆物質である。血圧の維持と利尿効果を期待することができる。商品名としては、イノバン、プレドパカタボンHi、カタボンLowなどが有名である。カタボンHi(600mg/200ml)は体重50kg、1ml/hrのときにちょうど1γ(1μg/kg/min)となるように設定されているため、投与量の算出が非常にわかりやすい(たとえば、7γから開始したければ7ml/hrとすればよい)。

用量 作用受容体 特記事項
低用量(2~5γ) ドパミン受容体 腎動脈・冠動脈の拡張を起こし、利尿作用がおこる。心臓、末梢血管には殆ど作用しない。
中用量(5~10γ) β>α β1作用により心収縮が増大する。これにα作用が加わることで血管抵抗が増大し、腎血流も減少する。
高用量(10γ~) α>β α作用により末梢血管を収縮させ血圧を上昇させる。腎血管も収縮し利尿作用は消失し、心拍数が増加する。

近年ではこれらの製品はキット化されており、いちいちγ値から投与量を計算する必要がない場合が多い。

具体的な量としては、利尿作用を期待する場合は3γから開始する場合が多い。血圧維持目的でも3γから開始して3~10γで維持されることが多いが、低~中用量で利尿作用があるため、純粋に血圧を維持したいのならば次項のドブタミンの方が使いやすい。

なお、イノバン(ドーパミン製剤)やドブトレックス(ドブタミン製剤)は100mg/5mlであり、どちらの場合も以下の表で投与量を算出することができる。

体重 ドパミン 生理食塩水で希釈した際のトータル量
40kg 100mg 40ml
50kg 150mg 50ml
60kg 200mg 55ml
70kg 200mg 48ml

ドブタミン(DOB)[編集]

ドブタミンは合成カテコラミンであり、強力なβ1刺激作用をもつ。α作用は軽度であり、高用量(10γ以上)の投与にならないと十分な血管収縮は起こりにくいと考えられている。商品名としてはドブトレックスが有名である。通常は5γから開始し、20γまで増量可能である。心臓の酸素消費量がドパミンほど増加しないこと、不整脈の発生頻度が低いことから、虚血性心疾患で好まれる。

DOAとDOB併用療法[編集]

DOA:DOB = 1:1~2 の割合で併用することがよくある。低用量ドパミンと中用量ドブタミンの併用によって利尿作用と強心作用が得られる。この場合、合計量が20γを超えないように留意する。

ノルアドレナリン(NA)[編集]

内因性カテコラミンであり、強力なα作用とβ1作用をもつ。ノルアドレナリンの商品名で広く流通している。血圧が上昇する際に末梢の循環は悪化するものの、主要部位の血流は保たれる。ただし、心収縮不全の場合は不整脈を起こしやすく、後負荷が増大するため、心疾患では使いにくい。0.03~0.3γで維持されることが多い。5%ブドウ糖液に溶解させることが多い。アドレナリン(次項)、ノルアドレナリンともに1アンプルあたり1mgで供給されているため、1ml/hrで0.1γとする場合の希釈法は、どちらの場合でも下記の表の通りとなる。

体重 ノルアドレナリン 5%ブドウ糖液で希釈後のトータル量
40kg 6mg 25ml
50kg 9mg 30ml
60kg 9mg 25ml
70kg 13mg 30ml

体重が測定できない場合には、ノルアドレナリン6アンプル(6mg)を5%ブドウ糖液に溶解して48mlとし、2ml/hrで管理するという方法が知られている。この場合、体重50kgにて0.083γとなる。

アドレナリン(Ad)[編集]

ノルアドレナリンと同様に強力なα作用とβ1作用をもつ。商品名としてはボスミンが有名である。心肺蘇生、アレルギー疾患、ショックの対応で用いられる。頻脈が必発であるため、心疾患には基本的には用いない。原則として持続投与は行わないが、ボスミン10アンプル(10mg)を5%ブドウ糖液100mlにて溶解し、2~20μg/minで投与することがある。原則として5mg以上は投与しない。心肺蘇生時は1mgを3分~5分間隔で静注していく。

強心剤[編集]

ジギタリス[編集]

ジギタリス製剤には経口薬のほか、静注薬も存在する。

ジギタリス(ジゴキシン)はNa+/K+-ATPaseを阻害し、細胞内Na+濃度を高くすることでNa+/Ca+交換系を賦活させ、これによって心収縮力を増加させる。また、房室伝導も阻害することが知られている。

ジギタリス中毒の症状としてはPAT with blockや盆状ST低下といった心電図変化が有名であるが、自覚症状としては消化器症状や視覚障害が多い。カルシウム拮抗剤β遮断薬の併用、低カリウム血症、あるいはそれを起こすループ利尿薬投与の場合には中毒のリスクが高くなる。

急性心不全で強心作用がほしい場合はカテコラミンが用いられ、慢性心不全では他の心不全治療薬と併用されることがある。

なお、ジギタリス自体には心不全の予後改善効果はない。そのため、陰性変時作用を利用して、心房細動のレートコントロールに用いられることもある。

ジギタリス0.25mgにテノーミン25mgやセロケン40mg、またはワソランを併用することがよくある。

ジギタリスは腎臓から排泄されるため、腎機能低下時は半量投与となることがある。目安としては、70歳以上ならば0.125mgとすることが多い。肝代謝のジゴトキシン製剤(ジギトキシン錠)も存在する。

ジギタリス中毒が発生したときにはまずジギタリスの投与を中止し、心室性不整脈に対してはキシロカインやアレビアチンの投与を行い、同時に血中カリウム濃度のモニタリングをする。

PDEⅢ阻害薬[編集]

サイクリックAMPを分解するPDEⅢを阻害することで細胞内Ca+濃度を高め、それによって心収縮を増加させる作用がある。β1受容体を介さないため、β受容体のダウンレギュレーションは起こらない。血管平滑筋にも作用し、末梢の血管拡張作用もある。血管拡張の際に必要となる心収縮力を補えるため非常に使いやすいものの、心収縮力改善という点ではカテコラミンに劣り、また、効果発現に30分程度かかるという弱点がある。具体的な用法としては、肺高血圧を合併しているとき、拡張障害や後負荷の上昇が伴っているとき、カテコラミンの感受性が低下しているとき、カテコラミンの催不整脈作用を避けたいときに、カテコラミンと併用で用いられる場合が多い。

オルプリノン(コアテック)

維持量は0.1~0.3γである。コアテックは1アンプル10mlに5mg含まれているため、5%ブドウ糖液50mlで溶解すると0.1mg/mlとなり、このとき、体重50kgならば3~9ml/hrが維持量となる。通常は3日で十分な効果が出現し、その後は漸減していくのが一般的である。ミルリーラ(次項)よりも血小板減少の副作用が少ない。

ミルリノン(ミルリーラ)

維持量は0.25~0.75γである。ミルリーラは1アンプル10mlに10mg含まれているため、2アンプルを5%ブドウ糖液100mlで溶解すると0.2mg/mlとなり、このとき、体重50kgならば3.75~11.25ml/hrが維持量となる。原液のまま1ml/hrから開始することもできる(このときの量は0.33γとなる)。

経口強心薬[編集]

経口投与可能なカテコラミンやPDEⅢ阻害薬に相当する薬剤である。閉塞性肥大型心筋症では慎重投与となる。

デノパミン(カルグート)
β1受容体を刺激し、心収縮力を高める。日量15mg~20mg(1日3回に分けて投与)とする。予後改善効果はないため、慢性心不全コントロール不十分な時に短期的に用いる。
ドカルパミン(タナドーパ)
ドパミンのプロドラッグである。日量1g~3g(1日3回に分けて投与)でイノバン2γ程度に相当する。すなわち、利尿作用が期待できる。
ピモベンダン(アカルディ)
心筋の収縮調節蛋白(トロポニンC)のCa2+に対する感受性増強作用とPDEⅢ活性阻害作用を併せ持つことにより陽性変力作用をあらわす心不全治療薬である。日量2.5mg~5mg(1日2回に分けて投与)とする。静注カテコラミンからの離脱に用いられることがある。

その他の昇圧剤[編集]

全身麻酔などで一過性の低血圧が起こる際に用いる薬物である。

フェニレフリン塩酸塩 (JP16)[編集]

選択的α1刺激薬である。β作用がないため心疾患の患者でも扱いやすい。商品名としてはネオシネジン(興和)が有名である。ネオシネジンの場合、1アンプルあたり1mg含まれているため、これを生理食塩水で10mlに希釈し、1~2ml (0.1~0.2mg) の量で使用していく。持続投与する場合は0.03~0.3γで維持するので、体重50kgの場合はネオシネジン5アンプル(5mg)を5%ブドウ糖液で100mlに希釈し、2ml/hr(0.03γ)から開始する。

エフェドリン[編集]

エフェドリン(商品名もエフェドリン)はα、βの両作用をもつ。

バソプレッシン[編集]

近年では、心停止の4つの病態(心室細動無脈性心室頻拍心静止無脈性電気活動)に対する第一選択として用いられるようになってきた。これは、バソプレッシン投与群の救命率・生存退院率がともにアドレナリン投与群を有意に上回ることがわかったためである[要出典]。この場合は40U投与することになる。他にも、敗血症で昇圧剤(カテコールアミン)が使えないケースに対して0.03U/mlで使用することがある。副作用としては、脾臓・四肢末梢・心臓の臓器虚血が起こる場合がある。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]