自然放射増幅光

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自然放射増幅光(しぜんほうしゃぞうふくこう、: amplified spontaneous emission, ASE)またはスーパールミネッセンス (superluminescence) とは、自然放出により発したが、利得媒質中で誘導放出によって光増幅されたものである。ランダムレーザー英語版に利用される。

起源[編集]

ASE はレーザー利得媒質がポンピング英語版により反転分布にあるときに生じる。レーザー光共振器による ASE のフィードバックレーザー発振閾値英語版に達すればレーザーが動作する。ASE はコヒーレントでないため、過剰な ASE はレーザーに望ましくない影響を及ぼし、利得媒質で達成可能な最大利得英語版を制限する。ASE は利得の大きい、もしくはサイズの大きいレーザーに対して深刻な問題を生じさせうる。この場合、インコヒーレントな ASE を取り出すもしくは吸収する機構を設ける必要があり、さもなくば利得媒質励起がコヒーレント放射を生むことなくインコヒーレントな ASE により消費されてしまうことになる。ASE は特にディスクレーザー英語版などの光共振器が短く幅広な場合に問題となる[1]

ASE は望ましい影響を与えることもあり、広帯域光源として用いられる。共振器によるフィードバックが無い場合、レーザー発振は起こらず、利得媒質の帯域幅に起因して帯域の広い光が生じる。これにより時間コヒーレンス英語版が低くなり、レーザーに比べてスペックル雑音英語版が低減される。これに対して空間コヒーレンスは高くすることができ、放射の焦点を狭く絞ることができる。この特性によりこれらの光源は光ファイバーシステムや光干渉断層像などに有用となる。このような光源の例としては、スーパールミネッセントダイオード英語版ドープトファイバー増幅器などが挙げられる。

有機色素レーザー[編集]

パルス色素レーザー中の ASE はスペクトル特性が非常に広く(幅 40-50 nm に及ぶ)、したがって色素レーザーを調整可能な狭線幅レーザーとして設計・運用するには深刻な課題となる。純粋レーザーが望ましく、ASE を抑制したい場合のため、レーザー共振器の設計の最適化など様々な研究が行なわれている[2]

ディスクレーザー[編集]

いくつかの発表によれば、ディスクレーザー英語版パワースケーリング英語版に際し、往復利得英語版を下げる必要があり[3]、したがって背景ロスに関する要求が厳しく[要説明]なるという。現存するディスクレーザーはそのような制限から大きく外れた条件で動作しているとし、既存のレーザー材料を変更することなくパワースケーリングが可能だとする研究者もおり[4]、論争となっている。

自己修復性色素添加ポリマー[編集]

2008年、ワシントン州立大学の研究者らは Disperse orange 11[5] などの有機色素を添加したポリマーに可逆な光劣化、単純に言い換えれば自己修復を観測した。この自己修復機能の研究に際し、ASE がプローブ光として用いられた[6]

短パルス高出力レーザーシステム[編集]

POLARIS レーザーなどのピーク出力が数テラワットからペタワットに及ぶ高出力 CPA レーザーシステムにおいては、ASE が時間的出力コントラストの制限要因となる。増幅中は時間的に広がっていたレーザーパルスを圧縮すると、ASE は一部が圧縮レーザーパルスの前に位置する準連続的ペデスタルを生じさせる[7]。焦点における出力が 1022 W/cm2 に及ぶほど強いため、ASE はしばしば実験を大きく乱すこととなり、レーザーと標的との所望の相互作用が不可能になる場合さえある。

出典[編集]

  1. ^ D. Kouznetsov; J.F. Bisson; K. Takaichi; K. Ueda (2005). “Single-mode solid-state laser with short wide unstable cavity”. JOSAB 22 (8): 1605–1619. Bibcode2005JOSAB..22.1605K. doi:10.1364/JOSAB.22.001605. http://josab.osa.org/abstract.cfm?id=84730. 
  2. ^ F. J. Duarte (1990). “Narrow-linewidth pulsed dye laser oscillators”. In F. J. Duarte ; L. W. Hillman. Dye Laser Principles. Boston: Academic Press. pp. 133–183 and 254–259. ISBN 0-12-222700-X 
  3. ^ D. Kouznetsov (2006). “Surface loss limit of the power scaling of a thin-disk laser”. JOSAB 23 (6): 1074–1082. Bibcode2006JOSAB..23.1074K. doi:10.1364/JOSAB.23.001074. http://josab.osa.org/abstract.cfm?id=90157 2007年1月26日閲覧。. 
  4. ^ A. Giesen (1994). “Scalable concept for diode-pumped high-power solid-state lasers”. Applied Physics B 58 (5): 365–372. Bibcode1994ApPhB..58..365G. doi:10.1007/BF01081875. http://www.springerlink.com/content/n7350870q8q57324/?p=c874af0585094717b13bb41e3fc548da&pi=0. 
  5. ^ Sigma Aldrich: Disperse Orange 11
  6. ^ Embaye, Natnael B.; Ramini, Shiva K.; Kuzyk, Mark G. (2008). “Mechanisms of reversible photodegradation in disperse orange 11 dye doped in PMMA polymer”. The Journal of Chemical Physics 129 (5): 054504. arXiv:0808.3346. doi:10.1063/1.2963502. 
  7. ^ Keppler, Sebastian (2016-03-01). “The generation of amplified spontaneous emission in high-power CPA laser systems” (英語). Laser & Photonics Reviews 10 (2): 264–277. doi:10.1002/lpor.201500186. ISSN 1863-8899. PMC 4845653. PMID 27134684. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/lpor.201500186/abstract. 

関連項目[編集]