膿出し切る (白鵬の発言)

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膿出し切る(うみだしきる)は、大相撲平成29年11月場所千秋楽白鵬の発言である。

背景[編集]

2017年10月25日夜から26日未明にかけ、鳥取市内の飲食店で日馬富士貴ノ岩を暴行。事件を把握した貴ノ岩の師匠、貴乃花親方は29日に鳥取県警に被害届を提出した。日本相撲協会11月2日に問題を把握したものの、加害者側に本格的な事情聴取をせず、九州場所3日目に事件が表沙汰になると日馬富士は休場。その後、相撲協会は貴乃花親方に貴ノ岩への事情聴取を要請したが拒否され続け、現状では鳥取県警の捜査結果を待つしか手がなくなった。

日馬富士による貴ノ岩への暴行事件の現場にいた白鵬は、大相撲平成29年11月場所で14日目に40度目の優勝を決めた[1]

概要[編集]

大相撲平成29年11月場所千秋楽、優勝インタビューで、白鵬は、「この場を借りて、場所中に水を差すようになったことを、相撲ファンに力士代表としておわびしたいと思います」「この土俵の横で誓います。場所後は真実を話し、(うみ)を出し切り、日馬富士関と貴ノ岩関を再びこの土俵に上げたいと思います」と語った[2]

評価[編集]

産経新聞は、「頭の中が混乱した。耳から入ってくる言葉と客観的な事実関係をどう整理したらいいのか正直、分からなかったからだ。」「なるほど、言っていることはその通りで、相撲界を引っ張る第一人者としての責任感があふれる発言だ。ただ、大問題に発展した日馬富士による貴ノ岩への暴行事件の現場には白鵬もいた。協会の八角理事長(元横綱北勝海)ら幹部や第三者の発言ならスンナリ耳に入ってきただろうが、暴行現場にいて、ある意味、暴行の発端となる流れを生んだ当事者とも捉えられなくはない白鵬の言葉は、耳の奥でとても分解できなかった。」「言動の背景には何があるのだろうか。ひとつだけ言えることは、大相撲の伝統が大きな曲がり角に来ている、ということではないか。」「大相撲は日本古来の奉納相撲を起源とし、江戸時代から続く職業的な力士たちによって行われる神事、武道、または興行として今日にいたっている。さらに横綱は力士の格付けにおける最高位の称号で、語源的には横綱だけが腰に締めることが許される白麻製の綱の名称に由来する。現行制度では横綱に降格はなく、引退によってのみ地位から降りる。横綱になる力士は地位にふさわしい品格と抜群の力量が要求される。横綱は神の依(よ)り代(しろ)(神霊が依りつく対象物)の証しとされるのだ。」「こうした伝統を貫くのなら、日本相撲協会が日馬富士に突きつける処分はひとつだろう。ところが実際には日馬富士はおろか、優勝インタビューで暴行現場にいたにもかかわらず勇み足的な発言をし、十一日目の嘉風戦では敗れた後の土俵下で『立ち会い不成立』という物言いを要求した白鵬すら大きな問題にならず、協会の幹部は表立って強く批判しない。」「白鵬は前人未到の40度の優勝を飾るなど角界を引っ張る大黒柱。日本相撲協会が全くリーダーシップを発揮できない舞台裏には、白鵬らモンゴル出身力士なくしては興行が成り立たない現状があまりにも明々白々で、喉(のど)の奥で言葉を押し殺すしか決まり手がないからだろう。日本相撲協会の足下を見ているのは白鵬でもあり、貴乃花親方でもあるだろう。大相撲は時代の流れをどう受け入れるかが問われている。」などと評した[3]

デイリースポーツは、「一力士として異例の問題発言。自らも暴行の起きた酒席に同席していた立場であり波紋を呼びそうだ。」「大揺れとなった1年の締めの場所。白鵬の最後の優勝インタビューまでが異常だった。」「“越権”が止まらない」「優勝インタビューで素直な気持ちを吐露しただけかもしれないが、波紋を呼ぶ問題発言となったのは否めない。」「酒席で最も近い席にいながら、なぜ“盟友”の暴走を止められなかったか-。今後、責任すら問われかねない立場にしては、違和感だけが残るパフォーマンスだった。」などと評した[4]

日刊ゲンダイは、「いくら正義の味方のような口ぶりで語っても、日馬富士の暴行をみすみす許したのは周囲にいた力士たち――つまり、白鵬もそのひとりだ。自身は『止めた』とは話しているものの、日馬富士は警察の事情聴取に『素手とカラオケのリモコンで殴った』と証言している。白鵬がすぐさま割って入っていれば事件の行方も異なっていただろう。」「そもそも、今回の一件は警察が捜査中。相撲協会も独自の調査に動いている。参考人である白鵬は事情聴取に正直に答える義務はあれど、日馬富士らをどうこうする力も権利もない。」「同郷の力士に対する思いを殊勝に語ってみせた白鵬だが、インタビューの最後はなぜか、観客を巻き込み笑顔で万歳三唱。これには中継を解説していた北の富士(元横綱)も『彼らしいとは思うけど、やりすぎだな』と、あきれ返っていた。」などと評した。

貴乃花親方の母でタレント、藤田紀子11月28日フジテレビ系情報番組「バイキング」に生出演。日馬富士が10月の秋巡業中に開かれた宴席で貴ノ岩に暴行した問題で、場所後に白鵬が発した言葉について自身の見解を述べた。

「深いことは言えませんけれども」と前置きしつつ、「今後の白鵬さんの聴取の内容全てですね。それと手を出した日馬富士一人の問題で、事が済まないのではと思っています」と考えを述べた。

続けて「貴乃花親方が『報告を怠っている』ということをみなさんおっしゃるじゃないですか。現場にいた力士が、横綱大関がいたんですよ。場所が近いんですよ。こんなことがありましたって親方に言って、(その場にいた力士が)協会に報告しなくていいんですか、それは?」と疑問の声を挙げた。

九州場所の表彰式でインタビューを受けた際に、白鵬が発した「場所後に真実を話し、膿(うみ)を出し切って」との言葉に対して、MCの坂上忍は「白鵬関がおっしゃる『膿』と、貴乃花親方が思っている『膿』は同種のものなんですか?」と聞かれると、藤田は「生き方が違いますからね。同じだとは思いませんけれども」と述べた。

さらに「膿を出すなんて言葉をあの場で言うってことは、ものすごい責任がある。その言葉はいいことには使われないんですよね。だから、暴行だけの問題の『膿』ではないような気がします。それを自ら発言したってことは、本人が今後どういう風に持っていくのか見たいと思います」と、今後の動きを見守っていくとした[5]

関連項目[編集]

出典[編集]