米糠発酵物

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米糠発酵物(こめぬかはっこうぶつ)とは、を精米した際に、白米の副産物として得られるヌカを発酵させたものである。主成分はヌカであり、一般的には肥料となるほか、一部の成分が機能性食品として検討されている。

肥料[編集]

米糠を発酵させたものは、肥料として利用することができる。米糠の肥料要素、窒素リン酸カリの比率 (%) は、2.12 : 4.76 : 1.07であり[1]、バランスは良いが、含有する脂肪等の分解により異臭を発したり、有機酸が発生するため、一般に油粕腐葉土木炭籾殻等と混ぜて発酵させる[2]ことにより、ボカシ肥として施肥することが多い。

米糠およびその発酵物の土壌への添加により、センチュウ由来の病害が抑制されることが経験的に知られていた[3][4]。これは、米糠の発酵菌および、発酵により生成された物質が、線虫に対して有害であるためであり、Rhabditis terricola, Panagrellus sp., Meloidogyne incognitaの3種の線虫を用いた実験では Pseudomonas属、Achromobacter属細菌による発酵物が、線虫に対する高い殺性を持つことが確認されている[5]

食品[編集]

米糠は、精米時の副産物ながら高い栄養価を持つため、食品原料、加工原料、食品そのものとして利用される。

漬物[編集]

糠漬けは、米糠に塩、唐辛子等を混ぜ込んだものを乳酸菌により発酵させ、野菜を漬け込んだもの。

健康食品原料[編集]

米糠をLactobacillus brevis等で発酵させることで、γ-アミノ酪酸 (GABA) の製造原料となる[6]。これはラットを使った試験では、高血圧の症例改善に効果があるとされる[7]

米糠発酵液・米のとぎ汁発酵物が放射能を除去するという説について[編集]

米糠発酵液には、放射性核種(セシウムヨウ素ストロンチウム等)を特異的に吸着・排出させる成分は含まれておらず、それぞれが蓄積される部位(セシウム:筋肉、ヨウ素:甲状腺、ストロンチウム:)は、とぎ汁発酵液や、それに含まれる菌類が通過する腸管からは隔絶されており、吸収された各物質を吸着することはできず、それらを排出・無効化させる効果はない。

さらに、米糠溶液はヒト皮膚常在菌の生育が早いという報告がある。厳密な衛生管理の下で発酵に適した菌の接種等が行われない限り、以下のような菌による腐敗が発生しやすい。病原性を持つものも多く、例えば黄色ブドウ球菌は、食中毒肺炎髄膜炎敗血症といった感染症を惹き起こし、肺炎桿菌は名前の通り、肺炎を起こす。また、Enterococcus faeciumのように抗生物質耐性が高いものに感染した場合、難治性の肺炎等に罹患する可能性がある[8]。これらはしばしば重篤となり、死亡することもある。

米ぬか寒天培地での発育増殖性[9]
菌名 培養時間
24 48 72
S. aureus(黄色ブドウ球菌) +
S. epidermidis(表皮ブドウ球菌) +
E. faecalis(糞便レンサ球菌) +
E. faecium(腸球菌) +
C. albicans(口腔常在真菌) +
E. coli(大腸菌) +
K. pneumoniae(肺炎桿菌) +
K. oxytoca(肺炎病原菌) +
S. marcescens(セラチア菌) +
P. vulgaris(腸管常在菌) +
P. aeruginosa(緑膿菌) +

放射性ヨウ素対策にはヨウ素剤、放射性セシウム対策にはプルシアンブルー、放射性ストロンチウム対策にはアルギン酸ナトリウムの内服が有効とされている[10]

また、チェルノブイリ原発事故後の報告で、リンゴに含まれるペクチン摂取により放射性セシウムの体内の濃度が減少したという報告があり、今後の研究が待たれる[11]

関連項目[編集]

脚注・参考文献[編集]

  1. ^ 農場実習の概要・農場実習I” (PDF). 2011年7月26日閲覧。 玉川大学・総合生物環境情報センター・「肥料成分」からの引用
  2. ^ 4.ぼかし肥の作り方” (WEB). 2011年7月26日閲覧。 島根県農業技術センター
  3. ^ 田場 聡, 諸見里 善一. “沖縄に分布する3種土壌におけるサツマイモネコブセンチュウおよび土壌微生物相に及ぼす米ぬか混和の影響” (WEB). 2011年7月26日閲覧。 沖縄農業 40(1), 59-67, 2007-03, 沖縄農業研究会
  4. ^ 田場 聡, 大城 篤, 高江洲 和子, 諸見里 善一, 澤岻 哲也. “米ぬか混和・太陽熱併用処理によるネコブセンチュウ防除および土壌微生物相に与える影響” (WEB). 2011年7月26日閲覧。 沖縄農業 37(1), 21-28, 2003-07, 沖縄農業研究会
  5. ^ 河村 貞之助, 米山 伸吾. “殺線虫力・溶線虫力および殺菌力を有する細菌群について” (PDF). 2011年7月26日閲覧。 千葉大学園芸学部学術報告 8, 13-23, 1960-12-31
  6. ^ 大友 理宣, 木村 貴一, 渡辺 誠衛, 戸枝 一喜. “米糠を用いたLactobacillus brevis IFO12005によるγ-アミノ酪酸含有組成物の生産” (PDF). 2011年7月26日閲覧。 生物工学会誌, 第84巻, 第12号, 479 483, 2006
  7. ^ 樋渡 一之, 成澤 昭芳, 保苅 美佳, 戸枝 一喜. “自然発症高血圧ラットにおける米糠発酵エキス配合飲料の血圧上昇抑制作用” (Web). 2011年7月26日閲覧。 Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology 57(1), 40-43, 2010-01-15
  8. ^ 森井 健, 武市 俊夫, 清水陽一. “多剤耐性腸球菌による難治性肺炎を発症した外来維持透析患者の1 例” (PDF). 2011年7月26日閲覧。 感染症学雑誌第76巻第12号
  9. ^ Iwao Yamada. “米ぬかによる細菌の発育増殖性と莢膜の形成性について” (PDF). 2011年7月26日閲覧。 2ページTable1より引用
  10. ^ 放射性核種の体外への除去 (09-03-03-08) - ATOMICA -” (WEB). 2011年7月26日閲覧。 (財)高度情報科学技術研究機構
  11. ^ V. B. Nesterenko, A. V. Nesterenko, V. I. Babenko, T. V. Yerkovich, I. V. Babenko. “Reducing the 137Cs-load in the organism of “Chernobyl” children with apple-pectin” (PDF). 2011年7月26日閲覧。 SWISS MED WKLY 2004; 134 : 24-27