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'''重粒子線がん治療'''(じゅうりゅうしせんがんちりょう、'''heavy ion radiotherapy''')とは、[[がん]]病巣をピンポイントで狙いうちし、がん病巣にダメージを十分与えながら、正常[[細胞]]へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる[[放射線]]を用いた最先端の[[治療]]法。
'''重粒子線がん治療'''(じゅうりゅうしせんがんちりょう、'''heavy ion radiotherapy''')とは、[[がん]]病巣をピンポイントで狙いうちし、がん病巣にダメージを十分与えながら、正常[[細胞]]へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる[[放射線]]を用いた最先端の[[治療]]法。


[[外科手術]]および[[化学療法]]に対する[[放射線療法]]の長所である機能と形態の欠損や治療中の身体的負担が少ないことに加え、従来からの放射線治療である[[エックス線]]、[[ガンマ線]]や[[陽子線]]に比べ、体の表面では[[放射線量]]が弱く、がん病巣において[[放射線量]]がピークになる特性を有しているため、照射回数と[[副作用]]をさらに少なく、治療期間をより短くすることが可能とされる。
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== 適用 ==
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** [[非小細胞肺癌]]
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** [[肝細胞癌]]
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** [[直腸癌術後再発]]
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== 治療患者数 ==
== 治療患者数 ==
放射線医学総合研究所が治療開始した1994年から、2010年7月までの統計で見た登録患者数は5497名となっており、これは世界一となっている<ref>{{cite web|url=http://www.nirs.go.jp/hospital/result/pdf/201007.pdf|title=放医研における重粒子線治療の登録患者数1994年6月~2010年7月|author=独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院|accessdate=2011年1月13日}}</ref>。
放射線医学総合研究所が治療開始した1994年から、2010年7月までの統計で見た登録患者数は5497名となっており、これは世界一となっている<ref>{{cite web|url=http://www.nirs.go.jp/hospital/result/pdf/201007.pdf|title=放医研における重粒子線治療の登録患者数1994年6月~2010年7月|author=独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院|accessdate=2011年1月13日}}</ref>。

== 出典 ==
* [http://www.nirs.go.jp/index.html 独立行政法人放射線医学総合研究所]


== 関連項目 ==
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**[[メディポリス医学研究財団|メディポリスがん粒子線治療研究センター]]
**[[メディポリス医学研究財団|メディポリスがん粒子線治療研究センター]]


== 脚注 ==
== 出典 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://www.nirs.go.jp/index.html 独立行政法人放射線医学総合研究所]
* [http://www.nirs.go.jp/hospital/index.shtml 独立行政法人放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター病院]
* [http://www.nirs.go.jp/hospital/index.shtml 独立行政法人放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター病院]
* [http://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/ 群馬大学重粒子線医学研究センター]
* [http://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/ 群馬大学重粒子線医学研究センター]

2015年5月18日 (月) 02:17時点における版

重粒子線がん治療(じゅうりゅうしせんがんちりょう、heavy ion radiotherapy)とは、がん病巣をピンポイントで狙いうちし、がん病巣にダメージを十分与えながら、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる放射線を用いた最先端の治療法。

外科手術および化学療法に対する放射線療法の長所である機能と形態の欠損や治療中の身体的負担が少ないことに加え、従来からの放射線治療であるエックス線ガンマ線陽子線に比べ、体の表面では放射線量が弱く、がん病巣において放射線量がピークになる特性を有しているため、照射回数と副作用をさらに少なく、治療期間をより短くすることが可能とされる。

独立行政法人放射線医学総合研究所では、巨額の国費を投入してHIMACと呼ばれる専用装置を世界で初めて開発し、臨床試験1994年6月から行っている。2003年11月からは先進医療として運用されているが、治療を希望する患者に対する受入れ能力の制限や、高額な患者負担などが本格的な普及に向けての大きなハードルとなっている。

適用

放射線医学総合研究所では、1994年6月より臨床試験を実施し、良好な治療効果が得られている。治療の対象となる代表的な疾患と共通の適応条件を次に挙げる[1]

副作用

重粒子線治療はがんのある部位に狙いを定めて、ごく限られた範囲に照射するため、従来のがん放射線治療に比べて、格段に副作用は軽くなっている[2]

過去においては、一部で手術による治療が必要な潰瘍穿孔(せんこう)が線量の増加とともに認められたが、最近では予め強い副作用が予測される場合には、線量を減じたり、照射法を工夫することにより、過去のような症状の重い副作用はほとんど認められなくなっている[3]

作用原理

粒子線とは、放射線のなかでも電子より重いものをいい、陽子線、重粒子線などが含まれる。このうち重粒子線は、ヘリウム原子より重いものと定義されている[4]

X線(γ線)、電子線、中性子線を用いる場合は、表面付近の線量が最も大きく、深さとともに減衰するのに対し、陽子線や重粒子線では、表面付近の線量が小さく、粒子が停止する付近で最も線量が大きくなるという特徴がある[5]。特に重粒子線は、陽子線と比べ、物質内での散乱が小さいため、がん組織とその周辺の正常組織に対する線量のコントラストを高めることができるだけではなく、同じ物理線量の陽子線やその他の放射線と比べると、生物効果(細胞に対する影響)が大きいという特徴がある[6]

これにより、メスを入れずに、がん部位に集中的にダメージを与える一方で、周辺正常組織へのダメージを小さく抑え、機能を温存できる可能性が高まるだけでなく、副作用は従来の放射線治療に比べて格段に少なくすることができる。また、一般の放射線が効かないがんに対しても優れた効果がある、治療のための照射回数を減らすことができ、早期社会復帰が可能となる、といったクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の面からの長所がある[7]

実際の治療においては加速器を用い、重粒子を最大でのおよそ70%のスピードに加速して体の外から照射し[8]、2、3分で終了する[9]。照射中の重粒子線による直接的な痛みはない[10]。照射回数は、それぞれのプロトコールによってきめられている[11]

治療患者数

放射線医学総合研究所が治療開始した1994年から、2010年7月までの統計で見た登録患者数は5497名となっており、これは世界一となっている[12]

関連項目

出典

  1. ^ 独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院. “重粒子(炭素イオン)線治療の対象部位とその適応について”. 2011年1月13日閲覧。
  2. ^ 独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院. “パンフレット:重粒子線がん治療について知りたい方のために”. 2011年1月13日閲覧。
  3. ^ 独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院. “重粒子(炭素イオン)線治療の対象部位とその適応について”. 2011年1月13日閲覧。
  4. ^ 群馬大学. “群馬大学重粒子線照射施設”. 2011年1月13日閲覧。
  5. ^ 独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院. “重粒子線がん治療について知りたい方のために”. 2011年1月13日閲覧。
  6. ^ 群馬大学重粒子線医学研究センター. “重粒子線がん治療~重粒子線とは~”. 2011年1月13日閲覧。
  7. ^ 群馬大学重粒子線医学研究センター. “重粒子線がん治療~特徴/適応部位~”. 2011年1月13日閲覧。
  8. ^ 群馬大学重粒子線医学研究センター. “重粒子線がん治療~重粒子線治療~”. 2011年1月13日閲覧。
  9. ^ 独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院. “重粒子線治療について知りたい方へ”. 2011年1月13日閲覧。
  10. ^ 群馬大学重粒子線医学研究センター. “Q&A”. 2011年1月13日閲覧。
  11. ^ 独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院. “重粒子線治療について知りたい方へ”. 2011年1月13日閲覧。
  12. ^ 独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院. “放医研における重粒子線治療の登録患者数1994年6月~2010年7月”. 2011年1月13日閲覧。
  13. ^ 先進がん治療の拠点 松本の相沢病院「陽子線治療センター」完成長野日報2012年9月28日付)

外部リンク