「循環 (流体力学)」の版間の差分

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[[流体力学]]における'''循環''' (じゅんかん、[[英語]]:circulation) とは閉曲線上での[[流体]]の[[速度]]の[[線積分]]である。循環は <math>\it\Gamma</math> と表されることが多い。[[渦]]の強さを表し、[[非粘性]][[バロトロピック流体]]の[[保存力|保存外力]]下では流れにそって保存する。
[[流体力学]]における'''循環''' (じゅんかん、{{lang-en-short|circulation}}) とは閉曲線上での[[流体]]の[[速度]]の[[線積分]]である。循環は ''Γ'' と表されることが多い。[[渦]]の強さを表し、[[非粘性]][[バロトロピック流体]]の[[保存力|保存外力]]下では流れにそって保存する。


閉曲線 <math>C</math> に沿った循環 <math>{\it\Gamma}</math> は、流体の速度を <math>\boldsymbol{v}</math> 、曲線の微小線要素ベクトルを <math>\mathrm{d}\boldsymbol{l}</math> として、線積分
閉曲線 ''C'' に沿った循環 ''Γ'' は、流体の速度を '''''v''''' 、曲線の微小線要素ベクトルを d'''''l''''' として、線積分
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{\it\Gamma}=\oint_{C} \boldsymbol{v} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{l}
{\it\Gamma}=\oint_{C} \boldsymbol{v} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{l}
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| author=巽友正
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== 循環と渦度 ==
== 循環と渦度 ==
[[ストークスの定理]]によって、循環は[[渦度]]と以下のように関連付けされる。
[[ストークスの定理]]によって、循環は[[渦度]]と以下のように関連付けされる。
:<math> \begin{align}
:<math>\begin{align}
{\it\Gamma}
{\it\Gamma}
&=\oint_{C}\boldsymbol{v}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{l}\\
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&=\int_S \boldsymbol{\omega} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{S}
&=\int_S \boldsymbol{\omega} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{S}
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ただし、積分経路 <math>C</math> は閉曲線であるだけでなく、面積要素 <math>S</math> の境界 <math>C=\partial S</math> でなければいけない。ここで
ただし、積分経路 ''C'' は閉曲線であるだけでなく、面積要素 ''S'' の境界 ''C'' = ∂''S'' でなければいけない。ここで
:<math>\boldsymbol{\omega} = \nabla\times\boldsymbol{v}</math>
:<math>\boldsymbol{\omega} = \nabla\times\boldsymbol{v}</math>
は渦度である。<!--渦度とは微小なループに囲まれた単位面積あたりの循環に等価である。-->
は渦度である。<!--渦度とは微小なループに囲まれた単位面積あたりの循環に等価である。-->
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== 循環と渦定理 ==
== 循環と渦定理 ==
以下の定理が成り立つ。
以下の定理が成り立つ。
* [[ケルビンの渦定理]] 「非粘性バロトロピック流体の保存外力下での流れにおいて、流体とともに動く閉曲線に沿う循環は時間的に不変である<ref name="巽"/>」
* [[ケルビンの渦定理]] 「非粘性バロトロピック流体の保存外力下での流れにおいて、流体とともに動く閉曲線に沿う循環は時間的に不変である<ref name="巽"/>
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== 循環と揚力 ==
== 循環と揚力 ==
[[フレデリック・ランチェスター]]、[[マーティン・ウィルヘルム・クッタ]] ([[:en:Martin Wilhelm Kutta]])、そして、[[ニコライ・ジュコーフスキー]]らがそれぞれ独立に、循環の概念を使って[[揚力]]を説明した<ref name="kundu">
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非粘性流体の2次元非回転非圧縮流れにおいて、水平方向( <math>x</math> 方向)に一様な速度 <math>U</math> の流れを考える。奥行き方向単位長さあたりの物体にかかる力の鉛直成分( <math>y</math> 成分)、すなわち、[[揚力]] <math> L </math> は物体を囲む閉曲線に沿った循環 <math> {\it\Gamma} </math> と流体の密度 <math> \rho </math> とを使って
非粘性流体の2次元非回転非圧縮流れにおいて、水平方向( ''x'' 方向)に一様な速度 ''U'' の流れを考える。奥行き方向単位長さあたりの物体にかかる力の鉛直成分( ''y'' 成分)、すなわち、[[揚力]] ''L'' は物体を囲む閉曲線に沿った循環 ''Γ'' と流体の密度 ''ρ'' とを使って
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:<math>
L = -\rho U {\it\Gamma}
L = -\rho U {\it\Gamma}
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で表される。これは[[クッタ・ジュコーフスキーの定理]]と呼ばれる<ref name="kundu"/>
で表される。これは[[クッタ・ジュコーフスキーの定理]]と呼ばれる<ref name="kundu"/>


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[渦度]]
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* [[ビオ・サバールの法則]]
* [[ビオ・サバールの法則]]
* [[クッタの条件]] ([[:en:Kutta condition]])
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* [[クッタ・ジュコーフスキーの定理]]
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* [[ケルビンの渦定理]]
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* [[ラグランジュの渦定理]]
== 出典 ==
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2012年10月31日 (水) 13:04時点における版

連続体力学


流体力学における循環 (じゅんかん、: circulation) とは閉曲線上での流体速度線積分である。循環は Γ と表されることが多い。の強さを表し、非粘性バロトロピック流体保存外力下では流れにそって保存する。

閉曲線 C に沿った循環 Γ は、流体の速度を v 、曲線の微小線要素ベクトルを dl として、線積分

で表せる[1]

循環と渦度

ストークスの定理によって、循環は渦度と以下のように関連付けされる。

ただし、積分経路 C は閉曲線であるだけでなく、面積要素 S の境界 C = ∂S でなければいけない。ここで

は渦度である。

循環と渦定理

以下の定理が成り立つ。

「非粘性バロトロピック流体の保存外力下での流れにおいて、渦管は渦管として行動し、かつ、その強さは一定不変である[2]

循環と揚力

フレデリック・ランチェスターマーティン・ウィルヘルム・クッタ英語版、そして、ニコライ・ジュコーフスキーらがそれぞれ独立に、循環の概念を使って揚力を説明した[3]

非粘性流体の2次元非回転非圧縮流れにおいて、水平方向( x 方向)に一様な速度 U の流れを考える。奥行き方向単位長さあたりの物体にかかる力の鉛直成分( y 成分)、すなわち、揚力 L は物体を囲む閉曲線に沿った循環 Γ と流体の密度 ρ とを使って

で表される。これはクッタ・ジュコーフスキーの定理と呼ばれる[3]

関連項目

出典

  1. ^ a b 巽友正『流体力学』(1982年 4月15日初版発行)培風館。ISBN 456302421X 
  2. ^ a b 今井功『流体力学(前編)』(1973年11月25日発行)裳華房。ISBN 4785323140 
  3. ^ a b P.K. Kundu; I.M. Cohen; D.R. Dowling (2011). Fluid Mechanics Fifth Edition. Academic Press. ISBN 0123821002