江戸っ子1号
江戸っ子1号(えどっこ1ごう)は、日本の深海用小型遠隔操作無人探査機。江戸っ子1号プロジェクト推進委員会により、2013年に開発された。
2013年11月22日、日本海溝の水深7800m地点に潜行・着底し、海底の生物の3Dフルハイビジョンビデオ撮影に成功した[1]。
江戸っ子1号プロジェクト推進委員会は、東京都・千葉県の中小企業5社からなる。開発は推進委員会と支援団体(大学・研究所・支援企業・ボランティアなど)によって行われた。
開発の経緯
大阪の中小企業らの東大阪宇宙開発協同組合による人工衛星「まいど1号」に触発された杉野ゴム化学工業所社長の杉野行雄が、「(大阪が宇宙ならば)東京は深海を目指そう」と着想したのがきっかけである[2][3]。当初は11000mまで潜行可能で、海底を移動できる探査機が構想されていたが、実現性がなかった[2]。杉野から相談を受けた海洋研究開発機構は、コスト面も考慮し、市販のガラス球を素材に水深8000mまで自然落下しておもりを分離することで浮上する探査装置を提案、これをもとに開発がおこなわれた[2]。
基本構想がまとまってからは、推進委員会の各企業が分担して設計開発したが、制御コンピュータや通信関係などの開発は各大学の教授・学生や協力企業によるところも大きかった。全体の事務局は東京東信用金庫が行なった。
沿革
- 2009年 5月 - 杉野ゴム化学工業所社長の杉野行雄が発案[4]、東京東信用金庫に相談
- 2010年 2月 - 海洋研究開発機構より、「フリーフォール型ガラス球深海カメラ」の提案を受ける[3]
- 2011年 1月 - プロジェクト始動[2]。
- 2011年 4月 - 江戸っ子1号プロジェクト推進委員会が発足(中核企業4社、支援団体4者)
- 2011年 8月 - ソニーのエンジニア有志が参加
- 2011年 9月 - 海洋研究開発機構の実用化展開促進プログラムに採用される[2]。
- 2012年 1月 - 共同研究契約に調印
- 2012年 3月 - 海洋研究開発機構で高圧試験・水中挙動試験
- 2012年 6月 - 新江ノ島水族館で撮影実験・挙動実験[5]
- 2012年10月 - 相模湾(水深50m)での潜行実験に成功
- 2013年 2月 - 岡本硝子が委員会に加盟
- 2013年 6月 - 相模湾での潜行実験で3Dフルハイビジョンビデオ撮影に成功
- 2013年 7月 - 日本海溝実験用の新設計の機体・制御モジュールを製作
- 2013年 8月 - 相模湾(水深500m)での潜行実験に成功
- 2013年11月 - 日本海溝(水深7800m)での超深海潜行実験に成功[1]
特徴
- 小型(運用が容易)
- ローコスト
- 完全自立(索は無い)
- ゴムによるガラス球間の通信
- 3Dフルハイビジョンビデオ撮影
構造
江戸っ子1号は、4つの球、フレーム、エサ台、オモリからなる。各球は縦に配置されており、上から通信球・トランスポンダ球・照明球・撮影球である。各球はプレスチックの保護カバーで覆われた耐圧ガラス球である。通信球はフレームから離れてロープでつながっている。それ以外の球は、全長約1.5mの金属製のフレームに固定されている。エサ台、オモリはフレームの下部に取り付けられている。
搭載機器
GPS受信機、衛星電話、トランスポンダ、LEDモジュール、3Dハンディカム(ソニー製の市販品)、制御コンピュータ、各種センサ、バッテリ、オモリ切離し装置、オモリ
ミッション
- 母船から海中に投入後、自重とオモリで秒速1m程度で沈下する。
- 2時間程度で7800mの海底に到達する。
- 着底後、エサ台が自重で展開し、本体の斜め下方に設置される。
- 照明と3Dビデオ撮影はタイマーでオン・オフされる。
- 母船からの音響通信によるコマンドをトランスポンダで受信し、オモリを切離して浮上する。
- 浮上後 GPSで位置を測定し、衛星電話(イリジウム)で母船に現在位置を知らせる。
撮影機能
家庭用のフルハイビジョン3Dハンディカム(ソニーHDR-TD20V)を搭載し、外部バッテリを接続して約10時間の撮影ができる。
開発・運営体制
江戸っ子1号プロジェクト推進委員会
支援団体
技術支援
- 新江ノ島水族館
- ソニー エンジニアの有志
- 沼田光器
- バキュームモールド工業
他
協賛
機材提供
日本海溝7800mの超深海潜行実験(2013年11月21日 - 24日)
海洋研究開発機構の調査船「かいよう」にプロジェクトのメンバーが乗船し、横須賀港から房総半島沖の日本海溝へ向かった[4]。深度7800m地点2か所でそれぞれ1機、深度4000m地点1か所で1機、合計3機を投下した。それぞれ5〜30時間程度の海底滞在中に、5〜30時間のフルハイビジョン3Dビデオ撮影に成功し、3機とも回収に成功した。 深度7800m地点では、ヨコエビやチヒロクサウオなどが撮影された。深度4000m地点では、ソコダラやソコボウズなどが撮影された。映像はこの深度では世界初の3D撮影で、充分に鮮明であり、斜め上からの撮影のため生物の行動の観察がしやすいものだった[1]。
脚注
- ^ a b c 下町の「江戸っ子1号」、深海7800メートルで魚撮影 - 朝日新聞 2013年11月24日
- ^ a b c d e 町工場の技術を結集し、無人深海探査機をつくる 海洋研究開発機構ニュース(2013年12月20日)
- ^ a b フリーフォール型深海探査シャトルビークル「江戸っ子1号」実海域実験 海洋研究開発機構ニュース(2013年12月20日)
- ^ a b 「江戸っ子1号」8000mの深海へ 町工場が共同開発 - 朝日新聞 2013年11月21日
- ^ 江戸っ子1号、水中へ 水族館で試作機実験成功 - 朝日新聞 2012年10月27日
参考文献
外部リンク
- 江戸っ子1号プロジェクト - 公式ウェブサイト
- 「江戸っ子1号」によって撮影された映像 - YouTube
- 水深7千7百m深海魚の撮影に成功