ヨコエビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ヨコエビ亜目
Nototropis swammerdamei.jpg
Atylus swammerdami
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 軟甲綱 Malacostraca
亜綱 : 真軟甲亜綱 Eumalacostraca
上目 : フクロエビ上目 Peracarida
: 端脚目 Amphipoda
亜目 : ヨコエビ亜目 Gammaridea Senticaudata

ヨコエビ(横蝦、-海老)は、甲殻亜門軟甲綱端脚目(ヨコエビ目)・ヨコエビ亜目(Gammaridea)の全てとSenticaudata亜目からワレカラ類を除いた甲殻類を指す。かつてはヨコエビ亜目(Gammaridea)の総称であったが、2013年にLowry&Myersによって上位分類の見直しが行われ、ヨコエビ亜目の一部のグループとワレカラ亜目(Caprelidea)を合せたSenticaudata亜目が設けられ、現在に至る[1]

名称に「エビ」とあるが十脚目(エビ目)ではない。体長は数mmから10数cmまで種類によって差があるが、多くは数mm程度しかなく、1cmを超える種類は少ない。ヨコエビ科(Gammaridae)など代表的な種において、体は左右に平たく、横から見ると半円形をしている。脚や触角はエビ類(十脚目)のそれより短い。

端脚類の中でも特に種分化が進んだグループで、幅広い環境にたくさんの種類が分布している。多くの(7000種以上)は海洋に生息し、個体数が多いために食物連鎖において非常に重要な分類群である。淡水にも、温帯冷帯を中心に1800種以上が見つかっている。陸生のものはそれらに比べれば少ないが、それでも200種以上が海岸の草むらや落ち葉の下に生活している。また、海域,淡水域,陸域を合計した日本の既知種数は、2015年現在で411種である[2][3]

自然界では分解者として、また他の動物の餌として重要である。たとえば河口域において、ヨコエビ類が堆積した落ち葉を食べ分解すると同時に、魚類の餌となっている事例が知られている[4]。人間にとっての利用価値はほとんど無いが、海水魚のネズッポ類マンダリンやタツノオトシゴ・ヤッコなどのエサ用として人工餌に餌付かない場合に貴重で販売店が少ないが購入する。また水槽内に繁殖させている人もいる。カメカルシウム補給用の餌として販売される。

生態の多様性[編集]

同じヨコエビ亜目でも、分布する環境がちがうと行動もちがう。多くの種は水生の底生生物だが、なかには遊泳するもの、さらには陸生のものもいる[5]

陸上生活をする種類はジャンプ力にすぐれているので、和名が「ハマトビムシ」とつけられた種類が多い(トビムシ目の動物も「トビムシ」と呼ばれるが、ヨコエビ亜目とは同じ節足動物門ではあるものの亜門レベルで異なる別物である)。ハマトビムシのジャンプは脚ではなく、腹部を下に曲げてバネにするのが特徴である。これらは体の数十倍から100倍の高さをジャンプでき、目で追うのもむずかしいほど跳びまわる。

新江ノ島水族館で展示されているカイコウオオソコエビ(マリアナ海溝の水深10900mで採集)

水辺の石の下にすむものは体を横に倒して生活するので、和名が「ヨコエビ」とつけられている。石をひっくり返すと腹部を激しく振って泳ぎだすが、深い水中ではふつうに体を立てて泳ぎ、再び石などの下にもぐりこむ。

海底にすむものの多くは和名が「ソコエビ」とつけられている。海藻や岩などにつかまるか、砂泥にもぐって生活し、泳ぎもうまい。深海産は複眼が退化しているが、大型化する種も多く、中には20数cmにも達する大型種もいる。

発光[編集]

いくつかの種で生物発光が確認、報告されている。ただし、独自の発光器官は持たず、ホタルエビ等と同様に発光バクテリアに由来すると推測されている。[6]なお、日本では栗本丹洲の記した『千虫譜』において、ヨコエビの一種と思われる生物が発光するとの記述が見られる。[7]

おもな種類[編集]

ヒメハマトビムシ Platorchestia joi
ハマトビムシ科Talitridaeヒメハマトビムシ属Platorchestia)。体長は1cmほどで、体色は青灰色や赤灰色をしている。海岸の満潮線付近に多数生息し、ふだんは砂の中や石の下にもぐっている。流れ着いた海藻や動物の死骸などを食べるので、それらを持ち上げるとたくさんの個体がピョンピョンと飛び跳ねる。跳ぶだけでなく、泳ぐのも砂にもぐるのもうまい。従来ヒメハマトビムシと呼ばれてきた種には複数の種が内包されていた可能性が高いものの、識別するためには非常に微細な形質を検討する必要がある。
オカトビムシ Platorchestia humicola
ハマトビムシ科Talitridaeヒメハマトビムシ属Platorchestia)。体長7-8mm。沼地や休耕田の周辺などに生息する陸生のヨコエビ。
ニッポンヨコエビ Gammarus nipponensis
ヨコエビ科Gammaridaeヨコエビ属Gammarus)。体長は1 cmほどで、体色は黄褐色をしている。水のきれいな川の、落ち葉や石の下に生息する。
キラーシュリンプ Dikerogammarus villosus (Killer shrimp)
ヨコエビ科Gammaridae)・Dikerogammarus属。カスピ海黒海原産のヨコエビの仲間。
キョウトメクラヨコエビ Pseudocrangonyx kyotonis
メクラヨコエビ属(Pseudocrangonyx)。島根県京都府などの洞窟井戸などで発見されている。体長は数mmほどで、体は半透明の白色をしていて、名のとおり目が退化している。メクラヨコエビ属は四国や北海道などに複数種が生息しているほか、ユーラシア極東部にも分布する。
フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus
マミズヨコエビ属(Crangonyx)。1989年に古利根沼で確認されて以降、日本各地で発見が相次いでいる外来種。日本在来の淡水ヨコエビとは異なり、比較的水質の悪い場所でも生息できる。
オオオキソコエビ[8] Eurythenes gryllus
深海産の大型種で体長15cmほどにもなる。体色は赤で目は退化したが触角は発達している。カイコウオオソコエビと同様に体内に深海の水圧に対するように脂肪分を体内に多く貯え、この脂肪を海水よりも軽くして数千メートルの深海底よりもやや上方を泳いで、エサとなる生物の死体を捜す。
ダイダラボッチ[8] Alicella gigantea
Alicellidae科・ダイダラボッチ属(Alicella)。前種よりも更に大型となるヨコエビの中でも最大級の種類で、体長30cm以上にもなる巨大種であり、同じく数千メートルの深海底を体内脂肪分を利用して浮力調節し、深海に落ちてきた生物の遺体を食べる。体色は褐色。
カイコウオオソコエビ Hirondellea gigas
世界でもっとも深い場所から見つかった動物の1つで、水深6000メートル以深の超深海底にのみ生息する。[9]

分類[編集]

ヨコエビ亜目 (Gammaridea)
下目に属さない科が多く含まれ、Senticaudata亜目ほど整理が進んでいない。
Senticaudata亜目
ワレカラ亜目を構成していたワレカラ類,クジラジラミ類が内包されている。以下の6下目からなる。
  • Carangoliopsida下目
  • ハマトビムシ下目 (Talitrida)
  • ドロクダムシ下目 (Corophiida)
  • ハッジヨコエビ下目 (Hadziida)
  • カンゲキヨコエビ下目 (Bogidiellida)
  • ヨコエビ下目 (Gammarida)

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ James K. Lowry; Allan A. Myers (2013). “A Phylogeny and Classification of the Senticaudata subord.nov.(Crustacea: Amphipoda)”. Zootaxa 3610: 1–80. 
  2. ^ 朝倉彰 「甲殻類とは」『甲殻類学』 朝倉彰編著、東海大学出版会2003年、27-28頁。ISBN 4486016114
  3. ^ 有山, 啓之「ヨコエビとはどんな動物か?―形態・色彩・生態について―」、『Cancer』第25巻、2016年、 121–126。
  4. ^ 櫻井泉「森林が河口域の水産資源に及ぼす影響 (PDF) 」 、『北水試だより』第65巻、2004年、 19-26頁。
  5. ^ 大塚攻、駒井智幸 「端脚目(Order Amphipoda)」『節足動物の多様性と系統』 石川良輔編集、岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ6〉、2008年、257-258頁。ISBN 9784785358297
  6. ^ Bulletin of the Southern California Academy of Sciencesat BHL Biodiversity Heritage Library03/15/2011 6-8page
  7. ^ 千蟲譜』―国立国会図書館デジタルコレクション三巻27頁 水蚤
  8. ^ a b 海洋生物(プランクトン) 分類データ LYSIANASSOIDEA”. 2016年1月10日閲覧。
  9. ^ 土田真二 「カイコウオオソコエビ」『潜水調査船が観た深海生物』 藤倉克則・奥谷喬司・丸山正編著、東海大学出版会、2008年、253頁。ISBN 9784486017875