水の消毒に伴う副生成物

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水の消毒に伴う副生成物(みずのしょうどくにともなうふくせいせいぶつ)では、この分野において、しばしば単に消毒副生成物(しょうどくふくせいせいぶつ、英語: disinfection by-products)と呼ばれる、に対して行った消毒操作に伴って非意図的に発生する化合物群について解説する。

水道水の消毒副生成物[編集]

しばしば水道水に対して塩素オゾンを用いた消毒が行われる。水は様々な物質を溶かす性質を持っており、また、流水は不溶性の物質であっても運搬することができる。したがって、浄水場のように水の塩素消毒を行っている場所で川などから採取された水は、純水ではなく様々な物質が混ざっている。そして、不純物を含んだ水に対して消毒操作を行うと、この消毒副生成物も発生してくるのが通常である。問題なのは、消毒副生成物にはヒトにとって健康上有害である物質や、ヒトに対して発がん性が疑われている物質も含まれている点である[1]

こと2016年現在の日本では必ず水道水に塩素が含まれていなければならないと水道法施行規則第16条によって定められている。したがって、日本の水道水は必ず塩素による消毒が行われている。このため、基本的に日本の水道水には塩素消毒副生成物も含まれている。

塩素消毒副生成物[編集]

水に対して塩素消毒を行ったことにより発生する塩素消毒副生成物は多岐にわたり、1つ1つの化合物名ではなく化合物群の総称を列挙しただけでも、例えば、トリハロメタン、ハロ酢酸(酢酸の持つ炭化水素鎖の部分の水素の一部、または全部がハロゲンに置換された酢酸。典型的にはクロロ酢酸ジクロロ酢酸トリクロロ酢酸[1]。)、ハロアセトニトリル類、ハロアルデヒド類、クロロフェノール類などがある[2]。以上に含まれない化合物としては、例えば、抱水クロラール[3]ホルムアルデヒドなども発生することが知られている[1][注釈 1]

これらは、水中に存在していた様々な有機物に塩素が直接付加したり、酸化反応が起きたり、元々水中に溶存していた臭素が消毒のために注入された塩素によって不安定化された結果として有機化合物に臭素が直接付加したり、臭素が水素と置換するなど、様々な化学反応によって生成する。以上のように、様々な化合物が非意図的に発生する中、特に塩素消毒された水道水から比較的高濃度に検出されたことで社会問題となったのがトリハロメタンである[2][4]。特にトリハロメタンに発がん性が確認されてからは世界的に問題視されるようになった[3]。なお、分子構造中に臭素を持つ、ブロモジクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルムが塩素消毒に伴って非意図的に発生する量は、水の中にどれだけの濃度の臭素イオンが存在していたかによって大きく異なることが知られている[5]

オゾン消毒副生成物[編集]

水に対してオゾン消毒を行ったことにより発生するオゾン消毒副生成物も存在する。オゾン消毒は、比較的高濃度で検出されて社会問題となったトリハロメタンの発生原因となる有機物を酸化して分解できる。よって、オゾンで消毒した後に塩素消毒を行えば、生成するトリハロメタンを少なくすることが可能であるなど、幾つかの利点を持つ[6][7]

しかしながら、例えばフミン質を多く含む水に対してオゾン消毒を行うと、ホルムアルデヒドが発生する[1]。さらにアセトングリオキシル酸グリオキサールメチルグリオキサールなど、フミン質を含んだ水に対してオゾン消毒した場合にも、やはり様々な化合物が非意図的に生成することが確認されている[3]

この他に、臭化物を多く含む水に対してオゾン消毒を行うと、遊離した臭素が酸化されて臭素酸が発生する[1][注釈 2]

水道水における消毒副生成物低減法[編集]

既述のようにオゾン消毒自体も塩素消毒によって発生する消毒副生成物のトリハロメタンの低減法である。なお、要するに水道水の消毒を行う前に、水に含まれている有機物を減らせば、様々な消毒副生成物を減らせることが判っている。そして、オゾン消毒のみが唯一の水に含まれている有機物の低減法ではない。オゾン消毒以外の有機物の除去方法としては、例えば、取水した水に浮遊している有機物を沈殿させるなどして物理的に除去してしまう方法や[6]活性炭で水に含まれているフミン質などを吸着除去してしまう方法などがある[1]。また、この他に、例えばヘキサメチレンテトラミンを河川に放流したために、下流にあった浄水場での塩素消毒によってホルムアルデヒドが発生した事例があったことなどからも明らかなように、不適切な廃棄物の処理を行わないなど、そもそも水を人為的に汚染しないという基本的な環境対策が必要なことは言うまでもない。

注釈[編集]

  1. ^ 消毒副生成物のホルムアルデヒドは、不適切な廃棄物処理が原因で大量発生した事例も知られている。2012年5月には、産業廃棄物としてヘキサメチレンテトラミンを中和処理だけをして、そのまま利根川水系の烏川へと大量に廃棄された。これを含む利根川の水(利根川の派川である江戸川などの水も含む)を採取して浄水所で塩素消毒したために、ヘキサメチレンテトラミンが塩素消毒に伴って分解して浄水所内で大量のホルムアルデヒドが発生したのであった。この影響で、千葉県の一部地域では一時的に水道水の利用ができなくなった。この事例のように、消毒副生成物として非意図的に発生したとは言え、人為的に投棄された物質が原因となった、すなわち人災であったという場合もある。
  2. ^ ただし、臭素酸はオゾン消毒が原因で副生成物として発生したのではなく、塩素消毒が原因となって水道水に混入したことのある物質でもある。臭素酸は発がん物質と考えられており、日本では2004年に水道水の水質基準項目に加えられた。この結果、日本の水道でも臭素酸の測定が一般に行われるようになり、同年4月に北海道本別町の簡易水道で、この時の基準値の16倍を超える臭素酸が検出された。原因は、水道水を塩素消毒するために用いた次亜塩素酸ナトリウムの中に不純物として臭素酸が含有されていたことであった。本別町の簡易水道では、不純物として臭素酸を含む次亜塩素酸ナトリウムを大量に用いて塩素消毒を行っていたために、臭素酸が水道水中に混入して高濃度で検出されたのである。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f 菅野 三郎、福井 昭三 監修 『考える衛生薬学 (第3版)』 p.671 廣川書店 2005年9月1日発行 ISBN 4-567-47053-2
  2. ^ a b 井村 伸正、渡部 烈 編集 『第4版 衛生薬学 - 健康と環境 -』 p.306 丸善 2008年2月10日発行 ISBN 978-4-621-07953-9
  3. ^ a b c 佐谷戸 安好 監修、中室 克彦 編集 『最新公衆衛生学 (第3版)』 p.197 廣川書店 2004年2月25日発行 ISBN 4-567-47143-1
  4. ^ 伊藤 泰郎 『オゾンの不思議 毒と効用のすべて』 p.117 講談社(ブルーバックス B-1270) 1999年10月20日発行 ISBN 4-06-257270-2
  5. ^ 植松 孝悦、小野嵜 菊雄、小嶋 伸夫 編集 『新しい衛生薬学(弟6版)修正版』 p.246 廣川書店 2006年4月1日発行 ISBN 4-567-47116-4
  6. ^ a b 井村 伸正、渡部 烈 編集 『第4版 衛生薬学 - 健康と環境 -』 p.307 丸善 2008年2月10日発行 ISBN 978-4-621-07953-9
  7. ^ 植松 孝悦、小野嵜 菊雄、小嶋 伸夫 編集 『新しい衛生薬学(第6版)修正版』 p.243 廣川書店 2006年4月1日発行 ISBN 4-567-47116-4