残像に口紅を
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『残像に口紅を』(ざんぞうにくちべにを)は、筒井康隆の1989年発表の小説。言葉遊びによる実験的な要素を強く含むSFで、『虚人たち』と同系列に属し、いわゆる「文学」とは異なった趣の作品である。
概要[編集]
『中央公論』1988年3月から89年3月まで13回連載され、第3部は書き下ろしとして89年4月に中央公論社から刊行された。
五十音中の日本語の音が1種類ずつ[1]小説の文面から失われてゆき、同時に主人公のまわりでは、その音を含む名をもつあらゆる存在が失われていく。題名は、音の消失とともに消えた娘を惜しむ、主人公の独白から。
中央公論社から出された単行本(ISBN 4120017877)は後半からのページが袋とじになっており、「ここまで読んで面白くなかったという方はこの本を送り返してください。代金を返します」と但し書きがついていた。
中公文庫版(ISBN 4122022878)では、本文で用いられた言葉の出現頻度を研究した論文[2]が付録として掲載されており、既に消えてしまっているはずの音を誤って用いている箇所(全部で5ヶ所確認されている)についても紹介されている。
ルール[編集]
- 日本語表記の「音」を1つずつ消していき、その音の含まれていることばは使えない。
- 消えたことばは代わりのことばで表現できるが、表現できなくなった場合その存在は消える。
- 母音がなくなってもそれにつらなる子音は無くならない。
- 長音の音引きも同時に無くなる。(「い」→コーヒー)
- 拗音も促音も同時に無くなる。(「や」→「ゃ」)
- 濁音や半濁音は別べつにする。
- 助詞の「は」は、「は」と発音する時は「わ」が消えても残る。(「へ」も同様)
- 同音異字は同時に無くなる。(お→を)
- 不自然でなければ会話に文語体を使って良い。
- 音読み訓読みは別。
- 外来語の使用は良識の範囲内。
- 母音に濁点をつけたものは別物。(「ヴォ」など)
登場人物[編集]
- 佐治勝男 - 主人公
- 津田得治 - 評論家、フランス文学の助教授
- 粂子(くめこ) - 佐治の妻
- 弓子(ゆみこ) - 長女
- 文子(ふみこ) - 次女
- 絹子(きぬこ) - 三女
- 根本 - 文芸誌デスク
- 別役 - 文芸誌の若手
- 戸部尚記 - 作家
- 堀朋巳 - 作家
- 片桐 - 晋葮編集者
- 貝森又造 - 文壇最長老
- 村田昌彦 - 受賞作家
- 太田元継(おおたもとつぐ) - 嗣粋館(しすいかん)代表取締役
- 松本 - 晋葮社デスク
- 岩倉晨 - 作家
- 野方瑠璃子 - 佐治の読者
- 南部 - 産海新聞記者
- 高津(こうづ) - 佐治の担当記者
関連項目[編集]
- ギャズビー - アーネスト・ヴィンセント・ライトの作品で、eをまったく使用しない小説。
- La Disparition - ジョルジュ・ペレックの作品で、eをまったく使用しない小説。塩塚秀一郎による日本語訳『煙滅』では、い段を使わないで訳すという手法をとっている。
- 幽遊白書 - この小説の実験を参考にしたゲームが登場する。