実施権

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日本の特許制度における実施権は、特許発明を実施することができる権利である[1]。以下、特許法については、条名のみ記載する。

目次

概要[編集]

実施権には大別して専用実施権および通常実施権の2種類がある。いずれも業として特許発明を実施することができる権利である(77条2項、78条2項)。両者の主な違いは専用実施権は物権的な権利であるのに対し、通常実施権は債権的な性格を有することにある逐条20版(p280)。それゆえ前者は独占排他性の有するのに対し、後者はそうでない。これが原因で両者には以下のような差がある:

  • 専用実施権の場合は地域・内容・期間の条件が同一の専用実施権を複数の者に設定することはできないが逐条20版(p278)、通常実施権の場合は同時に同条件の通常実施権を複数の者に許諾できる逐条20版(p280)
  • 専用実施権を設定した場合、特許権者自身であっても専用実施権者に許諾した地域・内容・期間には発明を実施できないが、通常実施権の場合は通常実施権者に許諾した地域・内容・期間であっても特許権者自身が発明を実施できる逐条20版(p280)。(専用実施権を設定しても自身の特許発明を実施したい場合には専用実施権者から通常実施権を許諾してもらう必要がある高橋5版(p188))。
  • 専用実施権者には権利侵害の際の差止請求権、損害賠償請求権があるが、通常実施権者の場合は、差止請求権も損害賠償請求権も否定する立場が多数説である(後述する独占的通常実施権の場合を除く)高橋5版(p195)

発生[編集]

専用実施権は特許権者により設定されることで発生する(77条1項)。それに対し通常実施権は、その発生原因により、許諾による通常実施権、法定通常実施権、裁定実施権の3種類に分類される。許諾による通常実施権高橋5版(p187)には特許権者自身の許諾によって発生するものと特許権者の承諾を得た専用実施権者からの許諾により発生するものとがある。専用実施権と許諾による通常実施権とをあわせて、許諾による実施権高橋5版(p187)といい、これは日常的な意味でのライセンス契約に相当する高橋5版(p187)

特許権には積極的権利としての実施権と消極的権利としての禁止権があり高橋5版(p186)、このうち実施権に関しては特許権者自らが実施するだけでなく、他人に実施させる権利も有する高橋5版(p186)。この他人に実施させる権利で他人に与えた権利が許諾による実施権である。

法定通常実施権は特許権者や専用実施権者の意志とは関係なく、公益上の必要性や当事者間の衡平の為に法律の規定によって発生する高橋5版(p198)裁定通常実施権は裁定という行政処分により強制的に設定される通常実施権のことで高橋5版(p187)強制実施権とも呼ばれる高橋5版(p187)。これらは有償か無償かなど、許諾による通常実施権とは多くの点で異なる高橋5版(p198)

設定行為・効力要件[編集]

(専用若しくは通常)実施権を許諾する場合には、特許権者と実施権が契約等で特許権者と実施権が契約等で設定行為を行い、実施権者が特許発明を実施できる場所、期間、内容等を自由に決めることができる(77条2項、78条)逐条20版 (p279,281)高橋5版(p188,192)。専用実施権の場合はその排他性から、場所、期間、内容が同一の条件を2者に設定することはできない。

専用実施権に対する権利変動である設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限は特許原簿への登録が必要であり、設定の際には設定条件も登録する必要がある。一部例外を除き、特許原簿への登録がこれらの権利変動の効力発生要件である(27条1項2号、98条1項2号。例外についての詳細も98条1項2号)。一方、通常実施権の設定には登録を必要とせず、当事者間の意思により効力が発生し、第三者対抗要件は民法の規定が適用される(通常実施権の当然対抗制度特許庁1

独占的通常実施権[編集]

専用実施権はその強力な権利が嫌われて高橋5版(p188)、2012年1年間で295件しか登録がない高橋5版(p188)。専用実施権が設定されるのは、特許権者と専用実施権者が密接な関係にある場合がほとんどで高橋5版(p189)、たとえばある会社の代表取締役である特許権者が自身の経営する会社を専用実施権者に設定するような場合や高橋5版(p189)、特許権者である外国企業が国内系列企業を専用実施権者に設定する場合などがある高橋5版(p189)

そこで専用実施権を利用する代わりに、通常実施権を許諾した上で他のものには通常実施権を許諾しない旨の契約を特許権者と結ぶことがある。このような通常実施権を独占的通常実施権という。実施権者が一人しかいないという点で、独占的通常実施権は専用実施権と類似しているが、あくまで通常実施権であるので、特許権者自身も発明を実施できる。特許権者自身の発明実施をも契約で禁止した独占的通常実施権を完全独占的通常実施権という。なお、特許権者が独占的通常実施権を許諾後、他者に通常実施権を許諾しても、契約違反ではあるが特許法上は適法である高橋5版(p197)

以上に述べたこと以外にも独占的通常実施権と専用実施権では、差止請求権、損害賠償請求権があるかに関して差異がある。専用実施権では差止請求権、損害賠償請求権の双方とも認められる。独占的通常実施権の場合は、独占的通常実施権者固有の損害賠償請求権を許容するのが通説であり高橋5版(p196)、多くの裁判例でも肯定されているが高橋5版(p196)村井2012(p47)、独占的通常実施権者に差止請求権を認めるか否かには議論があり、判例が分かれている村井2012(p47)

仮専用実施権・仮通常実施権[編集]

仮専用実施権・仮通常実施権は特許出願の段階で設定・許諾する仮の専用実施権・通常実施権である。専用実施権・通常実施権と同様、設定・許諾する範囲に条件を課すことができるが、この条件は特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなければならない(34条の2第1項、33条の3第1項)。

仮専用実施権は特許を受ける権利を有するものが設定でき、仮通常実施権は特許を受ける権利を有するもの、及び特許を受ける権利を有するものから承諾を得た仮専用実施権が許諾できる(34条の2第1項、34条の3第1項、34条の2第4項)。

出願が特許登録されたら、仮専用実施権者・仮通常実施権者はそれぞれ、前述した条件範囲に対して専用実施権の設定、仮通常実施権の許諾がなされたものとみなす(34条の2第2項、34条の3第2項、同条第3項)。

権利[編集]

発明実施の権利[編集]

条文[編集]

実施権の権利は以下のように定められている:

第七十七条 2 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有する。
第七十八条 2 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する。

どちらもほぼ同じ規定であるが、後者のみ「この法律の規定により」という文言が加わっているのは、許諾によらない通常実施権についても考慮したためである逐条20版(p281)

解説[編集]

特許権、専用実施権、通常実施権はそれぞれ絶対的支配権、用益物権、債権である逐条20版(p278)。よってこれらを土地の権利に例えれば、それぞれ所有権、地上権、賃借権に対応する逐条20版(p278)。有体物の場合、物権はその物を直接的に支配して使用、収益、処分できる排他的な権利であり高橋5版(p3)、誰にでも主張できる絶対的な権利である高橋5版(p3)。一方、債権は特定の相手に一定の給付を請求できる権利であり高橋5版(p3)、物権と違い、相手方のみに主張できる相対的な権利である高橋5版(p3)

物権類似の概念である地上権において、土地の所有者ですら地上権者の土地の利用を妨げられないのと同様高橋5版(p188)、物権類似の概念である専用実施権でもある地域・内容・期間に対して専用実施権を設定した場合は、特許権者自身ですら、同一条件下で特許発明を実施する事はできない高橋5版(p188)。実施したい場合には専用実施権者から通常実施権を許諾してもらう必要がある高橋5版(p188)。それに対し通常実施権を許諾しても特許権者自身が発明を実施できる逐条20版(p280)

一方、通常実施権は債権なので、特許権者に対して発明実施の許諾を請求できる権利にすぎず高橋5版(p191)、専用実施権のような第三者に独占排他性を主張できる権利とは異なる。また通常実施権は有体物の債権である賃借権に類似しているものの、無体物である発明は実施に際し有体物のような引き渡しを必要としないので、引き渡し請求ができる賃借権と違い、発明実施の許諾を請求できる不作為請求権であるといえる高橋5版(p192)。また賃借権では無償の契約と有償の契約は区別されるが、通常実施権にはそのような差異はない高橋5版(p192)

設定行為[編集]

(専用若しくは通常)実施権を許諾する場合には、設定行為を行うことができる(77条2項、78条)逐条20版 (p279,281)高橋5版(p188,192)設定行為とは特許権者と専用実施権が契約等で決めるもので、通常

  • 時間的範囲(例:○○年まで)
  • 内容的範囲(例:特許請求の範囲にかかれている発明のうち発明Aに対して)
  • 地域的範囲(例:東京都において)

を含むことが多いものの逐条20版(p279)、設定内容は当事者が自由に決められる逐条20版(p279)。ただし数量制限は課すことは重畳的な制限を仮すことになるので、できない 高橋5版(p189) 。専用実施権、通常実施権ともの有償か無償かは契約で自由に決められる高橋5版(p190,192)

専用実施権は物権的な権利であるので排他性を有し逐条20版(p278)、それ故時間的、内容的、地域的範囲が全て同一の専用実施権を2つ以上設定することはできない逐条20版(p278)。それに対し通常実施権にはそのような制約はない。

なお、東京都に限定されている専用実施権に従って販売されたものを第三者が購入して東京都以外で販売しても、消尽論の観点から、特許権侵害にはならない 高橋5版(p189)

差止請求権と損害賠償請求権[編集]

専用実施権の場合[編集]

実施権は物権的な排他的な権利であるので、その権利を侵害した者に対して差止請求権、損害賠償請求権の行使をすることができるのは当然である逐条20版(p279)。なお、何を以て侵害とみなすかは101条に規定されており、損害額の推定方法は102条に規定されている。

差止請求権[編集]

専用実施権者は、専用実施権を侵害する者に対して侵害停止を請求したり、侵害するおそれのある者に対して侵害予防を請求したりできる(差止請求権):

第百条 特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

なお、予防としては例えば担保の提供がある逐条20版(p319)

侵害に対して請求できるものの具体的内容は100条2項に述べられている。なお、100条1項に述べられている差止請求権は、100条2項に具体的に述べられている様態のものに限定されない逐条20版(p318)

第百条 2項 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

100条2項には「侵害の行為を組成した物」と「侵害の行為に供した設備」が登場するが、これは特許請求の範囲が装置にかかっている場合と方法にかかっている場合とに対応したもので、例えば苛性ソーダの製造に関する特許において、特許請求の範囲が製造装置自身にかかっている場合はその装置は「侵害の行為を組成した物」となる。一方、特許請求の範囲が製造装置にはかかっておらず、製造方法にかかっている場合には、製造装置は「侵害の行為に供した設備」となる逐条20版(p319)

損害賠償請求権[編集]

また専用実施権の侵害行為に対しては、民法709条に基づいた損害賠償請求権が認められている:

民法第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条にしたがって損害賠償を請求するには、通常請求人が相手方の故意又は過失を立証しなければならないが逐条20版(p329)、特許法においては以下の規定があるため、立証責任を負わない逐条20版(p329)

第百三条 他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。

通常実施権の場合[編集]

通常実施権が独占的なものか否かについては説が分かれている。

  • 非独占的通常実施権
    • 差止請求権も損害賠償請求権も否定する立場が多数説である高橋5版(p195)
  • 独占的通常実施権
    • 損害賠償請求権
      • 独占的通常実施権者固有の損害賠償請求権を許容するのが通説であり高橋5版(p196)、多くの裁判例でも肯定されている高橋5版(p196)村井2012(p47)(*1)
    • 差止請求権
      • 独占的通常実施権者に差止請求権を認めるか否かには議論がある村井2012(p47)(*2)

(*1)ただし独占的通常実施権が第三者に対して当然に損害賠償請求できるとする合理的理由を見出すのは難しい高橋5版(p196)。なぜならその独占性はあくまで特許権者との契約に過ぎず、しかも公示されているものではないからである。損害賠償請求権が肯定されたのは、実務で利用率の低い専用実施権の代わりに独占的通常実施権が活用されている現状に基づいた政策的判断により高橋5版(p196)、なし崩し的に高橋5版(p196)行われたものである。

(*2)差止請求権を認める場合の理論構成 としては以下の二通りがある:

  1. 独占的通常実施権者に固有の差止請求権を認める方法村井2012(p47)
  2. 特許権者が有する差止請求権を代位行使(民法423条)することを認める方法村井2012(p47)

前者は学説が分かれているものの高橋5版(p195)、否定説が多い高橋5版(p195)。専用実施権の場合は物権法定主義(民法175条)に基づいて差止請求ができる物権類似の排他的独占権が認められるよう特別法である特許法に記載があるが、通常実施権にはそのような記載はなく、しかも物権ではなく債権であるからである高橋5版(p195)。それに対し後者は判例が分かれている村井2012(p47)

権利の変動[編集]

発生[編集]

通常実施権は、その発生原因により、許諾による通常実施権、法定通常実施権、裁定通常実施権の3種類に分類されるが、後2者の発生については後述し、ここでは専用実施権と許諾による通常実施権の発生について述べる。

専用実施権の設定と許諾による通常実施権は、以下の条文に従って発生する:

第七十七条 1 特許権者は、その特許権について専用実施権を設定することができる。
第七十八条 1 特許権者は、その特許権について他人に通常実施権を許諾することができる。
第七十七条 4 専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができる。

78条1項のように特許権から直接派生する通常実施権を特許権についての通常実施権といい、77条4項のように専用実施権から派生する通常実施権を専用実施権についての通常実施権という。

これら2つの通常実施権は、それぞれ78条1項、77条4項から発生するが、それ以外にも法定通常実施権や裁定通常実施権としてこれら2つの通常実施権が発生する場合がある。これら2つの通常実施権で差が生じる場合もあり、例えば通常実施権に対して質権を設定したい場合、前者であれば特許権者のみに承諾を貰えば質権が設定できるが、後者の場合は特許権者と専用実施権双方の承諾を必要とする(94条2項)。

なお77条4項において、専用実施権者についての通常実施権の許諾に特許権者の承諾が必要だとされたのは、専用実施権が特許権者との信頼関係に基づくことが多く、しかも実施内容が特許権者にも大きな意味を持つからである逐条20版(p279)

78条1項に記載されている特許権者による専用実施権の設定方法には、主に以下の3種類がある:

従業員等の職務発明により使用者等に専用実施権が設定された場合は、従業員等は相当の対価を受ける権利を有する(35条4項)。

許諾による通常実施権も同様で、特許権者若しくは専用実施権者との契約により発生する事がほとんどだが高橋5版(p192)、単独行為である遺言でも発生する高橋5版(p188)。なお、専用実施権と同様、職務発明で通常実施権が発生することがあるが、これは許諾による通常実施権ではなく法定通常実施権に分類される。

特許権が複数人で共有されている場合は、専用実施権や通常実施権の設定・許諾には共有者全員の同意が必要である:

第七十三条 3 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

効力発生要件[編集]

専用実施権[編集]

専用実施権の場合は特許原簿への記載が効力要件になる(27条1項2号、98条1項2号)高橋5版(p188)

(特許原簿への登録)

第二十七条 次に掲げる事項は、特許庁に備える特許原簿に登録する。 一 〔中略〕 二 専用実施権の設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限 三 特許権又は専用実施権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅又は処分の制限 四 仮専用実施権の設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限〔後略〕

(登録の効果)

第九十八条 次に掲げる事項は、登録しなければ、その効力を生じない。 一 〔中略〕 二 専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は特許権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限 三 特許権又は専用実施権を目的とする質権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限 2 前項各号の相続その他の一般承継の場合は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。

登録の際には、専用実施権の設定範囲(詳細次節)を申請書に明記する必要がある高橋5版(p188)。設定範囲が記載されていない場合は、無制限の専用実施権を認めたことになる高橋5版(p188)

なお、98条1項2号で混同による消滅で登録が必要ないのは、混同の場合はその前提として移転の登録があるからである逐条20版 (p315)。また同じ箇所で特許権の消滅の場合に登録が必要ないのは、特許権が消滅した場合は専用実施権も当然消滅するからである逐条20版 (p315)

通常実施権[編集]

通常実施権の設定には登録を必要とせず、当事者間の意思により効力が発生し、第三者対抗要件は民法の規定が適用される(通常実施権の当然対抗制度特許庁1

なお過去には通常実施権の登録制度があった、登録によって契約内容が第三者に明らかになってしまうことや通常実施権の登録が必須でなかったことなどにより、通常実施権の許諾うち登録されるものが1%に満たなかったため、平成23年改正において通常実施権の登録制度を規定した特許法99条3項は廃止された。

移転[編集]

特許権の移転[編集]

専用実施権者や通常実施権者の同意などがなくても特許権を譲渡できる高橋5版(p190)高橋5版(p193)。譲渡前に専用実施権者が設定されていた場合は、譲渡後の新特許権者もその者に専用実施権を設定せざるを得ない高橋5版(p189)。通常実施権者に関しても、特許権譲渡後も通常実施権を主張できる高橋5版(p193)

(通常実施権の対抗力)

第九十九条 通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。

99条では通常実施権を許諾によるものと限定していないので、法定通常実施権や裁定通常実施権に対してもこの規定は適応される。

専用実施権の移転[編集]

地上権と異なり逐条20版(p279)、専用実施権の移転には以下の制限が課せられている:

第七十七条 3 専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。

譲渡の自由を認めなかったのは、専用実施権が特許権者との信頼関係に基づくことが多く、しかも実施内容が特許権者にも大きな意味を持つからである逐条20版(p279)

77条3項において、事業とともにする場合には特許権者の承諾がなくとも移転できるとしたのは、そうしないと事業移転により当該発明に関する設備が稼働しなくなる事を懸念したためである逐条20版(p279)

なお、特許権若しくは専用実施権による通常実施権が移転前に許諾されていたとしても、これらを移転する際に通常実施権者の許諾を得る必要はない高橋5版(p193)。特許権の移転の時と同様、通常実施権者は移転後の専用実施権者に対して自身の通常実施権を主張できる高橋5版(p193)

第九十九条(通常実施権の対抗力) 通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。

専用実施権の移転の対抗要件は特許原簿への記載である高橋5版(p193)

通常実施権の移転[編集]

条文[編集]

通常実施権の移転に関する条文葉以下の通りである:

(通常実施権の移転等)

第九十四条 1 通常実施権は、第八十三条第二項、第九十二条第三項若しくは第四項若しくは前条第二項、実用新案法第二十二条第三項又は意匠法第三十三条第三項の裁定による通常実施権を除き、実施の事業とともにする場合、特許権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。

解説[編集]

許諾による通常実施権と法定通常実施権については以下のいずれかを満たしたとき限りに移転できる:

  • 実施の事業とともにする場合
  • 特許権者(専用実施権についての通常実施権にあっては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合
  • 相続その他の一般承継の場合

それに対し、裁定通常実施権及び実用新案法や意匠法における裁定による通常実施権は第九十四条1項の例外になっており、これらに関しては94条3項~5項に規定されている:

(通常実施権の移転等)

第九十四条 3 第八十三条第二項〔不実施の場合の通常実施権の設定の裁定〕又は前条第二項〔公共の利益のための通常実施権の設定の裁定〕の裁定による通常実施権は、実施の事業とともにする場合に限り、移転することができる。

4 第九十二条第三項〔自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定〕、実用新案法第二十二条第三項〔自己の登録実用新案の実施をするための通常実施権の設定の裁定〕又は意匠法第三十三条第三項〔通常実施権の設定の裁定〕の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業とともに移転したときはこれらに従つて移転し、その特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業と分離して移転したとき、又は消滅したときは消滅する。

5 第九十二条第四項〔同条第三項の裁定の請求があったときその相手に通常実施権の設定の裁定〕の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権に従つて移転し、その特許権、実用新案権又は意匠権が消滅したときは消滅する。

共有[編集]

特許権が複数人で共有されている場合は、専用実施権の設定には、共有者全員の同意が必要である(73条3項、前述)。

専用実施権及び通常実施権の共有に関しては以下のように規定されている:

第七十七条5条 第七十三条の規定は、専用実施権に準用する

第九十四条6項 第七十三条第一項の規定は、通常実施権に準用する。

73条は以下のとおりである:

第七十三条 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。

2 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。

3 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

通常実施権の譲渡と質権については73条1項を準用するとの記載があるが、実施に関しては73条2項を準用すると書かれておらず、特許法には何ら規定がない。

質権の設定[編集]

専用実施権者は専用実施権に質権を設定できるが、その際には特許権者の許諾がいる:

第七十七条 4 専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができる。
第九十四条 2項 通常実施権者は、[中略]の裁定による通常実施権を除き、特許権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合に限り、その通常実施権について質権を設定することができる。

ただし通常実施権の場合は、以下の裁定による通常実施権を除くと規定している(94条2項中略部分):

  • 裁定通常実施権、すなわち
    • 83条2項〔不実施の場合の通常実施権の設定の裁定〕
    • 92条3項若しくは4項〔自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定〕
    • 93条2項〔公共の利益のための通常実施権の設定の裁定〕
  • 実用新案法若しくは意匠法の以下のもの
    • 実用新案法22条3項〔自己の登録実用新案の実施をするための通常実施権の設定の裁定〕
    • 意匠法33条3項〔通常実施権の設定の裁定〕

専用実施権の質権の対抗要件は特許原簿への登録である(27条3項、98条3項)。

通常実施権の質権の対抗要件は民法364条に従う高橋5版(p193)

質権者は別途契約しない限り発明を実施できない:

第九十五条 特許権、専用実施権又は通常実施権を目的として質権を設定したときは、質権者は、契約で別段の定をした場合を除き、当該特許発明の実施をすることができない。

なお、質権とした場合のその実行については、民事執行法193条が適用される逐条20版(p311)

質権は実施権の対価や発明の実施に対して受け取る金銭その他のものにも行うことができる。なお、「発明の実施に対して受け取る金銭」には、実施料のみならず損害賠償請求権の他にも質権の効力が認められる逐条20版(p312)

第九十六条 特許権、専用実施権又は通常実施権を目的とする質権は、特許権、専用実施権若しくは通常実施権の対価又は特許発明の実施に対しその特許権者若しくは専用実施権者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行うことができる。ただし、その払渡又は引渡前に差押をしなければならない。

放棄[編集]

特許権者は以下の者(もしいれば)の承諾を得た場合のみ特許権を放棄できる(97条1項)

  • 専用実施権者
  • 質権者
  • 35条1項に規定されている職務発明の通常実施権者
  • 77条4項に規定されている専用実施権についての通常実施権者
  • 78条1項に規定されている特許権者の許諾による通常実施権者

専用実施権者は以下の者(もしいれば)の承諾を得た場合のみ専用実施権を放棄できる(97条2項):

  • 質権者
  • 77条4項に規定にされている専用実施権についての通常実施権者

通常実施権者は以下の者(もしいれば)の承諾を得た場合のみ通常実施権を放棄できる(97条3項):

  • 質権者

消滅[編集]

専用実施権の消滅[編集]

専用実施権の消滅自由として以下のものがある:

  • 特許権の消滅(この場合には当然に専用実施権も消滅する高橋5版(p190))。
  • 専用実施権の設定行為で規定された期間の満了高橋5版(p190)
  • 専用実施権の放棄(97条2項、前述)高橋5版(p190)
    • 質権者や専用実施権についての通常実施権者がいるときは、これらのものの承諾が必要(同条同項)。
  • 専用実施権の取り消し(独占禁止法100条)高橋5版(p190)
  • 専用実施権者と特許権者が同一になったときの混同(特許登録令施行規則34条)高橋5版(p190)

以上の消滅事由のうち、特許権の消滅と最後の混同以外は登録が効力要件である(98条2項1号、前述)高橋5版(p190)

独占禁止法第百条(特許又は実施権の取消し及び政府との契約禁止の宣言) 第八十九条又は第九十条の場合において、裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、次に掲げる宣告をすることができる。ただし、第一号の宣告をするのは、その特許権又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権が、犯人に属している場合に限る。

一 違反行為に供せられた特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権は取り消されるべき旨

二 判決確定後六月以上三年以下の期間、政府との間に契約をすることができない旨

2 前項第一号の宣告をした判決が確定したときは、裁判所は、判決の謄本を特許庁長官に送付しなければならない。

3 前項の規定による判決の謄本の送付があつたときは、特許庁長官は、その特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権を取り消さなければならない。

特許登録令施行規則第三十四条 (混同又は取消しによる専用実施権等の消滅の登録の方法)1項 混同による専用実施権、仮専用実施権又は質権の消滅の登録をするときは、その専用実施権、仮専用実施権又は質権の登録を抹消しなければならない。 2 前項の規定は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 (昭和二十二年法律第五十四号)第百条第三項 の規定による取消しによる専用実施権の消滅の登録をする場合に準用する。

特許権と違い(76条)、専用実施権の場合は相続人が存在しない場合に関する規定が特許法にはないので、この場合には契約等で別途定めがない限り、民法959条に従い国庫に帰属する高橋5版(p190)

許諾による通常実施権の消滅[編集]

許諾による通常実施権は以下の場合に消滅する:

  • 特許権の消滅高橋5版(p198)
  • 専用実施権についての通常実施権の場合における専用実施権の消滅(前述)高橋5版(p198)
  • 設定行為で定められた期間の満了高橋5版(p198)
  • 許諾契約解除高橋5版(p198)
  • 通常実施権の放棄(97条3項、前述)高橋5版(p198)
  • 通常実施権の取り消し(独占禁止法100条、前述)高橋5版(p198)
  • 通常実施権者と特許権者若しくは専用実施権者が同一になった場合の混同高橋5版(p198)

一部の裁定通常実施権の消滅について94条に記載がある:

(通常実施権の移転等)

第九十四条 4 第九十二条第三項〔自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定〕、実用新案法第二十二条第三項〔自己の登録実用新案の実施をするための通常実施権の設定の裁定〕又は意匠法第三十三条第三項〔通常実施権の設定の裁定〕の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業とともに移転したときはこれらに従つて移転し、その特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業と分離して移転したとき、又は消滅したときは消滅する。

5 第九十二条第四項〔同条第三項の裁定の請求があったときその相手に通常実施権の設定の裁定〕の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権に従つて移転し、その特許権、実用新案権又は意匠権が消滅したときは消滅する。

専用実施権者が設定された場合の特許権者の権利[編集]

制限事項[編集]

特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するが(68条)、専用実施権者を設定した場合にはこの権利が制限される:

第六十八条 [中略]その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

例えば東京都において2020年まで専用実施権が設定した場合は、たとえ特許権者自身であっても、東京都において2020年まではその発明を実施できない逐条20版(p260)。これは土地の所有権と地上権との関係と類似している逐条20版(p260)。自身の特許発明を実施したい場合には専用実施権者から通常実施権を許諾してもらう必要がある高橋5版(p188)

また特許権者は自ら発明を実視できないのだから、通常実施権を設定する権利も失うものと解される高橋5版(p189)

さらに、以下の行為をする場合は、専用実施権者の許諾が必要になる:

  • 特許権の放棄(97条1項)
  • 訂正審判請求による特許内容の変更(127条)

特許権者に留保される権利[編集]

専用実施権設定後も以下の権利は特許権者に留保される。

  • 特許侵害行為に対する差止め(最二小判平17・6・17、民集59・5・1074「安定複合体構造探索方法事件」)高橋5版(p189)と損害賠償の訴訟の遂行高橋5版(p189)
  • 特許権の譲渡高橋5版(p189)
    • 譲渡前に専用実施権者が設定されていた場合は、譲渡後の新特許権者もその者に専用実施権を設定せざるを得ない高橋5版(p189)
    • 通常実施権者に関しても同様高橋5版(p193)

また専用実施権者が下記の行為を行う場合は、特許権者の許諾が必要である高橋5版(p189)

  • 専用実施権の譲渡(77条3項)
  • 専用実施権に対する質権の設定(77条4項)
  • 専用実施権者による他者への通常実施権の許諾(77条4項)
(専用実施権)

第七十七条 3 専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。

4 専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができる。

専用実施権に類似する地上権にはこれらの制限がない高橋5版(p190)にも関わらず専用実施権にこれらの制限が課されているのは、専用実施権が特許権者との信頼関係に基づくことが多く、しかも実施内容が特許権者にも大きな意味を持つからである逐条20版(p279)

法定通常実施権[編集]

法定通常実施権は特許権者や専用実施権者の意志とは関係なく、公益上の必要性や当事者間の衡平のために法律の規定によって発生する通常実施権である高橋5版(p198)

職務発明に基づく通常実施権[編集]

従業者等が職務発明に関する特許を受けたとき、使用者等はその特許権の通常実施権を有する。また、職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときも同様に、使用者等はその特許権の通常実施権を有する:

第三十五条 1 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。

この通常実施権の範囲は特許発明の全範囲、対価は不要、対抗要件も不要である高橋5版(p199)。従業員が特許権を移転しても、この通常実施権を当然に主張できる高橋5版(p199)

この規定があるのは、職務発明には使用者等も直接間接にその完成に貢献していることを参酌し、従業員等と使用者等の間の衡平性を保つ為である逐条20版(p117)

先使用による通常実施権[編集]

特許出願した発明に対して先使用者がいた場合、先使用者は実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する:

第七十九条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

先使用による通常実施権を先使用権ともいう高橋5版(p199)。先使用者権に対しては対価は不要、対抗要件も不要で、移転後も通常実施権を当然に主張できる高橋5版(p201)

特許権の移転の登録前の実施による通常実施権[編集]

特許権の移転の特例に該当していたときの規定である。そこでまずこの特例について説明する:

特許権の移転の特例[編集]

38条〔共同出願〕の規定

第三十八条〔共同出願〕特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。

に違反した場合、若しくは123条1項6号[冒認出願]の規定

百二十三条 1 六〔冒認出願〕その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき

に該当したとき(123条1項2号、4号)には特例により特許権を真の権利者に逐条20版(p275)移転を請求できる(74条):

(特許権の移転の特例)

第七十四条 1 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。

なお、38条〔共同出願〕への違反の場合には移転されるのはその共同発明者の持ち分である逐条20版(p275)

条文[編集]

第七十九条の二 第七十四条第一項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて、その特許権の移転の登録前に、特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当すること(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。

2 当該特許権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。

解説[編集]

  • 法律要件
    • 主体的要件:以下の条件を全て満たす者A
      • (i) 74条1項の規定による請求に基づく特許権Xの移転の登録の際、現にその特許権X、Xについての専用実施権、若しくはXの許諾による通常実施権を有する
      • (ii) 特許権Xの移転の登録前に、特許が38条〔共同出願〕に違反する事若しくは123条1項6号[冒認出願]に該当することを知らない
      • (iii) 日本国内においてX記載の発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしている
  • 法律効果:Aは以下の範囲内でその特許権について通常実施権を有する。
    • (iii) その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内
  • 対価
    • Xの特許権者は、Aから相当の対価を受ける権利を有する。

特許権が移転されてもこの通常実施権を主張できる(99条)高橋5版(p202)

無効審判の請求登録前の実施による通常実施権[編集]

付与された特許が無効理由を有することを知らずにその発明の実施の事業又は事業の準備をしている者を保護する規定(中用権)が80条に規定されている高橋5版(p202)

条文[編集]

第八十条 次の各号のいずれかに該当する者であつて、特許無効審判の請求の登録前に、特許が第百二十三条第一項各号〔特許無効審判の請求要件〕のいずれかに規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許を無効にした場合における特許権又はその際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。

一 同一の発明についての二以上の特許のうち、その一を無効にした場合における原特許権者

二 特許を無効にして同一の発明について正当権利者に特許をした場合における原特許権者

三 前二号に掲げる場合において、特許無効審判の請求の登録の際現にその無効にした特許に係る特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者

2 当該特許権者又は専用実施権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。

80条において、原特許権者とは無効にされる直前に特許権者であった者をいう逐条20版(p286)

解説[編集]

80条1項の1号、2号、2項の規定は以下のとおりである:

  • 法律要件
    • 主体的要件:主体Aが以下の(i)、(ii)、(iii)を全て満たすこと
      • (i) 特許Xを得た特許権者
      • (ii) Xの特許無効審判の請求の登録前に、特許が特許無効審判の請求要件にあてはまる事を知らない
      • (iii) 日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしている
    • 客体的要件:特許Xに記載されているのと同一の発明Hが以下の1号、2号のいずれかに該当する事
      • 1号 Hがあったことにより、Xが無効になった場合
      • 2号 Xが無効になり、Hについて正当権利者に特許をした場合
  • 法律効果:Aは下記の範囲で発明Hに対する特許権について通常実施権を有する。
    • (iii)で実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内
  • 対価
    • Hの特許権者若しくは専用実施権者は、Aから相当の対価を受ける権利を有する。

上述した1号は、特許Xに記載されているものと同一の発明が他にも特許され、Xが無効になった場合である逐条20版(p286)

それに対し2号は1号と違い、特許Xを無効にして、その後に別の権利者(正当権利者)に特許を付与する場合である逐条20版(p286)。たとえば同一発明Hについて記載されたX、Yが特許出願されたケースにおいて、Xの方が後願だったにも関わらずXが特許され、先願Yについてはまだ係属中である場合が二号に該当する逐条20版(p286)

80条1項3号、2項の規定は以下のとおりである:

  • 法律要件
    • 主体的要件:主体Bが以下の(I)、(II)、(III)を全て満たすこと
      • (I) BはXの特許権についての専用実施権者、又はXの特許権若しくは専用実施権についての通常実施権者
      • (II) (ii)と同一
      • (III) (ii)と同一
    • 客体的条件:特許Xと同一の発明Hが前述した1号、2号のいずれかに該当すること
  • 法律効果 :(I)で通常実施権を許諾したのが特許権者なのか専用実施権者なのかに応じて、Bは下記の範囲内でHの特許権若しくは専用実施権について通常実施権を有する。
    • (II)で実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内
  • 対価
    • (I)の特許権者若しくは専用実施権者は、Bから相当の対価を受ける権利を有する。

なお80条の文言上は

  • 先願が無効になった場合の先願特許権者
  • 後願が無効になった場合の後願特許権者

の両者に1号、2号の中用権が与えられることになる。しかし先願と抵触した後願はそもそも特許実施できないはずであるから、1号の中用権は前者のみに与えられると解釈されるべきである高橋5版(p203)。一方2号に関しては、後願を実施した段階では先願はまだ特許されていない状態にあるので、2号の中用権は前者、後者の双方に与えてもよいことになる高橋5版(p203)

意匠権の存続期間満了後の通常実施権[編集]

ある特許出願Xが出願と同日ないしそれ以前に意匠登録出願された意匠権に抵触し、その意匠権の存続期間が満了したときの規定である。

条文[編集]

第八十一条 特許出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権がその特許出願に係る特許権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その原意匠権者は、原意匠権の範囲内において、当該特許権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
第八十二条 特許出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権がその特許出願に係る特許権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その満了の際現にその意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者は、原権利の範囲内において、当該特許権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。

2 当該特許権者又は専用実施権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。

解説[編集]

81条1項には以下のように規定されている:

  • 法律要件
    • 客体的要件:特許Xの出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権Yが、Xの特許権と抵触する場合
    • 時期的要件:このような意匠権Yの存続期間が満了したとき
    • 主体的要件:Yの意匠権者A
  • 法律効果
    • 原意匠権Yの範囲内で、X又はYの存続期間の満了の際に存ずる専用実施権について通常実施権を有する。
  • 対価

また、81条2項には以下のように規定されている:

  • 法律要件
    • 客体的要件:同上
    • 時期的要件:同上
    • 主体的要件:以下のいずれかに該当する事
      • Yの専用実施権者B
      • Yの意匠権若しくは専用実施権についての通常実施権者C
  • 法律効果
    • 原権利の範囲内において、X又はYの存続期間の満了の際に存ずる専用実施権について通常実施権を有する(82条1項)。
  • 対価
    • BとCはXの特許権者又は専用実施権者に相当の対価を払わねばならない(82条2項)。

対抗要件は不要であり高橋5版(p204)、特許の移転後もこの通常実施権を当然に主張できる高橋5版(p204)

なお本条の規定とは逆に、意匠登録出願のほうが特許出願より早かった場合は、その意匠は実施できない(意匠法26条)。

再審により回復した特許権の効力の制限としての通常実施権[編集]

特許権が再審により回復したとき等の規定で、後用権という。

条文[編集]

第百七十六条 取り消し、若しくは無効にした特許に係る特許権若しくは無効にした存続期間の延長登録に係る特許権が再審により回復したとき、又は拒絶をすべき旨の審決があつた特許出願若しくは特許権の存続期間の延長登録の出願について再審により特許権の設定の登録若しくは特許権の存続期間を延長した旨の登録があつたときは、当該取消決定又は審決が確定した後再審の請求の登録前に善意に日本国内において当該発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。

解説[編集]

  • 法律要件
    • 客体的要件:特許権が以下のいずれかに該当すること:
      • 取り消し、若しくは無効にした特許に係る特許権が再審により回復したとき、
      • 無効にした存続期間の延長登録に係る特許権が再審により回復したとき、
      • 拒絶をすべき旨の審決があつた特許出願について再審により特許権の設定の登録があつたとき
      • 拒絶をすべき旨の審決があつた特許権の存続期間の延長登録の出願について再審により特許権の存続期間を延長した旨の登録があつたとき
    • 時期的要件
      • 当該取消決定又は審決が確定した後
      • 再審の請求の登録前
    • 主体的要件
      • 善意に
      • 日本国内において
      • 当該発明Xの実施である事業Yをしている者又はその事業Yの準備をしている者
  • 法律効果
    • X及びYの目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する

対抗要件も不要である高橋5版(p204)。特許移転後もこの通常実施権を当然に主張できる高橋5版(p204)

審査請求期間徒過後で救済が認められるまでの間の実施による通常実施権[編集]

審査請求期間が過ぎた後でも、正当な理由があれば審査請求できるが、その際すでに当該発明を実施若しくはその準備をしていたものに対する規定である。

条文[編集]

(出願審査の請求)

第四十八条の三 特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。〔中略〕

4 第一項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。

5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。〔中略〕

7 前三項の規定は、第二項に規定する期間内に出願審査の請求がなかつた場合に準用する。

8 第五項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定により特許出願について出願審査の請求をした場合において、その特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、その特許出願が第四項(前項において準用する場合を含む。)の規定により取り下げられたものとみなされた旨が掲載された特許公報の発行後その特許出願について第五項の規定による出願審査の請求があつた旨が掲載された特許公報の発行前に善意に日本国内において当該発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。

解説[編集]

  • 法律要件:
    • 時期的要件:以下で説明する(A)の特許公報発行後、(B)の特許公報が発行前で、しかも(C)が起こった
      • (A) 特許出願の審査請求をしなければならない期限内に審査請求しなかったため出願を取り下げたものとみなされて(48条の3第4項、同条7項に規定された同条5項に対する同条4項の準用)その旨が掲載された特許公報の発行され、
      • (B)その後、期限内に審査請求できなかった正当な理由を提出して審査請求をして(48条の3第5項)その旨が掲載された特許公報が発行され、
      • (C)しかもその特許権の設定の登録があった
    • 主体的要件:
      • 善意に
      • 日本国内において当該発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者
  • 法律効果:
    • その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内でその特許権について通常実施権を有する

対抗要件も不要である高橋5版(p205)

裁定通常実施権[編集]

裁定通常実施権は裁定という行政処分により強制的に設定される通常実施権の事で高橋5版(p187)強制実施権とも呼ばれる高橋5版(p187)。ただし裁定通常実施権は2014現在まで一度も活用されたことがない高橋5版(p187)

不実施の場合の通常実施権[編集]

出願から4年経過後、日本国内で継続して3年以上適当に実施されていない場合に対する規定である。

条文[編集]

第八十三条 特許発明の実施が継続して三年以上日本国内において適当にされていないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。ただし、その特許発明に係る特許出願の日から四年を経過していないときは、この限りでない。

2 前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。

なお、83条2項の「協議が成立せず」は「協議をしたにもかかわらず成立しなかった」場合を指し、「協議をすることができないとき」は「相手方が協議に応じない等の理由で協議をすることができない」場合を指す逐条20版(p291, 159)

解説[編集]

  • 法律要件
    • 客体的条件:特許Xが以下の条件を両方満たす事
      • 日本国内で継続して3年以上適当に実施されていない
      • 特許出願の日からの期間が4年を超えた
  • 法律効果
    • 通常実施権を許諾するようXの特許権者又は専用実施権者に協議を求めることができる(83条1項)
    • 協議が成立しなかったり、そもそも協議ができない場合は、特許庁長官の裁定を請求できる(83条2項)

「継続して3年以上」であるので、過去にXを実施したことがあっても、その実施を終了して3年が経過すれば本条が適応される逐条20版(p291)

一方、3年以上Xを実施していない期間が過去にあったとしても、現在実施していれば本条は適用されない逐条20版(p291)

自己の特許発明を実施するための通常実施権[編集]

取得した特許権が他人の特許発明、登録実用新案、登録意匠等に抵触したときの規定である。

条文[編集]

(他人の特許発明等との関係)

第七十二条 特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその特許権がその特許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特許発明の実施をすることができない。

(自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定)

第九十二条 特許権者又は専用実施権者は、その特許発明が第七十二条に規定する場合に該当するときは、同条の他人に対しその特許発明の実施をするための通常実施権又は実用新案権若しくは意匠権についての通常実施権の許諾について協議を求めることができる。

2 前項の協議を求められた第七十二条の他人は、その協議を求めた特許権者又は専用実施権者に対し、これらの者がその協議により通常実施権又は実用新案権若しくは意匠権についての通常実施権の許諾を受けて実施をしようとする特許発明の範囲内において、通常実施権の許諾について協議を求めることができる。

3 第一項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許権者又は専用実施権者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。

4 第二項の協議が成立せず、又は協議をすることができない場合において、前項の裁定の請求があつたときは、第七十二条の他人は、第七項において準用する第八十四条の規定によりその者が答弁書を提出すべき期間として特許庁長官が指定した期間内に限り、特許庁長官の裁定を請求することができる。

5 特許庁長官は、第三項又は前項の場合において、当該通常実施権を設定することが第七十二条の他人又は特許権者若しくは専用実施権者の利益を不当に害することとなるときは、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。

6 特許庁長官は、前項に規定する場合のほか、第四項の場合において、第三項の裁定の請求について通常実施権を設定すべき旨の裁定をしないときは、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。

7 第八十四条〔答弁書の提出〕、第八十四条の二〔通常実施権者の意見の陳述〕、第八十五条第一項〔審議会の意見の聴取〕及び第八十六条から前条まで〔裁定の方式等〕の規定は、第三項又は第四項の裁定に準用する。

解説[編集]

発明に対して特許権Xが与えられたとしても、その発明がそれに先行する他人Bの特許発明、登録実用新案、登録意匠、若しくは登録意匠に類似する意匠を利用する場合は、業としてその特許発明の実施をすることができない(72条)。同様に特許権Xがそれに先行する他人Bの意匠権若しくは商標権と抵触するときも業としてその特許発明の実施をすることができない(同条)。

しかし、72条の規定に該当する場合には、以下の92条の規定が適用される:

  • 1項 - Xの特許権者又は専用実施権者であるAは、Xを実施するための通常実施権又は実用新案権若しくは意匠権についての通常実施権を許諾するようBに協議を求めることができる。
  • 2項 - Bはこのような協議を求められたら、AがBから通常実施権の許諾を受けて実施する特許発明内の範囲内において、通常実施権を許諾するようAに協議を求めることができる
  • 3項 - 1項の協議が成立しない若しくはそもそも協議をすることができないときは、Xの特許権者Aや専用実施権者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。なお、この裁定には、以下の規定を準用する。後述する4項でも同様である(7項)
    • 84条〔答弁書の提出〕、84条の2〔通常実施権者の意見の陳述〕、85条1項〔審議会の意見の聴取〕及び86条から前条まで〔裁定の方式等〕
  • 4項 - 同様に2項の協議が成立しない若しくはそもそも協議をすることができないときで、しかも3項の裁定の請求があったときは、Bは答弁書を提出すべき期間として特許庁長官が指定した期間内に限り、特許庁長官の裁定を請求することができる。

3項、4項の裁定請求に対して特許庁長官は、以下を守らねばならない:

  • 5項 - 通常実施権を設定することがB、A、もしくは専用実施権者の利益を不当に害することとなるときは、通常実施権を設定すべきとの裁定をすることはできない
  • 6項 - 3項の裁定請求で通常実施権の設定を裁定しなかったときは、4項の裁定請求でも通常実施権の設定を裁定できない。

公共の利益のための通常実施権[編集]

条文[編集]

第九十三条 特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。

2 前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、経済産業大臣の裁定を請求することができる。

解説[編集]

特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、通常実施権を許諾するよう特許権者又は専用実施権者に協議を求める事ができる。しかし協議が成立しない若しくは協議をすることができないときは、経済産業大臣の裁定を請求できる。

裁定に関しては以下の準用規定がある。

第九十二条 7 第八十四条〔答弁書の提出〕、第八十四条の二〔通常実施権者の意見の陳述〕、第八十五条第一項〔審議会の意見の聴取〕及び第八十六条から第九十一条の二〔裁定の方式等〕の規定は、前項の裁定に準用する。

仮専用実施権・仮通常実施権[編集]

特許を受ける権利に基づき、仮専用実施権・仮通常実施権が設けられている(34条の2、34条の3)。当該特許権の設定登録があったときはそれぞれ専用実施権・通常実施権が設定・許諾されたものとみなされる。

設定・許諾[編集]

特許を受ける権利を有するものは、仮専用実施権・仮通常実施権は特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内に対して設定できる。

第三十四条の二 1 特許を受ける権利を有する者は、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、その特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、仮専用実施権を設定することができる。
第三十四条の三 1 特許を受ける権利を有する者は、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、その特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、他人に仮通常実施権を許諾することができる。

また仮専用実施権者は特許を受ける権利を有する者の承諾をえれば、他人に仮通常実施権を許諾できる:

第三十四条の二 4 仮専用実施権者は、特許を受ける権利を有する者の承諾を得た場合に限り、その仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権について、他人に仮通常実施権を許諾することができる。

特許を受ける権利が複数の者で共有されているときの規定は下記のとおりである:

第三十三条 4 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定し、又は他人に仮通常実施権を許諾することができない。

特許登録後[編集]

当該特許権の設定登録があったときは、仮専用実施権者・仮通常実施権者にはそれぞれ専用実施権・通常実施権が設定・許諾されたものとみなされる:

第三十四条の二 2 仮専用実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、その特許権について、当該仮専用実施権の設定行為で定めた範囲内において、専用実施権が設定されたものとみなす。
第三十四条の三 2 前項の規定による仮通常実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、当該仮通常実施権を有する者に対し、その特許権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、通常実施権が許諾されたものとみなす。

3 前条第二項の規定により、同条第四項の規定による仮通常実施権に係る仮専用実施権について専用実施権が設定されたものとみなされたときは、当該仮通常実施権を有する者に対し、その専用実施権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、通常実施権が許諾されたものとみなす。

移転[編集]

仮専用実施権は、

  • 発明の実施の事業とともにする場合、
  • 特許を受ける権利を有する者の承諾を得た場合
  • 相続その他の一般承継の場合

のいずれかに該当する場合に限り、移転することができる。

仮通常実施権の場合も同様であるが、仮専用実施権者の許諾を得て仮通常実施権を取得した場合は、移転に際して特許を受ける権利を有する者と仮専用実施権者の両方の承諾を得なければならない:

第三十四条の二 3 仮専用実施権は、その特許出願に係る発明の実施の事業とともにする場合、特許を受ける権利を有する者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
第三十四条の三 4 仮通常実施権は、その特許出願に係る発明の実施の事業とともにする場合、特許を受ける権利を有する者(仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権についての仮通常実施権にあつては、特許を受ける権利を有する者及び仮専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。

分割[編集]

別段の定めがない限り、分割出願された場合には、分割された方にも仮専用実施権、仮通常実施権がおよぶ。

第三十四条の二 5 仮専用実施権に係る特許出願について、第四十四条第一項の規定による特許出願の分割があつたときは、当該特許出願の分割に係る新たな特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、当該仮専用実施権の設定行為で定めた範囲内において、仮専用実施権が設定されたものとみなす。ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
第三十四条の三 6 仮通常実施権に係る特許出願について、第四十四条第一項の規定による特許出願の分割があつたときは、当該仮通常実施権を有する者に対し、当該特許出願の分割に係る新たな特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、仮通常実施権が許諾されたものとみなす。ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

国内優先(仮通常実施権のみ)[編集]

特許出願Aにもとづいて国内優先で別の特許出願Bを行った場合は、別段の定めがない限り、Aの仮通常実施権者はBの仮通常実施権も獲得できる。

実用新案法に対する仮通常実施権でも同様である。一方仮専用実施権に対しては同種の規定はない。

第三十四条の三 5 第一項若しくは前条第四項又は実用新案法第四条の二第一項 の規定による仮通常実施権に係る第四十一条第一項 の先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(当該先の出願が第三十六条の二第二項の外国語書面出願である場合にあつては、同条第一項の外国語書面)に記載された発明に基づいて第四十一条第一項の規定による優先権の主張があつたときは、当該仮通常実施権を有する者に対し、当該優先権の主張を伴う特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、仮通常実施権が許諾されたものとみなす。ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

同じ状況下、Bに仮専用実施権が設定されたとみなされたときは、別段の定めがない限り、Aの仮専用実施権者から仮通常実施権を得た者にもBの仮通常実施権を与える:

第三十四条の三 7 前条第五項本文の規定により、同項に規定する新たな特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権についての仮専用実施権(以下この項において「新たな特許出願に係る仮専用実施権」という。)が設定されたものとみなされたときは、当該新たな特許出願に係るもとの特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権についての仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権についての仮通常実施権を有する者に対し、当該新たな特許出願に係る仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、仮通常実施権が許諾されたものとみなす。ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

出願変更(仮通常実施権のみ)[編集]

実用新案登録出願若しくは意匠登録出願に仮通常実施権が与えられている場合、当該実用新案登録出願若しくは意匠登録出願を特許出願に切り替えた場合には、別段の定めがない限り、その特許出願に仮通常実施権が与えられる。

第三十四条の三 8 実用新案法第四条の二第一項 の規定による仮通常実施権に係る実用新案登録出願について、第四十六条第一項の規定による出願の変更があつたときは、当該仮通常実施権を有する者に対し、当該出願の変更に係る特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、仮通常実施権が許諾されたものとみなす。ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

9 意匠法 (昭和三十四年法律第百二十五号)第五条の二第一項 の規定による仮通常実施権に係る意匠登録出願について、第四十六条第二項の規定による出願の変更があつたときは、当該仮通常実施権を有する者に対し、当該出願の変更に係る特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、仮通常実施権が許諾されたものとみなす。ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

放棄(仮専用実施権のみ)[編集]

仮通常実施権を設定したことがある仮専用実施権者は、その仮通常実施権者の承諾を得た場合のみ、仮専用実施権を放棄できる:

第三十四条の三 7 仮専用実施権者は、第四項又は次条第七項本文の規定による仮通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その仮専用実施権を放棄することができる。

消滅[編集]

特許が成立した場合には、仮専用実施権、仮通常実施権は消滅し、それぞれ専用実施権、通常実施権になる。また特許出願の放棄、取り下げ、却下、拒絶査定、若しくは拒絶審決によって仮専用実施権と仮通常実施権は消滅する:

第三十四条の二 6 仮専用実施権は、その特許出願について特許権の設定の登録があつたとき、その特許出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき又はその特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、消滅する。
第三十四条の三 10 仮通常実施権は、その特許出願について特許権の設定の登録があつたとき、その特許出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき又はその特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、消滅する。

また、仮専用実施権に基づく仮通常実施権は、仮専用実施権が消滅したときは消滅する:

第三十四条の三11項 前項に定める場合のほか、前条第四項の規定又は第七項本文の規定による仮通常実施権は、その仮専用実施権が消滅したときは、消滅する。

その他[編集]

仮専用実施権、仮通常実施権には下記の規定を準用する:

第三十四条の二 8 第三十三条第二項から第四項までの規定は、仮専用実施権に準用する

第三十四条の三12項 第三十三条第二項及び第三項の規定は、仮通常実施権に準用する。

よって仮専用実施権、仮通常実施権は質権の目的にできない。また仮専用実施権、仮通常実施権を共有しているときは自身の持ち分を譲渡するには他の共有者の同意がいる。さらに、仮専用実施権を共有しているときは、他の共有者の同意がない限り、他人に仮通常実施権を許諾できない。

第三十三条 2 特許を受ける権利は、質権の目的とすることができない。

3 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。

4 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定し、又は他人に仮通常実施権を許諾することができない。

脚注[編集]

参考文献[編集]