優先権

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知的財産法 > 優先権
優先権制度を利用した特許出願の例。甲は、X国において発明aについて特許出願Aをした(2008年4月)。さらに甲は、Y国において、X国でした特許出願Aを基礎として優先権を主張し、同一発明aについて特許出願Bをした(2008年12月)。一方、乙は、甲とは独立に同一発明aを考えついたので、2008年6月に発明aについて特許出願Cをした。このとき、Y国では、甲の出願Bが乙の出願Cの後となるが、出願Bは、出願Cの存在を理由として拒絶されず、逆に出願Cは出願Bの存在を理由として拒絶される。

産業財産権法における優先権(ゆうせんけん)とは一般に、ある出願(先の出願、第1国出願、基礎出願など)に対し、同じ出願人(もしくはその承継人)による同一性のある別の出願(後の出願、第2国出願など)が、先の出願と後の出願との間の期間に行われた行為(例:他出願、当該発明の公表・実施等)によって不利な取り扱いを受けない権利。(先の出願の時にされたものと取り扱われる、あるいは出願日の遡及は誤り。)出願人(承継人)の有する権利であり、存続期間(優先期間)は限定されている。優先権は、優先権を認める何れかの国に出願をした時点で発生(成立)する。優先権を主張する場合は、先の出願から優先期間内に後の出願をし、その後の出願の際に先の出願を特定して優先権を主張する意思を表示する必要がある。先の出願以後に他人が同じ発明について出願をした、または実施した(普通なら先使用権が発生する)としてもそれを無効とする効果がある。後の出願より時間的に早い先の出願の日(優先日)を基準に新規性進歩性などの特許要件が判断されるので、審査において有利となる。すなわち、優先権を主張した後の出願に対する先行技術としては、後の出願時点で公知の技術ではなく、先の出願時点で公知とされていた技術を意味することになる。

具体的には、

  • 国際的優先権:単に優先権といえばこれを意味する。条約や国際協定に基づき、最初に出願した国(第1国)とは異なるの国(第2国)において、第1国出願時に出願したと同じ取扱いがなされる(ただし、出願日は遡及しない)。
  • 国内優先権:国内法規で規定され、同じ国で先の出願と同一性のある後の出願が、先の出願の時に出願したとみなされる。

の二つがあり、一般には異なる目的で利用されている。

特許制度は各国ごとに規定されており、特許権の効力も各国の国内にしか及ばないので(属地主義)、発明等により特許等を受ける権利が発生しても、特許を取得するには必要な全ての国で出願しなければならない。しかし、他国に出願するためには、各国語への翻訳や必要書類の準備、代理人の選定などに時間がかかるため、この間に他者に先を越されれば権利を取得できず著しく不利益となる。これを避けるために優先権制度が設けられた。

国際優先権[編集]

工業所有権の保護に関するパリ条約#優先権制度も参照

この優先権は、基本的には工業所有権の保護に関するパリ条約に定められているので、パリ優先権ともいう。パリ条約ではこの条約の同盟国で正規に行った表の左側の出願に対し、表の右側の優先期間だけ優先権が与えられる(パリ条約4条A(1)、C(1)):

出願 優先期間
特許出願 12ヶ月
実用新案の登録出願 12ヶ月
意匠の登録出願 6ヶ月
商標の登録出願 6ヶ月

なお、パリ条約でいう「商標」はいわゆる商品商標のみを指し、役務商標(サービス・マーク)を含まないので、役務商標に優先権を与える義務は追わないが注解68(p31)、望むなら与える事は自由である注解68(p31)

出願の種類をまたがって優先権が可能な場合もある:

  • 実用新案登録出願を基礎として、意匠登録を優先権出願できる。この場合の優先期間は意匠のもの(6ヶ月)である(パリ条約4条E(1))
  • 実用新案登録出願を基礎として、特許を優先権出願できる(パリ条約4条E(2))
  • 逆に特許出願を基礎として、実用新案登録を優先権出願できる(パリ条約4条E(2))

優先権が与えられる為の要件[編集]

主体的要件[編集]

  • 優先権が与えられる主体は、その優先権の基礎となる出願注解68(p32)をした者又はその承継人である(パリ条約4条A(1))。
  • 主体は同盟国民、同盟国の領域内に住所又は現実かつ真正の工業上若しくは商業上の営業所を有するものである事注解68(p32) (パリ条約2条、3条)。ただし国内法規でそれ以外の者を主体とする旨を定めても良い注解68(p32)

第一国出願に関する要件[編集]

  • 「正規の国内出願」である事(パリ条約4条A(1))。
    • 「正規の国内出願」とは、結果のいかんを問わず、当該国に出願をした日付を確定するために十分なすべての出願をいう(パリ条約4条A(3))。
    • なお、各同盟国の国内法令又は(2つ若しくは多数の)同盟国の間で締結された条約により「正規の国内出願」とされるすべての出願は、優先権を生じさせる(パリ条約4条A(2) )。
  • 「最初の出願」である事
    • 優先権は最初の出願から生じるので、同じ事項が後の出願に書いてあっても、後の出願からは優先権が生じない注解68(p54)
    • これは優先権主張の連鎖を避ける為の規定である注解68(p31)
    • 「最初の出願」の認定に、同盟国以外の国への出願は考慮に入れない注解68(p31)
  • 同盟国への出願である事(パリ条約4条A(1))
    • よって条約に加入前の国に出願された特許は優先権の基礎にできない注解68(p30)

なお、第一国出願は正規の出願でありさえすれば、取り下げ、放棄又は拒絶があったとしても優先権の基礎とできる注解68(p35)。それに対し後述する国内優先では、これらの場合には優先権の基礎とできないので注意が必要である(特28年四十一条1項三号)。

なお、第一国出願が最初の出願でなければならないという規定には例外がある(パリ条約4条C(4) )。最初の出願Aが公衆の閲覧に付されないで、いかなる権利をも存続させず、さらにAがまだ優先権の主張の基礎とされていない場合、Aが放棄され又は拒絶の処分を受けた後に、Aと同一対象について同一同盟国へ出願された出願A’を優先権の基礎とできる(同項)。この場合、Aは優先権の主張の基礎とすることができない(同項)。

第二国出願に関する要件[編集]

  • 第一国出願と同一の対象に関するものである事
    • 出願が特許、実用新案、意匠、商標の場合はそれぞれ、同一の発明、考案、商品、商標でなければならない注解68(p33)
  • 条約加入後の出願を基礎とする事
    • 条約加入後の国Yでも、Yが条約加入前に他国Xで出願された特許を基礎として優先権出願する事はできない(別途国内法を定めない限り)注解68(p30)
  • 第二国は第一国の他の同盟国でなければならない(パリ条約4条B)

出願Aを基礎として優先権出願Bをする際、Bの特許請求の範囲として、Aに記載されていないものを加えても良い(パリ条約4条H)。ただしそれがAの出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る(同項)。

生じる権利[編集]

同盟国Yにおける出願Bをする際、同盟国XでB以前にした出願Aを基礎として、優先権を主張した場合、Aの出願日(=優先日)からBの出願までに行われた行為、例えば

  • 他の出願、
  • 当該発明の公表又は実施、
  • 当該意匠に係る物品の販売、
  • 当該商標の使用等

によって出願Bは不利な取扱いを受けない(パリ条約4条B)。優先日以前に第三者が取得した権利に関しては、各同盟国の国内法令の定めるところによる(同項)。

同盟国Yとして日本を選んだ場合は、以下のものに対して、優先日をその判断の基準となる日とする審査基準27年度:第V部1章2.4

  • 新規性(特28年二十九条1項)
  • 進歩性(特28年二十九条2項)
  • 拡大先願(特28年二十九条の二)
  • 先願(特28年三十九条1~4項)
  • 以上のものに対する独立特許要件(特28年百二十六条7項を準用した同法十七条の二6項)

複合優先・部分優先[編集]

複数の第一国出願(2以上の国においてされた出願に基づくものを含む)を基礎として同盟国Yに優先権出願する事も可能であり(パリ条約4条F)、これを複合優先という。ただしこれらの出願は同盟国Yの法令上発明の単一性がなければならない(同項)。

また同盟国Yに出願する際、第一国出願には含まれていなかった構成部分を含んでもよく(パリ条約4条F)、この場合、第一国出願に含まれていた部分のみに優先権が付与される。これを部分優先という。 第一国出願に含まれていなかった部分を基礎として、さらに別の優先権出願を行うことも可能である(同項)。

優先権出願方法の詳細[編集]

同盟国Yにおける出願Bをする際に優先権出願をするには、

  • 優先権の基礎とする出願Aを行った同盟国名X
  • Aの出願の日付

を明示して申立てしなければならない(パリ条約4条D(1) )。申立て期限は各国が定め(同項)、申し立てられた国名Xと日付は、権限のある官庁が発行する刊行物(特に特許及びその明細書に関するもの)に掲載する(パリ条約4条D(2) )。

優先権出願の申し立てを受けた同盟国Yは、出願人に対し、

  • 明細書や図面などAの出願書類の謄本

の提出を要求できる(パリ条約4条D(3) )。謄本はAを受理したX国の主管庁の認証があれば、いかなる公証も必要としない(同項)。提出料は3箇月以内ならいつでも無料である(同項)。また

  • 出願の日付をX国の主管庁が証明する書面
  • 翻訳文

を謄本に添付するようY国は要求できる(同項)。Y国は以上で述べた手続以外に優先権の申立て手続を要求できない(パリ条約4条D(4) )。また優先権出願の出願人が以上で述べた手続を行わなかった場合の効果をY国は規定できるが、その効果は,優先権の喪失を限度とする(同項)。

Y国は出願後には他の証拠書類の提出を要求できる(パリ条約4条D(5) )。優先権出願の出願人は優先権の基礎とする出願Aの出願の番号を明示するものとし、この番号は官庁が発行する前述した刊行物で公表される(同項)。

優先権出願方法の詳細(日本の特許法の場合)[編集]

パリ条約による優先権主張の手続[編集]

日本を第二国として優先権特許出願する場合、以下のものを記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない(特28年 四十三条1項)。

  • 優先権出願する旨
  • 基礎となる出願した国名
  • 基礎となる出願した年月日

なお、第一国出願はパリ条約4条C(4)若しくはA(2)の規定により、第一国出願だと見做された若しくは認められたものであってもよく、その場合の出願日等は同項のものに読み替える(以下同様)。

優先権出願した者は、

  • 基礎となる出願をした同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面
  • その出願の際の書類で明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面に相当するものの謄本

を次の各号に掲げる日のうち最先の日から一年四月以内に特許庁長官に提出しなければならない(特28年 四十三条2項)。なお、謄本の代わりにそれと同様な内容を有する公報若しくは証明書で、その同盟国の政府が発行したものを提出しても良い(同項)。

  • (一号) 基礎となる出願の出願日
  • (二号) その特許出願が第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う場合における当該優先権の主張の基礎とした出願の日
  • (三号) その特許出願が前項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による他の優先権の主張を伴う場合における当該優先権の主張の基礎とした出願の日

なお、複合優先の場合は、基礎となる出願の中で最先の日が一号の出願日として起算される逐条20版(p177)。 第一国若しくは工業所有権に関する国際機関と電磁的方法によって書類を提出可能であると経済産業省令で定める場合には、必要書面を提出することで上述の書類の代わりにできる(特28年 四十三条5項)。

優先権出願した者は、上述した書類とともに

  • 基礎となる出願の出願番号を記載した書面

を特許庁長官に提出しなければならない(特28年 四十三条3項)。ただし書類提出時に出願番号を知ることができないときは、その理由を記載した書面を代わりに提出し、出願番号を知ったときは遅滞なく、その番号を記載した書面を提出しなければならない(同項)。

期限Tまでに書類の提出がないときは、特許庁長官は出願人にその旨を通知する(特28年 四十三条6項)。通知を受けた者は経済産業省令で定める期限Uまでなら、書類を提出できる(特28年 四十三条7項)。その責めに帰することができない理由により期限Uまでに書類を提出できない場合は、経済産業省令で定める期間内に、書類を提出できる(特28年 四十三条8項)。

それでも書類を提出しないときは、優先権主張の効力を失う(特28年 四十三条4項、9項)。

パリ条約の例による優先権主張[編集]

パリ条約に定める優先期間内に日本に優先権特許出願できなかった場合であっても、正当な理由があり、かつ、経済産業省令で定める期間内にその特許出願をしたときは、優先権を認める(特28年第四十三条の二1項)。この場合の書類提出に関する規定は通常の優先権の書類提出の規定を準用する(特28年第四十三条の二2項)。

期間の計算[編集]

  • 優先期間は、最初の出願の日から開始する。出願の日は期間に算入しない(パリ条約4条C(2) )。
  • 優先期間は、その末日が保護の請求される国において法定の休日又は所轄庁が出願を受理するために開いていない日に当たるときは、その日の後の最初の就業日まで延長される(パリ条約4条C(3) )。

出願の分割[編集]

出願人は自らの意志によって、若しくは審査により特許出願が複合的であることが明らかになった事によって、出願を2以上の出願に分割できる(パリ条約4条G(1)(2))。分割された各出願の出願日は、分割前の原出願の出願日であるとみなす(同条)。原出願が優先権出願である場合は、分割後の出願に対しても優先権の利益を適用する(同条)。 各同盟国は、自らの意志によって分割出願するための条件を規定でいる(パリ条約4条G (2))。

発明者証に関して[編集]

旧ソ連等では逐条20版(p176)「発明者証」という制度を導入しており、この制度のもとでは発明の実施化権が国に属するものの、発明者は国から報奨を受け取る法的書類である「発明者証」が与えられる注解68(p55)。 。

出願人が自己の選択により特許又は発明者証のいずれの出願をもすることができる同盟国においては、発明者証の出願は特許出願の場合と同一の条件で優先権が生じる(パリ条約4条I(1))。またそのような国における発明者証の出願人は特許出願,実用新案登録出願又は発明者証の出願に基づく優先権の利益を享受する(パリ条約4条I(2))。

なお、同盟国に「自己の選択により…」という条件がついているのは、一般的に発明者証は特許権よりも有用性が少ないと信じられているので、特許付与せず発明者証のみを与える国には相互主義を与えなかったからである注解68(p55)

TRIPs協定による拡張[編集]

世界貿易機関 (WTO) の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPs) では、

第2条(1) 加盟国は,第2部,第3部及び第4部の規定について,1967年のパリ条約の第1条から第12条まで及び第19条の規定を遵守する。

と定めており、さらに内国民待遇(三条)及び最恵国待遇(四条)も規定している。

よって日本の特許法では以下の表で「○」が付いているところに対し、A国民がX国で行った出願に基づく優先権を認めている(特28年第四十三条の三)。 なお、「◎」がついているところに関しては、通常のパリ条約でカバーされている。

パリ条約の同盟国で 世界貿易機関の加盟国で
日本国民が
パリ条約の同盟国の国民が
世界貿易機関の加盟国の国民が

ここで

  • 「パリ条約の同盟国の国民」はパリ条約第三条の規定により同盟国の国民とみなされる者を含む(同法同条)
  • 「世界貿易機関の加盟国の国民」とは世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一C第一条3に規定する加盟国の国民をいう(同法同条)

実用新案法意匠法商標法にこれら(一部を除く)が準用される。

中華民国台湾)はパリ条約と特許協力条約には加盟していないがWTOに加盟しているので優先権が認められる(かつては日本との協定により互いに優先権が認められていた)。

その他[編集]

植物品種育成者権の出願に関しても、UPOV条約12条(日本の種苗法11条)で同様の優先権が認められている。

他の条約・協定による優先権[編集]

国際的出願における優先権は、パリ条約19条の「特別の取極」に当たる特許協力条約(PCT)、欧州特許条約(EPC)やユーラシア特許条約のような条約・協定により、基本的にはパリ条約に基づく優先権として規定されている。

特許協力条約[編集]

特許協力条約(PCT)は世界の多くの国が締約しており、国際出願といえば普通はPCTによる出願を意味する(2条(vii);その他の条約等によるものは広域出願という)。8条(1)で、国際出願(PCT出願)に関する優先権主張を認めている。優先権主張の条件と効果は指定国の国内法令による。PCT出願では、パリ条約のみによる出願と異なり、優先権の基礎になる最初の出願から12月の優先期間内にいずれかの締約国で対象国を指定した国際出願をすれば(現在は明記しなければ全締約国を指定したものとみなす:PCT規則4.9(a))、その時点で優先日に指定各国へ出願したのと同じ効果が得られる。国際出願自体を優先権の基礎としてもよい(国際出願の日が優先日となる)。さらに、各国の国内手続(翻訳文の提出など)はその後の国ごとに決められた期限内(例えば日本では優先日から30月以内)に行えばよいので、パリ条約のみによる出願よりも時間的余裕がある。日本では特許法184条の3、実用新案法48条の3に、PCTによる優先権に関連した規定がある。

なお、優先権を主張して出願したのと同じ国を指定国とした場合(自己指定)、その国内における優先権が主張できることになるが、実際には国内法規による(国内優先権制度があれば認められる:8条(2)(b))。

欧州特許条約[編集]

欧州特許条約(EPC)では第87条から第89条で特許や実用新案の出願等に関する優先権を規定している。第87条(1)は、パリ条約同盟国またはWTO加盟国内またはそれらへの最初の出願から12月の優先権を認めている。第89条は優先日が欧州特許への出願日とみなされる効果を規定している。審査と登録はまとめて行われるが、その後の運用は各国に任される。

国内優先権[編集]

一部の国では国内における優先権(国内優先権)を法的に定めている。これは元来、国際的に認められた優先権制度に関して国内的にもバランスをとるという意味がある。

例えば、日本では特許法41条、実用新案法8条に国内優先権が規定されている。

これにより、ある出願(先の出願)から1年以内に、それを基礎として指定し別の出願をすることができる(複数の出願を指定することもでき、その場合最先の出願日が優先日になる)。先の出願から1年4月経過すると先の出願は取り下げたとみなされる(特許法42条1項、同法施行規則28条の4第2項(実用新案法施行規則23条2項で読み替えて準用)、実用新案法9条1項。なお先の出願をPCT・国内で共に優先権の基礎としていた場合には、国内でのみなし取り下げとともに国際的にも取り下げたとみなされるので、PCT出願時に日本への指定を除外するか、PCT出願後に日本への指定を取り下げる必要がある)。

先の出願と後の出願には内容の同一性が必要であるが、後の出願内容は先の出願内容を基本として発展させた形であることが認められる。出願後の補正では新規の内容の追加は認められないのに対し(特許法17条の2第3項)、優先権を主張して新たに出願する場合にはこれが可能である。しかも、新規性や進歩性の判断は先の出願時点に遡って行われるので、優先期間に先の出願内容に相当する発明等が公知化または他者により出願されても、それらを理由として拒絶されることはない(特許法41条2項)。従って、先の出願後にその内容を上位概念に拡張できる(より広い権利が期待できる)ことがわかった場合や、本質的に共通する複数の出願を統合したい場合などに、国内優先権がよく利用される。ただし、新規追加部分に関しては国内優先権は認められないので(特許法第41条2項参照)、新規追加部分の新規性や進歩性の有無は、後の出願の出願時を基準として判断される。平成14年(行ケ)第539号「人工乳首事件」 (PDF) は、実施例を補充し特許請求の範囲は実質上変更していないにもかかわらず、国内優先権の主張が否認された例として評価されている裁判例である。


特許権の存続期間は後の出願を起点とするので、先の出願から見れば国内優先権の主張により特許権を「延命」させる効果がある。

日本の特許法の場合[編集]

特許出願人は、自身が出願した特許又は実用新案登録を基礎として国内優先権出願できる(特28年四十一条1項柱書)。

国内優先権出願する者は、その旨及び基礎となる出願の表示を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない(特28年四十一条4項)。

なお、

  • 優先権出願の基礎となる出願は、基礎となる出願の出願日から経済産業省令で定める期間を経過した時に取り下げたものとみなす(特28年四十二条1項)。
    • ただし基礎となる出願がすでに放棄、取り下げ、却下、査定、審決確定、若しくは実用新案登録されている場合や、優先権の主張が取り下げられている場合には、この限りでない(同項)。
  • 基礎となる出願の出願日から経済産業省令で定める期間を経過した後は、優先権の主張を取り下げることができない(特28年四十二条2項)。
  • 優先権出願がその基礎となる出願の出願日から経済産業省令で定める期間内に取り下げられたときは、同時に当該優先権の主張が取り下げられたものとみなす(特28年四十二条3項)。

国内優先権を主張する上での要件[編集]

時期的要件[編集]
  • 国内優先権出願はその基礎となる出願の日から一年以内にされたねばならない(特28年四十一条1項1号)。ただし一年以内にすることができなかつたことについて正当な理由がある場合であつて、かつ、その特許出願が経済産業省令で定める期間内にされたものである場合を除く(同項同号)。
主体的要件[編集]
  • 国内優先権出願の出願人とその基礎となる出願の出願人が同一であること(特28年四十一条1項柱書)
  • 基礎とする出願の仮専用実施権者(もしいれば)の承諾を得ている事(同項柱書)。
基礎となる出願に関する要件[編集]

以下の場合は国内優先権を主張できない(特28年四十一条1項二号~五号):

  •  基礎となる出願が以下のいずれかに該当する場合
    • 出願の分割の子出願(第四十四条第一項)
    • 実用新案登録若しくは意匠登録からの変更による特許出願(第四十六条第一項若しくは第二項)
    • 実用新案登録に基づく特許出願(第四十六条の二第一項)
    • 実用新案登録出願の分割の子出願(実用新案法第十一条第一項 において準用する特許法第四十四条第一項)
    • 特許若しくは意匠登録からの変更による実用新案登録出願(実用新案法第十条第一項 若しくは第二項)
  • 基礎となる出願の特許出願の際に、放棄され、取り下げられ、又は却下されている場合
  • 基礎となる出願の特許出願の際に、査定又は審決が確定している場合
  • 基礎となる出願の特許出願の際に、実用新案法第十四条第二項 に規定する設定の登録がされている場合

なお、パリ優先権の場合とは違い、基礎となる出願は最初の出願でなくとも良い審査基準27年度:第V部2章2.3

後の出願に対する要件[編集]
  • 国内優先権出願は、その基礎となる出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲、図面、外国語書面(外国語書面出願の場合)に記載された発明に基づいていなければならない(特28年四十一条1項柱書)。

生じる権利[編集]

本節では、以下のものを「明細書等」と呼ぶことにする:

  • 明細書
  • 特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲
  • 図面
  • 外国語書面(外国語書面出願の場合)

国内優先権出願をした場合、その基礎となる出願の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明に関しては、以下のものは基礎となる出願の出願時を基準として判断する(特28年四十一条2項)。ただしもちろん、基礎となる出願Xそれ自身が(国内若しくは国際)優先権出願の場合、Xの基礎となる出願Yにも書かれている発明はYの出願時を基準として判断する(同項):

  • 特許法
    • 第二十九条〔新規性(公知、公用、刊行物記載)、進歩性〕
    • 第二十九条の二本文〔拡大先願〕、
    • 第三十条第一項及び第二項〔発明の新規性の喪失の例外を認めてもらうための六ヶ月〕、
    • 第三十九条第一項から第四項まで〔先願〕、
    • 第六十九条第二項第二号〔特許権の効力が及ばない範囲の「特許出願の時から日本国内にある物」の判断〕、
    • 第七十二条〔他人の特許発明等との関係における「出願の日前の出願に係る他人の特許発明等への抵触」の判断〕、
    • 第七十九条〔先使用による通常実施権〕、
    • 第八十一条、第八十二条第一項〔意匠権の存続期間満了後の通常実施権〕、
    • 第百四条〔生産方法の推定〕(第六十五条第六項(第百八十四条の十第二項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)
    • 第百二十六条第七項〔訂正審判における訂正後における特許請求の範囲が特許出願の際の独立特許要件を満たす事の判断〕(第十七条の二第六項、第百二十条の五第九項及び第百三十四条の二第九項において準用する場合を含む。)、
  • 実用新案法
    • 第七条第三項〔先願〕
    • 第十七条 〔他人の登録実用新案等との関係〕、
  • 意匠法
    • 第二十六条 〔他人の登録意匠等との関係〕、
    • 第三十一条第二項及び第三十二条第二項〔意匠権等の存続期間満了後の通常実施権〕
  • 商標法 (昭和三十四年法律第百二十七号)
    • 第二十九条〔他人の特許権等との関係〕
    • 第三十三条の二第一項及び第三十三条の三第一項 〔特許権等の存続期間満了後の商標の使用をする権利〕(これらの規定を同法第六十八条第三項 において準用する場合を含む。)

なお、拡大先願の判断には、出願公開の発行が関係するが、優先権出願の基礎となった出願はみなし取り下げとなるので(特28年四十二条1項)、基礎となる出願をベースに拡大先願の判断ができなくなってしまう。そこで優先権出願の方の特許掲載公報の発行又は出願公開があった事をもって、その基礎となる出願が出願公開されたものとみなす(特28年四十一条3項)。実用新案法の拡大先願に関しても同様である(同項)。

参考文献[編集]

引用文献[編集]

その他の参考文献[編集]

  • 国内優先権制度の活用ガイド(創英知的財産研究所著、経済産業調査会)
  • 優先権

関連項目[編集]