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厚生経済学の基本定理

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厚生経済学の基本定理(こうせいけいざいがくのきほんていり、: Fundamental theorems of welfare economics)とは、以下のパレート効率性競争均衡配分の関係について述べた2つの定理のことである。1950年代にケネス・アロージェラール・ドブルーが厳密な数学的証明を与えた。

厚生経済学の第一基本定理
消費者の選好が局所非飽和性を満たせば、競争均衡によって達成される配分はパレート効率的である、というものである。局所非飽和性とは、どんなにわずかにでも消費量の増減が許されるならば、より好ましい消費量を実現できるという仮定である。
厚生経済学の第二基本定理
局所非飽和性に加え選好の凸性などのしかるべき追加的条件の下で、任意のパレート効率的配分は、適当な所得分配を行うことによって競争均衡配分として実現可能であるというものである。

概要

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第一基本定理は、均衡において、完備市場英語版完全情報、および完全競争が成立している場合、その均衡はパレート最適となることを述べる(すなわち、他者を悪化させることなく誰かを改善するような追加的交換が存在しない状態である)。完全競争の成立条件としては、以下が挙げられる[1]

  1. 外部性が存在せず、すべての主体が完全情報を有していること。
  2. 企業と消費者が価格を所与として行動すること(いかなる経済主体または主体集団も市場支配力を持たないこと)。

この定理はしばしば、アダム・スミスの「見えざる手」の原理、すなわち「競争市場は資源配分を効率的にする」という命題を分析的に確認したものと見なされる。しかし、市場によって達成されるパレート最適な結果が、必ずしも公平性を伴うわけではない。なぜなら、パレート効率的な資源配分は複数存在し、その望ましさは大きく異なりうるからである(例えば、一人がすべてを所有し、他の全員が何も所有しない状態もパレート効率的でありうる)[2]

第二基本定理は、任意のパレート最適配分が、ある初期保有配分の下で競争均衡として実現可能であることを述べる。この定理の含意は、望ましいパレート最適状態はいかなるものであっても、初期資産配分を調整することによって競争均衡として支持できるということである。すなわち、パレート効率性は、初期富の再分配を伴う場合でも達成可能である。しかし、分配を是正しようとする政策は歪みを導入する可能性があり、その結果、完全な最適性が再分配と両立しない場合もある[3]

これら二つの定理は、純粋交換経済英語版については、エッジワース・ボックス・ダイアグラムを用いて図示することができる。

第一定理の解釈

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私的所有制完全競争経済において、需給法則に基づく価格メカニズムを通じてパレート効率性という望ましい資源配分が実現できることを示しているというのが、厚生経済学の第一基本定理に対する有力な見方である。この定理はアダム・スミスの「(神の)見えざる手」を資源配分の文脈で理論的に再構成しているという見方もある。

このような見方に基づいて、パレート効率性を達成するためには、特に政府は経済に介入すべきではないという結論が引き出される事が多い。ただし、このような政策を正当化するには、競争均衡が実体経済で実現するという想定が適当か否かを考える必要がある。例えば、完全競争の想定は適当であるか、私有制が確立しているのか(所有権の明確性)、なんらかの要因で市場は欠けていないか、経済に競争均衡が存在するための条件がみたされているのか(規模に関する収穫非逓増、選好の凸性など)などについて検討する必要がある。また、外部性公共財がある経済は、古典的な私的所有制経済には含まれないため、この定理の大前提は成り立たず、競争均衡は一般にパレート効率性を達成しない(このような状態を市場の失敗という)ことにも注意しなければならない。

基本定理の歴史

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アダム・スミス(1776年)

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輸入関税について論じる中で、アダム・スミスは次のように述べている。

各個人は、社会の年間収入を可能な限り大きくしようと努力する……。彼は、この場合も他の場合と同様に、見えざる手によって、自ら意図していなかった目的を促進するよう導かれる……。自らの利益を追求することによって、しばしば、本当に社会の利益を促進しようとする場合よりも、より効果的に社会の利益を促進するのである。[4]

ただし、スミスの議論は、当時まだ成立していなかった厚生経済学そのものを直接対象としたものではなかった。しかし、その議論は厚生経済学という分野の成立や、その基本定理の形成に大きな影響を与えたと評価されている[5]

レオン・ワルラス(1870年)

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レオン・ワルラスは、「自由競争の下での交換とは、すべての参加者が、同一価格で売買するという条件の下で最大の満足を得る操作である」と述べた[6]

F・Y・エッジワース(1881年)

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フランシス・イシドロ・エッジワースは、『Mathematical Psychics』において、生産を伴わない純粋交換経済を分析し、第1基本定理に向けた重要な一歩を踏み出した。彼は分析の中に不完全競争も取り入れていた[7]。彼の均衡概念は、後のパレートによる最適性概念とほぼ同一であり、次のような点として定義されている。

無限小の一歩を「いかなる方向」に踏み出しても、P と Π(買い手と売り手の効用)は同時には増加せず、一方が増加すれば他方は減少する。[8]

しかし、エッジワースは均衡がパレート最適であると結論づける代わりに、均衡は当事者の効用の総和を最大化すると結論づけた。これはパレート効率性の特殊な場合に相当する。

一般的な動学原理をこの特殊な場合に適用すると、均衡は、契約当事者たちの「快楽エネルギー総量」が、与えられた条件の下で相対的に最大となるときに達成されるように思われる[9]

ヴィルフレド・パレート(1906/1909年)

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ヴィルフレド・パレートは、『Manuale』(1906年)およびそのフランス語改訂版『Manuel』(1909年)において、第1基本定理を提示した[10]。彼は、自らの基準に基づく最適性を明示的に主張し、その主張を説得的に論証した最初の人物であった[要出典]

パレートは、均衡をエッジワースよりも抽象的に定義し、「外部からの圧力が存在しない限り、無限に持続しうる状態」とした[11]。また、交換経済において均衡とは、当事者の無差別曲線に対する共通接線が初期保有点を通過する点であることを示した[12]

彼の最適性の定義は第6章で与えられている。

ある状態において、共同体の各構成員が享受するオフェリミティ(効用)が、それぞれ増加するような無限小の移動が不可能であるとき、我々はその共同体が「オフェリミティの最大」を享受していると言うことにする。[彼は以前、個人のオフェリミティの増加を、より高い無差別曲線への移動として定義している。]すなわち、いかなる無限小の移動も、ある個人のオフェリミティを増加させる一方で、他の個人のオフェリミティを減少させざるを得ないのである。[13]

続く段落では、次のような定理が述べられている。

第I型の現象[すなわち完全競争]において、均衡が無差別曲線の接点で成立するとき、共同体の構成員はオフェリミティの最大を享受する。

さらに彼は、「数学の助けなしには厳密な証明は与えられない」と付け加え、付録を参照している[14]

クヌート・ヴィクセルは、パレートの最適性定義に言及し、次のように述べている。

このような定義の下では、自由競争のもとでこのいわゆる最大が達成されることは、ほとんど自明であるように思われる。というのも、交換が成立した後に、さらに追加的な直接的あるいは間接的交換によって参加者の欲求満足を増加させることが可能であるならば、そのような追加的交換は当然実行されていたはずであり、もとの状態は最終均衡ではあり得なかったからである。[15]

しかし、パレート自身はそれほど単純には考えていなかった。彼は本文中で交換経済のみに適用される図解的議論を提示し[16]、さらに付録では32頁に及ぶ数学的議論を展開した[17]サミュエルソンはこれを「容易には追えない」と評している[18]。また、パレートは生産可能性フロンティアの概念を持っていなかったため、その議論には限界があった。この概念の発展には、彼の協力者であるエンリコ・バローネが部分的に寄与している[19]。パレート自身の「障害物に対する無差別曲線」という概念は、結果的には誤った方向であったと考えられている。

第1基本定理を述べた直後、パレートは分配に関する問題を提起している。

共同体の構成員のオフェリミティを最大化しようとする集産主義社会を考えよう。この問題は二つの部分に分けられる。第一に、社会内部の財をどのように構成員間で分配すべきかという分配問題である。第二に、そのような分配が与えられたとき、社会構成員が最大のオフェリミティを得られるようにするため、生産をどのように組織すべきかという問題である。

これに対する彼の回答は、第2基本定理の非公式な先駆けとなっている。

第一の問題に対する解答に従って財を分配した後、国家は共同体構成員に第二次的分配を行わせるべきであり、あるいは国家自らそれを実施すべきである。そのいずれの場合にも、それが自由競争の作用に適合する形で行われるよう保証しなければならない。[20]

エンリコ・バローネ(1908年)

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エンリコ・バローネ英語版は、パレートの協力者として、完全競争の最適性に関する性質を証明した[21]。すなわち、価格が外生的に与えられていると仮定した場合、完全競争は生産活動から得られる収益の貨幣価値を最大化するというものである。この収益とは、余暇、貯蓄、および消費財の価値を、それぞれ望ましい比率で合計したものである[22]。ただし、彼は市場によって選択される価格そのものが最適であるという議論は行っていない。

彼の論文が英語に翻訳されたのは1935年になってからであった。ポール・サミュエルソンはこれを好意的に要約しているが[23]、現在知られている形での厚生経済学の基本定理の発展には、ほとんど影響を与えなかったと考えられている。

アバ・ラーナー(1934年)

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1934年、アバ・ラーナーは、交換におけるエッジワースの条件、すなわち無差別曲線が接線として接するべきであるという条件を再定式化し、それを最適性条件として提示した。彼は生産についても同様の条件を提示しており、生産可能性フロンティア(PPF、彼はこれを「生産的無差別曲線」という別名でも呼んだ)が、共同体の無差別曲線と接するべきであると論じた。彼はPPF概念の先駆者の一人であり、1932年の国際貿易に関する論文ですでにこの概念を用いていた[24]

ラーナーは、生産可能性フロンティアがエッジワース・ボックスにおける鏡像的な無差別曲線と同じ役割を果たすため、生産と交換の議論を同じ枠組みで提示できることを示した。また、曲線が微分可能である必要はなく、鋭角的な角で接している場合でも同じ結果が得られることにも言及している。

彼の最適性の定義は、パレートの定義と同値であった。

もし……ある個人を、他の個人をより悪い状態へ移すことなく、より望ましい状態へ移すことが可能であるならば……相対的最適は達成されていないと言うことができる。

生産における最適性条件は、(i)価格が限界費用に等しいこと、(ii)(i)の条件の下で産出量が最大化されること、という二つの要件に等しい。したがってラーナーは、生産と交換の双方において最適性を接線条件へ還元した。しかし、彼は、その条件から導かれるPPF上の点が、なぜ自由市場における均衡条件となるのかについては説明していない。おそらく彼は、その点については既に十分確立されていると考えていたのであろう[25]

ラーナーは、無差別曲線の利用を提案した功績を、LSEの同僚であるヴィクター・エーデルベルクに帰している。また、ポール・サミュエルソンは、ラーナーがパレートの研究とは独立にこれらの結果へ到達したのではないかと推測している[26]

ハロルド・ホテリング(1938年)

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ハロルド・ホテリングは、「限界費用に等しい価格での販売が、一般厚生の最大化(パレートの定義による)の条件である」ことを示す新たな議論を提示した[27]。彼は、この条件が完全競争の下で満たされることを認めていた。しかし同時に、その結果として、完全競争は必ずしも最適ではあり得ないと論じた。なぜなら、例えば自然独占のような場合には、この価格設定では固定費を回収できず、社会的に有益な事業であっても維持できなくなる可能性があるからである。

オスカル・ランゲ(1942年)

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オスカル・ランゲの論文「The Foundations of Welfare Economics」は、市場に関する第1定理と分配に関する第2定理という、現在では伝統的となっている二つの定理の組み合わせの起源とされている。彼は、第1定理におけるパレート最適性の定義を、ライオネル・ロビンズによる個人間効用比較の否定を根拠として正当化した[28]。その一方で、第2定理に関しては、民主的に選出された議会による判断など、個人間比較を再導入するさまざまな方法を提案した。ランゲは、そのような議会が価格ベクトルを設定することで資本主義市場と類似した役割を果たし、効率性と社会的平等を実現する任意の最適生産計画を達成できると考えていた[29]

彼の議論は、ラーナーの図解的議論をラグランジュ乗数によって数学的に翻訳したものであった。しかし、ランゲの手法において第2定理は現在知られているような形では現れない。彼はむしろ、社会的厚生関数の最適化条件が、パレート最適性の条件と類似していることを示したにとどまっている。

エイブラム・バーグソンとポール・サミュエルソン(1947年)

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ポール・サミュエルソンは(その着想の本質についてエイブラム・バーグソン英語版に功績を帰しつつ)、ランゲの第2厚生定理をほぼ現在の形へと発展させた[30]。彼はランゲに従い、まずパレート最適性に必要な方程式体系を導出した。その後、経済が社会的厚生関数を満たすことを要求される場合に追加的にどのような制約が生じるかを考察し、さらに別の方程式体系を導いた。その結果、「ある倫理的なdesideratum(望ましい目標)」を達成するために必要な政策手段は、すべて「一括固定税(lump sum taxes)または一括補助金(bounties)」の形を取ることができることが示された[31]

グリーンウォルド=スティグリッツ定理

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1986年の論文「Externalities in Economies with Imperfect Information and Incomplete Markets」において、ブルース・グリーンウォルド英語版ジョセフ・スティグリッツは、不完備市場や不完全情報が存在する場合には、厚生経済学の基本定理が成立しないことを示した[32]。この論文は、非対称情報を伴う経済における競争均衡が、一般には制約付きパレート効率性すら満たさないことを明らかにした。また、政府が民間主体と同じ情報制約に直面していたとしても、なおパレート改善的な政策介入を見出すことが可能であることを示した[33]

グリーンウォルドとスティグリッツは、モラルハザードが経済を非効率的な状態にしうる事例など、いくつかの重要な状況についても論じている。例えば、酒税の導入は自動車事故を減少させることによって、パレート改善となり得ると指摘している[34]

第一基本定理の証明

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第一基本定理は一般的な条件の下で成立する[35]。形式的な記述は次のとおりである。「選好が局所的非飽和性(local nonsatiation)を満たし、かつ が移転を伴う価格均衡であるならば、配分 はパレート最適である」。この意味での均衡は、純粋交換経済にのみ関係するか、あるいは企業が配分効率性および生産効率性を満たしていることを前提としている。これらの効率性は完全競争的な要素市場および生産物市場から導かれることが示される[35]

財の種類の集合を とし、 上の実ベクトル空間 を考える。また、ベクトル値変数は太字で表す。例えば、 のとき、 は3次元ベクトル空間となり、ベクトル は、バター1単位、クッキー2単位、牛乳3単位を含む財の束を表す。

消費者 i の富を とし、が成立すると仮定する。ここで、 は財の総賦存量(すなわち、すべての消費者および生産者の初期保有量の総和)であり、 は企業 j の生産量を表す。選好の最大化(移転を伴う価格均衡の定義より)は、 を消費者 i の選好関係とすると、次を意味する。

もし ならば、

言い換えれば、ある財の束が よりも厳密に選好されるならば、その財の束は価格 の下では購入不可能でなければならない。さらに、局所非飽和(local nonsatiation)は次を意味する。

もし ならば、

これを示すために、 であるにもかかわらず、 であると仮定しよう。このとき局所的非飽和性より、 に任意に近い点 を見つけることができる。そのため も依然として購入可能であるが、 よりも厳密に選好される。しかし、 は選好最大化の結果として選ばれたものであるから、これは矛盾である。配分(allocation)とは、 という組であり、ここでかつである。すなわち、 は(行数や列数が無限である可能性を許した)「行列」であり、その第 i 列は消費者 i に配分された財の束を表す。また、 は第 j 列が企業 j の生産量を表す「行列」である。

以下では実行可能な配分(feasible allocation)のみを考察する。実行可能な配分とは、いかなる消費者も保有していない財を売却せず、またいかなる生産者も保有していない財を消費しないような配分である。すなわち、すべての財について、すべての消費者に関しては初期保有量と純需要の和が非負でなければならず、生産者についても同様の条件が満たされなければならない。

ここで、 をパレート支配する配分とする。これは、すべての i についてが成立し、さらにある i についてが成立することを意味する。前述の結果より、すべての i についてが成り立ち、さらにある i についてが成り立つ。これらを合計すると、

を得る。さらに、 は利潤最大化を達成しているので、が成り立つ。したがって、となる。しかし、財は保存されなければならないので、が成立しなければならない。ところが上の不等式は、この条件が満たされないことを示している。したがって、 は実行可能な配分ではない。ゆえに、 をパレート支配する配分はすべて実行可能ではないことになる。したがって、 自身がパレート最適でなければならない[35]

なお、 が利潤最大化を達成しているという事実は、この定理の記述では単に仮定されている。しかし、この結果が有用または興味深いものとなるのは、そのような利潤最大化的な生産配分が実際に存在する場合に限られる。幸いなことに、生産配分 と価格を、限界価格が 0 から正の距離だけ離れている閉部分集合へ制限すれば、そのような最大値は存在する。例えば、生産可能集合を連続関数によってパラメータ化する通常の設定では、この条件が満たされる。これは、限界価格の下限と有限な富の存在によって実行可能な生産量の上限が定まる(下限は 0 である)こと、および チコノフの定理(Tychonoff's theorem)により、それらのコンパクト空間の直積がコンパクトとなることから従う。その結果、任意の連続関数はその集合上で最大値を達成することが保証される。

第二基本定理の証明

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第二基本定理は形式的には次のように述べられる。すべての生産集合 凸集合であり、すべての選好関係 が凸でかつ局所非飽和(local nonsatiation)を満たすならば、任意のパレート効率的な配分は、移転を伴う価格準均衡(price quasi-equilibrium)として支持することができる[35]。さらに、この主張を移転を伴う価格均衡(price equilibrium with transfers)について証明するためには、追加的な仮定が必要である。

証明は二段階で進められる。まず、任意のパレート効率的配分が移転を伴う価格準均衡として支持できることを示す。次に、価格準均衡が価格均衡でもあるための条件を与える。移転を伴う価格準均衡とは、配分 、価格ベクトル 、および富の水準ベクトル (一括移転(lump-sum transfers)によって実現される)からなる組であって、を満たすものと定義する。ここで、 は財の総賦存量、 は企業 j の生産量である。また、次の条件が満たされるものとする。

i. すべての に対して、 が成立する(すなわち、企業は を生産することで利潤を最大化している)。
ii. すべての消費者 i について、もし ならば、 が成立する(すなわち、 より厳密に選好されるならば、その費用は の費用よりも低くなることはない)。
iii. が成立する(すなわち、資源制約が満たされている)。

この定義と移転を伴う価格均衡の標準的な定義との唯一の違いは、条件(ii)にある。ここでは不等式が弱い形、となっているため、これは価格準均衡(price quasi-equilibrium)である。後に、この条件を強めることによって価格均衡を導く[35]

消費者 i によって よりも厳密に選好されるすべての消費束の集合を と定義し、さらにとする。

選好関係 が凸であるため、 は凸集合である。また、すべての が凸であることから、 も凸集合である。同様に、(すべての生産集合の和に総賦存量を加えた集合)も凸集合である。なぜなら、各生産集合 が凸だからである。さらに、 の共通部分は空集合でなければならない。もし共通部分が空でなければ、すべての消費者にとって より厳密に望ましく、かつ実現可能な配分が存在することになる。しかし、それは のパレート最適性に反する。以上より、二つの凸集合 は互いに交わらない。このため、分離超平面定理(separating hyperplane theorem)を適用することができる。この定理によれば、 を満たす価格ベクトル と実数 が存在して、

すべての に対して

かつ

すべての に対して

が成立する。言い換えれば、二つの凸集合を完全に分離する超平面を定める価格ベクトル が存在するのである。次に、すべての i についてが成立するならば、が成立することを示す。これは局所非飽和による。実際、局所的非飽和性より、 に任意に近く、かつ より厳密に選好される消費束 が存在する。そのような に属するので、が成立する。ここで と極限をとっても弱不等式は保たれるため、が従う。言い換えれば、 は集合 閉包に属している。この関係を用いると、特に 自身についてが成立する。一方で、であるから、も成立する。したがって両者を合わせると、を得る。この等式を用いることで、 が移転を伴う価格準均衡の定義を満たすことを示すことができる。まず、およびであることから、任意の企業 j に対して

(ただし

が成立する。よって、が従う。同様に、

(ただし

が成立するので、を得る。以上の二つの結果と、パレート最適配分の実行可能性を合わせると、移転を伴う価格準均衡の三つの条件がすべて満たされる。したがって、すべての消費者 i についてと定めれば、 は富水準ベクトル によって支持された移転を伴う価格準均衡となる。ここで、価格準均衡が価格均衡でもあるための条件を考える。言い換えれば、

「もし ならば

という条件が、

「もし ならば

を含意するための条件を求める。

このためには、消費集合 が凸であり、選好関係 連続であることを追加的に仮定する必要がある。さらに、ある消費ベクトル が存在して、かつを満たすならば、価格準均衡は価格均衡となる。その理由を示そう。背理法により、かつであり、そのような が存在すると仮定する。このとき、 の凸性より、が成立する。また、およびであるため、が従う。さらに、選好関係 の連続性より、 を 1 に十分近く取れば、が成立する。しかし、この消費束は

より厳密に選好される

にもかかわらず、

費用は より小さい

ことになる。これは価格準均衡の定義に矛盾する。したがって、

消費集合 が凸であること
選好関係 が連続であること
常により安価な消費束 が存在すること

が満たされれば、価格準均衡は価格均衡となる。

このような「より安価な消費束」の存在を保証する一つの方法は、すべての消費者 i について富水準が厳密に正である、ことを仮定することである[35]

脚注

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  1. Hammond, Peter J.. The Efficiency Theorems and Market Failure”. web.stanford.edu. 2025年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年4月7日閲覧。
  2. Stiglitz, Joseph E. (1994), Whither Socialism?, MIT Press, ISBN 978-0-262-69182-6
  3. Mas-Colell らによる議論の556–557頁を参照。
  4. 『国富論』(1776年)第4編第2章。
  5. Feldman, Allan M. (2017), “Welfare Economics” (英語), The New Palgrave Dictionary of Economics (London: Palgrave Macmillan UK): pp. 1–14, doi:10.1057/978-1-349-95121-5_1417-2, ISBN 978-1-349-95121-5 2021年11月12日閲覧。
  6. 『要論』(第1版)第18講の記述を要約したもの。「自由競争によって規律された市場における二財間の交換とは、一方の財、他方の財、あるいは両方の財を保有するすべての主体が、自ら売却する財を共通かつ同一の比率で引き渡し、購入する財を受け取るという条件の下で、自らの欲求を最大限に満たす操作である。」なお、ヴィクセルによれば、この箇所は第4版では第10講へ移動された。
  7. ポール・サミュエルソンは、パレート最適の軌跡は多角的独占の下でも得られるとして彼を支持している。『Foundations of Economic Analysis』(1947年), p. 214.
  8. p. 21.
  9. 25頁。あわせて、John Creedy「Francis Ysidro Edgeworth and Philip Henry Wicksteed」(2010年)https://core.ac.uk/reader/6561724 も参照。
  10. Manuale di Economia Politica con una Introduzione alla Scienza Sociale(1906年)/Manuel d'Économie Politique(1909年)。
  11. ManualeManuel 第3章 §22。
  12. §116。
  13. §33。
  14. §35。
  15. K. Wicksell『Lectures on Political Economy』第1巻(1906年)、英訳版(1934年)、82–83頁。
  16. §35。
  17. Manuel §109以降。
  18. P. A. Samuelson『Foundations of Economic Analysis』(1947年)、212頁。
  19. Thomas M. Humphrey「The Trade Theorist's Sacred Diagram: its Origin and Early Development」(1988年)。
  20. この引用および前掲引用は、第6章§53および§55を要約したものである。
  21. E. Barone『Il Ministro della Produzione nello Stato Colletivistica』(1908年)。
  22. 実際には、彼はこの価値を任意に選ばれた財の価格で割っている。しかし、価格は固定されていると仮定されているため、これは本質的には無関係な非対称性を導入しているに過ぎない。
  23. P. A. Samuelson『Foundations of Economic Analysis』(1947年)、214–217頁。
  24. A. Lerner「The Diagrammatical Representation of Cost Conditions in International Trade」(1932年)。Thomas M. Humphrey「The Trade Theorist's Sacred Diagram: its Origin and Early Development」(1988年)に引用。
  25. 例えば、「短期における供給価格に必然的かつ直接的に入るのは、基本費用[すなわち限界費用]のみである」:アルフレッド・マーシャル『Principles of Economics』第5編第5章第6節(第8版参照)。また、ヴィクセルによる「自由競争は通常、生産最大化を保証する十分条件である」という暫定的結論も参照。『Lectures on Political Economy』第1巻(1906年)、英訳版(1934年)、141頁。
  26. P. A. Samuelson『Foundations of Economic Analysis』(1947年)、217頁。
  27. H. Hotelling「The General Welfare Problem in Relation to Problems of Taxation and of Railway and Utility Rates」(1938年)、Econometrica、260頁、267頁。
  28. 「『社会的効用』を扱う財政学理論の部分はすべて退けられる」:L. Robbins『An Essay on the Nature and Significance of Economic Science』(1932年)、125頁。J. A. Kingは、「この特権擁護は、異なる個人の精神状態を比較する問題に対して、説得力に欠ける独我論的アプローチを必要とした」と評している(『Nicholas Kaldor』(2009年)、Harvey Gramによる2011年の書評に引用)。
  29. Feldman, Allan M. (2017), "Welfare Economics", The New Palgrave Dictionary of Economics, London: Palgrave Macmillan UK, pp. 1–14, doi:10.1057/978-1-349-95121-5_1417-2, ISBN 978-1-349-95121-5, retrieved 2021-11-12.
  30. P. A. Samuelson『Foundations of Economic Analysis』(1947年)、219–249頁。
  31. 245頁。
  32. Greenwald, Bruce C.; Stiglitz, Joseph E. (1986). “Externalities in Economies with Imperfect Information and Incomplete Markets”. The Quarterly Journal of Economics 101 (2): 229–264. doi:10.2307/1891114. ISSN 0033-5533. JSTOR 1891114.
  33. アヴィナッシュ・ディキシット「Whither Greenwald-Stiglitz?」(2003年)。
  34. Greenwald and Stiglitz(1986年)、238頁。
  35. 1 2 3 4 5 6 Mas-Colell, Andreu; Whinston, Michael D.; Green, Jerry R. (1995), “Chapter 16: Equilibrium and its Basic Welfare Properties”, Microeconomic Theory, Oxford University Press, ISBN 978-0-19-510268-0