全翼機

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全翼機の例・米軍のB-2爆撃機

全翼機(ぜんよくき)Flying wing aircraftとは、胴体部や尾翼がなく、一枚の主翼のみによって機体全体が構成された飛行機のこと。

概要[編集]

一般的な飛行機は、主翼・胴体・垂直尾翼水平尾翼で構成される。だが、構成要素が多くなるということは、重量が重くなり、空気抵抗も増すということである。そのため、主翼のみで構成される全翼機の概念が考えられた。しかし、全翼機には設計上の困難が多く、完全な実用機となったものはB-2しかない。

歴史[編集]

ホルテンIVグライダー
ノースロップ N-1M NASM

無尾翼機の概念は古くからあったが、これが全翼機として考えられ始めたのは20世紀初頭のことである。1910年にはドイツのフーゴー・ユンカースが全翼機の特許を得ている。ユンカースは全翼機の低抵抗と大搭載量により、大西洋横断用旅客機の開発を目指していた。1919年にJG1の名称で開発を行なったが、これは大型機のため、第一次世界大戦後のドイツにおける開発できる航空機のサイズ制限に抵触し、開発中止となった。1929年にはユンカース G.38が開発された。これは全翼機ではないが、そのコンセプトを取り入れており、胴体は短く、幅が長い大型の主翼を有していた。主翼内にはエンジン・燃料のほか、乗客席4つ(左右各2)があった。

1930年代以降はジャック・ノースロップホルテン兄弟をはじめとして、アメリカ合衆国とドイツで全翼機の試作が行われている。ホルテン H-1グライダーは1933年に初飛行しており、1941年にはノースロップ N-1Mが初飛行している。第二次世界大戦中のドイツでは、推力が不足であった初期のジェット機の抵抗軽減のために全翼機に着目し、ホルテン Ho229ジェット戦闘機の試作を行なっている。これは1944年に初飛行している。

大戦後の1950年代にかけては、アメリカ合衆国の爆撃機デザインとして試作が行われた。低抵抗による航続距離延伸を狙ったものである。ノースロップにより、レシプロのYB-35やジェット推進のYB-49が開発された。しかし、無尾翼であることの安定性の不足と航続距離延伸が期待されたほどではなかったことから、実用化には至らなかった。軍用の全翼機に再注目されるのは1970年代のこととなる。全翼機の投影面積が小さいことからステルス性に優れていると考えられ、また操縦安定性についてもフライ・バイ・ワイヤにより、それをカバーすることができるとされたためである。これによりB-2爆撃機が実用化されるに至った。

利点と欠点[編集]

全翼機の利点と欠点は以下のようなものである。

利点[編集]

全体の空気抵抗が少なくなる
通常の飛行機では、水平尾翼・垂直尾翼によって機体の安定性を得ている。しかし、これらと胴体との干渉によって空気抵抗が増すことにもなる。
同じ翼面積でも、通常の飛行機より軽量化できる
胴体・尾翼といった部分が無いため、当然重量は軽くなる。また、構造的にも簡単になるためより軽量化しやすい。このような利点が着目され、第二次世界大戦末期から終戦直後にかけてのジェットエンジン黎明期によく研究された。
内部スペースの増加
胴体そのものが揚力を発生させる主翼となるため、内部スペースを大きく空けられる。乗客数を増やした旅客機も構想されている。
ステルス性が高い
尾翼などの反射物が少ないため、ステルス性が高くなる。これはいわば副次的な効果で、全翼機の試験中にわかったことである。これを主目的として作られたのはアメリカ空軍のB-2爆撃機が唯一である。
地面効果が高い
大きな主翼だけの機体なので地面効果が非常に高く、短距離離陸が可能になる。

欠点[編集]

機体の安定性が悪い
通常の翼型はピッチング方向の動きに対し静的に不安定である。つまり迎角を増やすなり減らすなりする力が働いたとき、翼ではそれを助長するモーメントが働いてしまう。通常の航空機では水平尾翼を取り付けることにより静安定を確保するが、全翼機では他の方法により安定性を得る必要がある。主翼のみで静安定を確保するには翼形状を工夫して後退翼にして翼端にネジリ下げを付けるか、反転キャンバーを持つような翼型を使用しなければならない。しかし、いずれも翼面積あたりの揚力は少なくなって効率が悪くなってしまう。空力的に安定性を得るのではなくコンピュータによる姿勢制御(フライ・バイ・ワイヤ)を行う方法もある。B-2では常時コンピュータによる姿勢制御を行なっている。
垂直尾翼が存在しない機体では、ヨーイング方向について安定性が確保できず、しかもピッチング方向の場合と違って翼型により安定を確保出来ない。後退角を大きくし、ハンググライダーのように大きなネジリ下げを付けるか、抵抗になるのは目をつぶってドラッグラダーを常時使用するか、左右エンジンの推力コントロールを含めたコンピュータ制御をする必要がある。また垂直尾翼の無い全翼機は横滑りに対する自立安定が大変弱く、外乱や片肺などでフラットスピン状態になると自力回復させることはほとんど不可能である。
設計が難しい
上述の欠点を克服できるように通常機には無い全翼機独特の設計を行う必要がある。B-2は機体設計にスーパーコンピュータを利用している。
着陸に長い滑走路が必要になる。
地面効果が非常に高い形状であるがゆえに、着陸でパイロットの予想以上に伸びてしまいオーバーランしやすくなる。また尾翼を持たないため主翼に有効なフラップを付けることが出来ない。(もし通常機のようにフラップを下げると強烈な機首下げ状態になってしまう)

機体一覧[編集]

ノースロップ XB-35

関連項目[編集]

外部リンク[編集]