体感温度

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体感温度(たいかんおんど)とは、人間の肌が感じる温度の感覚を、定量的に表したものである。人間の温度感覚は、皮膚面の水分()が蒸発したり、皮膚面の熱が奪われたりすることで生ずるものである[1]。こうした体感温度は気温だけでなく、実際には湿度風速等によって影響されやすく[2]、たとえば多くの場合は風が強いときほど体感温度は下がる[3]。したがって、気温をそれらの数値で補正する。

ただし体感温度は、以下で示す湿度・風速・日照量といった気象環境条件の他に、服装代謝量年齢性別健康状態等、人体条件の影響も受ける[4]ため、その感覚は千差万別である。また、しばしば簡潔な算出式が使われるため、誤差なく表せる範囲にも限界がある[4]。これらの理由で、目的や適用範囲に違いのある多くの指標がある[4](たとえば、高温のストレスを表すための指標であるヒートインデックスを、低温のストレスを判断するために用いることはできない[5])。

以下、気温()を T相対湿度 (%) を H、風速 (m/s) を v とする。特に断らない限り、風速は風速計(原則として高さ10メートル)での測定値である。

湿度による補正[編集]

ミスナール (Missenard, 1937) は、湿度の効果を加えた式

を考案した。ただし、低温の場合、湿度が体感温度に与える影響は高温の場合ほど大きくないため、この式の適用範囲は、温暖な温度に限られる[6]


ジョージ・ウィンターリング (George Winterling, 1978) が考案したヒューミチャー (humiture) は、現在はヒートインデックス (heat index, HI) と呼ばれ、アメリカ合衆国国立気象局 (NWS) が採用している。HIの定義は数式によるものではないが、NWSは近似式として

を使っている[7]。なおここで、気温 TF華氏温度 (°F)

であり、HIunadjustedは以下の式から算出される。


J.M. Masterton and F.A. Richardson (1979) による「ヒューミデックス humidex」は、カナダ気象局 (MSC) が採用していて、

で表される[8]。この式は、湿度の代わりに水蒸気圧 Paq (hPa) を使い、その値は露点 Tdew (℃) を使って

で求められる。


湿球黒球温度 (WBGT) はISO 7243 などで標準化されており、

で表される。TW湿球温度TG黒球温度である(これらに対比するなら T乾球温度となる)。第1式は日照のある屋外、第2式は屋内または日照のない場合に使われる。

風による補正[編集]

日本では俗に、風速が1m/s増すごとに体感温度は約1℃ずつ低くなると言われている[3][9][10][11]が、実際は風が強くなるほど体感温度の低下効果が逓減する非線形性があり、また気温によっても差がある[3](暑いと風があっても体感温度はあまり下がらないが、寒いと急激に下がる)。

リンケは、風速の効果を加えた式

を考案した。この式では風速変化の非線形性が取り入れられているものの、気温の高低による体感気温の変化は考慮されていない。


米NWSは、windchill temperaturewind chill equivalent temperaturewind chill index などとも)

を使っている[12]TF は華氏温度、vmi/hマイル毎時での風速である。冪の指数が0.16になっていることから、非線形性はリンケの式より強い。また、気温による差が取り入れられている。


カナダ気象局 (MSC) が使用するwindchill temperatureは、以下の式を用いて

で表される[8]。ここでvkm/hキロメートル毎時での風速であり、適用範囲を氷点下に限定している。

複数の要因による補正[編集]

グレゴルチュク (Gregorczuk, 1972) は、ミスナールの式を改良した「NET (net effective temperature)」を考案した。NETは相対湿度と風速を考慮しており、

で表される[6]。この式は、ミスナールと異なり低温にも適用できる[6]


高温下では日照も体感温度に影響をもたらす[13]オーストラリア気象局 (BOM) は、相対湿度・風速に加え日光放射照度を考慮したAT (apparent temperature)

を使っている[14]。ここで、Q は日光の放射照度 (W/m2) 、Paq水蒸気圧 (hPa) を示し、Paq は湿度と気温から

と求められる。

図表[編集]

ヒートインデックス (HI)[15]
  気温 (℃)
27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43
相対湿度 (%)
40 27 28 29 30 31 32 34 35 37 39 41 43 46 48 51 54 57
45 27 28 29 30 32 33 35 37 39 41 43 46 49 51 54 57
50 27 28 30 31 33 34 36 38 41 43 46 49 52 55 58
55 28 29 30 32 34 36 38 40 43 46 48 52 55 59
60 28 29 31 33 35 37 40 42 45 48 51 55 59
65 28 30 32 34 36 39 41 44 48 51 55 59
70 29 31 33 35 38 40 43 47 50 54 58
75 29 31 34 36 39 42 46 49 53 58
80 30 32 35 38 41 44 48 52 57
85 30 33 36 39 43 47 51 55
90 31 34 37 41 45 49 54
95 31 35 38 42 47 51 57
100 32 36 40 44 49 54
  Caution
  Extreme Caution
  Danger
  Extreme Danger

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 荒川秀俊 1949, p. 38.
  2. ^ 荒川秀俊 1949, pp. 38-39.
  3. ^ a b c 荒川秀俊 1949, p. 39.
  4. ^ a b c 朝日新聞社 コトバンク, 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説.
  5. ^ 荒川秀俊 1949, p. 39では気温が10℃以下の低温下では高湿度は、高温下の時と異なる影響を与えるとしている。
  6. ^ a b c Reprint 444: Application of a Weather Stress Index for Alerting the Public to Stressful Weather in Hong Kong - 香港天文台 P.W. Li & S.T. Chan
  7. ^ Heat Index Equation
  8. ^ a b Calculation of the 1981 to 2010 Climate Normals for Canada
  9. ^ 伊藤みゆき (2012年12月12日). “同じ気温でも寒さ変わる「体感温度」の秘密”. 日本経済新聞社. 2015年3月22日閲覧。
  10. ^ 賀川雅人 (2012年8月14日). “不快感なくても危険な場合も 熱中症予防の注意点 体感温度に個人差、実際とズレ”. 日経新聞社. 2015年3月28日閲覧。
  11. ^ 朝日新聞社 コトバンク, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説.
  12. ^ NWS Wind Chill Index
  13. ^ 荒川秀俊 1949, p. 40.
  14. ^ Thermal Comfort observations
  15. ^ National Weather Service Heat Safety から℃に換算(直接のソースはen:heat index

関連項目[編集]