ロージャー

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ロージャー
Roja
監督 マニ・ラトナム英語版
脚本 マニ・ラトナム
製作 K・バーラチャンダル英語版
出演者 アルヴィンド・スワーミ
マドゥー英語版
音楽 A・R・ラフマーン
撮影 サントーシュ・シヴァン英語版
編集 スレーシュ・ウルス英語版
配給 カヴィサラヤー・プロダクション英語版
ピラミッド・サイミラ英語版
公開 インドの旗 1992年8月15日[1][2]
上映時間 137分[3]
製作国 インドの旗 インド
言語 タミル語
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ロージャー』(原題:Roja)は、1992年に公開されたインドロマンティック・スリラー英語版映画。マニ・ラトナム英語版が監督を務め、アルヴィンド・スワーミマドゥー英語版が出演している。映画は『マハーバーラタ』におけるサヴィトリとサティアヴァン英語版の関係を基にしている。国家映画賞ナルギス・ダット賞 国民の融和に関する長編映画賞英語版を含む3つの賞を受賞し、第18回モスクワ国際映画祭英語版で最優秀作品賞にノミネートされるなど国際的にも高い評価を得た。タミル語ヒンディー語テルグ語の市場で興行的成功を収めた[4][5]

あらすじ[編集]

ロージャーは、南インドの田舎に住む素朴な村娘。あるとき、姉の見合い相手として、リシクマール(リシ)という男が都会からやって来た。しかし姉には既に恋仲の青年がおり、妹のロージャーが代わりにリシと結婚することになる。当初ロージャーは、夫側が一方的に姉との見合い話を蹴ったと誤解しており 快く思っていなかったが、真相を知り、少しずつ打ち解けていく。

そんな中、政府機関で働いていた夫に、カシミール地方にある陸軍通信センターへの赴任が命じられる。南インドから、雪景色の山岳地帯が広がる別天地へやって来た新婚夫婦は、興奮し大自然の中で戯れる。ところが、カシミールの分離独立を掲げるテロリストによって夫のリシが拉致されたことから、ロージャーの生活は一変する。タミル語の地域出身でヒンディー語が解らず苦労するロージャーだが、夫の救出を求め、必死で政治家や軍隊など各方面へ掛け合い奔走する。

キャスト[編集]

アルヴィンド・スワーミ
マドゥー

製作[編集]

企画[編集]

マニ・ラトナム

映画はシュリーナガルで実際に発生したエンジニア誘拐事件と、夫を救出しようとした妻の話を基に製作された。彼女はテロリストに公開文書を書いており、書面の内容は映画の中で刑務所のワシム・カーンに対して発した言葉と同様のことが書かれ、テロリストの良心に訴えかけていた。マニ・ラトナム英語版によると、映画は彼女の窮状を基にしており、脚本の残りの部分は刑務所のシーンに向かって作られたという[6]

ラトナムは『Anjali』製作中に『ロージャー』の概要をキッティ英語版に伝え、彼に監督を務めるように打診したが、彼は自分のやりたい仕事があったため辞退した。映画について尋ねてきたK・バーラチャンダル英語版にラトナムは詳細を伝えたことで、企画が動き出した[7]。ラトナムはバーラチャンダルと共同で企画を進め、映画業界に入るきっかけとなったバーラチャンダルとの仕事を喜び、自身が手がける最高の作品にしたいと願っていた。バーラチャンダルは話を聞いて即座にラトナムの企画に賛同したが、映画のタイトルが傷んだビンロウと同じような響きに聞こえるとして嫌っていた。ラトナムはカシミールの「綺麗な薔薇には棘がある」という側面を表している「ロージャー」がタイトルに相応しいと考えており、代替案として「Irudhi Varai」を提案したが、バーラチャンダルは最終的に「ロージャー」のタイトルを受け入れた[8]

『ロージャー』はラトナムが初めてステディカムを使用した作品であり、テロリストの隠れ家を撮影する際に使用された[9]。少額の予算しか集めることができず、スタッフもそのことを理解して少額の賃金で製作に参加し、音楽監督には新人のA・R・ラフマーンが起用された。映画の題材になったカシミールについても、当時のタミル人にとっては馴染みの薄い事柄だった。ラトナムは『ロージャー』について「多少の実験」と呼んでいた[10]。また、インドの政治背景と人間関係を描いた最初の作品となり、後年同様の題材を用いて『ボンベイ』『ディル・セ 心から』を続けて製作した[11][12]。『ロージャー』はサヴィトリとサティアヴァン英語版を現代的にアレンジして取り入れている[13][14]。ラトナムによると、映画は元々政治映画にする予定はなかったが「これはインドが変化へと進む段階であり、そのことが私に影響を及ぼし、自分の仕事への道を示した」として政治映画にしたと語っている[15]

キャスティング[編集]

主役にはラトナム監督作品『ダラパティ 踊るゴッドファーザー』で俳優デビューしたアルヴィンド・スワーミが起用された[16]。ヒロイン役にはアイシュワリヤー英語版が検討されていたが、彼女はスケジュールの都合でオファーを辞退したためマドゥー英語版が起用された[17]。後にオファーの辞退はアイシュワリヤーの祖母が行ったものだと判明し、アイシュワリヤーは映画に出演できなかったことを深く後悔したという[18]。ラトナムはカシミールの女性役にカリシュマ・カプール英語版を起用しようと考えていたが、「タミル語映画に起用するには出演料が高額過ぎる」ため断念したという[19]ヴァイシュナヴィ英語版はロージャーの妹役として起用された[20]

撮影[編集]

ラトナムはカシミールでの撮影を計画していたが、同地でテロ事件が発生したため別の場所で撮影せざるを得なくなった[21][22]。撮影はクーヌール英語版ウダカマンダラムマナリ英語版で行われた[23][24][25][26]。撮影監督のサントーシュ・シヴァン英語版によると、脚本段階で多くのイメージが書き込まれたという。カシミールに雪が降ることも脚本の段階で書き込まれた[27]。「Chinna Chinna Aasai」のシーンはホゲナカル滝英語版コータラム英語版で撮影された[28][29]。ヒンディー語吹替版ではスワーミの声をシャクティ・シン英語版が演じており[30][31]、マドゥーは本人がそのまま担当している[32]。撮影期間は60日前後で終了した[32]

作品のテーマ[編集]

ジャンプ・カット英語版のクムダン・マデリャは、映画は「中流階級ヤッピーの主人公の国家主義の情熱」を称賛し、「カシミールの反国家共同主義テロリスト」をインド全体への脅威として位置付けていると指摘している[33]。作詞家として製作に参加したヴァイラムトゥ英語版は、映画の「緊張とアクションが詰まった内容」が「詩的」なタイトルと対照的だと感じていたという[34]

評価[編集]

批評[編集]

『ロージャー』は愛国主義的なテーマが広く受け入れられた[4]ニュー・ストレーツ・タイムズのK・ヴィジャヤンは「監督の下でアルヴィンドとマドゥーはベストを尽くしました……サントシュ・シヴァンの優れた撮影技法は、私たちが村を見る際に抱く美しさを作りました。また、カシミールの雪に覆われた山々や花の茂った谷も見られます」と批評している[20]インディアン・エクスプレス英語版のマリーニ・マンナトは映画をジェリー・レイヴィン英語版誘拐事件を題材にした『Held Hostage』のインド版と表現した。彼女はアルヴィンドの演技を「凛々しくて自然としたもの」と称賛した。また、夫の救出を訴えるシーンのマドゥーの演技を称賛した[35]

受賞・ノミネート[編集]

映画賞 部門 対象 結果 出典
第40回国家映画賞英語版 音楽監督賞英語版 A・R・ラフマーン 受賞 [36]
作詞賞英語版 ヴァイラムトゥ
ナルギス・ダット賞 国民の融和に関する長編映画賞英語版 ロージャー
フィルムフェア賞 南インド映画部門 タミル語映画部門作品賞英語版 [37][38]
タミル語映画部門音楽監督賞 A・R・ラフマーン
タミル・ナードゥ州映画賞 作品賞英語版 ロージャー [39]
監督賞英語版 マニ・ラトナム
主演男優賞英語版 アルヴィンド・スワーミ
音楽監督賞英語版 A・R・ラフマーン
シャンタラム賞 監督賞 マニ・ラトナム [39]
第18回モスクワ国際映画祭英語版 作品賞 ノミネート [40]

出典[編集]

  1. ^ “Roja”. The Indian Express: p. 10. (1992年8月15日). https://news.google.co.in/newspapers?nid=P9oYG7HA76QC&dat=19920815&printsec=frontpage&hl=en 
  2. ^ வெள்ளி விழா ஆண்டில் 'ரோஜா'” [Roja in its Silver Jubilee year] (Tamil). Dinamalar (2016年8月15日). 2016年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月18日閲覧。
  3. ^ The Cinema of Mani Ratnam. Cine Central. p. 23. https://books.google.com/books?id=9BFlAAAAMAAJ&q=roja+mani+ratnam&dq=roja+mani+ratnam&hl=en&sa=X&redir_esc=y 
  4. ^ a b Guns and roses”. India Today (1994年1月31日). 2016年3月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年4月18日閲覧。
  5. ^ Films Released In 1992 And Their Box Office Success”. CineGoer (2007年10月7日). 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年2月7日閲覧。
  6. ^ Rangan 2012, p. 124.
  7. ^ Rangan 2012, p. 125.
  8. ^ Rangan 2012, pp. 123–124.
  9. ^ Rangan 2012, p. 112.
  10. ^ Rangan 2012, p. 131.
  11. ^ Padua, Pat. “FROM THE HEART – The Films of Mani Ratnam”. Cinescene.com. 2016年3月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年4月4日閲覧。
  12. ^ Pillai, Sreedhar (2008年6月29日). “Tryst with terrorism”. The Times of India. 2016年6月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年6月23日閲覧。
  13. ^ 'When you start making films for commerce alone, you start getting into problems'”. Rediff.com (1997年4月4日). 2016年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月18日閲覧。
  14. ^ Rangan 2012, p. 126.
  15. ^ Melwani, Lavina (2015年9月26日). “Up close and personal with Mani Ratnam”. The Hindu. 2015年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年9月27日閲覧。
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  18. ^ “ml:'റോജ കണ്ടു തിരിച്ചെത്തി ഞാന്‍ ചെരുപ്പെടുത്ത് എന്നെ തന്നെ അടിച്ചു' [I slapped myself with a footwear after watching Roja]” (マラヤーラム語). Mathrubhumi. (2018年5月7日). オリジナルの2018年5月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180507170016/http://www.mathrubhumi.com/movies-music/news/aishwarya-interview-roja-thiruda-thiruda-maniratnam-vikram-mohanlal-narasimham--1.2792956 2018年5月7日閲覧。 
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参考文献[編集]

外部リンク[編集]