ロベルト・マンガベイラ・アンガー

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ロベルト・マンガベイラ・アンガー
Roberto Mangabeira Unger
Roberto Mangabeira Unger, Philosopher and Brazilian Politician
生誕 (1947-03-24) 1947年3月24日(70歳)
リオデジャネイロ
時代 20世紀終盤、21世紀初頭
研究分野 哲学 · 政治 · 社会理論 · 法理論 · 経済学 · 政治哲学 · 自然哲学 · Institutional alternatives
主な概念 False necessity · Formative context · Negative capability · Empowered democracy · Radical pragmatism · Transformative vocation
公式サイト The Work of Roberto Mangabeira Unger
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ロベルト・マンガベイラ・アンガー1947年3月24日 - )は、哲学者社会理論家政治活動家である。彼の著作は,哲学・社会理論・法理論・政治理論・経済理論など人文社会科学のあらゆる領域を覆う。それらは,人間こそが社会の創造主であるというモダニズムの徹底化の先にある,人類・個人のより善き生の姿を明らかにしようとするものである。[1]“偽の必然性(false necessity)”を中心概念とする社会(変革)理論と“エンパワード・デモクラシー(empowered democracy)”の名で呼ばれる社会像(social vision)は,「大きな物語の終焉」が語られる昨今においてはほとんど唯一のものといってよい,人間と社会に関する包括的な理論提示の試みである。それらは,社会変革理論としてはマルクス主義に対して,社会ヴィジョンとしては今日のネオリベラリズムに対して,それぞれ包括的な対案を示そうとするものである。日本では批判法学の太祖として紹介されてきたが,法理論(批判法学)はこのように彼の関心の一断片を構成するにすぎない。人間社会の事象すべてを考察および実践の対象とするアンガーには,哲学者・政治活動家の称号こそふさわしい。[2][3]

アンガーの思想の根幹には,人間の生を基礎付ける必然的な社会的・政治的・経済的諸制度といったものは存在せず,社会的世界は創造と想像の産物であるという確信がある。すなわち,財産権の諸形態,権力分立の諸形態,労働の諸形態など,それらはすべて歴史的・偶有的な人工物に他ならず,自由で豊かな社会の実現といった目的に対して必然的な関係を持つものではない。市場・政府・市民社会の諸制度は,常に実験と修正に開かれていなければならないし,実際に開かれているのである。[2][1] 実際,その著作は,人間の社会的・政治的・経済的諸活動の理念・理想を明らかにし,それら理想を既存の制度の鎖から解き放とうとしてきた。このようにして理念を既存制度から解放することこそが,人間の潜在能力が十全に開花することを可能とし,人間を―彼の表現するところによれば―「より神的な(more god-like)」な存在とするとアンガーは考えるのである。[4]

祖国ブラジルにおいては,政治家としての活動を通して,諸制度の新しい提案と実現を試みてきた。ブラジル民主運動党(PMDB)の設立メンバーの1人であり,マニフェストの執筆者である。また,第2次ルーラ政権により招聘され,戦略的国家政策大臣 (Minister of Strategic Affairs) を務めている。

人物[編集]

ブラジルリオデジャネイロ出身。ハーバード・ロー・スクール教授。

思想上の影響[編集]

アンガーの学問スタイルは,知識の専門分化に抗しながら,実在の全体像に迫ろうする哲学者のそれである。その思想は,尖鋭化したプラグムマティズムとして,あるいは,キリスト教的西洋思想をギリシャ哲学(アリストテレス哲学)の思考範疇から解放しようとする試みとして,理解することができる。[5] 時間論においてはベルグソン哲学との親和性を持ち,また,その著作の多くに暗に示されているよう,ヘーゲル哲学からの影響が色濃い。実際,歴史意識の原理を世界史的規模で包括的に理解しようとするヘーゲルの野心はアンガーを魅了してきた。しかしながら,アンガーの思想は,ヘーゲルのそれとは異なり,精神の決定論的な進化と最終的な安息の場所といった“偽の必然性”に囚われた観念を断固として拒絶するものである。

また,「世界に対する闘争(the struggle with the world)」の思想としてのロマン主義と実存主義の流れに棹さしつつも,このロマン主義と実存主義が有す,闘争のみが実存の本質的生き方であるとする思想ー「構造」と「ルーティン・反復」に対する(最終的には負けることを運命付けられた)闘争のみが,人間を十全な人間とするという思想—については,これを峻拒する。アンガーにとっての最重要課題は,構造に抵抗し続けることにではなく,人間をより「神的な」存在(人間としての能力が開花したより人間らしい存在)とすることができる構造を創造することにあるからである。ショーペンハウアにも強く惹き付けられてきたが,それは彼が,アンガー自身が信じる思想—生と実在の至上性の全き肯定—とはまさに正反対の思想を語る思想家であるからだという。しばしば類似性が指摘されるのがニーチェであるが,その「超克」の思想は,私たちがどのような存在であるか・どのような存在になりうるかについて誤った方向性と理解を与えるものであるとアンガーは考えるゆえ,最終的には袂を分かつ。[6]

以上の西洋哲学に加え,社会構造を知的探究の課題にすえたカール・マルクスを中心とする社会理論の古典,および,人間の経験と自己理解についての鋭い洞察に富む19・20世紀のヨーロッパ文学作品らもまたアンガーの知の源泉である。

思想[編集]

アンガーの研究プロジェクトは,相互に密接に連関している次の4つ領域から主に構成されている。すなわち,社会理論,代替的政治プログラムの構想,法理論,そして哲学である。第1の社会理論上のプロジェクトは,マルクス主義(より一般的にはアンガーが「深層構造理論」の名で呼ぶ社会理論の傾向)に代わることができる,非決定論的な社会変革理論を構築することである。第2のプロジェクトは,現代社会の諸問題を解決するための新しい制度的仕組によって形づくられる別様の社会体制を構想・提案することである―アンガーが信ずるところ,現代社会が抱える様々な問題は,統治機構・市場経済・市民社会の基底的な諸制度を根本的に革新することなくしては解決することができない―。第三は,法理論および法学教育を,政治・経済・市民社会の別様のあり方を構想するための革新的な思考と実践へと変革することである。第四は,政治・道徳哲学はもちろんのこと,自然哲学・科学哲学をも含む,包括的な知の体系としての哲学を復権させることである。

著作[編集]

  • 『知識と政治』(Knowledge & Politics. Free Press, 1975)
  • 『近代社会と法』(Law in Modern Society: Toward a Criticism of Social Theory. Free Press, 1976)
  • 『情念』(Passion: An Essay on Personality. Free Press, 1984)
  • 『批判法学運動』(The Critical Legal Studies Movement. Harvard University Press, 1986)
  • 『社会理論』(Social Theory: Its Situation and Its Task. Verso, 1987)
  • 『偽の必然性』(False Necessity: Anti-necessitarian Social Theory in the Service of Radical Democracy. Verso, 1987)  
  • 『可塑性を力に』(Plasticity into Power: Comparative-Historical Studies of the Institutional Conditions of Economic and Military Success. Cambridge University Press, 1987)  
  • 『法学はどのようなものになるべきか』(What Should Legal Analysis Become? Verso, 1996)
  • 『アメリカ革新主義の未来』(The Future of American Progressivism: An Initiative for Political and Economic Reform. With Cornel West. Beacon Press, 1998)
  • 『現実化した民主主義』(Democracy Realized: The Progressive Alternative. Verso, 1998)
  • 『自由貿易再考』(Free Trade Reimagined: The World Division of Labor and the Method of Economics. Princeton University Press, 2007)
  • 『覚醒した自我』(The Self Awakened: Pragmatism Unbound. Harvard University Press, 2007)
  • 『新たなる左翼』(The Left Alternative. Verso, 2009)
  • 『未来の宗教』(The Religion of the Future. Harvard University Press 2014)
  • 『単一の宇宙と時間の実在』(The Singular Universe and the Reality of Time: An Essay in Natural Philosophy. With Lee Smolin. Cambridge University Press 2014)

出典[編集]

  1. ^ a b Unger, Roberto Mangabeira (1987). Social Theory: Its situation and its task. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 1. 
  2. ^ a b Keliher, Macabe (2012年7月2日). “A Vision and a Program for the American Left”. http://www.possible-futures.org/2012/07/02/vision-program-american-left-conversation-roberto-mangabeira-unger-situation-task-remaking-democratic-party/ 2012年7月5日閲覧。 
  3. ^ Anderson, Perry. 1989. “Roberto Unger and the Politics of Empowerment.” New Left Review 173 (February).
  4. ^ Unger, Roberto Mangabeira. “Nihilism, part 1”. 2011年11月29日閲覧。
  5. ^ Unger, Roberto Mangabeira (2007). The Self Awakened: Pragmatism Unbound. Cambridge: Harvard University Press. 
  6. ^ Unger, Roberto Mangabeira. “Nihilism”. 2011年11月29日閲覧。

関連項目[編集]