ロトカ・ヴォルテラの方程式

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ロトカ・ヴォルテラ方程式の解の一例。縦軸は個体数、横軸は時間。捕食者(Predatori、青)と被食者(Prede、赤)の個体数変動の位相は一般にずれており、捕食者が増加すると、急速に被食者が減少し、さらに捕食者が減少する、という時間変化を示す。

ロトカ・ヴォルテラの方程式(ロトカ・ヴォルテラのほうていしき、英語:Lotka-Volterra equations)とは、生物の捕食-被食関係による個体数の変動を表現する数理モデルの一種。2種の個体群が存在し、片方が捕食者、もう片方が被食者のとき、それぞれの個体数増殖速度を二元連立非線形常微分方程式系で表現する。ロトカ・ヴォルテラ捕食系ロトカ-ヴォルテラの捕食者-被食者モデルなどとも呼ばれる[1][2]

具体的には以下の方程式で表される[3]

\frac{dx}{dt} = a x - b xy
\frac{dy}{dt} = c xy - d y

ここで x は被食者の個体数、 y は捕食者の個体数、t は時間をあらわし、4つの係数 a, b, c, d は正の実数のパラメータである。

名称は、この方程式をそれぞれ独立発案したアメリカの数学者アルフレッド・ロトカとイタリアの数学者ヴィト・ヴォルテラの由来する[4]。ロトカは1920年に化学物質濃度の変動を説明するために、ヴォルテラは1926年にアドリア海の魚数の変動を説明するために発案した[5]

式の導出と前提条件[編集]

被食者の増殖速度[編集]

モデルの連立方程式の内の

\frac{dx}{dt} = a x - b xy

は被食者の個体数増殖速度 dx/dt を表している。上記の式は、以下のような生態学的な前提条件から導出される。

まず、捕食者が存在しない場合を仮定すると、被食者の個体数 x は順調に自然増していくと考えられる。この自然増は、マルサスモデルのようにその個体数に比例して増殖速度が増え、制限なく指数関数的に増殖すると仮定する[6]。すなわち、被食者にとっての餌は不足することなく十分あるような環境にあると仮定する[7]。これを表しているのが、右辺第一項 ax である[8]

しかし、捕食者が存在する場合、被食者の個体数は捕食によって減少し、捕食者の存在は被食者増殖速度を抑制する効果を持つ。よって、捕食者数 y に比例して被食者増殖速度 dx/dt が減少すると仮定できる[9]。またさらに、捕食者がランダムに被食者を探索しているとすれば、被食者個体数が多いほど出会う割合が高まると考えられる[3]。よって、被食者増殖速度は被食者個体数にも比例して減少すると仮定できる[10]。これを表しているのが、右辺第二項 −bxy である[8]

捕食者の増殖速度[編集]

捕食者の個体数増殖速度 dy/dt

\frac{dy}{dt} = c xy - d y

と表される。上記の式は、以下のような生態学的な前提条件から導出される。

まず、被食者が存在しない場合を考える。被食者にとっての餌はこの方程式系に現れる変数とは別に常に十分あると仮定したが、捕食者にとっての餌は被食者のみとする[11]。よって、被食者が存在しないことは食糧が尽きたことと同じであり、捕食者の死亡率は出産率を上回り、捕食者の個体数 y は減少の一途を辿ることになる。この減少の仕方も、被食者の自然増のように個体数が多ければ多いほど減少速度が大きくなる、すなわち個体数 y に減少速度 dy/dt が比例すると仮定する[6]。これを表しているのが、右辺第二項 −dy である[8]

そして、捕食者が増える速度は、捕食に成功した回数に比例すると考えられる[12]。捕食による被食者減少速度は、−bxy と仮定されることを説明したとおり、捕食による捕食者増殖速度も同じ理屈から被食者数 x と捕食者数 y に比例するといえる。これを表しているのが、右辺第一項 cxy である[10]

解の挙動[編集]

このロトカ・ヴォルテラ方程式を解析的に解いて xyt に関する明示的な解を得ることはできない[13]。しかし、以下のような解の挙動を分析し、それぞれの個体数がどのように振る舞うかを知ることができる。

平衡点[編集]

どのようなときに、個体数 x, y が増えも減りもしない、時間 t の経過によらず全く変化しない状態になるかについて考える。これは、方程式の dx/dtdy/dt が 0 ということなので、次のような式が得られる。

x (a - b y) = 0
y (c x - d) = 0

この式を満たす x, y の組み合わせは

x=0,\ y=0
x=\frac{a}{b},\ y=\frac{d}{c}

という2組である[14]x, y がこれら2組の値をとるとき、その x, y の値は時間に関わらず一定となる。このような点を平衡点と呼ぶ[15]x = 0, y = 0 の平衡点は、捕食者も被食者も全滅してしまった状態である[14]。一方、x = a/b, y = d/c の平衡点では、捕食者・被食者ともにある個体数で共存する状態となっている[12]

これらの平衡点から x, y の状態点がわずかにずれて与えられるときに、状態点が時間発展によって平衡点に収束するのか、それとも離れていくのかを特徴づける安定性は、次のように判別できる。2次以上の項が無視できるほどズレが小さいとすれば、平衡点 (0, 0) 近傍で系は次のように表すことができる[16]

\frac{dx}{dt}=ax
\frac{dy}{dt}=-cy

これを行列表記すると、


\begin{pmatrix}
\frac{dx}{dt} \\
\frac{dy}{dt} 
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
a & 0 \\
0 & -c 
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}

となる。

A=
\begin{pmatrix}
a & 0 \\
0 & -c 
\end{pmatrix}

と置いたとき、A固有値a と −b となるので、正と負の固有値を持つことから平衡点 (0, 0) は鞍点となっている[17]。また、少なくとも1つの固有値は正であることから、指数関数的にズレが増加する不安定な平衡点である[16]

平衡点 (a/b, d/c) についても同様に、 平衡点近傍で系を次のように表すことができる[18]


\begin{pmatrix}
\frac{dx}{dt} \\
\frac{dy}{dt} 
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 & -\frac{bc}{d} \\
\frac{ad}{b} & 0 
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}

固有値は \pm i \sqrt{ac} となる[19]。ここで i虚数単位で、固有値は複素共役の純虚数となっており、平衡点 (a/b, d/c) は渦心点となっている[20]。よって平衡点近傍の限りにおいては、平衡点周りで状態点が近づきも離れもしない、中立安定な平衡点となる[21]

保存量[編集]

横軸を x、縦軸を y、高さ軸を H として、保存量 H と各閉曲線の関係を示した図。各解曲線は初期状態が異なっている。

ロトカ・ヴォルテラの方程式は力学系における保存系に該当し、保存量と呼ばれる量を持つ[16]。式から微分 dx/dy を求めると、

\frac{dx}{dy}=\dfrac{\dfrac{dx}{dt}}{\dfrac{dy}{dt}}=\frac{a x - b xy}{c xy - d y}

となる。この変数分離形は

\frac{cx-d}{x}dx=\frac{a-by}{y}dy

となり、両辺を積分して

H=cx + by - d \log x - a \log y

が得られる[22]。ここで、log は自然対数である。右辺の H は一定の値を取る定数である。この式の意味は、時間経過に従って xy が色々な値に変化しても、上式で与えられる H の値は常に同じに保たれるということである[23]。このような量は保存量や積分不変量と呼ばれ、保存量を持つ系は保存系と呼ばれる[23]。実際に Ht で微分すると、dH/dt = 0 となり、H が定数であることが確認できる[24][注釈 1]H の値は初期値 x0, y0 によって決まり、H の各値に1つの閉曲線が対応する[22]。固定点 (d/c, a/b) で H は最小値を取り、その値は

H_{min} = a+d-a \log \left( \frac{a}{b} \right)-d \log \left( \frac{d}{c} \right)

となる[25]。さらに HHmin はこの系におけるリアプノフ関数となっている[26]

実際の生物における例[編集]

カンジキウサギカナダオオヤマネコの捕獲頭数記録 (1845年-1935年)

ロトカ・ヴォルテラの方程式で示された、被食者と捕食者の個体数が位相差を持ちながら一定振動を続ける振る舞いに近いといえる例は、実際の生物においていくつか確認されている。

野外環境における例としては、カナダにおいて、カンジキウサギとその捕食者であるカナダオオヤマネコの個体数が長期間にわたって振動していたデータがよく挙げられる[27][28]。2つの個体数振動は、周期はほぼ同じで、位相は少しずれている[29]。ただし、このデータは個体数を直接観測したものではなく、毛皮取引を行っていたハドソン湾会社による1845年から1935年までのカンジキウサギとカナダオオヤマネコの毛皮捕獲記録から、間接的に生息個体数を推定したものである[30]。また、1973年のギルピン(M. E. Gilpin) による解析によれば、これらの個体数変動を相平面上にプロットすると軌道が時計回りとなっており、カンジキウサギがカナダオオヤマネコを捕食していると解釈できる奇妙な結果となっている[30]

環境を制御した飼育実験における例としては、ハフェイカー(C. B. Huffaker) によるコウノシロハダニとその捕食者であるカブリダニによる飼育実験、内田俊郎によるアズキゾウムシとその寄生者であるコマユバチによる飼育実験のデータが挙げられる[31][27]。ハフェイカーの実験では、単純な環境だと捕食が早すぎてどちらかの絶滅が起きるため、橋を設けたり扇風機を回したり環境を複雑にすることで、長期間にわたってそれぞれの個体数が振動しながら共存するデータを得ている[31]

ロトカ・ヴォルテラの競争モデル[編集]

類似のロトカ・ヴォルテラの競争モデル

{dN_1 \over dt} = r_1N_1\left({K_1-N_1-a_{21}N_2 \over K_1}\right)

{dN_2 \over dt} = r_2N_2\left({K_2-N_2-a_{12}N_1 \over K_2}\right)

に関しては、競争を参照。

このモデルの解は周期解を持たず、a21 < 1 かつ a12 <1 のときのみ、共存解に収束し、それ以外の場合にはどちらかの生物が絶滅し、残った生物個体数は環境収容力 K1 または K2 に落ち着く。

一般化ロトカ・ヴォルテラ方程式[編集]

上述のロトカ・ヴォルテラ方程式やロトカ・ヴォルテラの競争モデルは、3種以上の個体群に対して一般化することかできる。

n種の個体群からなる一般化ロトカ・ヴォルテラ方程式は、

\dot{x}_i = x_i(r_i + \Sigma_{j=1}^{n}a_{ij}x_{j}), i = 1, \ldots, n

で与えられる。ここで xi は個体群密度、ri は内的増加率(または減少率)である。aiji 個体群に対する j 個体群の影響を表し、増進効果ならば正、阻害効果ならば負となる。すべての種類の相互作用はこのようにモデル化できる。ただし成長率に対するすべての種の影響が、線形であると仮定している。行列 A = (aij) は相互作用行列と呼ばれる。

一般化ロトカ・ヴォルテラ方程式について、状態空間は非負の象限

{\rm R}_{+}^{n} = \{ {\rm x} = (x_1, \ldots, x_n) \in {\rm R}^{n} : x_i \geq 0 (i = 1, \ldots, n) \}

である。{\rm R}_{+}^{n}境界点は座標面 xi = 0 上にあり、種 i が不在であることに対応する。これらの辺は xi (t) = 0 が xi (0) = 0 を満たす i 番目の一般化ロトカ・ヴォルテラ方程式に対する一意な解であるので、不変である。このモデルでは失われた種は移住することが不可能である。したがって境界 bd{\rm R}_{+}^{n}{\rm R}_{+}^{n} 自身は一般化ロトカ・ヴォルテラ方程式に対して不変である。そのため、内部 int{\rm R}_{+}^{n} も不変であり、xi (0) > 0 ならばすべての t に対して x (t) > 0 である。しかしながら密度 xi (t) は 0 に漸近する(対応する種の絶滅を意味する)ことは可能である。

2次元のロトカ・ヴォルテラ方程式の解の挙動は完全に分類されているが、高次元の場合、数多くの未解決問題が残されている。特に3種の個体群の場合でさえ、ある種のカオス的運動が出現することが、数値シミュレーションによって判明している。この解の漸近的挙動は非常に不規則な振動から構成されており、初期条件に大変鋭敏に依存している。このような場合、長期間の予測は不可能といえる。

注釈[編集]

  1. ^ \begin{align}
\frac{dH}{dt} &=\frac{\partial H}{\partial x}\frac{dx}{dt}+\frac{\partial H}{\partial y}\frac{dy}{dt} \\
&=\left( c-\frac{d}{x} \right) (ax-bxy) + \left( b-\frac{a}{y} \right) (cxy-dy) \\
&=acx - bcxy -ad +bdy +bcxy -bdy -acx +ad \\
&=0 
\end{align}

出典[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 日本生態学会(編) 2015, p. 44.
  2. ^ Steven H. Strogatz 『ストロガッツ 非線形ダイナミクスとカオス―数学的基礎から物理・生物・化学・工学への応用まで』 田中久陽・中尾裕也・千葉逸人訳、丸善出版、2015年、208頁。ISBN 978-4-621-08580-6
  3. ^ a b 巌佐 1990, p. 35.
  4. ^ Berryman 1992, p. 1531.
  5. ^ マレー 2014, pp. 65–66.
  6. ^ a b マレー 2014, p. 65.
  7. ^ ハーバーマン 1992, p. 108.
  8. ^ a b c 日本生態学会(編) 2015, p. 42.
  9. ^ 寺本 1997, p. 25.
  10. ^ a b 伊藤 1994, p. 80.
  11. ^ ハーバーマン 1992, pp. 108–109.
  12. ^ a b 日本生態学会(編) 2015, p. 43.
  13. ^ 大串 1994, p. 71.
  14. ^ a b ハーバーマン 1992, p. 112.
  15. ^ 寺本 1997, p. 77.
  16. ^ a b c マレー 2014, p. 67.
  17. ^ Hirsch et al. 2007, p. 246.
  18. ^ ハーバーマン 1992, p. 116.
  19. ^ Hirsch et al. 2007, p. 247.
  20. ^ Hirsch et al. 2007, p. 60.
  21. ^ ハーバーマン 1992, pp. 116–117.
  22. ^ a b ハーバーマン 1992, p. 119.
  23. ^ a b 寺本 1997, p. 99.
  24. ^ 巌佐 1990, p. 36.
  25. ^ Shagi-Di Shih (December 1997). “THE PERIOD OF A LOTKA-VOLTERRA SYSTEM”. Taiwanese Journal of Mathematics (The Mathematical Society of the Republic of China) 1 (4): 453. ISSN 2224-6851. http://journal.tms.org.tw/index.php/TJM/article/view/1423 2016年3月2日閲覧。. 
  26. ^ Hirsch et al. 2007, p. 248.
  27. ^ a b 日本生態学会(編) 2004, pp. 141–142.
  28. ^ ハーバーマン 1992, pp. 107–108.
  29. ^ 日本生態学会(編) 2015, p. 40.
  30. ^ a b マレー 2014, pp. 68–69.
  31. ^ a b 伊藤 1994, pp. 80–81.

文献リスト[編集]

※文献内の複数個所に亘って参照したものを示す。

  • R. ハーバーマン、稲垣宣生(訳)、1992、『生態系の微分方程式』初版、 現代数学社 ISBN 4-7687-0307-0
  • 寺本英、川崎廣吉・重定南奈子・中島久男・東正彦・山村則男(編)、1997、『数理生態学』初版、 朝倉書店 ISBN 4-254-17100-5
  • 巌佐庸、1990、『数理生物学入門―生物社会のダイナミックスを探る』初版、 HBJ出版局 ISBN 4-8337-6011-8
  • 伊藤嘉昭、1994、『生態学と社会―経済・社会系学生のための生態学入門』初版、 東海大学出版会 ISBN 4-486-01272-0
  • 大串隆之、2014、「3章 昆虫の個体群と群集」、『昆虫生態学』初版、 朝倉書店 ISBN 978-4-254-42039-5 pp. 49–98
  • 日本生態学会(編)、巌佐庸・舘田英典(担当編集委員)、2015、『集団生物学』初版、 共立出版〈シリーズ 現代の生態学 1〉 ISBN 978-4--320-05744-9
  • 日本生態学会(編)、2004、『生態学入門』初版、 東京化学同人 ISBN 4-8079-0598-8
  • ジェームス・D・マレー、三村昌泰(総監修)、瀬野裕美・河内一樹・中口悦史・三浦岳(監修)、勝瀬一登・吉田雄紀・青木修一郎・宮嶋望・半田剛久・山下博司(訳)、2014、『マレー数理生物学入門』初版、 丸善出版 ISBN 978-4-621-08674-2
  • Morrus W. Hirsch; Stephen Smale; Robert L. Devaney、桐木紳・三波篤朗・谷川清隆・辻井正人(訳)、2007、『力学系入門 原著第2版―微分方程式からカオスまで』初版、 共立出版 ISBN 978-4-320-01847-1
  • Alan A. Berryman (Oct. 1992). “The Orgins and Evolution of Predator-Prey Theory”. Ecology (Ecological Society of America) 73 (5): 1530–1535. doi:10.2307/1940005. http://www.jstor.org/stable/1940005. 

外部リンク[編集]