レ・シルフィード

『レ・シルフィード』(Les Sylphides)は、フレデリック・ショパンのピアノ曲の管弦楽編曲によるバレエ作品。最初はアレクサンドル・グラズノフによる演奏会用作品をもとに、1907年にミハイル・フォーキンによって振り付けられ、『ショピニアーナ』(Chopiniana)の名前で発表された。バレエの優雅さを堪能させるもので、劇の複雑なあらすじなどはない。森の精(シルフィード)と詩人(ショパンとも)が月明かりの下で踊り明かす。
1907年にマリインスキー劇場で初演された。フォーキン自身が改訂を重ね、1909年6月 バレエ・リュス第1回公演(パリ・シャトレ座)で第3版を上演してからは現在のかたちになった。
これに類するものとして、1923年にパリのオペラ座で上演された、La Nuit ensorcelée(『魅せられた夜』)がある。これはルイ・オベールがショパンの作品を管弦楽に編曲したもので、二幕のバレエ。振付師はレオ・スターツ(Léo Staats)。
ロマンティックバレエの代表作である『ラ・シルフィード』(La Sylphide)と混同されることがあるが、シルフィードが登場すること以外に共通点はない。
使用編曲
[編集]初演(ショピニアーナ)
[編集]もともとはショパンの4つのピアノ作品を1892年にアレクサンドル・グラズノフが管弦楽用に編曲したもので、1893年のベリャーエフのコンサートにおいてリムスキー=コルサコフ指揮で初演された[1]。
バレエとしては1907年にマリインスキー・バレエによって初演された。このときフォーキンの追加注文によりグラズノフはワルツ嬰ハ短調を加え、以下の5曲で上演された。
フォーキン改訂版(第2ショピニアーナ)
[編集]その後フォーキンはワルツ以外のグラズノフによる編曲を破棄し、マリインスキー劇場のレペティトゥールであったMaurice Kellerに新たな編曲を注文した。この版は以下の7曲を含む[2]。
- 夜想曲変イ長調作品32-2
- ワルツ変ト長調作品70-1
- マズルカニ長調作品33-2
- マズルカハ長調作品67-3
- 前奏曲イ長調作品28-7
- ワルツ嬰ハ短調作品64-2(練習曲の序奏つき)
- 華麗なる大円舞曲作品18
バレエ・リュス版
[編集]パリでのセゾン・リュスの公演にあたってセルゲイ・ディアギレフは再び『ワルツ嬰ハ短調』以外のすべての曲の再編曲を依頼した。編曲者はアナトーリ・リャードフ、セルゲイ・タネーエフ、ニコライ・チェレプニン、イーゴリ・ストラヴィンスキーであった。この版はパリのシャトレ座で1909年6月2日に初演された[3]。振付はフォーキン、美術はアレクサンドル・ブノワにより、アンナ・パヴロワ、タマラ・カルサヴィナ、ヴァーツラフ・ニジンスキー、アレクサンドラ・バルディナが踊った[4]。この版は何度も再演され、バレエ・リュスの定番となったが、楽譜が出版されることはなく、現在は使用されていない[3]。
現行
[編集]ロイ・ダグラス(Roy Douglas)が1936年に編曲した版が広く用いられる[5]。
- 前奏曲イ長調
- 勇壮さを演出するためにグラズノフ版にならって軍隊ポロネーズを使う場合もある。
- 夜想曲変イ長調
- ワルツ変ト長調
- マズルカ作品33-2
- マズルカ作品67-3
- ワルツ嬰ハ短調(序奏に練習曲作品25-7の序奏部を使用)
- 華麗なる大円舞曲
- 全体的に編曲は巧みで、作曲者の旋律美を遺憾なく活用している。このため日本国内でも「ショパンはお好き」なる題名などで各種録音媒体の紹介がさかん。
その他の編曲
[編集]ほかにもいろいろな版が存在する。
ロジェ・デゾルミエールが独自に編曲した稿もあり、編曲者自身の録音も残されてはいるが、現在では顧みられていない。
ベンジャミン・ブリテンは1940年にニューヨークのバレエ・シアター(アメリカン・バレエ・シアターの前身)のために編曲した[4][6][7]。
アレクサンドル・グレチャニノフの編曲した版も存在する[6]。
舞台構成
[編集]- 前奏曲イ長調
- 夜想曲変イ長調 全員の踊り
- ワルツ変ト長調 女性ソリストのヴァリアシオン
- マズルカ作品33-2 女性ソリストのヴァリアシオン
- マズルカ作品67-3 女性ソリストのヴァリアシオン
- 前奏曲イ長調(最初と同じ) 女性ソリストのヴァリアシオン
- ワルツ嬰ハ短調 パ・ド・ドゥ
- ワルツ(華麗なる大円舞曲) 全員の踊り
脚注
[編集]- ^ Taruskin 1996, p. 546.
- ^ Taruskin 1996, pp. 546–547.
- ^ a b Taruskin 1996, p. 547.
- ^ a b Les Sylphides, American Ballet Theatre
- ^ John Walton (2005), Roy Douglas, MusicWeb
- ^ a b Taruskin 1996, p. 547注149.
- ^ Chopin - Britten: Les Sylphides (1941), Boosey & Hawkes
参考文献
[編集]Taruskin, Richard (1996). Stravinsky and the Russian Traditions. University of California Press. ISBN 0520070992