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塩化ホスホリル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リン酸トリクロリドから転送)
塩化ホスホリル
塩化ホスホリルの構造式
塩化ホスホリルの構造式
物質名
識別情報
3D model (JSmol)
ChEBI
ChemSpider
ECHA InfoCard 100.030.030 ウィキデータを編集
EC番号
  • 233-046-7
Gmelin参照 2272
RTECS number
  • TH4897000
UNII
国連/北米番号 1810
性質
POCl3
モル質量 153.33 g/mol
外観 無色液体
密度 1.645 g/cm3, 液体
融点 1.25 ℃ (274.4 K)
沸点 105.8 ℃ (379.0 K)
水と反応
構造
四面体形
2.54 D
熱化学[1]
標準定圧モル比熱, Cp 138.8 J·mol−1·K−1 (液体), 84.9 J·mol−1·K−1 (気体)
標準モルエントロピー S 222.5 J·mol−1·K−1 (液体), 325.5 J·mol−1·K−1 (気体)
標準生成熱 fH298)
−597.1 kJ·mol−1 (液体), −558.5 kJ·mol−1 (気体)
−520.8 kJ·mol−1 (液体), −512.9 kJ·mol−1(気体)
融解熱 fHfus)
13.1 kJ·mol−1
蒸発熱 fHvap)
38.6 kJ·mol−1
危険性
労働安全衛生 (OHS/OSH):
主な危険性
有毒、腐食性、水と反応して塩化水素を放出[2]
GHS表示:
腐食性物質急性毒性(高毒性)急性毒性(低毒性)経口・吸飲による有害性
Danger
H302, H314, H330, H372
P260, P264, P270, P271, P280, P284, P301+P312, P301+P330+P331, P303+P361+P353, P304+P340, P305+P351+P338, P310, P314, P320, P321, P330, P363, P403+P233, P405, P501
NFPA 704(ファイア・ダイアモンド)
NFPA 704 four-colored diamondHealth 3: Short exposure could cause serious temporary or residual injury. E.g. chlorine gasFlammability 0: Will not burn. E.g. waterInstability 2: Undergoes violent chemical change at elevated temperatures and pressures, reacts violently with water, or may form explosive mixtures with water. E.g. white phosphorusSpecial hazard W: Reacts with water in an unusual or dangerous manner. E.g. sodium, sulfuric acid
3
0
2
致死量または濃度 (LD, LC)
380 mg/kg (ラット, 経口)
NIOSH(米国の健康曝露限度):
none[2]
TWA 0.1 ppm (0.6 mg/m3) ST 0.5 ppm (3 mg/m3)[2]
N.D.[2]
安全データシート (SDS) ICSC 0190
関連する物質
関連物質 塩化チオホスホリル
臭化ホスホリル
三塩化リン
五塩化リン
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。

塩化ホスホリル(えんかホスホリル、phosphoryl chloride)は三塩化リン酸素原子を付加した化合物である。オキシ塩化リン (phosphorus oxychloride)、リン酸トリクロリド (phosphoric trichloride) とも呼ばれる。分子式は POCl3 である。湿気を含んだ空気で加水分解されてリン酸塩化水素の煙を生じる。三塩化リンと酸素、あるいは五塩化リンから工業的に大規模に生産されており、リン酸トリクレジルのようなリン酸エステルを作るのに用いられる。毒物及び劇物取締法により毒物に指定されている[3]

構造

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リン酸エステルなどの類縁体と同様、四面体構造をとる。3つの P-Cl 結合と1つの非常に強い P=O 結合を持ち、P=O 結合の結合解離エネルギーは 533.5 kJ/mol と見積もられている。結合強度と電気陰性度に基づき、ショーメーカー・スチーブンソン則 (Schomaker-Stevenson rule) は POF3 よりも二重結合の寄与が非常に大きいことを示している。この P=O 結合はケトンなどのカルボニル基におけるπ結合とは異なる。P-O 間の相互作用の適切な記述法については長らく論争が続いている。古い教科書では、リン原子上のd軌道の関与を用いた記述、すなわちいくつかのd軌道が酸素原子に向かって広がり、酸素のp軌道と重なっている、という記述がよく見られる。より新しい教科書では、 P-Cl σ* 軌道に O 原子の孤立電子対が供与されて P-O π 結合が生じるという記述が好んで用いられ、d軌道に関しては考慮されない。 ハロゲン化ホスホリルの供与結合塩化ホスホリルの構造の共鳴式

化学的性質

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水やアルコールと反応してリン酸やリン酸エステルを与える。

アルコールと反応させる場合、生成物であるアルキルリン酸エステルは HCl に対して不安定なので、ピリジンアミンなど HCl と反応してこれを取り除ける試薬を共存させる。塩化ホスホリルを塩化マグネシウムなどのルイス酸存在下に過剰のフェノールと加熱すると、トリアリールリン酸エステルが生成する。

ルイス塩基としても働き、四塩化チタンなど、様々なルイス酸と反応して付加物を形成する。

塩化アルミニウムとの付加物は非常に安定なので、フリーデル・クラフツ反応を行った後の混合物から完全に塩化アルミニウムを取り除くことができる。また、塩化アルミニウムの存在下、臭化水素と反応して POBr3 を与える。

合成法

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三塩化リンと酸素の20–50 ℃における反応によって得られる。空気を用いると反応効率が悪い。

もう1つは五塩化リンと五酸化二リンの反応によるものである。これらの化合物は共に固体なので混合しにくい。そこで、液体である三塩化リンを原料兼溶媒として使う。五酸化二リンとの混合物を塩素化し、五塩化リンを系中で発生させ、反応を行う。三塩化リンが消費されると、生成物である塩化ホスホリルが溶媒となる。

五塩化リンを水と反応させても塩化ホスホリルが生成するが、この反応は上記のものより制御するのが難しい。

用途

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最も重要な用途はリン酸トリフェニルやリン酸トリクレジルといったリン酸トリアリールエステルの製造である。これらのエステル類は難燃剤ポリ塩化ビニル可塑剤として長年用いられている。一方、リン酸トリブチル(TBP)などのアルキルエステルは核燃料再処理において液-液抽出溶媒として使われる。

実験室においては脱水試薬として広く用いられる。例としてアミドニトリルへの変換が挙げられる。ビシュラー・ナピエラルスキー反応 (Bischler-Napieralski reaction) ではアミド前駆体の閉環によってジヒドロイソキノリン誘導体を合成する。

上記の反応は塩化イミドイル中間体を経由すると考えられている。十分に安定な場合は、塩化イミドイルが最終生成物となる。例えば、ピリドンピリミドンはピリジンやピリミジンの塩化物誘導体へと変換でき、これらは製薬工業における重要な中間体である。同様にして、バルビツール酸は塩化ホスホリルと140 ℃で反応させることにより、2,4,6-トリクロロピリミジンに変換される。

また、これと関連する反応として、塩化ホスホリルを用いて活性化された芳香環をアシル化し、芳香族アルデヒドや芳香族ケトンを得る反応(ビルスマイヤー・ハック反応)がある。この反応には DMFN-フェニル-N-メチルホルムアミドといったホルムアミド誘導体が最もよく使われる。これらはイミニウム塩を生成したあと、簡単に加水分解されてアルデヒドを与える。例えばアントラセンとの反応では 9-アントラアルデヒドを与える。

ビルスマイヤー・ハック反応
ビルスマイヤー・ハック反応

脚注

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  1. ^ CRC handbook of chemistry and physics: a ready-reference book of chemical and physical data.. William M. Haynes, David R. Lide, Thomas J. Bruno (2016-2017, 97th ed.). Boca Raton, Florida. (2016). ISBN 978-1-4987-5428-6. OCLC 930681942 
  2. ^ a b c d NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards 0508
  3. ^ 毒物及び劇物指定令 昭和四十年一月四日 政令第二号 第一条 二の四

参考文献

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  1. Earnshaw, A.; Greenwood, N. Chemistry of the Elements; Butterworth-Heinemann: Oxford, 1997; 2nd ed. ISBN 0-7506-3365-4
  2. Handbook of Chemistry and Physics; CRC Press: Ann Arbor, Michigan, 1990; 71st ed.
  3. March, J. Advanced Organic Chemistry; Wiley: New York, 1992; 4th ed., p. 723. ISBN 0-471-58148-8
  4. The Merck Index; Merck & Co: Rahway, New Jersey, 1960; 7th ed.
  5. Toy, A. D. F. The Chemistry of Phosphorus; Pergamon Press: Oxford, UK, 1973.
  6. Wade, L. G., Jr. Organic Chemistry; Prentice Hall: Upper Saddle River, New Jersey, 2005; 6th ed., p. 477. ISBN 0-13-169957-1
  7. Walker, B. J. Organophosphorus Chemistry; Penguin: Harmondsworth, UK, 1972; pp. 101-116.
  8. Elderfield, R. C. Heterocyclic Compounds; Wiley: New York, 1957; Vol. 6, pp. 265-266. トリクロロピリミジンの合成については: Gabriel, S.; Colman J. "Zur Darstellung des 2.4.6-Trichlor-pyrimidins." Chem. Ber. 1904, 37, 3657-3658.
  9. 9-Anthraldehyde; 2-Ethoxy-1-naphthaldehyde. Organic Syntheses, Coll. Vol. 3, p. 98 (1955); Vol. 20, p. 11 (1940). アントラセンのホルミル化(英語)