クロイワトカゲモドキ

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クロイワトカゲモドキ
クロイワトカゲモドキ
クロイワトカゲモドキ Goniurosaurus kuroiwae
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: 有鱗目 Squamata
: トカゲモドキ科 Eublepharidae
: トカゲモドキ属 Goniurosaurus
: クロイワトカゲモドキ
G. kuroiwae
学名
Goniurosaurus kuroiwae
(Namiye, 1912)[1]
和名
クロイワトカゲモドキ[1][2]
英名
Kuroiwa's ground gecko[2]

クロイワトカゲモドキ(黒岩蜥蜴擬、Goniurosaurus kuroiwae)は、爬虫綱有鱗目トカゲモドキ科トカゲモドキ属に分類されるトカゲ。別名リュウキュウトカゲモドキ

分布[編集]

日本沖縄諸島[3][4][5]固有種

形態[編集]

全長15 - 18センチメートル[4]。頭胴長6.5 - 8.5センチメートル[2]。腹面の鱗は扁平で、瓦状[6][7][8][9]体色は黒や暗褐色などで、黄色やピンク色などの縦縞や横縞が入る[2]。尾に3 - 5本の白い横縞が入るが、再生尾では全体的に不規則な白色斑が入る[3][4][5]

クロイワトカゲモドキ 幼体 沖縄本島南部撮影

分類[編集]

2014年に発表されたミトコンドリアDNAの12S rRNAや16S rRNA・シトクロムbの分子系統推定から、本種の亜種とされていたオビトカゲモドキは他の亜種と遺伝的距離が大きいため、独立種として分割する説が有力とされる[10]。この分子系統推定では基亜種の沖縄島南部個体群とマダラトカゲモドキの伊江島個体群が単系統群を構成するなど、基亜種と亜種マダラトカゲモドキは偽系統群という解析結果も得られている[10]。 オビトカゲモドキとは1450万年前に分岐し、600万 - 3900万年前に各亜種が分岐したと推定されている[10]。2017年に亜種マダラトカゲモドキの渡嘉敷島個体群が、亜種ケラマトカゲモドキG. k. sengokuiとして記載された[11]

IUCNレッドリスト(2017)・Reptile Database(2018)などのように各亜種を独立種とする説もある。以下の分類は日本爬虫両棲類学会(2017)に、和名は戸田(2014)・日本爬虫両棲類学会(2017)に、英名は戸田(2014)に従う[1][6][7][8][9]

Goniurosaurus kuroiwae kuroiwae Namiye, 1912 クロイワトカゲモドキ Kuroiwa's ground gecko
日本(沖縄島瀬底島古宇利島屋我地島)固有亜種[6]
体形は細い[6]。背面の体色は暗褐色や黒褐色[6]。胴体には明瞭な横帯は入らない[6]。胴体前半部にピンクがかった縦縞が入り、その周辺に不規則に明色の斑点が入る[6]虹彩は赤褐色や暗赤褐色[6]
Goniurosaurus kuroiwae orientalis (Maki, 1930) マダラトカゲモドキ Spotted ground gecko
日本(伊江島渡名喜島)固有亜種[5][7]
背面の体色は暗褐色[7]。胴体にピンク色がかった横縞が3 - 4本と、正中線上に断続的な縦縞が入る[7]。縦縞と横縞の間には不規則に斑点が入る[7]。虹彩は赤褐色や暗赤褐色[7]
Goniurosaurus kuroiwae sengokui Honda et Ota, 2017[11] ケラマトカゲモドキ
日本(阿嘉島?<絶滅?>、渡嘉敷島
背面の体色は褐色[11]。胴体に淡黄色の横縞が4本(頸部・前肢と後肢の間の4分の1・4分の3・後肢よりも後部)入る。頸部より後部の正中線上に赤やピンクがかった橙色の縦縞が入る[11]。頭部は明褐色や褐色で、一部に淡黄色の破線状になった網目模様が入る[11]
亜種小名は千石正一への献名[11]
Goniurosaurus kuroiwae toyamai Grismer, Ota et Tanaka, 1994 イヘヤトカゲモドキ Toyama's ground gecko
日本(伊平屋島)固有亜種[5][8]
他の亜種と比較すると、体形は太く幅広い[8]。背面の体色は黒や暗褐色[8]。胴体にピンクがかった横縞が3 - 4本入るが、縦縞や横帯の間に斑点は入らない[5][8]。虹彩は赤褐色や暗赤褐色[8]
Goniurosaurus kuroiwae yamashinae (Okada, 1936) クメトカゲモドキ Yamashina's ground gecko
日本(久米島)固有亜種[5][9]
体形は細い[9]。胴体に黄色がかった横縞が4本入るが、縦縞は入らない[5][9]。横縞の間には不規則に明色の斑点が入る[9]。虹彩は黄褐色[9]。指趾の基部に大型鱗がない[5]

生態[編集]

山地の常緑広葉樹林やその周辺にある石灰洞などに生息する[2][3]。地表棲[2][3]夜行性[2][3]、昼間は倒木の下や洞窟で休む[4]

昆虫クモ多足類ワラジムシ類などを食べる[6]

繁殖形態は卵生。基亜種は5 - 8月に1回に2個の卵を、1か月以上の間隔をあけて数回にわたり産む[6]

交尾中のクロイワトカゲモドキ

人間との関係[編集]

生息地では有毒種と信じられ、アシハブやジーハブといった方言で呼称される[3]

開発による生息地の破壊、人為的に移入されたノイヌ・ノネコ・フイリマングースニホンイタチサキシマハブウシガエルなどによる捕食などにより生息数は激減している[2]。ペット用に密猟されていると考えられ[2]、1990年代にアメリカ人の密漁者が摘発された例がある[5]1978年に種として沖縄県天然記念物に指定されている[5]

この記事では亜種として扱うが、以下のIUCNレッドリストは亜種ケラマトカゲモドキを除き各亜種を独立種として判定している。

G. k. kuroiwae クロイワトカゲモドキ
VULNERABLE (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[12]
絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト[6]
G. k. orientalis マダラトカゲモドキ
ENDANGERED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[13]
絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト[14]
G. k. sengokui ケラマトカゲモドキ
絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト[14]
G. k. toyamai イヘヤトカゲモドキ
林道・ダム建設や農地開発による生息地の破壊により生息数が減少し、ペット用の採集も懸念されている[8]
CRITICALLY ENDANGERED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[15]
絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト[8]
G. k. yamashinae クメトカゲモドキ
林道建設や農地開発による生息地の破壊により生息数が減少し、ペット用の採集も懸念されている[9]
CRITICALLY ENDANGERED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[16]
絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト[9]

出典[編集]

  1. ^ a b c 日本爬虫両棲類学会 (2017) 日本産爬虫両生類標準和名リスト(2017年12月9日版). http://herpetology.jp/wamei/ (2018年5月22日閲覧)
  2. ^ a b c d e f g h i 太田英利 「クロイワトカゲモドキ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社2000年、198-199頁。
  3. ^ a b c d e f 松本通範 「クロイワトカゲモドキ」「マダラトカゲモドキ」『爬虫類・両生類800種図鑑 第3版』千石正一監修 長坂拓也編著、ピーシーズ、2002年、316頁。
  4. ^ a b c d 松井孝爾 「クロイワトカゲモドキ」『動物大百科12 両生・爬虫類』深田祝監修 T.R.ハリディ、K.アドラー編、平凡社1986年、160頁。
  5. ^ a b c d e f g h i j 『沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)-動物編-』、沖縄県文化環境部自然保護課編 、2005年、97、102-104、111-113頁。
  6. ^ a b c d e f g h i j k 戸田守 「クロイワトカゲモドキ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-3 爬虫類・両生類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい2014年、34-35頁。
  7. ^ a b c d e f g 戸田守 「マダラトカゲモドキ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-3 爬虫類・両生類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、16-17頁。
  8. ^ a b c d e f g h i 戸田守 「イヘヤトカゲモドキ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-3 爬虫類・両生類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、2-3頁。
  9. ^ a b c d e f g h i 戸田守 「クメトカゲモドキ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-3 爬虫類・両生類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、4-5頁。
  10. ^ a b c Masanao Honda, Takaki Kurita, Mamoru Toda, and Hidetoshi Ota, "Phylogenetic relationships, genetic divergence, historical biogeography and conservation of an endangered gecko, Goniurosaurus kuroiwae (Squamata: Eublepharidae), from the Central Ryukyus, Japan," Zool. Sci. 30: 2014, Pages 309-320.
  11. ^ a b c d e f Masanao Honda & Hidetoshi Ota, "On the live coloration and partial mitochondrial DNA sequences in the topotypic population of Goniurosaurus kuroiwae orientalis (Squamata: Eublepharidae), with description of a new species from Tokashikijima Island, Ryukyu Archipelago, Japan," Asian Herpetological Research, 8(2), 2017, 96-107.
  12. ^ Kidera, N. & Ota, H. 2017. Goniurosaurus kuroiwae. The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T98152257A96877452. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T98152257A96877452.en. Downloaded on 22 May 2018.
  13. ^ Kidera, N. & Ota, H. 2017. Goniurosaurus orientalis. The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T18917757A18917761. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T18917757A18917761.en. Downloaded on 22 May 2018.
  14. ^ a b 環境省レッドリスト2018の公表について 環境省レッドリスト2018環境省・2018年5月22日に利用)
  15. ^ Kidera, N. & Ota, H. 2017. Goniurosaurus toyami. The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T18917777A18917779. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T18917777A18917779.en. Downloaded on 22 May 2018.
  16. ^ Kidera, N. & Ota, H. 2017. Goniurosaurus yamashinae. The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T18917785A18917789. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T18917785A18917789.en. Downloaded on 22 May 2018.

関連項目[編集]