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ヤンキー型原子力潜水艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヤンキー型原子力潜水艦
損傷した K-219
損傷した K-219
基本情報
建造所 セヴェロドヴィンスクとコムソモリスク
運用者  ソビエト連邦海軍
建造数 34隻 (喪失1隻、退役33隻)
前級 ホテル型原子力潜水艦
次級 デルタ型原子力潜水艦
要目
排水量 浮上時:7,700トン
潜航時:9,300トン
長さ 132 m
11.6 m
吃水 8 m
推進 VM-4型加圧水型原子炉2基、蒸気タービン4基2軸
速力 浮上時13ノット
潜航時27ノット
航続距離 無限
乗員 120人
兵装 ヤンキー I:
R-27 (SS-N-6 Serb) SLBMの発射管16基
533 mm魚雷発射管4基
400 mm魚雷発射管2基
ヤンキー II:
R-31 (SS-N-17 Snipe) SLBM発射管12基 (推定)
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ヤンキー型原子力潜水艦(ヤンキーがたげんしりょくせんすいかん Yankee class submarine、проект 667А "Навага",667АУ "Налим",667АМ "Навага-М",667АК "Аксон-1",09774 "Аксон-2",667АТ"Гриша",667М "Андромеда")は、ソビエト海軍が運用していた原子力弾道ミサイル潜水艦ホテル型原子力潜水艦の後継艦級として計画された。

ヤンキー型の名称はNATOコードネームによるもので、ソビエト側の名称はそれぞれ

  • ヤンキーI型-プロイェクト667А"ナヴァガ"及び"ナリム"
  • ヤンキーII型-プロイェクト667АУ"ナヴァガМ"

である。

多くの派生型があることが知られており、それぞれのソヴィエト側名称は、

  • ヤンキー・ポッド(Yankee Pod)-プロイェクト667АК"アクソン-1"及びプロイェクト09774"アクソン-2"
  • ヤンキー・サイドカー(Yankee Sidecar)型-プロイェクト667М"アンドロメダ"
  • ヤンキー・ノッチ(Yankee Notch)型-プロイェクト667АТ"グリシャ"
  • ヤンキー・ストレッチ(Yankee Stretch)型-プロイェクト09780

である。

これら派生型と合わせて34隻がコムソモルスク・ナ・アムールおよびセヴェロドヴィンスクの造船所で、1967年から1972年にかけて就役した。1990年にはほぼ全艦が退役している。

概要

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本艦級はR-13を装備していたホテルI型(658型)原子力潜水艦と異なり、水面への浮上の必要が無く、水中から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射できるという点で優れている。だが、搭載しているR-27/RSM-25(SS-N-6 Serb)の射程は2,000 km(改良型では3,600-4,000 km)と短く、危険を冒して敵が航空優勢・制海権を持つところまで移動しなければならなかった。この欠点は次世代のデルタ級原子力潜水艦がより長射程のSS-N-8を搭載することにより改善されている。

なお、本級は、アメリカのジョージ・ワシントン級戦略原潜に似た外見であるが、実は、ソ連の諜報機関が入手したジョージ・ワシントン級戦略原潜の各種資料を元に設計された原潜であった。当初は横置きの弾道弾を縦に回転して発射するという第667号計画として進められていたが、ニキータ・フルシチョフ首相の前で模型まで用意して667号計画の説明を行おうとしたら、運悪く模型がフルシチョフの目の前で壊れてしまった。これに激怒した彼は、「模型でさえ壊れるような艦など、実際に造っても壊れてしまうだろう」と言って667号計画を中止させ、改めて、改正版の667A号計画として再スタートして出来上がったのが本型であった。このことは潜水艦隊の将兵にもある程度知れ渡っていたため、本型は自嘲を込めて「イワン・ワシントン」というあだ名で呼ばれていた。

事件・事故等

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1986年10月3日、バミューダ諸島の北東約1,000キロ沖合でヤンキー型原潜が爆発と火災を起こし、3日後の6日午前4時ごろに沈没した[1]。火災自体は2日後に鎮火したものの、火災によって生じた船体亀裂からの浸水を阻止しきれなかったものとみられている[1]。アメリカを射程に収めて行動中であった戦略原潜の事故だけに、当時は全世界に注目された一件であった[1]。当時の報道では乗員3名が死亡、他の乗員はアメリカ海軍に救助された1名を除きソ連船に救助され、ミサイル誘爆や放射能漏れは発生しなかったとされる[1]。本艦の艦名はK-219で、火災原因はミサイルの燃料漏れとされる。

諸元(ヤンキーI型)

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プロイェクト667А(ヤンキーI)型

比較表

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弾道ミサイル原子力潜水艦各型の比較
世代 第4世代 第3世代 第2世代 第1世代
NATOコードネーム ボレイ型 タイフーン型 デルタ型(IV/III/II/I) ヤンキー型 ホテル型
計画番号 955M型 941型 667BDRM型 667BDR型 667BD型 667B型 667A型 658型
船体 水中排水量 24,000 t 33,800 – 48,000 t 12,100 t 10,600 t 10,500 t 10,000 t 9,300 t 5,500 t
全長 170 m 175 m 167 m 155 m 139 m 132 m 114 m
全幅 13.5 m 23 m 12.2 m 11.7 m 11.6 m 9.2 m
吃水 9.0 m 12.0 m 8.8 m 8.7 m 8.6 m 8.4 m 8.0 m 7.31 m
造船所 402 402、199 402
設計局 ルビーン 18
主機 機関 加圧水型原子炉+蒸気タービン
方式 ギアード・タービン
出力 不明 49,600 hp 60,000 hp 55,000 hp 52,000 hp 20,000 hp 39,200 hp
原子炉システム OK-650VまたはKPM-6 OK-650 OK-700/700A OK-700 VM-A
水中速力 25 kt 27 kt 24 kt 25 kt 26 kt 27 kt 26 kt
兵装 水雷 533mm魚雷発射管×6門 650mm魚雷発射管×2門
533mm魚雷発射管×4門
533mm魚雷発射管×4門(I-IV型)
406mm魚雷発射管×2門(I-III型)
533mm魚雷発射管×4門
406mm魚雷発射管×2門
SLBM 3M14×16基 RSM-52×20基 R-29×16基 R-29×12基 R-27×16基 R-13/R-21×3基
同型艦数 14隻予定 6隻 7隻 14隻 4隻 18隻 34隻 8隻

派生型

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ヤンキーII型(667AM型)

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667AM型

搭載弾道ミサイルを固体燃料のR-31(SS-N-17)に換装したタイプ。R-31の性能が期待した程ではなかったため(R-27より大型化したにもかかわらず、射程が1,400kmしかなかった)、この改造を受けたのはK-140ただ1隻のみとなった。

ヤンキー・ノッチ型(667AT型「グリシャ」)

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弾道ミサイルを撤去し、そのスペースに魚雷および巡航ミサイルを発射する533mm魚雷発射管×8および弾庫を設置。K-395、K-408、K-418、K-423、K-415、K-399、K-236の7隻が改造。

ヤンキー・サイドカー型(667M型「アンドロメダ」)

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耐圧船殻外に3M-25(SS-NX-24)巡航ミサイルの発射管×12を装備。K-420がこの改造を受け、発射テストを行うが、3M-25がソ連崩壊後に開発中止となったため、1隻のみに留まった。

ヤンキー・ポッド型(667AK型「アクソン-1」および09774型「アクソン-2」)

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弾道ミサイルを撤去し、電子機器および艦尾縦舵上に流線型のポッド(曳航式ソナー・アレイを収納)を設置し、曳航式ソナー・アレイおよび関連機器の試験に従事。改装にともない、第1級特殊用途大型原子力潜水艦に再分類。K-403がこの改造を受け、艦番号がKS-403に変更された。

ヤンキー・ストレッチ型(09780型)

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ミゼットサブの母艦に改造。K-411がこの改造を受け、艦番号がKS-411に変更、のちにBS-411となった。

脚注

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出典

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参考文献

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  • A.S.Pavlov, Gregory Toker (translator), Norman Friedman (editor, English language edition), 1997, Warships of the USSR and Russia 1945-1995, [Annapolis, Maryland]: Naval institute press, ISBN 155750671X.
  • Peter Huchthausen, et al., 1997, Hostile waters, St Martins Press, ISBN 0312169280.→三宅真理訳、1998、『敵対水域』文藝春秋、ISBN 4163537406→2000、文藝春秋(文春文庫)ISBN 4167651033
K-219沈没事件のルポルタージュ。
  • 海人社(編)「ソ連のヤンキー型戦略原潜大西洋で沈没!」『世界の艦船』第374号、海人社、1987年1月、6-8頁。 

関連項目

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外部リンク

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