コンテンツにスキップ

トックリクジラ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
トックリクジラ属
キタトックリクジラ ミナミトックリクジラ
キタトックリクジラ Hyperoodon ampullatus
ミナミトックリクジラ Hyperoodon planifrons
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
亜目 : ハクジラ亜目 Odontoceti
: アカボウクジラ科 Ziphiidae
亜科 : トックリクジラ亜科 Hyperoodontinae
: トックリクジラ属 Hyperoodon
学名
Hyperoodon
Lacépède1804

トックリクジラ属(徳利鯨属、Hyperoodon)はハクジラ亜目アカボウクジラ科に属するの一つである。同じアカボウクジラ科のオウギハクジラ属タイヘイヨウアカボウモドキ属に似ており、これら3属でトックリクジラ亜科 (Hyperoodontinae) を構成する。

トックリクジラ属に属するのはキタトックリクジラ(北徳利鯨、Hyperoodon ampullatus)とミナミトックリクジラ(南徳利鯨、Hyperoodon planifrons)の2種のクジラである。

分類

[編集]

模式種はキタトックリクジラ Hyperoodon butskopf Lacépède, 1804(Hyperoodon ampullatus, 単模式)である。

名称

[編集]
和名英名の由来となった特徴的なキタトックリクジラの頭部(ザ・ガリーにて) 。

和名の「トックリ(徳利)」は頭部の形状が徳利に似ていることに由来する。属名はギリシャ語で「上・超」を意味する「hyperυπερ)」と「歯」を意味する「dontiδόντι)」 を合わせたもの。本属の上顎に歯は無いが、1798年のBaussardという学者による「上顎に小歯がある」という記述を信じたLacépèdeが属名を付けたもの。この「小歯」は実際には上顎の骨質のシワを「歯」と誤認したものとされる。

タイヘイヨウアカボウモドキは「Hyperoodontinae」という別の科に属するが、トックリクジラ属に形態が非常に似ており、英名の一つが「Tropical Bottlenose Whale(熱帯のトックリクジラ)」となっている。

形態

[編集]
キタトックリクジラのヒトとの大きさの比較。

従来はこれら2種は身体的な類似点が多いとされていたが、近年ではむしろ違いが大きいことがわかってきている。

トックリクジラは2種とも成体の体長は8メートルに達し、最大のキタトックリクジラは11.2メートルに達するとされる[1]。全体的にイルカ類を思わせる丸みを帯びた体型であり、特に頭部メロンは丸く、前方に飛び出している。口吻は長く、雄は白、雌は灰色である。背びれは30から38センチメートルと体長の割には小さく、背の中央よりも後側(尾側)に位置し、鎌状に曲がっていて、先端は尖っている。

背側の体色は、キタトックリクジラは灰色、ミナミトックリクジラはやや明るい灰色である。2種とも腹側はより明るい灰色である。また雄の方が雌や子供に比べると濃い灰色であり、多くの雄が濃い灰色から黒に近いのに対し、多くの雌や子供は明るい灰色から白に近い。

行動

[編集]
キタトックリクジラのブリーチングヤンマイエン島

マッコウクジラツチクジラ科やアカボウクジラ科、ゾウアザラシなどと同じく現在の地球上の生物で最も深く潜水する種族の一つであり、少なくとも1453メートルの深海にまで達することが確認されている[2]

また、ツチクジラ同様に[要出典]本来は非常に好奇心旺盛で人なつっこい事が知られており、とくにキタトックリクジラは捕鯨時代、船に興味をもち接近するという習性が災いして格好の捕獲対象になってしまい、個体数の激減を招く原因の一つとなった[1]

生息数と生息域

[編集]

キタトックリクジラとミナミトックリクジラはともに比較的寒冷な海域に棲息する。基本的には水深の深い沖合に生息するが、キタトックリクジラは時には浅い湾内や海峡やフィヨルドなどの沿岸に姿を現すこともある。

キタトックリクジラは北大西洋に固有な種である。デーヴィス海峡ラブラドル海グリーンランド海バレンツ海などの寒冷な亜北極圏の海域に棲息する。水深の深い海域を好むとされる。カナダノヴァスコシア州の東沖にあるザ・ガリー (英語版) と呼ばれる巨大な海底渓谷には130頭ほどが定住している。

全生息数不明であるが、およそ数万頭であると考えられる。

ミナミトックリクジラは南極海に棲息する。 生息域の南限は南極大陸の極近くまで、北限は南アフリカニュージーランド北島、ブラジル南部あたりである。全生息数はおそらく50万頭を超えるだろうと考えられている。南極海に最も多く生息しているであろうとされるであるが、ナンキョクオキアミを捕食するイカ類を捕食する事で間接的にオキアミを消費しており、本種を含む南極海のアカボウクジラ科(他にミナミツチクジラが生息している)のクジラの消費量はオキアミ換算で2400万トンであり、これは、クロミンククジラの1600万トンを上回り、ペンギン類の3300万トンに匹敵するとされる。本種が南極海のアカボウクジラ科というより、南極海の鯨全体で一番オキアミ資源を消費しているとされるが、厳密には不明である。

熱帯亜熱帯北太平洋オホーツク海[3]における目撃例も報告されているが、おそらくタイヘイヨウアカボウモドキクロツチクジラなどの他の種類の誤認であろうと考えられる。

保護

[編集]
2006年にテムズ川に迷い込んだ個体

ミナミトックリクジラは滅多に観察されることもなく、捕鯨の対象とされたこともなく、特に懸念点はない。そのため、南極海において最も多数棲息しているクジラであろうと考えられている。

キタトックリクジラは、商業捕鯨が盛んになる以前には大西洋に4万から5万頭が棲息していたと推測されている。 1850年から1973年までに8万8千頭が主にノルウェーイギリスによって捕獲されたため、生息数はかなり減少したと考えられる。

捕鯨は1973年に中止されたためその点に関する懸念はなくなったが、ザ・ガリー (英語版) 付近における石油天然ガスの開発が新たな問題として浮上している。

2006年1月20日、キタトックリクジラの雌がロンドン中央部のテムズ川で見つかった。この個体 (英語版) はアルバート橋 (英語版) まで遡上し、はしけに乗せて海まで運んで救出することが試みられたが、翌21日に死亡した。

脚注

[編集]
  1. ^ a b Species Guide - Northern bottlenose whale”. WDC(英語版). 2015年1月29日閲覧。
  2. ^ Best, Peter B. 2007. Whales and Dolphins of the Southern African Subregion ISBN 978-0-521-89710-5
  3. ^ 宇仁義和 (2006年). “知床周辺海域の鯨類”. 斜里町立知床博物館(英語版. 知床博物館研究報告. 2023年11月29日閲覧。

参考文献・外部リンク

[編集]
  1. Shannon Gowans, Bottlenose Whales in the Encyclopedia of Marine Mammals (1998). ISBN 0125513402
  2. Reeves et al., National Audubon Society Guide to Marine Mammals of the World (2002). ISBN 0375411410.
  3. Carwardine, Whales, Dolphins and Porpoises (1995). ISBN 0751327816
  4. Marine Bio: Northern Bottlenose Whale
  5. Marine Bio: Southern Bottlenose Whale
  6. 70South - information on the Bottlenose Whale
  7. Northern Bottlenose Whale
  8. BBC News 2006年1月20日 テムズ川で見つかったキタトックリクジラのニュース
  9. BBC News 2006年1月21日 テムズ川で見つかったキタトックリクジラ死亡のニュース
  10. 村山司、笠松不二男『ここまでわかったクジラとイルカ』(講談社、1996)ISBN 4062571080
  11. 海棲哺乳類図鑑「キタトックリクジラ」 国立科学博物館 動物研究部
  12. 海棲哺乳類図鑑「ミナミトックリクジラ」 国立科学博物館 動物研究部