グイン・サーガの世界観

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グイン・サーガ > グイン・サーガの世界観

グイン・サーガの世界観では、栗本薫によるヒロイック・ファンタジー小説『グイン・サーガ』における架空世界の世界観、地理と文化について述べる。

地理[編集]

物語の舞台となるのは、地球に酷似した惑星上にあるキレノア大陸を中心とした地域である。人種、生物相、気候など、ほとんどが地球と共通しているが、ノスフェラスと呼ばれる地域に代表されるように、地球上には見られない人種や生物も相当数存在している。

以下、代表的な地域と国について述べる。

中原[編集]

キレノア大陸の西端近くにある、比較的温暖な気候で知られる地域。物語の大部分は、この地域を舞台として展開している。地域の北をケイロニア、東をゴーラ、南をパロという大国がそれぞれ支配しており、これらは世界の文明・文化の一大中心地として発展を遂げている。それぞれの国の境には、国同士の絶え間ない衝突を避けるための緩衝地帯として、自由国境地帯と呼ばれる、どこの国にも属さない地域が存在している。

諸国の気風を現す俗語として「モンゴールの弁舌、ユラニアの冒険心、クムの忠誠、パロの謙遜」というものがある。これらを見出すことは非常に難しい、という皮肉である。

パロ[編集]

パロの特徴[編集]

3000年前に建国された、中原で最も古い王国であり、華美にして優雅な文化を特徴とする国。首都はクリスタル。

建国当初は草原諸国に近い「剣の国・パロ」であったが、作品中の時代においては「魔道の国・パロ」と称される。

最先端の科学、教育、芸術といった、あらゆる文化の発信地であり、この世界の中にあっては極めて進んだ文明を誇っている。一方で、「得体の知れない」あるいは「時代遅れのもの」として多くの国々から忌避されがちな魔道を、中原で最も重んじている国でもある。特に王家は神から授かった魔道の力を受け継ぐものとして崇められ、その力を守るために、その後継者の婚姻に際しては「青い血の掟」と呼ばれる純血の掟に従うことが求められている。事実、王家には優れた魔道師や予言者が度々出現しており、王家を中心とする魔道の力が武力的に脆弱なこの国を長らえさせてきた原動力ともなっている。際立った特徴として初期にパロ人は全員が直接接触しての念話が使えると宣言されたことがあるが実行に移したパロ人はいまだ存在しない。

また、首都クリスタルの王宮の地下には、「古代機械」と呼ばれる、失われた超文明の遺産とも云うべき謎の物質転送機械があり、それがこの国に野心を抱く様々な勢力の関心を惹きつけ、この国を何度か滅亡の危機に陥らせることにもなっている。

本編中のパロの歴史[編集]

モンゴールによる首都クリスタルへの奇襲によって勃発した「黒竜戦役」により、パロは国王と王妃を殺害された上に首都を占領され、一時的にモンゴールの支配下に置かれた。が、王族のひとりであるクリスタル公アルド・ナリスを中心とする反乱が成功し、モンゴール軍は撤退、パロは主権を回復する。

その後、前王の長男である王太子レムスが即位し、ナリスを摂政宰相として統治を開始するが、未だ年若で未熟な王と、国家解放の英雄である宰相との間で次第に確執が生じ、国内は国王派と宰相派とに二分されていく。やがて、宰相を支持する市民から沸き起こったレムス廃位・ナリス即位を求める声をきっかけとして、一部国王派の暴走が起こり、拷問によって重傷を負い、手足の自由を失ったナリスは宰相を退き、自領の地方都市マルガで隠遁生活を送ることとなる。

だが、キタイの謎めいた魔道竜王ヤンダル・ゾッグの強力な魔道により、レムスがキタイの傀儡と化していることを知ったナリスは、パロを守るために反乱を決意、マルガを中心とする神聖パロ王国の独立を宣言した。これによって生じたパロ内乱は、キタイ、ケイロニア、ゴーラ各軍までもが参戦する大きな戦となり、パロの国力は急速に疲弊していく。

戦いの半ばにしてナリスは死亡し、神聖パロ王国は消滅するが、その遺志を受けたケイロニア王グインの活躍により首都クリスタルは陥落、キタイ勢力も一掃され、パロは平和を回復した。レムスは廃位となり、代わってレムスの姉でナリスの妻となっていたリンダが聖女王として即位した。

その後、黄泉返ったナリスとイシュトバーンのゴーラ軍によって首都クリスタルは占拠され、リンダも幽閉状態にある。(140巻時点)

ゴーラ[編集]

ゴーラの特徴[編集]

中原ではパロに次ぐ歴史を持つ帝国。カナン帝国と同時期、あるいはそれ以前に建国されたともいわれ、一時は大帝国としてカナンと覇を競い合ったが、敗れてカナンに併合された。カナン滅亡後に復活し、一時はのちのユラニア、クム、モンゴールからレント海岸のロス、タリアまでにいたる版図を誇った。

帝国時代の首都はアルセイスであり、三大公国時代となって皇帝の居城はアルセイス近郊のバルヴィナへ移転されたが、政治的な権力はユラニアの支配下となったアルセイスにそのままとどまった。皇帝家断絶後、初代ゴーラ王イシュトヴァーンによって旧ユラニアを版図としてゴーラ王国が建国されると、バルヴィナを中心に新首都が建設され、王の名にちなんでイシュタールと改名された。

物語の開幕当時は、象徴化した皇帝を戴いた3つの大公国が、帝国を3分割して支配していた。長い歴史を誇りながら衰退した文化が支配するユラニア、東方からの移民によって建国され中原にあっては人種的にも文化的にも特殊な国であるクム、建国まだ数十年の新興国にして極めて野心的なモンゴールと、それぞれ個性的な、時として相容れぬ要素を持つ三国が並立していただけに、政情は不安定であった。それがひとつの要因となって、後に三大公国制は崩壊、皇帝家は断絶した。その後、滅亡したユラニアを版図として、新たなゴーラ王国が建国された。

本編中のゴーラの歴史[編集]

パロの首都クリスタルへの奇襲(第一次黒竜戦役)を成功させ、一時はパロを占領下においたモンゴールであったが、やがてパロ国内で生じた反乱に敗れて撤退を余儀なくされる。同時期に起こったモンゴール大公ヴラドの病死という不運もあり、各国連合軍との戦いに敗れたモンゴールは一旦滅亡し、クムの占領下に置かれることとなる。

しかし、クムに捕えられていたヴラドの長女アムネリスが、イシュトヴァーンの手を借りて脱出に成功する。モンゴールの残存勢力をまとめたアムネリスは、モンゴールの首都トーラスを陥落させ、アムネリスは新モンゴール大公としてモンゴール大公国の復活を宣言する。

その後、2度に亘るケイロニア―ユラニア戦役を除けば、しばらくは比較的平穏な時期が続く。が、間もなくユラニアの首都アルセイスで行われた、ユラニアの3人の公女とクムの3人の公子との合同結婚式にて、クム大公の長男タルーと、ユラニア大公の次女ネリイの主導するクーデターが勃発し、ネリイを除くユラニア大公家が全員死亡、クム大公家も次男が死亡するという惨劇が起こる。

それをきっかけとして、タルー・ネリイ連合軍とクム軍との戦いが勃発する。事前にタルーと密約を交わしていたイシュトヴァーン率いるモンゴール軍は当初タルー側の同盟軍として参戦し、クム大公タリオ率いる軍に勝利してこれを討ち取る。だが、密かに匿っていたクム大公の三男タリクを人質とした交渉によって、一転して今度はクムと同盟し、タルー・ネリイ連合軍と戦うこととなる。イシュトヴァーンは難なくこれを打ち破り、ネリイは死亡、ユラニアは滅亡した。

ユラニアに残ったイシュトヴァーンは、妻となっていたアムネリスをアルセイスに呼び寄せ、ゴーラの前皇帝サウルの啓示を受けたとして、旧ユラニアを版図とし、モンゴールを属国とする新ゴーラ王国の建国を宣言、自らゴーラ王として即位する。しかしその直後、傭兵だった頃のイシュトヴァーンのモンゴール軍に対する行為を巡ってモンゴール首脳部とイシュトヴァーンとの間に諍いが起こり、イシュトヴァーンは武力をもってモンゴールを制圧。モンゴールはゴーラ王国の直接支配下に入ることとなった。それに伴い、アムネリスはゴーラの首都イシュタールに監禁され、獄中でイシュトヴァーンの息子を産んだ後に自害した。

ユラニア[編集]

ゴーラ三大公国のなかで最も歴史が古い、年老いた国家。土地は肥沃で気候も穏やかだが住民は新奇な事に関心がなく無気力で保守的であった。

2000年ほど前に、ゴーラ帝国の実力者として、当時の皇帝を傀儡と化したユラニア大公により、アルセイスを首都として建国された。その後、帝国支配の野望を強めるユラニアに対抗すべく建国された、親皇帝派の大公国クムと対立しつつ、二大公国体制を維持していくこととなった。しかし、長い歴史を重ねる内に、国からは次第に活気が失われ、退廃的な文化が支配的となると同時に、国力が衰退していった。

国内には名目上「サウル皇帝領」とされる領地もあるが、サウル皇帝はバルヴィナで幽閉同然の状況に置かれており、実態はユラニア領である。

ユラニア大公家を中心とする退廃ぶりは、<闇の司祭>グラチウスの狙うところとなり、グラチウスの影の支配を受けて、第一次ケイロニア―ユラニア戦役をおこすこととなった。アルセイスまで遠征してきたグインによって戦役には敗れたものの、グラチウスの支配からはひとまず解放された。しかし、ケイロニア皇女シルヴィアの誘拐に端を発する第二次ケイロニア―ユラニア戦役に再び敗れた後、紅玉宮を舞台として起こったクーデター、続くゴーラ内乱を経て、大公家の一族を始めとする国の重臣はことごとく命を落とし、ユラニアは滅亡した。

その後、その版図は、サウル皇帝の亡霊による啓示を受けたとしてゴーラ王を宣言したイシュトヴァーンによって引き継がれ、新たにゴーラ王国となった。

クム[編集]

ゴーラ三大公国のなかでは南に位置し、キタイからの移民によって持ち込まれた東方独特の風俗をいまも伝える、中原にあっては人種的にも文化的にも特殊な国。首都はルーアン。

ゴーラが大帝国だった時代に移住してきたキタイの移民が中心となり、ユラニア大公国の成立から数百年後、帝国支配の野望を強めるユラニアに対抗する形で建国された。土地は肥沃で文化も発展しており、住民は快楽主義で知られ、また商人の国キタイの流れを汲むものとして、抜け目のない商売上手でも知られる。オロイ湖などの湖沼や河川が国土の多くの部分を占めており、運河も整備され水上交通が発達している。国内第2の都市であるタイスは遊郭や賭博、闘技などが盛んであり、「快楽の都」として名高い。

モンゴール[編集]

中原で最も歴史が浅いゴーラ三大公国の新興国。首都はトーラスであり、ここに人口のかなりの部分が集中している。

ゴーラ皇帝サウルの騎士長であったヴラド・モンゴールが、その後功績を認められて伯爵から大公となり、数十年前に建国した。カナン時代から不毛で知られた、ケス河南西の森林地帯を開拓して国土としているため、土地はお世辞にも肥沃であるとはいえず、文化的にも遅れているとされる。気候も変化が激しく、住むにはなかなか適さない土地ではあるが、その気候が逆に幸いして、中原各地で嗜好品として愛好されるヴァシャ果の名産地となった。

自ら開拓して作り上げた国であることから、国民の愛国心は非常に強く、尚武の気性でも知られ、軍隊も強かった。が、モンゴール軍によるパロへの奇襲をきっかけとした黒竜戦役に最終的に敗れて滅亡し、その後一時は復活したものの、ゴーラ王となったイシュトヴァーンのクーデターによって再び滅亡することとなった。

ゴーラ王国[編集]

イシュトヴァーンによって建国された、ユラニアおよびモンゴールを版図とする新興国家。首都はイシュタール。

国王イシュトヴァーンは事あるごとに遠征を繰り返し、宰相のカメロン1人によって国政が運営されていたが、パロ内乱に乗じて(ナリスに加勢する名目で)イシュトヴァーンはパロへ進軍。

ケイロニア[編集]

ケイロニアの特徴[編集]

中原三国の中では最も新しい帝国だが、それでも数百年の歴史を誇っている。統一以前は13の部族が覇を競う未開の地として蔑まれていたが、統一が果たされてからというもの、質実剛健を国是とし、極めて強大な武力と、安定した経済力に支えられた、世界でも最強と目される国の1つとなった。首都サイロンは300万の人口をもつ中原最大の都。

首都サイロンを中心とする広大な皇帝領を、国の重鎮である十二選帝侯が治める領地が囲んで守っているため、国の守りは極めて堅固で、世界で唯一、首都に他国の軍勢の進入を許したことのない国であるとも云われる。幾度となく滅亡の危機を迎えている他の中原二国と比較して、その平和と安定度が際立っているが、そのほとんど唯一の弱点となっているのが、皇帝家の世継の問題である。

基本的に魔道に好感を抱いていないにもかかわらず、首都サイロンには多くの魔道師が集う「まじない小路」があるという、懐の深さを持ち合わせた国である。

軍制面では十二選帝侯の軍事力に加え、首都には12の部隊に分けられた皇帝直轄の強大な常備軍が存在しているという、封建制と絶対王制を合わせたような制度を持っている。なお皇帝直轄の部隊は傭兵が中心であるが、極めて尚武の気質が強いケイロニアでは明白な家業が有るか、病弱でなければ基本的に男子全員が志願によって軍人となる、とさえ言われ事実上完全志願の国民軍である。

本編中のケイロニアの歴史[編集]

この国が物語の中心に登場するのは、グインが傭兵としてサイロンを訪れた時が最初となる。折しも行われていた皇帝アキレウスの即位三十周年記念式典の際に生じた、皇后マライアによる皇帝暗殺未遂事件をきっかけとして頭角を現したグインは、その事件の背後にあったユラニアをわずか1万の兵で攻略し、ユラニアを屈服させる。

再びユラニアとの間に戦禍が起こったのは、それから間もなくのことである。皇女シルヴィア誘拐事件の背後にまたもユラニアがいることを知ったグインは、今度は大軍を率いてユラニアを攻撃、モンゴールのイシュトヴァーン、クムのタルーとも連合して、またたく間にユラニアの首都アルセイスを陥落させる。

それに続く、グインによる長い探索行の結果、遥かキタイに幽閉されていたシルヴィアは無事に生還を果たし、グインはシルヴィアを妻として皇帝の下で統治を行うケイロニア王となる。まもなくして勃発したパロ内乱に出兵したグインは、キタイの侵略を退ける活躍をみせたのちに行方不明となり、同時に記憶を失ったが、その後保護されたパロで記憶の一部を回復し、ケイロニアに帰還した。

その後、首都サイロンに黒死病が蔓延(外伝『七人の魔道師』)、皇帝アキレウスの崩御、シルヴィアの幽閉と出奔、オクタヴィアの帝位継承、選帝侯による反乱の気配などが見えている。(140巻時点)

草原[編集]

中原の南に広がる、ステップを思わせる広大な地域。文化的には中原とまったく異なっており、多くの部族からなる遊牧民族が暮らしている。地域の北をカウロス公国、南をアルゴス王国の2つの大国が支配し、東にやや小さな国であるトルース王国がある。アルゴスとカウロスが比較的対立関係にある一方、アルゴスとトルースは良好な関係にある。

アルゴス[編集]

かつての草原統一の英雄にして、建国王であったスラデクが、国名の由来ともなったパロの王女アルゴを妻としたという歴史的な経緯から、アルゴスはパロと極めて強い関係を築いている。両国の王家は繰り返し婚姻を重ね、アルゴス王家はパロ王家から妻を迎えることが通例となっているため、両家は血筋上も密接な関係があり、パロ王家の婚姻に関する「青い血の掟」も、アルゴス王家との婚姻に関しては問題視されることはない。だが、その婚姻によるアルゴス王家のパロ化が、国内の一部遊牧民族の文化的な反発を招いており、国家の潜在的な不安材料ともなっている。

カウロス[編集]

草原の大国。領主は大公ジラール。黒竜戦役では終始、モンゴール側についた。

トルース[編集]

草原の小国で、かつてはかなりの規模を誇った。首都はトルフィヤ。領主は国王カル・ハン。アルゴスとは友好関係にある。

沿海州[編集]

中原の南南東、草原の東にあり、南をレント海に面する、中原のいずれか1国の面積の半分にも満たないほどの大きさの地域。通常、アグラーヤ、ヴァラキア、イフリキア、トラキア、ライゴール、レンティアの6か国が支配する上記地域を指すが、これらの国の西に連なる自治都市や、北に離れた場所に位置するタリア自治領までを含める場合もある。

小国が境を接して密集している地域であるため、上記6か国は自衛のために緩やかな同盟を組んでいる。他地域での戦争に参戦するかどうか、といったような意思決定の際には、各国の元首級が集う「沿海州会議」が開催され、その議論と投票の結果によって、沿海州全体としての意志を統一するというシステムがある。

ヴァラキア[編集]

沿海州の公国。イシュトヴァーン、カメロンたちの出身国。現領主ヴァラキア公ロータス・トレヴァーンは名君として名高いが、その弟オリー・トレヴァーンは男色家の愚物として知られており、人々の物笑いの種となっていた。

アグラーヤ[編集]

沿海州最大の王国。現国王ボルゴ・ヴァレンの長女アルミナはパロ前王妃。

タリア伯爵領[編集]

モンゴールの東方にある海に面した小国家。領主はギイ・ドルフュス。タリアは内陸諸国とレント海の交易路を繋ぐ貿易港であり、その影響力は沿海州と較べても決して小さくない。モンゴールと親交があり、黒竜戦役ではモンゴールの味方の立場だった。モンゴール復興戦争では、ギイの妹アレン・ドルフュスが援軍を率いてトーラスへと向かった。

ヤガ[編集]

沿海州と草原の中間にある沿岸都市で、ミロク教の聖地。ミロク教徒は皆、一度はヤガに巡礼することを望んでいる。しかし近年、《新しきミロク》という新興勢力が台頭してきているなど、不穏な状況になっている。

ノスフェラス[編集]

中原の東に広がる極めて広大な砂漠地域。中原とはケス河で接し、東は東方の大国であるキタイに接する。地域全体を放射能を思わせる瘴気が覆っており、それが原因となってか、極めて特異な植物相、動物相を持つ地域である。この地域に代表的な特異な動物の例としては、巨大なアメーバ状生物であるイドや、全身が巨大な口となっている大食らい(水棲のものは大口)などがある。その瘴気の影響はケス河にまで及び、ケス河畔の中原側に位置するルードの森の生態系にも影響を及ぼしているとするものもある。特に中心部に位置するグル・ヌーと呼ばれる地点は極めて瘴気の濃度が高く、ごく一部の魔道師や、その力を借りた者を除いては、グル・ヌーに達した後に生還を果たした者はいない。

苛酷な環境ゆえに人は居住していないが、セム族とラゴン族という亜人類が生活している。尻尾を持ち、人間の半分程度の身長しか持たないセム族は、いくつかの部族に分かれ、比較的ケス河に近い地域を居住地としており、時としてケス河を渡り、中原の辺境を訪れることもある。逆に尻尾を持たず、身長は人間の1.5 - 2倍程度もあるラゴン族は、比較的奥地を居住地としているが、長く一か所に定住することはない。そのため、まず中原の人間の目に触れることはなく、「幻の民」と呼ばれる所以ともなっている。

カナン帝国[編集]

現在のノスフェラス、中原、キタイ全土を版図としていた古代の大帝国。大災厄時代後に、太陽王ラーによって建国され、長きにわたって世界に君臨し、その繁栄は現在の中原のどの国をもしのいでいたといわれる。この時代に植民都市であったアルセイスなどが建設され、また現在もキレノア大陸の重要な交通網となっている赤い街道の建設が開始された。カナンが繁栄の絶頂にあった約3000年前、星船が帝都カナンに墜落、大爆発をおこし、カナンは1日にして滅亡した。 アグリッパによれば、カナン中枢部に墜落し「グル・ヌー」を形作った生体宇宙船のほか、多くの小さな宇宙船が墜落し、その結果として出来たノスフェラスの版図は非常に広大である。

カナン帝国が存在した時代から生きている唯一の人類が、その大魔道師アグリッパである。しかしそのアグリッパですら、カナン滅亡時にはまだ幼い少年であったとされる。

東方[編集]

中原からノスフェラスを挟み、遥か東方に広がる地域。ほぼ全域を大国キタイによって支配されており、フェラーラなどいくつかの周辺国も、キタイの属国であると考えて差し支えない。中原やその近隣では、パロを除いて重視されなくなった魔道が、未だ生活にも政治にも密着した地域である。人種的には黄色人種が支配的であり、その一部は中原へ移民して、クム建国の礎となった。

キタイ[編集]

東方のほぼ全域を支配する、世界一とも云われる大国。商業大国として知られるが、地理的な条件から、中原との交渉はさほど活発ではない。そのため、その実態も中原ではあまり知られておらず、謎の大国と呼ばれることもあった。中原で暗殺教団として知られている組織として、望星教団がある。

近年になり、極めて強力な魔道師ヤンダル・ゾッグが帝位に就いたことをきっかけとして、その野望の手が様々な形で中原を脅かすこととなった。そのターゲットとなったのは主にパロであり、魔道によってパロ国王レムスを傀儡化することにより、パロを通じた中原の征服を目論んでいた。だが、ナリスやグインの活躍、さらには望星教団を中心とするキタイ国内の対抗勢力の強大化などによって、現在は中原からの撤退を余儀なくされている。

近年に遷都が行われるまでの首都はホータンであり、長らくキタイの経済と文化の中心となってきたが、ヤンダル・ゾッグ即位後は急速に治安が悪化し、無法地帯と化した。現在の首都シーアンは、故郷の星への帰還を目指すヤンダル・ゾッグ一族が、その足掛かりとして今なお建設を進めている魔都であり、その実態はキタイの国民に対しては知らされていない。その建設に際しては、多くの国民が犠牲となっており、シーアンへ動員されることが、国民の恐怖の的となっている。

フェラーラ[編集]

人間と妖魔が共存するキタイの属国。ホータンに遷都されるまではキタイの首都であり、その後も歴代の王たちから魔都として特別扱いされていた。

北方[編集]

中原の北に広がる地域。1年の大半を氷雪に覆われる寒冷地。最大の国は、上ナタール川でケイロニアに接するタルーアンで、そのさらに北にはクインズランド、ヴァンハイム、ヨツンヘイムといった国があると云われる。タルーアン人は紅毛碧眼の白色人種で、男女を問わず大柄な人種として、また時として海賊も働く海洋民族として有名である。

ヨツンヘイム[編集]

最北の地にある地底王国。齢千年を数える氷の女王クリームヒルドに治められ、その入口を地獄の犬ガルム、霧怪フルゴル、地獄の大蛇[1]によって守られている神秘の国。

南方[編集]

沿海州の南に広がるレント海、コーセア海に浮かぶ南洋諸島と、そのさらに南に位置する南方大陸を含む地域。ゴア、テラニアなどの島国、ランダーギアなどの大国が含まれる。人種としては黒色人種である。地理的な条件から、中原との交易はほぼ沿海州を通じてのものに限られるため、中原との直接の交流はほとんど見られない。

ハイナム[編集]

中原の西に位置する、パロと同時期に建国されたとされる謎の太古王国。独特の蛇神教を信仰しているといわれる。かつては諸外国とも交流があったが、現在では各国の王の即位式などに派遣される使者を除けば、ほぼ鎖国状態にあり、その実態は謎に包まれている。白魔道師「ドールに追われる男」イェライシャの出身地としても知られている。

文化[編集]

物語世界の文化・文明の程度としては、おおむね現実世界における中世程度のものであると考えられる。ただし、火薬は存在しないようである。他に現実世界に存在しない要素として、いくつかの地点に存在する、古代から伝わるとされる謎の超文明の遺物や、精神・次元・時間を操る魔道と呼ばれる技がある。

歴史[編集]

この世界の現状をもたらすに至った直接の原因は、3000年前の災厄にまで遡ると云われる。当時、世界はカナンと呼ばれる大帝国によって統一されていた。(ただし、アグリッパの言葉によれば「カナン」という国は、3000年より更に遡る昔から既に「世界帝国カナンの後継者」として、多くの国家が自称していた。)その頃、すでに文化・文明の程度は現在と同程度にまで達していたと云われており、現在でもカナンで用いられた様式を基本とする文化・文明が、何よりも洗練されたものとして尊重されている。

そのカナンを一夜にして滅亡させたのが、首都カナンに墜落した巨大な隕石であったと伝説は伝えている。が、実際には墜落したのは隕石ではなく、星間戦争を行っていた惑星外文明に属する巨大な宇宙船(「星船」と呼ばれる)であった。墜落した星船は大爆発を起こし、爆心地に近い多くの人々の命が奪われた。また、大爆発を生き延びた人々のほとんども、爆発した星船の動力部から漏れたらしい強い瘴気(放射能と思われる)によって、間もなく命を落とした(外伝第16巻『蜃気楼の少女』参照)。その爆心地は、誰も近づくことはできぬ地グル・ヌーとなり、それを中心とする広大な地域が、特異な生物相を持つ砂漠ノスフェラスへと変貌した。ノスフェラスに暮らすセム族、ラゴン族は、この時に辛うじて生き残った人々が、瘴気の影響によって変化したものであるとも云われる。

この災厄により、キレノア大陸は事実上、ノスフェラスによって東西に完全に分断された。またカナン帝国の滅亡によって、中原に新たな国が起こることとなった。そのもっとも古い国がパロ王国であり、それから間もなく興ったゴーラ帝国と長らく中原の覇を競うこととなる。さらに数百年前には、多数の部族に分かれ、北の蛮族と蔑まれていたケイロニアが帝国として統一され、現在の中原三大国体制が形成されることとなった。

魔道[編集]

魔道とは、精神力を鍛えることによって、対象となる精神次元時間に作用を及ぼし、それを操ることを可能にした精神科学である。パロ王家など一部の人々は、さほど厳しい訓練を行わなくとも、ごく初歩的な魔道を使うことはできるが、基本的には、極めて特殊な食生活と厳しい訓練を行うことにより、肉体と精神とを同化させることによってのみ、使用することが可能となるものである。それにより、信じがたいほどの長命を得たり、まったく精神的なものとして存在することすら可能となる場合がある。魔道が使えるようになった者のことを一般に魔道師と呼ぶ。[2]なお、魔道をもっていずれかの国に仕官したものが魔道士である。

魔道の技[編集]

精神に作用する魔道の代表的なものとしては、結界(けっかい)がある。これは、精神的な場を張ることによって、人々の精神に作用し、ある場所へ行くことを禁じたり、あるものを知覚することを妨げたりする技である。一般人に対しては精神的に作用するが、魔道師に対しては物理的な障壁として作用するものとなる。また、黒蓮の粉などの薬物を用いた催眠術も、広く使用される精神に対する魔道である。

次元に作用する魔道の代表的なものとしては、閉じた空間がある。これは多数重なり合って存在する次元を、精神の作用によって行き来することによって、遠方まで短時間で移動したり、他人に気配を気取られることなく監視を行ったりする技である。後者の場合には、結界をあわせて使用することも多い。この技は、パロに古くから伝わる古代機械と呼ばれる物質転送装置の原理を研究する内に、魔道師が見いだした技であると云われる。

時間に作用する魔道の代表的なものとしては、予知がある。これは文字通り、未来を予見する力である。だがその力を行使するには、神々が世界を司る黄金律を乱すことを戒める厳しい制約がある。そのためか、魔道師がその予知の内容を他者に告げる時には、極めて曖昧な物言いに終始することが多い。またパロ王家の女性には、生まれながらにして優れた予知能力を持つ者もいるが、こちらは魔道師とは違い、神がその女性を道具として語るものであるとされている。従って、本人の意志とは関係なく予知が行われることも多い。

これらのほかにも直接的に破壊光線、火球を出し人を殺傷するような魔道も存在する。ただし、魔道を用いて一般人を殺傷する事は最大の禁忌とされている。物語の当初から魔道師の物理的な戦闘能力の強さについて語られ、ファンタジー色の強い外伝ではその具体的な描写があったが、初期の正伝では結界、閉じた空間といった非破壊的な魔道以外の使用例はほとんど見られない。また、魔道師同士であれば、互いに一見しただけで魔力の多寡による強弱が極めて厳密に決まり、魔道師同士の戦闘は、どちらかが敗北を覚悟した上でなければ滅多に起こらないとされる。しかし、70巻前後から描かれたヤンダル・ゾッグによるパロ侵略以降、大規模な魔道が登場する場面が増え、魔道を全面的に使用した魔道師同士による戦闘も起こっている。特に103巻で描かれたグラチウスとイェライシャの戦いではその余波だけで地震や雷、竜巻(世界最強を誇るケイロニアの黒竜騎士団が巻き込まれれば全滅しかねないというような規模)といった物理現象を引き起こしている。

また、文脈や意志の如何にかかわらず「お前の言葉に従おう」「お前に力を貸そう」「あなたが私の主人だ」といった言葉を言わせれば、相手の精神的なパワーを自在に引き出し自分の魔力として使うことができるとされる。主人公グインは、自ら魔道を扱えないもののその精神的エネルギーは三大魔道師以上とされ[要出典]、彼がダークサイドのパワーから狙われる理由の一つとなっている

魔道師[編集]

魔道師は大きく、白魔道師と黒魔道師に分類される。

白魔道師とは、古の超科学者アレクサンドロスとの戦いに敗れた魔道師たちが、魔道の悪用を禁ずるために定められた魔道十二条を守ることを誓約することによって誕生した一派である。彼らは魔道師ギルドと呼ばれる団体によって律され、魔道十二条に背いた者はギルドによって厳しい罰を受けることとなる。その総本山はパロにあり、ゆえにパロに仕える魔道士(魔道を以って士卒として国家に仕える魔道師)のすべては白魔道師である。[3]

一方、黒魔道師は魔道十二条に縛られない魔道師を指す[4]。制約が少ない分大きな力を発揮できるが、その多くは独立しているために、ことに白魔道師の力の大きい中原においては、黒魔道師は個人の力が大きくなければ生き延びられないという一面もある。キタイの魔道師の場合、ある種の魔道師ギルドは存在する[5]ようだが、そもそも地理的、歴史的にアレクサンドロスの誓約とは無関係に発展したため、すべては黒魔道師に分類される。かつては黒魔道師を束ねる組織として、グラチウスが創設し、白魔道に転向する以前のイェライシャも最高幹部を務めたドール教団があるとされたが、近年ではグラチウス自身も教団を離れたといわれ、教団の存続自体が疑問視されている。

世界3大魔道師[編集]
  • 闇の司祭グラチウス……800歳
  • 大導師アグリッパ……3000歳
  • 北の賢者ロカンドラス……入寂

古代文明[編集]

この世界にはいくつか、失われた古代の超文明の遺物であると思われるものが存在する。代表的なものが、パロの首都クリスタルの王宮の地下にある古代機械、そしてノスフェラスのグル・ヌーの地下にある星船である。これらの秘密を手にすれば、世界を支配する力を手に入れられるとも云われ、様々な魔道師や科学者、あるいは世界征服の野心を抱く者の興味の対象となっている。実際にはこれらはすべて、カナンの大災厄の原因となった惑星外文明によってもたらされたものであり、物語が進行するにつれて、世界に様々な波紋を広げていくこととなる。

古代機械[編集]

パロの王宮クリスタル・パレス内のヤヌスの塔地下に、3000年前の建国当時より収められていると云われる物質転送装置。カイザー(もしくはカイサール)転送装置と呼ばれるものの一種。これを使用することにより、宇宙間・次元間の瞬間移動が可能となる。

装置に搭載されている人工知能が<マスター>として認めた者、及び<マスター>が特別に認めた者のみが装置を操縦することができる。この機械の場合、代々のパロ聖王家の人物の内のひとりだけが<マスター>として認められてきており、近年ではアルド・ナリスがその任を負っていた。また、装置自体が張るバリヤーによって強力に守られており、然るべき手続きを踏んだ者以外は、装置に近づくことすらできない。

ナリスの死後、この装置を操縦することができるのは、<最終マスター>として登録されているグインだけとなった。そのグインの命令を受けた学者ヨナ・ハンゼの手により、装置はその機能を完全に停止したとみられていた。だが、星船からの転送により記憶を失ったグインがパロを再訪した際には自力で再起動し、グインの記憶と肉体の修復・修正を行った。

星船[編集]

この惑星に惑星外から飛来した宇宙船全般を指すが、特に有名なのはカナンに墜落して、そのままノスフェラスのグル・ヌーの地下で眠り続けていたものである。その瘴気(残留放射能)ゆえにグル・ヌーへは常人には近づくことが不可能であったため、その存在を直接に確認したものは、ごく一部の魔道師(カル・モル)、黒太子スカールなどに限られていた。

その内の一隻は惑星ランドックに属する宇宙船<ランドシア>であり、かつてランドックから追放される以前にグインが船長を務めていたものであった。精神生命体アモンとグインとの戦いは、最終的に、グインの命令によりグル・ヌーから宇宙空間へと飛び立ったこの<ランドシア>を舞台として行われることとなった。

宗教[編集]

中原の宗教[編集]

中原で最も広く信仰を集めている宗教はヤヌス教である。これは双面神ヤヌスを中心として、運命神ヤーン、太陽神ルアー、月神イリス、戦いの女神イラナ、愛の神サリア、海神ドライドンなどを含むヤヌス十二神を始めとする神々を信仰する多神教である。中原の主な都市には、各神々の神殿が築かれており、それぞれに多数の信者を集めている。総本山はパロの首都クリスタルの郊外にあるジェニュアである。悪魔神はドールであり、これを崇める者はほとんどいないが、中原の首都ではケイロニアのサイロンにのみドール神殿が存在する。これはケイロニアでドール信仰が盛んであることを示すのではなく、すべてのものを受け入れるケイロニアの懐の深さを示したものであるとされる(実際ケイロニアのドール神殿は、悪魔崇拝ではなくいわゆる「厄除けの神」と言う立ち位置になっている)。また中原でも、文化的、民族的に特殊なクムでは、ヤヌス教とは別に、快楽と愛の女神サリュトヴァーナを主神とする多神教も信仰を集めている。

その他の地域の宗教[編集]

中原以外にも、様々な宗教が存在する。草原では、天空と大地の神モスが信仰されている。一神教であり、日没時には太陽に向かって詠唱(モスの詠唱)が捧げられる。沿海州は、基本的にヤヌス教の影響が強いが、主神とされているのはヤヌスではなく、海神ドライドンである。北方では、氷神イミールを主神とする多神教が信仰されている。キタイにも様々な宗教があるが、首都ホータンで主に信仰されているのは、ホータンを開いたとされる土地神ゼドを中心とする多神教ゼド教である。南方には、ヴーズーと呼ばれる呪術的な宗教が見られる他、ランダーギア出身の魔女タミヤが信仰する、クトゥルフ神話の神ラーン=テゴスと同名であるラン=テゴス神が登場する。

新興宗教[編集]

新興宗教としてはミロク教がある[6]。厳しい戒律による非暴力、節制を説く一神教で、中原でもゴーラを中心に信者を増やしつつあるらしい。シンボルは楕円形の輪の下に十字のついているミロク十字架。聖地は沿海州の西、草原の南に位置する自治都市ヤガであり、この地への巡礼を行うことが、ミロク教徒の生涯の目標のひとつともなっている。

ノスフェラスの宗教[編集]

ノスフェラスのセム族、ラゴン族も原始的な宗教を持っている。セム族の主神はアルフェットゥと呼ばれる蛙の姿をした神である。ラゴン族の主神はアクラと呼ばれるが、これはグル・ヌーと思しき場所を指すものであるらしい。

言語[編集]

中原で一般に話されている言語はパロス語である。これは古代カナン語の流れを汲む言葉であり、中原各地にさまざまな方言はあるものの、基本的にはどの国でも同じように通じるものである。中原以外でも、草原、沿海州などは軒並みパロス語を使用している。東方のキタイや南方などでは別の言語が使用されているようだが、物語を読む限りでは、出身地の異なる人物同士がコミュニケーションに窮している様子は見られず、事実上このパロス語がこの世界の共通語であるといっても過言ではないようだ。

また、特殊な言葉としてルーン語がある。これも古代カナン語から派生した言語であるが、主に魔道師によって、一般人には通じない言葉として独自に発展を遂げたものであるらしい。ルーン語には初級ルーン語と上級ルーン語、さらにその上位にあるルーン・ジェネリットといった種類がある。初級ルーン語が使用されるのは、魔道学、神学などの学問や、支配者階級の公式文書などである。上級ルーン語及びルーン・ジェネリットが使用されるのは、魔道師同士の会話や呪文など、魔道に関連するものに限られるらしい。

ノスフェラスのセム族、ラゴン族も、それぞれセム語、ラゴン語と呼ばれる独自の言語を持っている。ただし、両言語にほとんど差は見られず、両種族間でのコミュニケーションに支障はないようである。

単位[編集]

「正確に単位を決めたのは、4巻の後書きを書いたとき」[7]

  • 1スコーン……1.75キログラム
  • 1タール……1.2メートル
  • 1タッド……1.465キロメートル
  • 1モータッド……馬で1日に進める距離
  • 1ザン……47分

軍事[編集]

中原における軍事行動においては、以下のような特徴が見られる。

軍制
パロ、ケイロニア、ゴーラの3国には、数万人から10万人以上の常備軍が存在している。
そのため中原には傭兵を生業とする者も多い。しかしこの数の軍隊を、傭兵のみによる常備軍で維持することは困難であり[8]、また作中におけるモンゴールの登場人物であるオロやダンのような若年男性が「兵役」に行っていることから、ある種の徴兵制度が併用されていることが想像される。
金の塔傭兵騎士団やランバール自由騎士団に代表される傭兵集団も存在するものの、中原では一兵卒として雇用されるものが多い。傭兵を積極的に雇用する軍隊としては、ケイロニア黒竜騎士団などがあり、グインが初めてサイロンを訪れた際には、紹介状もないままに単身で当時の黒竜将軍ダルシウスの公邸を訪れ、即日雇用された[9]
武器
個人用の武器としては剣を用いている例が多くみられる。中でも大剣(ロングソードに類するもの、「だんびら」との表記される場合もある)およびレイピアの使用例が多い。騎兵においても大剣が多く用いられる。一方、ハルバード()やパイク(長)に代表されるポールウェポン(長柄武器)やチャリオット(戦車)が用いられた例はほとんど見られない。騎兵が槍を携行している描写は存在するが、槍で戦う場面は描写されていない。
個人戦闘の場合、防具を装備しない剣術がみられる。主に使用されるのは大剣およびレイピアである。大剣は片手で用いられることが多いが、その場合、反対側の手には何も持たない例も多い。またレイピアによる戦闘の場合もマンゴーシュバックラーなどが用いられた例は見られない。
防具
作中の挿絵から判断する限り、騎士・歩兵の主装備はともにプレートメイルであるが、国によって性質が異なる。パロの甲冑は見た目には瀟洒で洗練されている反面、白兵戦においては防御力に欠けると評される(なおパロの甲冑は「市街戦には向いている」との表記もある)。ゴーラ三国のうちユラニアについても、パロほど華奢ではないが、パロと同様の傾向がみられる。反面、モンゴールは無粋だが重厚な甲冑(赤騎士団なら赤、というように騎士団の色に合わせている)で身を固めていることが、作中でも度々指摘されており、その尚武の気質を反映しているとされる。そしてクムはモンゴールより更に重厚な、人馬一体の甲冑を身に着けている。
投射武器
火砲や携行用火器は実用化されていない[10]。爆薬や大砲が存在しないため、攻城戦では火矢や破壊槌などが用いられる。
集団戦闘でロングボウ(長弓)、クロスボウ()などを用いた例はほとんど見られない。しかしパロの都クリスタルで起こった反乱鎮圧のため出動したモンゴール兵が暴徒に矢を射かける描写、またクムとモンゴールの会戦においてはクム兵が矢をものともせず突撃する描写が作中にある。武器としてのそのものは用意されており、また「弓兵」の存在も時たま言及されるため、存在してはいるらしい[11]
また、モンゴールのノスフェラス遠征時などに「弩(いしゆみ)」と呼ばれる投射武器がしばしば用いられている。これは矢ではなく石弾を放つものであり、スリングショットにクロスボウのような巻き上げ機構を利用したものであると思われる。
第一次ケイロニア-ユラニア戦役の際には、敵の前進を止めるために、グインが自らの率いるケイロニア黒竜騎士団の騎兵を数隊に分割し、分割された小編成の騎兵が順番に騎射する「車がかり」と呼ばれる作戦を採用した例がある。
編成
大剣で武装した歩兵と重装騎兵が乱戦を展開するケースが多くみられる。パロ侵攻時のモンゴール軍のように、盾を装備した重装歩兵による密集陣を用いるケースもある。騎兵は歩兵を随伴させず、騎乗した兵のみで一部隊を成す。
兵科複合の概念も確立されておらず、軽騎兵の大部隊が単独で敵国深く進入して長期の作戦行動を取るケースなどもみられる。第一次ケイロニア - ユラニア戦役の際には、グイン率いるケイロニア黒竜騎士団[12]の騎兵1万(大剣を主武器とする)のみによって、ユラニア一国が制圧された。。また、サルデスにおけるユラニア軍とケイロニア軍の戦いなどでは、騎兵が単独で陣地防衛戦に投入されたケースもある。
戦術
戦場到着から会戦に至る過程では、大部隊が戦場に到着してそのまま間髪入れずに戦闘を開始する例も少なくない。[13]また、最高指揮官が最前線に出て白兵戦を展開することが多いことも中原における集団戦闘の大きな特徴となっている。
ただし、作中においても最高司令官が最前線に出る、はては敵と切り結ぶと言った戦術は、あくまで特殊事例で常道ではない、と度々指摘される。
作中において、グインやイシュトヴァーンといった名将は「斥候や伝令を潤沢に用い、情報の迅速な伝達を重視する」ということが、彼らの特徴的戦術として述べられている。
一方で、活躍した時期がグインの登場より前の、クム大公タリオのような「古いタイプの名将」は、そうした情報伝達を比較的軽視する、と対比されている。
魔術の使用
この世界に特徴的な戦術として、魔道士を敵陣に潜入させて高級士官を暗殺するというものがある。第二次黒竜戦役時には、パロ軍がこの戦術を効果的に使い、モンゴール軍を崩壊させた。これは一見、上記の魔道十二条に触れるようだが、魔道で人を殺してはならないというのは、あくまで直接魔道で殺傷することであって「閉じた空間で背後に出現してナイフで刺す」類はギルド及び政府の許可があれば許されるとされる。
また、ユラニアの紅玉宮を舞台としたクーデターの際には、モンゴールの軍師アリストートスが魔道師オーノを使い、ユラニア大公オル・カンらを暗殺した例がある。ただし、魔道士が高度に制度化・組織化されているのは中原諸国においてはパロのみであり、他の国が同様の暗殺を行う場合は、ケイロニア皇帝アキレウス暗殺未遂事件や、アムネリスによるモンゴール奪還戦時のメンティウス将軍暗殺にみられるように、キタイ人など、魔道師以外のプロフェッショナルな暗殺者を雇うことが多い。
海戦
沿海州を中心に編成される海軍においては、軍船として主に使用されているのは甲板を持つ帆船である[14]が、どの種の帆船が一般的であるのかについては不明である。有名な軍船としてはヴァラキア海軍の旗艦「オルニウス号」などがある。 ガレーのような漕手を大量に用いる船の使用を示すような記述はほとんど見られない[15]。戦闘面では、接舷戦闘が行われる例が多いが、タルーアンの「ヴァイキング」の軍船「フレイヤ号」が衝角による攻撃を試みた例もある(外伝3巻『幽霊船』参照)。

脚注[編集]

  1. ^ かつては大蛇のかわりに妖蛆クロウラーが守っていたが、グインがヨツンヘイムを訪れた際に、やむを得ずクロウラーを殺してしまったため、その代わりとして、クリームヒルドによって大蛇が呼び出された。(外伝第5巻『時の封土』所収「白魔の谷」)
  2. ^ ヴァレリウスの言葉(正伝第22巻『運命の一日』)によれば、魔道師とは「魔道師ギルドにより、営業免許を与えられて、魔道をなりわいとし、人に魔道を教える師の資格をもつもの」とされる。しかし一般には、魔道を使える者のうち魔道師ギルドに属していないもの(黒魔道師など)に対しても「魔道師」という呼称を使用している。
  3. ^ グイン・サーガの時代の中原諸国において魔道士が制度として発達しているのはパロのみであり、他にはクムにおいて魔道伯と呼ばれる、クムの魔道師を束ね、魔道をもって宮廷に仕える地位が存在する例がみられる程度である(正伝第60巻『ガルムの報酬』他)。他の国では、例外的に雇われた魔道師が軍師・参謀的な役割を果たす程度であり、各国の要請に応じて魔道師を派遣する、派遣魔道士ギルドが存在する(正伝第69巻『修羅』)。
  4. ^ 外伝第6巻『十六歳の肖像』所収の「暗い森の彼方」には、黒魔道師独自の戒律と思われる《暗黒の十二条》が登場する。
  5. ^ 正伝第59巻『覇王の道』において、キタイ出身の魔道師オーノが、ホータン魔道師ギルドおよびキタイ魔道師ギルドについて言及している。
  6. ^ 『S-Fマガジン 1982年12月増刊号』所収の作者によるエッセイ「豹(グイン)より若き友への手紙」によれば、ミロク教徒のあいだでは、ミロク神とは「五十六億七千年後(原文ママ)にあらわれて世界を救う仏」であるとされているという。このことは、このミロク神が、少なくともその性質の一部について、現実世界の弥勒菩薩をモデルにしていることを示唆している。
  7. ^ 5巻「辺境の王者」あとがき
  8. ^ たとえば、三十年戦争当時のフランススペイン神聖ローマ帝国イングランドなどが常時展開させることが出来た傭兵軍の規模は2万から3万であった)
  9. ^ ただし、グインが黒竜騎士団に傭兵として採用された背景には、その数日前に、優れた予言者として信頼される魔道師ルカがダルシウスに対し、グインの雇用の進言をほのめかすような予言を行っていたことがあり(正伝第17巻『三人の放浪者』)、傭兵としての即日雇用の事例としてはやや特殊な面もある。
  10. ^ 火薬は少なくとも一般には知られておらず、花火狼煙にはケムリソウと呼ばれる特殊な木の実(火にくべると破裂して煙と音を発する)が使用されている。
  11. ^ 先述のように防具としてプレートメイルが普及しているため、投射武器の殺傷性が低いことが可能性として考えられる。
  12. ^ 中原における「騎士」とは、必ずしも中世から近世ヨーロッパの騎士のように、地主階級以上の出身の人間が厳密な入団資格審査を経ていずれかの騎士団に入団することによって得られる、非常に名誉ある称号ではない。 テンプル騎士団金羊毛騎士団に近いエリート的な要素を持つパロの聖騎士団のような存在もあるが、事実上は騎兵科の傭兵集団であるケイロニアの黒竜騎士団なども「騎士団」を標榜しているなど、騎兵科の部隊を「騎士団」と呼ぶ例もある。
  13. ^ 通常であれば、1万人程度の部隊が戦場に到着してから会戦の準備を終えるまでには一定の時間を要する。
  14. ^ 火砲が発達していないため、砲列甲板は存在しない。
  15. ^ ただし、正伝15巻『トーラスの戦い』の挿絵には沿海州の軍船が櫂を用いて進む様子が描かれている。