インジェラ
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| 発祥地 | |||||||
| 地域 | アフリカの角 | ||||||
| 主な材料 | テフ | ||||||
| 131 kcal (548 kJ)[3] | |||||||
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インジェラ(アムハラ語: እንጀራ, [ɨnd͡ʒəra])は、テフなどの穀物を発酵させ、薄く焼いた食品である[4]。エチオピアおよびエリトリア、ソマリアで主食として食べられている[5][6][7]。
製法
[編集]イネ科の穀物であるテフの粉を水で溶き、その後、概ね3日間かけて発酵させて生地とし、これを巨大な鉄板で薄いクレープのように片面だけを焼き上げて作られる[4]。
原料
[編集]テフ(学名: Eragrostis tef、アムハラ語: ጤፍ 〈ṭef〉)はイネ科スズメガヤ属の植物で、エチオピアで主食となる穀物である[8][9]。テフの収量は低く、また、生産される地域は十分な降雨量のある特定の中間標高地帯に限られている[10]。よって、テフはその他の穀物と比較して高価である。テフの穀粒は白(nech)、赤(key ないし quey)、混合(sergegna)など、色によって等級分けされ、それぞれが異なる種類のインジェラを作るのに用いられる[10]。白粒のテフは高級であり、赤粒のテフよりも珍重される[11]。
これらが手に入らない場合には、大麦やミレット、ソルガムなどが用いられることもある[12]。また、エチオピアの一般の家庭では、テフにトウモロコシとオオムギの粉を混合した物が、材料として使われる[4]。とはいえ、色合いや風味、あるいは手触りなどの観点から、インジェラを作るうえではテフがもっとも好まれる[10][13]。テフで作ったインジェラの独特の食感は、スポンジやタオルにも喩えられている[4]。
発酵・焼き上げ
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水に溶いたテフを発酵させるためには、種菌としてイルショ(ersho)が用いられる。イルショは黄色みを帯びた液体であり、醗酵した生地に上澄みとして溜まる[14]。イルショには、バシラス属の芽胞および数種類の酵母が含まれている[15][10]。また、完成したインジェラには、乳酸菌も作用するため、乳酸菌による醗酵食品独特の匂いと酸味が出る[13]。
醗酵にかけた時間が短ければ芳しい香りがする甘い生地に仕上がり、これは主に農繁期などの時間が無い場合に作られる[14]。逆に、醗酵にかけた時間が長過ぎると、酸味が強くなり、一般には失敗とされるが、酸味の強いインジェラを特に好む者もいる[14]。醗酵の進む速度には、その場所の温度や湿度が影響するため、醗酵させる日数は見た目や味の好みの他に、その土地の気候や季節により異なる[16]。エチオピアにおいては、醗酵のための期間はおおむね3日程度である[4]。また、冬場の日本では1週間程度かかるという[16]。
インジェラを焼く工程には、粘土板ないし専用の電気調理器具が用いられる。これをアムハラ語で Mitad(ምጣድ)、ティグリニャ語で Mogogo(ሞጎጎ)という[12]。焼き上がった生地に空いた多くの穴は「アイン(目)」と呼ばれ、穴の数の多さがインジェラの出来を評価する要素とされる[13]。焼き上がりの色が薄いインジェラが上等の物とされるが、濃い色に焼き上がったインジェラの方がより豊かな風味を持つ[4]。
消費・受容
[編集]アフリカの角
[編集]インジェラはエチオピアおよびエリトリア、ソマリアで食べられている[5][6]。同地域におけるインジェラの歴史は古く、史料の中には紀元前100年には、すでに存在していたと記す物もある[14]。本来はエチオピア北部の高原地帯で作られてきた食べ物であり、19世紀末のエチオピア帝国の拡大に伴ってエチオピアの南部地域にも広まっていった[13]。
完成したインジェラは冷ました状態で食され、植物を編んで作った台(メソブ、マサブ)に載せて供される。インジェラには様々な種類のワット(唐辛子で煮込んだ辛いシチュー)を付けて食べる。インジェラは朝昼夜の3三食以外に、間食としても食べられており、その際にはベルベレ(バルバレとも)と呼ばれる辛味の強い調味料などを付けて食べられる[17]。
また、インジェラは料理を載せる皿の代わりとしても使用される場合がある[4]。なお、載せていた料理を全て食べた後、皿の代わりにしていたインジェラも食する[4]。こうしたインジェラの食べ方を見た者からは「ナイフとフォークの代わりにもなるパン」に例えられる場合もある[18]。エチオピアにおいて、大勢で大きな盆を囲んで料理を食べる時には、親愛の感情を示すために互いにインジェラを食べさせ合う習慣が存在し、この習慣は「マグロス」と呼ばれている[13]。親族や家族の集まりでは、最年長者がインジェラを小さくちぎり、順番に与えるしきたりである[16]。
その他の地域
[編集]エチオピア以外でも、例えばエチオピア料理店などでもインジェラは供される[16]。アメリカ合衆国においては1980年難民法を契機に渡米したエチオピア系移民を介して、1980年代から1990年代ごろよりインジェラが作られるようになった[19]。また、エチオピア系の住民のため、アメリカ国内でもテフが栽培されるようになった[20]。
日本におけるインターネットミーム
[編集]2019年9月17日、日本の朝日放送にて放送されたテレビ番組である『相席食堂』では、お笑い芸人のアキナがエチオピア料理を調査するパートがあった[21]。同番組では、アムハラ語をそのまま転写した「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリットにする」というテロップが、インジェラの製法を説明する際に用いられた。「オフチョベット」は粉末状にすることであり[22]、「マブガッド(マブカット)」は水と混ぜること[22][注釈 1]、「リット」はインジェラの生地(ሊጥ 〈liṭ〉を指す[25]。
この回がインターネット上のコミュニティで大きく取り上げられたことを背景に、日本語圏ではしばしばこのフレーズがインジェラを説明するうえで用いられる[26]。また、難解な語を多く含む文章がこの語を用いて形容されることがある[27][28]。
2025年11月には、TBS Podcastの番組『ママタルトの地球ディッシュカバリー』第3回に、インジェラの歴史を研究対象としている東京外国語大学のエチオピア史研究者石川博樹が出演した[29][30]。ここでは、インジェラをはじめとするエチオピア料理が紹介され、ポストでは本スラングが言及された[31]。
2025年12月にも、筑波大学准教授の古代エジプト語史研究者である宮川創がインジェラを紹介する際に用い[32]、2026年2月にネットメディア「ねとらぼ」で取り上げられた[26]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ↑ Clarkson, Janet (2013). Food History Almanac: Over 1,300 Years of World Culinary History, Culture, and Social Influence. Rowman & Littlefield Publishers. p. 1293. ISBN 978-1-4422-2715-6
- ↑ Cauvain, Stanley P.; Young, Linda S. (2009). The ICC Handbook of Cereals, Flour, Dough & Product Testing: Methods and Applications. DEStech Publications, Inc.. p. 216. ISBN 9781932078992. "Injera is the fermented pancake-like flatbread, which originated in Ethiopia."
- ↑ “Calories in 100 g of Injera (American-Style Ethiopian Bread) and Nutrition Facts”. 2026年2月22日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 アルバーラ 2013, pp. 89–93.
- 1 2 朝日百科 1984, pp. 136–137.
- 1 2 “インジェラ(エリトリアの主食)”. www.eritreaembassy-japan.org. エリトリア大使館. 2026年3月1日閲覧。
- ↑ Burdett, Avani (2012). Delicatessen Cookbook – Burdett's Delicatessen Recipes: How to make and sell Continental & World Cuisine foods. Springwood emedia. ISBN 9781476144627
- ↑ Kane 1990b, p. 2193.
- ↑ 石川 2021, p. 2.
- 1 2 3 4 (英語) The Economics of Teff: Exploring Ethiopia's Biggest Cash Crop. Washington, D.C.: International Food Policy Research Institute. (2018). ISBN 9780896292833. OCLC 1005779772
- ↑ Lyons, Diane; D' Andrea, A. Catherine (September 2003). “Griddles, Ovens, and Agricultural Origins: An Ethnoarchaeological Study of Bread Baking in Highland Ethiopia”. American Anthropologist 105 (3): 515–530. doi:10.1525/aa.2003.105.3.515. JSTOR 3566902.
- 1 2 Kloman, Harry (2010). Mesob Across America: Ethiopian Food in the U.S.A.. New York: IUniverse
- 1 2 3 4 5 岡倉 2007, pp. 36–42.
- 1 2 3 4 鈴木 1969, pp. 121–122.
- ↑ Ashenafi, M. (1994). “Microbial flora and some chemical properties of ersho, a starter for teff (Eragrostis tef) fermentation”. World Journal of Microbiology & Biotechnology 10 (1): 69–73. doi:10.1007/BF00357567. PMID 24420890.
- 1 2 3 4 「日本の中の世界/「新年」に食べる(2)帽子かぶった鶏煮込み」『毎日新聞』2019年1月3日。オリジナルの2019年9月13日時点におけるアーカイブ。
- ↑ 小川 2004, p. 209.
- ↑ 小川 2004, p. 205.
- ↑ Chacko, Elizabeth (2003). “Identity and Assimilation among Young Ethiopian Immigrants in Metropolitan Washington”. Geographical Review (American Geographical Society) 93 (4): 491–506. Bibcode:2003GeoRv..93..491C. doi:10.1111/j.1931-0846.2003.tb00044.x. JSTOR 30033939.
- ↑ Weil, Josh (1 August 2007). “To Ethiopians in America, Bread is a Taste of Home”. The New York Times. 2018年5月8日閲覧.
- ↑ お笑いナタリー編集部 (2019年9月16日). “竹中直人の相席旅に千鳥大悟「この人こそクセのかたまり!」”. お笑いナタリー. 2025年5月15日閲覧。
- 1 2 茸本朗 (2022年6月25日). “要注意外来種「シナダレスズメガヤ」で、世界一まずい(?)主食を作ってみた”. 野食ハンマープライス. 2025年5月15日閲覧。
- 1 2 Kane 1990a, p. 923.
- ↑ 若狭基道『ニューエクスプレスプラス アムハラ語』白水社、2021年10月25日、139頁。ISBN 978-4-560-08918-7。
- ↑ Kane 1990a, p. 121.
- 1 2 春山優花里 (2026年2月17日). “オフチョベットしたテフをマブガッド→リットにしたものを…… あるオフ会に出てきた伝説の料理が340万表示 「おいしいですよね」「ごめん、聞き取れなかった」”. ねとらぼ. 2026年2月18日閲覧。
- ↑ マシーナリーとも子 (2023年4月26日). “選択肢のクセが強すぎて主人公が「おもしれー女」になってしまうゲーム、『崩壊:スターレイル』が面白い”. 電ファミニコゲーマー. 2025年5月15日閲覧。
- ↑ 神田直樹 (2025年7月20日). “【東大合格者が警告】受験生がやりがちな“落ちる習慣”ワースト1”. DIAMOND online. ダイヤモンド社. 2025年12月7日閲覧。
- ↑ “ママタルトが東京外国語大学の先生と世界の食文化を紐解くポッドキャスト” (2025年10月7日). 2025年12月7日閲覧。
- ↑ 東京外国語大学, TUFS [@TUFS_PR]「ポッドキャスト「地球ディッシュカバリー〜東京外大の先生と一緒」第3回「神秘と伝説が息づく国 エチオピア」(前編) ゲスト:石川博樹教授、こちらで視聴できます💁♀️」2025年11月5日。X(旧Twitter)より2025年12月7日閲覧。
- ↑ ママタルトの地球ディッシュカバリー ~東京外大の先生と一緒~ [@mama_dishcovery]「【#ママタルト の #地球ディッシュカバリー ~東京外大の先生と一緒~】第3回で訪れたお店は中目黒の「クイーン シーバ」さん🌮代表的な料理「インジェラ」🌮「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリットを作ります」そして、発酵させたリットにアブシィトを加えて混ぜて、焼いたら完成!」2025年11月4日。X(旧Twitter)より2025年12月7日閲覧。
- ↑ 筑波大学 宮川創 研究室 / Prof. Dr. So Miyagawa [@So_Miyagawa]「エチオピア人オフ会でオフチョベットしたテフをマブガッドしてリットにしたものを食べました。」2025年12月28日。X(旧Twitter)より2026年2月18日閲覧。
参考文献
[編集]- Kane, Thomas Leiper (1990a). Amharic-English dictionary. 1. Wiesbaden: O. Harrassowitz
- Kane, Thomas Leiper (1990b). Amharic-English dictionary. 2. Wiesbaden: O. Harrassowitz
- 石川博樹「16~18世紀のエチオピア北部におけるテフの消費拡大とインジェラの成立」『農耕の技術と文化』第30巻、2021年、1–35頁。
- 鈴木秀夫『高地民族の国エチオピア』古今書院〈リージョナル・ブックス〉、1969年。 NCID BN03782723。
- 朝日新聞社(編)『世界の食べもの』 5巻(合本)、朝日新聞社〈朝日百科〉、1984年3月。 NCID BN10816235。
- 小川了『アフリカ』農山漁村文化協会〈世界の食文化〉、2004年10月。ISBN 4-540-04087-1。
- 岡倉登志『エチオピアを知るための50章』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2007年12月1日。ISBN 9784750326825。
- ケン・アルバーラ 著、関根光宏 訳『パンケーキの歴史物語』原書房〈お菓子の図書館〉、2013年9月25日。ISBN 9784562049424。
外部リンク
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