アマビエ
アマビエは、日本に伝わる半人半魚の妖怪。海中から現れ、豊作や疫病などの予言をすると伝えられている。
同種の妖怪と考えられるものにアマビコ(尼彦、尼彦入道、あま彦、天彦、天日子)、アリエなどがある。
伝承
弘化三年(1846年)の4月の中旬頃。毎晩のように海中に光る物体が出現していたため、ある夜に町の役人が海へ赴いたところ、このアマビエが現れていた。その姿は人魚に似ているが、口はくちばし状で、首から下は鱗に覆われていた。
役人に対して自らを「海中に住むアマビエである」と名乗り、「この先6年間は豊作が続くが、もし疫病が流行することがあれば、私の姿を描いた絵を人々に早々に見せよ」と予言めいたことを告げ、海の中へと帰って行った。
この話は当時の瓦版で人々に伝わり、アマビエの姿も瓦版に描かれて人々に伝えられた。
同種の妖怪
アマビエと同種と考えられている妖怪として、尼彦がある。やはり肥後国の海中に現れ、アマビエ同様に豊作、疫病、姿を描いた絵による除災を告げたとされる。また、日向国(宮崎県)には尼彦入道という妖怪が現れ、同様の予言を残したと伝えられている。
1876年(明治9年)6月17日付の山梨日日新聞には、肥後国青鳥郡にアリエという同様の妖怪が出現したと報道されている。ただし、これに関しては、青鳥郡という郡が実在しないことから当時としても疑わしいニュースとされており、同年6月30日付の長野新聞でも「妄説」とされている。1892年(明治15年)7月10日付の郵便報知新聞にも、あま彦という妖怪についての記事が存在する。
これらは、海中からの出現、豊作や疫病の予言、その姿を描いた絵による除災、3本以上の足による直立という外見などが共通しており、同種と考えられている。
この他に、1875年(明治8年)8月14日付の東京日日新聞には、新潟県湯沢町の田の中に「天日子尊(あまひこのみこと)」と名乗る妖怪が現れたという記事があり、また天草には山中に「山童」という妖怪が現れたという伝承がある。これらも、海に出現しないという違いはあるものの、外見や予言などの特徴は多く共通しており、同種と考えられている。
考察
西洋の一説では海の生物にはすべて予知能力があるとされ、海から半人半魚のものが現れて予言を告げる伝承も珍しくないことから、アマビエを人魚の一種とする見方もある。ただし、人魚の予言を不運の前兆と解釈する説がある一方、アマビエは予言のみならず疫病を防ぐ能力を持ち合わせていたことが、一般の人魚の予言と大きく異なり、妖怪というよりは神に近い存在とも言われている。また、外見などは大きく異なるが、予言と除災という観点から言えば、件、白澤、神社姫、ほうねん亀、亀女など同じような性質の妖怪も多い。
「アマビエ」という名称については、目撃記録が一つしかなく、また名の意味が不明であることから、「アマビコ」の「コ」を「エ」と誤って書いてしまったことから生まれたのではないかという説がある。