人魚

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人魚
John William Waterhouse A Mermaid.jpg
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスによる人魚(マーメイド)の絵画(1900年
種類 神話上の生物
副種類 人魚
類似 半魚人セイレーンセルキー
初発見 ケルトの伝承
別名 マーメイド、マーマン
イングランド(現在イメージされる外観)
生息地

人魚(にんぎょ)は、水中に生息すると考えられた伝説の生物である。世界各地に類似の生き物の伝承がある。それらがすべて同一のに属するという保証はないが、ここではそれらを総称して人魚と呼ぶ。

図像[編集]

The Land Baby, ジョン・コリア作(1899)

水域に棲み人と魚の特徴を併せ持つという大まかな共通点はあるが、伝承されてきた土地によりその形状や性質は大きく異なる。

ヨーロッパの人魚は、上半身がヒトで下半身が魚類のことが多い。裸のことが多く、服を着ている人魚は稀である。伝説や物語に登場する人魚の多くは、マーメイド(若い女性の人魚)である。今日よく知られている人魚すなわちマーメイドの外観イメージは、16–17世紀頃のイングランド民話を起源とするものであり、それより古いケルトの伝承では、人間と人魚の間に肉体的な外見上の違いはなかったとされている[1]。古い絵などには2つの尾びれを持った人魚も描かれている(ヨーロッパの古い紋章の中にも、2股に分かれた尾部を持つ人魚をかたどるものがある。今でもスターバックス・コーヒーの商標の中に、現代風にリファインされた形態で見ることができる)。

一方、日本の人魚のイメージは、蛇女房、龍女房伝説にヨーロッパの人魚のイメージを重ね合わせたもので、時代により外見などは大きく異なる。

中国の『山海経』では「人魚」とは河に住む生き物で、䱱(辞書によればトビハゼまたはサンショウウオ)に似るとされる[2]

伝承の由来[編集]

今日では哺乳類のジュゴンの見間違いに端を発したという話が広く流布しているが、学術的根拠があるわけではない。学術的に検証するといくつかの疑問点が浮かび上がる。たとえば、ジュゴンの生息しない海域にも人魚伝説がある[3]。魚類学者の高島春雄は、「日本人が本物のジュゴンを見たのは明治以降だが、古い時代にも人魚の目撃証言がある」と指摘している[4]。また、九州大学名誉教授の内田恵太朗は、魚類のリュウグウノツカイが(少なくとも日本の)人魚の正体であろうとしている[5]

シンボリズム[編集]

不吉な象徴とされることが多く、たいていの文学作品では、人魚は最後まで幸せなままでいることはない[6]

アンデルセンの童話「人魚姫」では、人魚には「不死の魂」がないのでそのままでは人間との恋は成就しない[7]。ただしこのアイディアはアンデルセンの発案ではなく、フリードリヒ・フーケの『ウンディーネ』などが先行する[8]。現代日本の歌詞などでも叶わぬ恋、報われない愛を象徴的に表すため人魚という文字列を使用することがある。たとえば「虹色の涙」(田村英里子)、「十月の人魚」(岡田有希子)、「人魚姫 ~mermaid~」(中山美穂)など。

西洋の人魚[編集]

ローレライ[編集]

ライン川にまつわる伝説。ライン川を通行する舟に歌いかける美しい人魚たちの話。彼女たちの歌声を聞いたものは、その美声に聞き惚れて、舟の舵(かじ)を取り損ねて、川底に沈んでしまう[9] [10]。詳しくはローレライの項を参照。文献によっては、ローレライは人魚の姿をしていないこともある[11]

メロウ[編集]

メロウ (merrow) は、アイルランドに伝わる人魚である。姿はマーメイドに似ており、女は美しいが、男は醜いという。この人魚が出現すると嵐が起こるとされ、船乗り達には恐れられていた。また、女のメロウが人間の男と結婚し、子供を産むこともあるという。その場合、子供の足には鱗があり、手の指には小さな水掻きがあるとされる[12]

セイレーン[編集]

航海者を美しい歌声で惹きつけ難破させるという海の魔物で、人魚としても描かれる。もとはギリシア神話に登場する伝説の生物。セイレーンの項参照[13]

メリュジーヌ[編集]

メリュジーヌ(仏: Melusine)は、フランスの伝承に登場する水の精。異類婚姻譚の主人公。上半身は人間の女性、下半身は蛇(一説に魚)の姿をしている。文献によってはメリュシヌの表記を採用する[14]。レーモンドという貴族がメリュジーヌを見初め、結婚する。結婚にあたって、メリュジーヌは「土曜日には自分の部屋にこもるが、その時は姿を決して見ないこと」という条件を課した。メリュジーヌは夫に策を授け、富をもたらした。ところが夫は「メリュジーヌが浮気している」という噂を耳にすると[15]、つい約束を破ってしまった。彼女は入浴中で、上半身こそ人間だったが下半身は魚に変わっていた。メリュジーヌは夫のもとを去る。

ハゥフル[編集]

ノルウェー語で人魚をこう呼ぶ。ハゥフル(havfrue) は、漁師の間では嵐や不漁の前兆とされ、見たら仲間に話さずに火打石で火花を立てることで(嵐や不漁を)回避することができるとされる。また、人魚には予知能力があるとされ、予言を聞いたという伝説もある[16] [17]

アジアの人魚[編集]

ここでは日本以外のアジアの人魚について述べる。

海人[編集]

古代中国でヒトの祖先とされた、一種の海棲人類のこと。『淮南子』巻四では、各種の動物について、古代中国独特の「進化論」が説かれている。ヒトの進化の道筋については、

𥥛(ハツ)は海人を生じ、海人は若菌(じゃくきん)を生じ、若菌は聖人を生じ、聖人は庶人を生ず。およそ𥥛なる者は庶人より生ず

とある(𥥛は、「穴かんむり」の下に「祓」の右半分を書く)[18]

この一文は難解だが、ヒトの祖先は𥥛(細毛におおわれたサル)であり、以後、𥥛→海人(海棲人類)→若菌(意味未詳)→聖人(完成された古代の人間)→庶人(普通の人間)→「およそ𥥛なる者」(未来の退化した人類)と、進化と退化を重ねてきた、と解釈する主張もある[19]

浪奸物語[編集]

高句麗の都・平壌に伝わる人魚伝説。あるとき李鏡殊(イ・ジンスウ、이진수)という漁夫が、海上で美女(この人は人魚ではない)に誘われ、龍宮へ行って1日を遊ぶ。帰るときに、食すると不老長寿になるという高麗人参に似た土産(これを人参ではなく人魚と称する)をもらった。訝った李鏡殊は食べずに隠しておいたが、娘の浪奸(ナンガン、낭간)がそれを食べてしまう。彼女は類い稀な変わらぬ美貌を得たが、結婚や子宝には恵まれなかった。300歳のとき、牡丹峰に登り、そのまま行方不明となった[20][21]

海人魚[編集]

中国の人魚。『洽聞記』という書物によれば東海(東シナ海)に生息し、体長は大きい個体では5~6尺(約1.5~1.8メートル)。容姿は大変美しく、髪は馬の尾のようで、鱗には細い毛がある。中国の人魚伝承では交婚が認められていないことが多いが、海人魚は交婚は自由であり、臨海で多くの鰥寡を捕らえて池や沼で養うという[22][23][24]

日本の人魚[編集]

鳥山石燕今昔百鬼拾遺』より「人魚」

ここでは日本(アイヌモシリ、琉球王国含む)の人魚について述べる。

日本でも人魚の存在が早くから語られている。最古の記録は619年とされており、『日本書紀』に記述がある[25]

二十七年の夏四月の己亥の朔にして壬寅に、近江の国の言さく、「蒲生河に物あり。其の形、人の如し」とをます。秋七月に、摂津国に漁夫有りて、罟を堀江に沈けり。物有りて罟に入る。其の形、児の如し。魚にも非ず、人にも非ず、名けむ所を知らず。

引用は[26]による。(大意)推古天皇27年4月4日、近江の国から「日野川に人のような形の生き物がいた」と報告があった。同年7月、摂津国の漁夫が水路に網を仕掛けたところ、人の子供のような生き物が捕れた。魚でもなく人でもなく、何と呼ぶべきか分からなかった。

また聖徳太子近江国(現・滋賀県)で人魚に会い、前世の悪行で人魚に姿を変えられたと聞いて手厚く供養したという話もある(観音正寺の項目参照)[27]

鎌倉時代の『古今著聞集』などでは、日本の人魚はヒト状の顔を持つ魚とされていたが、遅くとも江戸時代後期にはヨーロッパ同様、ヒトの上半身と魚の下半身を持つ姿と伝えられるようになる。西洋の文献を通して流入したマーメイドのイメージが、『和漢三才図会』や『六物新志』などで紹介され、 日本各地に伝搬したという説がある[28]

日本各地に伝わる人魚伝説の中には、人魚を恐ろしいものとみなすものもある。江戸時代越中国(現・富山県)では、角を持った全長11メートルの人魚を人々が450丁もの銃で撃退としたといわれる。若狭国(現・福井県南部)でも漁師が岩の上に寝ていた人魚を殺した後、その村では海鳴りや大地震が頻発し、人魚の祟りと恐れられたという。このように人魚が恐れられたのは、中国の『山海経』に登場する、赤子のような声と脚を持つ人魚の影響を受けたためといわれる。[29]

一方では吉兆との説もあり、寿命長久や火難避けとしても崇められたこともある。和歌山県橋本市、高野山の麓、西光寺の学文路苅萱堂(かむろかるかやどう)には全長約50センチメートルの人魚のミイラがあり、不老長寿や無病息災を願う人々の信仰の対象となっている。2009年3月、和歌山県有形民俗文化財に指定される。伝説の生物が都道府県の文化財に指定されるのはこれが初[30]博多津に人魚が出現した際には国家長久の瑞兆と占われ、人魚は龍宮寺(博多区)に埋葬された。龍宮寺には今も人魚の骨が伝えられている[31]

人魚は一匹と数えるのが正しい[32]

八百比丘尼伝説[編集]

八百比丘尼(やおびくに、)は、人魚など特別なものを食べたことで長寿になった比丘尼である。福井県小浜市と福島県会津地方では「はっぴゃくびくに」、栃木県西方町真名子では「おびくに」、その他の地域では「やおびくに」と呼ばれる。高橋晴美によると、その伝説は全国28都県89区市町村121ヶ所にわたって分布しており、伝承数は166に及ぶ(とくに石川・福井・埼玉・岐阜・愛知に多い)[33]。白比丘尼(しらびくに)とも呼ばれる。800歳まで生きたが、その姿は17~18歳の様に若々しかったといわれている[34]。地方により伝説の細かな部分は異なるが大筋では以下の通りである[35]

ある男が、見知らぬ男などに誘われて家に招待され供応を受ける。その日は庚申講などの講の夜が多く、場所は竜宮や島などの異界であることが多い。そこで男は偶然、人魚の肉が料理されているのを見てしまう。その後、ご馳走として人魚の肉が出されるが、男は気味悪がって食べず、土産として持ち帰るなどする。その人魚の肉を、男の娘または妻が知らずに食べてしまう。それ以来その女は不老長寿を得る。その後娘は村で暮らすが、夫に何度も死に別れたり、知り合いもみな死んでしまったので、出家して比丘尼となって村を出て全国をめぐり、各地に木(椿など)を植えたりする。やがて最後は若狭にたどり着き、入定する。その場所は小浜空印寺と伝えることが多く、齢は八百歳であったといわれる。

新潟県佐渡島にある羽茂町(現在の佐渡市)に伝わる話では、八百比丘尼はここで誕生し、上記の通りに人魚の肉を食べて1000年の寿命を得たが、自身は年をとらないことをかえってはかなみ、200歳を国主に譲って諸国を巡り、最期は800歳になった時に若狭へ渡って入定したという[36]

また、岐阜県下呂市馬瀬中切に伝承される八百比丘尼物語は「浦島太郎」と「八百比丘尼」が混ざった話として存在し、全国的にも稀である[37]

1449年、200歳とも800歳ともいわれる比丘尼が若狭から上洛したという記録が残っている[38]。役人の日記である『中原康富記』の5月26日の項に「今月20日白比丘尼という200歳の女性が上洛した。見世物として料金を取っている。白髪だから白比丘尼というのだろうか」と記されている。『唐橋綱光卿記』の6月8日の項では、比丘尼の年齢を800歳としている。『臥雲日件録』の7月26日の項では白比丘尼は八百老尼と同じであると解されている。金持ちからは銭100枚、貧しいものからは銭10枚を徴収していると記されている。ただし、この老尼は八百比丘尼伝説を利用した芸能者だったと考えられている。当時から八百尼丘尼の伝説は尼によって布教活動に利用されており、こうした伝説を利用する女性も少なくなかった一例である[39]。彼女は歩き巫女(あるきみこ)だったという説がある[40]

京都府北部の丹後半島の京丹後市丹後町では、丹後町丹後乗原(のんばら)に住んだ大久保家の娘が、人魚の肉を食べて800年生きたと伝えられている。京都府北部では、栗田半島にも八尾比丘尼の伝承が残されている。[41]丹後地域にはこのほか徐福伝説(伊根町)や田道間守伝説(網野町木津)など、不老長寿にまつわる伝承が残されている。

八百比丘尼が晩年に仕えたとされる小浜市の神明神社の境内には、八百比丘尼を祀る社があり、長寿を願う人々に厚く信仰されている[34]。境内の八百姫宮には、室町時代と江戸時代(17世紀後半)に造られたとされる2体の像がまつられており、江戸時代の新像は、神式風の衣装で、右手に願いを叶える宝珠、左手には白玉椿の枝を持ち、目に水晶の玉眼を施している[42]。本来は新旧ともに非公開であったが、2017年以降は期間限定で福井県立若狭歴史博物館で公開されている[34][42]

福井県おおい町と京都府綾部市の境界付近に尼来峠(あまきとうげ)という地名が残っている。小浜市の八百比丘尼が綾部市の寺に通うために通ったと伝えられ、彼女がいつまでも若いままであることが近隣住民の評判になり、尼来峠と呼ばれるに至った[43]

絵本小夜時雨[編集]

『絵本小夜時雨』二
「浪華東堀に異魚を釣」[44]

江戸時代の古書『絵本小夜時雨』の二「浪華東堀に異魚を釣」に記述がある。寛政12年(1800年)、大阪西堀平野町の浜で釣り上げられたとされる体長約3尺(約90センチメートル)の怪魚。同書では人魚の一種とされるが、多くの伝承上の人魚と異なり人間状の上半身はなく、人に似た顔を持つ魚であり、ボラに似た鱗を持ち、人間の幼児のような声をあげたという[45]。水木しげるの著書には「髪魚(はつぎょ)」として載っている[46]

アイヌソッキ[編集]

アイヌ民話で北海道内浦湾に住むと伝えられる人魚によく似た伝説の生物。八百比丘尼の伝説と同様、この生物の肉を食べると長寿を保つことができるという[47][48]。文献によっては、アイヌソッキを人魚の別名とする[49]

人魚供養札[編集]

秋田県井川町洲崎(すざき)遺跡(13–16世紀、鎌倉室町期)出土の墨書板絵の一つに「人魚供養札」がある。これは民話ではなく、出土遺物であるが、僧侶と人魚が描かれた中世における物的資料である。井戸跡から見つかり、長さ80.6センチ。魚の体に両腕と両足が描かれ(尾びれはある)、人の顔だが髪はなく、鱗で覆われている。板絵を観る限り、僧侶より小さい体であるが、犬くらいはある。前述の『古今著聞集』の記述とは形体が違い、四足動物のような外見(両生類とも半魚人ともいえぬ姿)をしている[50]。西洋的分類としては、魚人に近い面がある。国立歴史民俗博物館准教授・三上喜孝は、鎌倉幕府の歴史書である『吾妻鏡』を参照の上、不吉な出来事を避けるために供養したのではないかという説を唱えた[51]

日本のその他の人魚[編集]

これらの他にも、江戸時代に肥後国で疫病の流行を予言したアマビエ石垣島明和の大津波を予言したザンなどの伝承がある。詳細はそれぞれの項目参照。

オセアニアの人魚[編集]

パプアニューギニアの人魚[編集]

パプアニューギニアニューアイルランド島東海岸に住むナケラ族には、リーという半人半魚の生き物の伝説がある。人類学者のRoy Wagnerは、1960年代から70年代にかけてパプアニューギニアで現地文化に関する聞き取り調査を行った。そのなかでリー(ri, Ri)と呼ばれる生き物の話を大量に採取した。リーは空気を呼吸し、ヒトの頭部・腕・生殖器と魚の下半身(一対の鰭)を持つという[52][53]。"Ilkai", "Pishmeri"はこの動物の別名である[54]

中南米の人魚[編集]

イアーラ[編集]

イアーラはインディオの美しい娘だったが、ヒョウに襲われて川に逃げ込むと人魚に姿を変えた。今もその場所で美しい歌を歌っているが、その誘惑に逆らえない者は正気を失うという。姿かたちは文献により異なる。人のように2本の脚をもつイアーラを描写した作家もいる[55][56]。恋人の男性とともに水底に消え、そのまま幸せに暮らしたというエンディングもある[57]

人魚姫の像[編集]

ハンス・クリスチャン・アンデルセン作の物語である『人魚姫』を記念して作られた人魚姫の像は、人魚姫の物語を演じたバレエに感銘を受けた、 カール・ヤコブセン(カールスバーグ醸造所創立者の息子)の要請で、彫刻家エドヴァルド・エリクセンにより1913年に制作された。そのバレエの主役を演じ、当時デンマーク王立劇場プリマドンナであったエレン・プリースがモデルだったが(厳密には真偽不明[58])、彼女が裸体モデルを拒否したため頭部のみのモデルとなり、エドヴァルドの妻エリーネ・エリクセンが、首から下のモデルとなっている。アンデルセンの原作では、腰から下は魚だったはずだが、この人魚像は足首の辺りまで人間で、そこから先が魚のひれになっている。神谷敏郎によると、作者は可憐な姫を魚体にすることを不憫に思って人の脚に近い造形にしたとのこと。[59]コペンハーゲンの港に設置されている。

1970年、大分市の水族館にこの像のレプリカ到着。デンマーク国外としては世界初[60]。現在では大阪港[61]、名古屋港[62]、愛知県安城市のデンパーク[63]などにもある。

脚注[編集]

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参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

アフリカの水の精霊・人魚(1)