アビリーンのパラドックス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

アビリーンのパラドックス(Abilene paradox)とは、ある集団がある行動をするのに際し、その構成員の実際の嗜好とは異なる決定をする状況をあらわすパラドックスである。

集団内のコミュニケーションが機能しない状況下、個々の構成員が「自分の嗜好は集団のそれとは異なっている」と思い込み、集団的な決定に対して異を唱えないために、集団は誤った結論を導きだしてしまう。アビリーンのパラドックスは「事なかれ主義」(rocking the boat)、集団思考の一例としてしばしば言及される。

起源[編集]

このパラドックスは、経営学者ジェリー・B・ハーヴェイ (Jerry B. Harveyが著書『アビリーンのパラドックスと経営に関する省察』The Abilene Paradox and other Meditations on Managementで提示したものである。現象の名称は、この現象を説明する小話の中でハーヴェイが用いた町の名にちなむ。以下はその要旨である。

ある八月の暑い日、アメリカ合衆国テキサス州のある町で、ある家族が団欒していた。そのうち一人が53マイル離れたアビリーンへの旅行を提案した。誰もがその旅行を望んでいなかったにもかかわらず、皆他の家族は旅行をしたがっていると思い込み、誰もその提案に反対しなかった。道中は暑く、埃っぽく、とても快適なものではなかった。提案者を含めて誰もアビリーンへ行きたくなかったという事を皆が知ったのは、旅行が終わった後だった。

集団思考[編集]

この現象は、集団思考のひとつの形であるといえる。社会心理学が扱う社会的一致や社会的影響の理論から容易に説明ができる。人はしばしば、集団の流行から外れることを嫌うのである。同様に、心理学の観点からも間接的なきっかけと隠れた動機が人の立場や行動の背後にあることが観察されている。しばしば、社会的な抑制要因が個人の欲求を通すことを思いとどまらせてしまう。

この理論の要点は、集団の抱える問題は「不和」から生じるのと同様に「同意」からも生まれるということである。多くの社会科学者に受け入れられており、個人と集団の関係をめぐる理論を補強している。

理論の応用[編集]

この理論は、経営におけるまずい決定、とくに「委員会」での決定を優先する発想を説明するのにも使われる。コンサルタントによる実務的ガイダンスと同様、経営学の研究と実践でも、構成員の議論を通して集団の決定をなすときには互いに「われわれはアビリーンに向かっているのか?」Are we going to Abilene? を問い直さなければいけないと記している。

[編集]

関連項目[編集]