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集団意思決定

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集団意思決定(しゅうだんいしけってい、英:Group decision-making。共同意思決定(きょうどういしけってい)とも)とは、個人の集団が複数の選択肢から共同で下す意思決定。集団による意思決定は単独の個人に帰属しない。これは、すべての個人および集団プロセスが結果に影響するためである。集団による決定は、しばしば個人が下す決定とは異なる。

概要

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職場において、共同意思決定は他のステークホルダーからの賛同・納得を引き出し、合意を築き創造性を促すうえで最も成功しているモデルの一つである。相乗効果の考え方によれば、集団的に下された決定は、単独の個人が下した決定よりも効果的になる傾向がある。一定の協働ルールは、個人の単独行動の集積より、成果の合計を増加させる場合がある。[1]

適切な熟議英語版議論対話のための時間がある場合、通常では集団意思決定の方がしばしば望ましく、個人意思決定よりも多くの利点を生み出す。[2]これは委員会、チーム、グループ、パートナーシップ、その他の協働的な社会的プロセスを通じて達成しうる。

しかし、集団意思決定には欠点も存在する。極度の緊急事態危機的状況では、熟議に時間をかけにくいため、別の意思決定形態の方が望ましいことがある。[2]一方で、意思決定の枠組みの適切性を評価する際には、追加の考慮点も必要である。たとえば、集団極性化英語版が生じ、集団が構成員の個々の判断よりも極端な決定を下すことがある。[3]また、ピッグス湾事件のように、集団による決定が欠陥を孕む事例もある。これは集団思考モデルの基盤となった事例である。[4]

集団力学は、集団の意思決定にも影響する。たとえば、集団凝集性が高い集団が、他の先行条件(例:イデオロギーの同質性、異論の遮断、エコーチェンバー現象など)と組み合わさると、集団意思決定に負の影響を与え、ひいては集団の有効性を損なうことが指摘されている。[4]さらに、個人が集団の一員として意思決定を行うとき、共有情報(複数の成員がすでに知っている情報)の議論に偏る傾向(共有情報バイアス英語版))があり、非共有情報の議論が不足しがちである。(集団志向性英語版グラウンディング英語版も参照)

心理学的背景

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社会的アイデンティティ理論英語版は、集団思考モデルよりも一般的な分析を提供する。集団思考が集団やその他の意思決定が破綻する状況を狭く捉えるのに対し、社会的アイデンティティ分析は、集団的意思決定の過程で生じる変化を、集団の本質に基づき、心理的に効率的で、成員が経験する社会的現実に根ざした合理的心理過程の一部とみなし、それが社会に肯定的な影響をもたらしうる潜在力を持つとする。[5]

方式

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方式には下記のようなものがある。

  • 全体集会方式:全参加者が互いのニーズと意見を承認し、できるかぎり多くのニーズと意見を満たすことを目指す。複数の結論および一部構成員の別行動を容認する。
  • 委員会方式:意思決定に関する評価を大集団の一部に委ね、その委員会が勧告を持ち帰る。立法機関などの大規模な統治組織で一般的。ときに影響を最も受ける人々を含めるが、より中立的な参加者で構成する方が有益な場合もある。
  • 参加度比例方式:各参加者の発言権は、その決定が当人に与える影響の大きさに正比例する。影響を受けない者は発言権を持たず、専ら影響を受ける者は全面的な発言権を持つ。
  • その他・総論:比較多数投票独裁は、より広範な集団の関与を必要とせず選択を決められてしまうため、意思決定ルールとしてはあまり望ましくない。選択された行動方針への参加が生まれにくく、実施段階で問題となりうる。

完全な意思決定ルールは存在しない。実際の運用と状況によっては、決定不能に陥ったり、時間の経過とともに相互に不整合な決定が生じたりしうる。

手法

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細則や規程のように明確な基準がある場合もあるが、多くは非公式で暗黙的であることが多い。代表的なものは次のとおり。

  • 委任:決断を委任された個人・一部集団・外部者が、集団の代理として決定を下す。独裁では指導者が決め、寡頭制では一部の有力者達が決める。
  • 間を取る:各構成員が私的かつ独立に決定し、後でそれらを平均して一つの決定を得る。
  • 比較多数:構成員が公開または非公開で選好に投票する。
  • 全会一致:合意形成型手法。集団が議論を重ね、全会一致に到達するまで継続する。多くの陪審ではこの手法をとる。(熟議英語版も参照)
  • ランダム:決定を偶然に委ねる(例:1〜10の数字を選ぶ、コイン投げ)。[6]


これらの各手法には長所と短所がある。委任は時間節約になり重要度の低い決定に向くが、軽視された成員の反発を招く恐れがある。間を取るのは極端な意見を相殺するが、最終決定が多くの成員に不満を残しうる。比較多数は、優れた決定がなされる場面で最も一貫的で、必要労力も最小である。[6]ただし投票は、僅差で敗れた側の疎外感や内向きの政治化、他者意見への同調を招くことがある(バンドワゴン効果なども参照)。[7]合意形成は、成員の関与を深め高い参加につながるが、現実的に難しい場合もある。[8]

規範モデル

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集団意思決定には利点と欠点の双方がある。定義上、集団は2人以上で構成されるため、より多くの情報へアクセスでき、処理能力も大きい。[9]一方で、決定に時間がかかり、期限のために質の低い合意へ拙速に収束するリスクもある。また、問題が単純すぎる場合には、集団プロセスは過剰となり失敗しうる。こうしたトレードオフがあるため、ヴィクター・ヴルーム英語版は状況に応じて異なる意思決定法を選ぶべきだとする規範モデルを提案した。[10][9]

  • 単独決定:指導者は他の構成員を情報源として用いるが、独自に最終決定を下し、その情報を求めた理由を説明しない。
  • 個別諮問:指導者は個別に各構成員と話し、全体会合は持たない。その上で、得た情報にもとづき最終決定を下す。
  • 全体諮問:指導者と集団が会合し、指導者は全体に諮問して意見と情報を求め、その後決定に至る。
  • 調整:指導者は協働的・全体的手法をとり、統一的で合意的な決定に向けて集団と協働する。非指示的であり、特定解を押しつけない。最終決定は集団が行う。
  • 委任:指導者は一歩引き、問題を集団に委ねる。指導者は支援的であるが、直接の関与なしに集団が決定に至る。

意思決定支援システム

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ジェームズ・リーズンは人間のエラー研究の中で、知的意思決定支援システムとしてコンピュータ支援の活用を論じた。スリーマイル島原子力発電所事故以後の事例は、意思決定支援システムに必ずしも大きな信頼を抱かせるものではなかったと指摘する。たとえばデービス・ベッセ原子力発電所事故では、独立安全パラメータ表示システムが事故の前および最中に作動していなかった。[11]

意思決定ソフトウェア英語版は、自律ロボットや、産業オペレータ・設計者・経営者のための能動的意思決定支援に不可欠である。

意思決定には考慮すべき点が多数あるため、コンピュータ基盤の意思決定支援システムが開発され、意思決定者が思考の選択肢の含意を検討するのを支援している。これらは人的エラーのリスク低減を助ける。人間の認知的意思決定機能の一部を実現しようとする意思決定支援システムは知的意思決定支援システム英語版と呼ばれる。[12]一方、能動的かつ知的な意思決定支援システムは、複雑な工学システムの設計や大規模技術・事業プロジェクトの管理にとって重要なツールである。[13]

集団討議の落とし穴

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集団は情報量と動機づけ資源において個人を上回り、潜在的には個人より高い成果を出せる。しかし、常にその潜在力を発揮できるとは限らない。しばしば適切なコミュニケーション技能を欠く。発信側では明確に表現する技能が不足し、受信側では情報処理の限界や傾聴の癖から誤解が生じうる。個人が集団を支配する場合、他者の有意義な貢献を妨げることがある。[14]

また、集団が決定するのではなく回避するために討議を使うことがある。回避戦術には次が含まれる。[9]

  • 先延ばし:高優先の課題を低優先の課題に置き換える。代替案の検討や相対評価をせず、決定を延期する。
  • 正当化の誇張:拙速・恣意的に決定をまとめ、その後その決定の好ましい帰結を過大評価し、好ましくない帰結の重要性を過小評価して決定を持ち上げる。
  • 責任回避:小委員会に委ねる、あるいは責任を集団全体に拡散することで、責任を回避する。
  • 場当たり対応:既存の選択肢からわずかに異なる限定的な代替案のみを検討し、やり過ごす。
  • サティスファイシング:「満足(satisfy)」と「十分(suffice)」の合成語。最善策の探索を避け、低リスクで容易な解に妥協する。
  • 些末化:重要課題の扱いを避け、枝葉末節に焦点を当てる。

情報共有の失敗

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隠されたプロフィール英語版型タスクの研究は、情報共有の不足が集団意思決定で一般的な問題であることを示す。特定のメンバーが他のメンバーの誰も知らない情報を持つとき、全情報を統合すれば最適決定に近づくが、共有されないと準最適な決定に陥りやすい。スタッサーとタイタスは、部分的共有が誤った決定に結びつくことを示し[15]、ルーとユアンは、全員が全情報を持つ場合は、一部のメンバーのみが情報を持つ場合に比べ、正答率が8倍高いことを示した。[16]

認知的制約

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集団意思決定の場では、個人はしばしば大きな認知的負荷の下で機能している。このため、認知的・動機づけバイアスが集団意思決定を不利に導くことがある。フォーシス[9]によれば、集団が陥りうる潜在的バイアスは3類型に大別できる。

作為の誤り

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情報の誤用・乱用・不適切使用によるもの。

  • 信念持続:不正確と判断済みの情報をなお意思決定に用いる。
  • サンクコスト・バイアス:計画が非効率・無効になっていても、既投資を理由に固執する。
  • 証拠外バイアス:無視すべきと告げられている情報を敢えて用いる。
  • 後知恵バイアス:過去知識の正確さ・関連性を過大評価する。

不作為の誤り

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有用情報の見落とし。

  • 基準率無視:基本的な趨勢・傾向に関する情報を無視する。
  • 根本的帰属の誤り:個人の行動評価で、内的要因(性格など)を過大・外的要因(状況など)を過小評価する。※この現象は個人主義文化で信頼して観察され、集団主義文化では当てはまらない。[17]

不正確さによる誤り

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複雑な決定を単純化し過ぎるヒューリスティクスへの過度依存。

  • 利用可能性ヒューリスティクス:想起しやすい情報に依存する。
  • 連言バイアス:事象Aの確率は、Aと他の事象Bの同時発生の確率の上限であることの理解が不十分(Bの確率が1未満なら、AかつBの発生は常にA単独より起こりにくい)。
  • 代表性ヒューリスティクス:もっともらしいが誤解を招く手がかりに過度に依拠する。

関連項目

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脚注

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  1. ^ Larson, James R (2010). In search of synergy in small group performance. Psychology Press. ISBN 9780805859447.
  2. ^ a b "Decision Making and Problem Solving". FEMA Emergency Management Institute.
  3. ^ Moscovici, Serge; Zavalloni, Marisa (1969). "The group as a polarizer of attitudes". Journal of Personality and Social Psychology. 12 (2). American Psychological Association (APA): 125–135. doi:10.1037/h0027568. ISSN 1939-1315.
  4. ^ a b Janis, Irving Lester (1972). Victims of Groupthink: A Psychological Study of Foreign-Policy Decisions and Fiascoes. Boston, MA: Houghton Mifflin Company. ISBN 978-0-395-14002-4.
  5. ^ Haslam, S Alexander (24 May 2004). Psychology in Organizations. London: SAGE Publications. p. 177. ISBN 978-0-7619-4231-3.
  6. ^ a b Hastie, Reid; Kameda, Tatsuya (2005). "The Robust Beauty of Majority Rules in Group Decisions". Psychological Review. 112 (2): 494–508. CiteSeerX 10.1.1.336.3389. doi:10.1037/0033-295x.112.2.494. PMID 15783295.
  7. ^ Davis, James H.; et al. (1988). "Effects of straw polls on group decision making: Sequential voting pattern, timing, and local majorities". Journal of Personality and Social Psychology. 55 (6). American Psychological Association (APA): 918–926. doi:10.1037/0022-3514.55.6.918. ISSN 1939-1315.
  8. ^ Kameda, Tatsuya; et al. (2002). "Cost–benefit analysis of social/cultural learning in a nonstationary uncertain environment". Evolution and Human Behavior. 23 (5). Elsevier BV: 373–393. doi:10.1016/s1090-5138(02)00101-0. ISSN 1090-5138.
  9. ^ a b c d Forsyth, D. R. (2006). Decision making. In Forsyth, D. R. , Group Dynamics (5th Ed.) (P. 317-349) Belmont: CA, Wadsworth, Cengage Learning.
  10. ^ Vroom, Victor H. (2003). "Educating managers for decision making and leadership". Management Decision. 41 (10). Emerald: 968–978. doi:10.1108/00251740310509490. ISSN 0025-1747. S2CID 155070602.
  11. ^ Reason, James (26 October 1990). Human Error. Cambridge University Press. ISBN 978-1-139-45729-3.
  12. ^ See, for example, "An Approach to the Intelligent Decision Advisor (IDA) for Emergency Managers, 1999".
  13. ^ See, for example, "Decision engineering, an approach to Business Process Reengineering (BPR) in a strained industrial and business environment".
  14. ^ Briskin, Alan; Callanan, Tom; Erickson, Sheryl (March 2011). The Power of Collective Wisdom and the Trap of Collective Folly. ReadHowYouWant.com. ISBN 978-1-4587-3224-8.
  15. ^ Stasser, Garold; Titus, William (1985). "Pooling of unshared information in group decision making: Biased information sampling during discussion". Journal of Personality and Social Psychology. 48 (6). American Psychological Association (APA): 1467–1478. doi:10.1037/0022-3514.48.6.1467. ISSN 1939-1315. S2CID 34000088.
  16. ^ Lu, Li; Yuan, Y. Connie; McLeod, Poppy Lauretta (2011-09-06). "Twenty-Five Years of Hidden Profiles in Group Decision Making". Personality and Social Psychology Review. 16 (1). SAGE Publications: 54–75. doi:10.1177/1088868311417243. ISSN 1088-8683. PMID 21896790. S2CID 12237599.
  17. ^ Li, Chen; Chen, Wuqing (2006). "Cultural Limitations of the Fundamental Attribution Error". Advances in Psychological Science (in Chinese). 14 (6): 938–943. ISSN 1671-3710.