アドリアン・フルティガー

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アドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger, 1928年5月24日 - 2015年9月12日)はスイス書体デザイナーグラフィックデザイナーUniversFrutigerなど多くの著名な書体をデザインするとともに、公共機関のサインシステムの設計なども手掛けた。

若年期[編集]

フルティガーはスイスのアルプスの麓にあるインターラーケン近郊で、機織り職人の子として生まれた。子供の頃は、自分でさまざまな筆記体をつくったり、小学校の授業で習った筆記体を自分なりにつくり変えるなどして遊んでいた。その後、彫刻家を志望するも、父親や中学校の教師たちの勧めにより、印刷の世界へ進むことになった。それでも、自らの書体デザインのもととなる彫刻への愛情を持ち続け、仕事の合間に多くの造形作品を制作していた。

青年期[編集]

高等学校を卒業後、18歳でインターラーケン近郊のオットー・シェフリー印刷所に見習い植字工として入所する。1948年に同印刷所で「トゥーン湖の教会」という小冊子の活字組版木版彫刻、印刷までの全工程を担当し、その完成をもって見習い期間を修了した。それから1951年まで、チューリッヒ工芸専門学校(現在のチューリッヒ芸術大学)の授業に出席し、木版画、銅版画彫刻ドローイングを学ぶ。ローマ時代の碑文など、古典についての授業を受けるなかで、次第に製図用具を使わず、ペンと平筆だけを用いるカリグラフィーに傾倒していった。フルティガーは、卒業制作として発表した「木版に展開したラテン・アルファベットの発達史」を見たシャルル・ペイニョ社長により、パリの活字鋳造所、ドベルニ・エ・ペイニョ社に芸術監督として採用される[1]

仕事の概要[編集]

入社後、活字原字製作部に配属されると、まず古典的な活字をもとに機械式活字父型彫刻機のための新たなパターン原図を起こす仕事についた。その後、ペイニョ社長が資金を投入していたリヨンの関連会社・ルミタイプ社の写真植字機に向けて、既存の書体を翻刻する仕事も任された。

1952年頃、ドベルニ・エ・ペイニョ社において、金属活字と写真植字用活字の両方で使用できる古典的なローマン体を新たに開発する計画が起こる。この書体のデザインを任されたフルティガーは、15世紀にニコラ・ジェンソンがデザインした活字を基に、直線を用いず、ゆるやかな曲線によって構成された自然で有機的な書体を完成させた。この書体はMeridien(メリディエン)と名付けられ、まず同社から金属活字として1954年に発売され、続いて1955年に写真植字書体として発売された。フルティガーのデザインした書体で、最初に商業的に発表された書体は、1954年のPresident(プレジデント)である。これはセリフの小さい大文字だけの見出し書体だった。同年にインフォーマルなスクリプト書体、Ondine(ウンディーヌ)も発表された。1956年に、フルティガーは自身初のスラブセリフ書体となるEgyptienne F(エジプシャンF)を発表した。エジプシャンはClarendon(クラレンドン)をもとにしたスラブセリフ書体であり、初めて写真植字用に発注された新しい書体だった。

シャルル・ペイニョは、活字と写植の両方で使用できるような統一感のある大きなファミリーフォントを追い求めていた。バウアー社によるFutura(フーツラ)書体の成功を受け、ペイニョは新しい幾何学的なサンセリフの完成に力を入れた。フルティガーはFuturaの組織が気に入らず、新しいサンセリフはリアリスト(ネオ・グロテスク)に基づくべきだとペイニョを説得し、1896年の書体Akzidenz Grotesk(アクチデンツ・グロテスク)が基本モデルとして選ばれた。21のバリエーションに統一感を持たせるために、母型を作る前に、すべてのウェイトと横幅をローマン体とイタリック体で満足のいくまで手書きで直した。このUniversでフルティガーは2桁のナンバリングシステムを導入した。最初の数字(3から8)はウェイトを示しており、3が最も細く、8が最も太い。2番目の数字は横幅とローマン体か斜体かを示している。Universに対する世間の反応は素早く、そして前向きだった。フルティガーはUniversが彼がその後作った全ての書体の基礎になったと語っている。UniversはSerifa(セリファ、1967年)とGlypha(グリファ、1977年)の基になっている。

1970年代初頭、パリ郊外のロワシーパリ=シャルル・ド・ゴール空港を建設するにあたり、主任建築家のポール・アンドリューから、ド・ゴール空港独自の新しい書体を含む空港内のサインシステムの設計を依頼された。概要には、遠方からおよび正面ではない角度からでも高い視認性を求めるとの内容があった。フルティガーはUniversが最適だと思ったが、その考え方は1960年代を引きずる時代遅れかも知れないと思い直した。最終的に書体は、エリック・ギルGill Sansエドワード・ジョンストンによるロンドン地下鉄の書体、Roger ExcoffonのAntique Oliveなどのヒューマニスト・サンセリフによる影響を受け、有機的に調節されたUniversの変化型となった。Roissy(ロワシー)と名付けられていたその書体は、1976年にマーゲンターラー・ライノタイプ社から一般向けにリリースされる際に、Frutigerと改名される。

フルティガーによる1984年の書体Versailles(ヴェルサイユ)は、彼が初期に手掛けたPresidentに似たキャピタルを持つオールドスタイルのセリフ体である。Versaillesではセリフは小さく象形文字的である。1988年、フルティガーはAvenir(アヴェニール)を完成させた。Avenirとはフランス語で未来を意味し、Futuraの印象を持ちつつ、ネオ・グロテスクに似た構造も併せ持っている。Avenirには一通りのウェイトが全てそろっている。1990年にフルティガーは、モーリス・フラー・ベントンのFranklin Gothic(フランクリン・ゴシック)とNews Gothic(ニュース・ゴシック)に影響を受けたVectora(ベクトラ)の開発を終える。完成した書体はエックスハイトが高く、小さなポイントでも読みやすいものとなった。

1990年代後半に、フルティガーはこれまでに開発したUnivers、Frutiger、Avenirといった書体を、現代の技術を使って洗練・発展させる作業に取り掛かった。Universは63バリエーションとして再発表された。FrutigerはFrutiger Nextとして、イタリック体と数ウェイトを付け加えて再発表された。ライノタイプ社小林章との共同作業により、フルティガーはAvenirにlightとheavyのウェイトを付け加え、更にコンデンスドを加えてファミリーの幅を広げた。この書体はAvenir Nextとしてリリースされた。

フルティガーのキャリアは、金属活字、写植、そしてデジタル・タイプセッティングというタイプの発達の時代をまたいでいた。フルティガーは晩年、スイスのベルン近郊に住み、主として木版作りをしていた。

その他の仕事[編集]

2003年にフルティガーはスイスの時計メーカーVenturaより限定版腕時計のデザインを委託された。彼は時計の文字盤用に新しい書体を作った。フルティガーはまた、インドアーメダバッドにある国立デザイン研究所のマークをデザインした。この研究所は元々National Design Instituteと名付けられていたが、フルティガーが図案化したNID(「National Institute of Design」の頭文字)のロゴに合わせて名前を改めた。

書体一覧[編集]

フルティガーは下記の書体をデザインした。

  • Meridien(メリディエン、1955年)
  • Egyptienne(エジプシャン、1956年)
  • Univers(ユニバース、1957年)
  • Serifa(セリファ、1967年)
  • OCR-B(OCR-B、1968年)
  • Iridium(イリジウム、1975年)
  • Frutiger(フルティガー、1975年)
  • Glypha(グリファ、1979年)
  • Icone(アイコーン、1980年)
  • Breughel(ブリューゲル、1982年)
  • Versailles(ヴェルサイユ、1982年)
  • Linotype Centennial(ライノタイプ・センテニアル、1986年)
  • Avenir(アヴェニール、1988年)
  • Vectra(ベクトラ、1990年)
  • Linotype Didot(ライノタイプ・ディド、1991年)

参考文献[編集]

  • Carter, Sebsatian. 20th Century Type Designers. Lund Humphries Publishers: 2002. ISBN 978-0853318514.
  • Friedl, Frederich, Nicholas Ott and Bernard Stein. Typography: An Encyclopedic Survey of Type Design and Techniques Through History. Black Dog & Leventhal: 1998. ISBN 1-57912-023-7.
  • Jaspert, Berry and Johnson. Encyclopædia of Type Faces. Cassell Paperback, London; 2001. ISBN 1-84188-139-2
  • Macmillan, Neil. An A–Z of Type Designers. Yale University Press: 2006. ISBN 0-300-11151-7.
  • McLean, Ruari. Typographers on Type. Lund Humphries: 1995. ISBN 978-0853316572.

脚注[編集]