アスヒカズラ

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アスヒカズラ
分類
: 植物界 Plantae
: ヒカゲノカズラ植物門 Lycopodiophyta
: ヒカゲノカズラ綱 Lycopodiopsida
: ヒカゲノカズラ目 Lycopodiales
: ヒカゲノカズラ科 Lycopodiaceae
: ヒカゲノカズラ属 Lycopodium
: アスヒカズラ L. complanatum
学名
Lycopodium complanatum L.
和名
アスヒカズラ

アスヒカズラ学名: Lycopodium complanatum L.)はヒカゲノカズラ科シダ植物の1つ。直立する茎の先端が枝分かれして広がる様子がアスナロのように見えることからこの名がある。

特徴[編集]

這い回る茎を持つ常緑性多年生草本[1]匍匐茎は本体の太さが1.4~1.7 mm(最大幅では1.2~1.9 mm)、葉を含めると2.8~3.6 mm(2.2~4.3mm)。匍匐茎は地表を這うが、地中を伸びることもある[2]。匍匐茎は長く地上を這い、多数の分枝を出して地面を覆う群落になる[3]

匍匐茎の側枝として出る直立茎はその先端近くで二叉分枝を繰り返す。分枝した小枝は扁平になっており、また枝は扇状に広がることが多い[2]。直立茎の太さは本体が0.8~1.0 mm(0.7~1.0 mm)、葉を含めると1.9~2.3 mm(1.6~2.8 mm)。茎には多数の小さな葉が並ぶが、これには腹葉、背葉の2形があり、さらに直立茎では側葉が区別されて3形となっている。ここの葉は狭披針形で直立茎では長さ2.7~3.4 mm(2.3~4.0mm)で幅0.4~0.7 mm(0.3~0.8mm)、匍匐茎では長さ3.7~5.5 mm(2.8~7.0 mm)で幅0.7~0.8 mm(0.6~0.9 mm)。葉質は薄い革質で緑色、先端は突き出して尖り、縁は滑らかで、基部は広く茎に沿うようになっている。背葉は幅が狭くて茎に密着し、側葉は幅が広くて大きい角度で出るか内側に曲がり、腹葉は小さくて先端部以外は茎に密着している[2]

胞子嚢穂は直立茎の先端から出る。夏に直立茎の先端からまばらに葉をつけた茎が直立して伸び、その先端が2~3回の分枝をして胞子嚢穂をつける[2]。胞子嚢穂は茎1本当たり1~5個付き、長さは1.5~2.0 cm(1.0~2.4 cm)、幅3.3~4.0 mm(2.6~4.4 mm)。概形は円柱形をしている[2]

和名は翌檜葛の意で、直立葉の様子がアスヒ(アスナロ)のようで匍匐茎が蔓状であることに依る[4]

分布と生育環境[編集]

日本では北海道本州、それに四国徳島県に分布し、国外では東千島ロシアの極東地域、シベリア朝鮮中国モンゴル南アジア北アメリカの北部に知られ、基準産地はスウェーデンである[4]。本州での分布は基本的には中部地方以北に限られるが、滋賀県兵庫県鳥取県徳島県の限られた場所に分布がある[2]。なお、兵庫県、岡山県広島県、島根県では比較的低標高の地で発見された個体群があるが、これは法面への吹きつけ種子に混じって移入されたものと考えられている[4]

地上生で山地の日当たりの良い場所に生育する[2]

分類、類似種など[編集]

ヒカゲノカズラ属には世界に40~50種ほどがあり、日本からは7種ほどが知られている[5]。本属を細分する考えもあり、その場合には本種はアスヒカズラ節 sect. Complanata とするが、これを独立属としてアスヒカズラ属英語版(学名: Diphasiastrum)に扱う考えもあり、いずれにしてもこれに所属させるのは日本では本種の他にタカネヒカゲノカズラ L. nikoenseチシマヒカゲノカズラ英語版 L. alpinum などがある。また本種ともっとも近縁なのは L. multispicatum であるとされ、この種は近いところでは台湾から知られているが、本種との関係には検討が必要とのこと[4]

外見的には地上を匍匐するつる性の植物で横枝が二叉分枝を繰り返して扇状に広がり、まるでアスナロの枝葉のような姿になるのは独特で区別は容易である。かつては直立枝の太さで幅3~4 mmより狭いものをホソバアスヒカズラと呼んで変種とするような扱いもあったようであるが、田川 (1959) の段階でも無意味呼ばわりされている。

保護の状況[編集]

環境省レッドデータブックでは取り上げられていないが、府県別では茨城県埼玉県滋賀県三重県兵庫県岡山県島根県で絶滅危惧I類、山梨県愛知県石川県福井県で絶滅危惧II類、他に静岡県でも指定があり、また徳島県では情報不足、神奈川県奈良県鳥取県では絶滅したとされている[6]。明らかに指定があるのは分布南限地域である。

出典[編集]

  1. ^ 以下、主として海老原 (2016), p. 266
  2. ^ a b c d e f g 岩槻 (1992), p. 48.
  3. ^ 牧野 (2017), p. 1339.
  4. ^ a b c d 海老原 (2016), p. 262.
  5. ^ 以下も海老原 (2016), p. 261
  6. ^ アスヒカズラ”. 日本のレッドデータ検索システム. 2024年3月7日閲覧。

参考文献[編集]

  • 牧野富太郎『新分類 牧野日本植物図鑑』北隆館、2017年。 
  • 岩槻邦男『日本の野生植物 シダ』平凡社、1992年。 
  • 田川基二『原色日本羊歯植物図鑑』保育社、1959年。