「マクスウェル分布」の版間の差分

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'''マクスウェル分布'''(マクスウェルぶんぷ、{{Lang-en-short|Maxwell distribution}}<ref name="terms">{{Cite book|和書
'''マクスウェル分布'''(マクスウェルぶんぷ)とは、[[熱力学的平衡]]状態において、[[気体]][[分子]]の[[速度]]が従う[[分布関数]]である<ref name="atkins">{{cite book|和書 | title=アトキンス物理化学| publisher=[[東京化学同人]] | author=Atkins, P. W. | year=2001 | isbn=4-8079-0529-5| edition=第6版|volume=上|others=千原秀昭・中村亘男訳|pages=26-28}}</ref>。マクスウェル=ボルツマン分布と呼ばれることもある。[[気体分子運動論]]により導かれたが、より一般化された[[ボルツマン分布]]からも導かれる。
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== 概要 ==
通常の静止した気体では、それを構成する分子の速度ベクトル <math>\mathbf{v}</math> は、その成分を <math>v_x, v_y, v_z </math> とすると、次の式に従って分布する<ref name="atkins" />。
通常の静止した気体では、それを構成する分子の速度ベクトル <math>\mathbf{v}</math> は、その成分を <math>v_x, v_y, v_z </math> とすると、次の式に従って分布する<ref name="atkins" />。
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f(v_x,v_y,v_z) =
f(v_x,v_y,v_z) =
\left( \frac{m}{2 \pi kT} \right)^{3/2}
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\exp \left( \frac{-m\left(v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\right)}{2kT} \right) </math>
\exp \left( \frac{-m\left(v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\right)}{2kT} \right)
</math>


ここで ''m'' は分子の質量、k は[[ボルツマン定数]]、''T'' は温度である。 この速度分布は、最初に見いだしたイギリスの物理学者[[ジェームズ・クラーク・マクスウェル]]にちなんで、'''マクスウェル分布'''と呼ばれる。
ここで ''m'' は分子の質量、k は[[ボルツマン定数]]、''T'' は温度である。 この速度分布は、最初に見いだしたイギリスの物理学者[[ジェームズ・クラーク・マクスウェル]]にちなんで、'''マクスウェル分布'''と呼ばれる。
分子の分布が上の式で表せるの証明は[[最大エントロピー原理]]の項目を参照。
{{Main2|分子の分布が上の式で表せることの証明|最大エントロピー原理}}



マクスウェル分布のもとでは、たとえば''x''方向の速度成分 ''v<sub>x</sub>'' の分布は上記の式を ''y'',''z'' 方向の速度成分で積分して得られ、
マクスウェル分布のもとでは、たとえば''x''方向の速度成分 ''v<sub>x</sub>'' の分布は上記の式を ''y'',''z'' 方向の速度成分で積分して得られ、
: <math>

:<math>
f_1(v_x) =
f_1(v_x) =
\left( \frac{m}{2 \pi kT} \right)^{1/2}
\left( \frac{m}{2 \pi kT} \right)^{1/2}
\exp \left( \frac{-mv_x^2}{2kT} \right) </math>
\exp \left( \frac{-mv_x^2}{2kT} \right)
</math>

となって、左右対称なつりがね状の分布 [[正規分布]] になる。 また、''x, y, z'' 方向の各速度成分の分布は互いに独立で、
となって、左右対称なつりがね状の分布 [[正規分布]] になる。 また、''x, y, z'' 方向の各速度成分の分布は互いに独立で、
:<math>
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が成り立つ。
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また一方で分子の速さ ''v''、すなわち
また一方で分子の速さ ''v''、すなわち
:<math>v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2 + v_z^2}</math>
: <math>v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2 + v_z^2}</math>
の分布は最初の式で速度ベクトル <math>\mathbf{v}</math> を極座標で表して、方向に関して積分して得られ 
の分布は最初の式で速度ベクトル <math>\mathbf{v}</math> を極座標で表して、方向に関して積分して得られ
: <math>

:<math>
f(v) =
f(v) =
4 \pi v^2
4 \pi v^2
\left( \frac{m}{2 \pi kT} \right)^{3/2}
\left( \frac{m}{2 \pi kT} \right)^{3/2}
\exp \left( \frac{-mv^2}{2kT} \right) </math>
\exp \left( \frac{-mv^2}{2kT} \right)
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となる。
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[[image:MaxwellBoltzmann.gif|350px|right]]
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これによれば、分子の質量が大きく温度が低いほど分布は密になり、分子の質量が小さく温度が高いほど分布は疎になる。25℃における[[希ガス]]中での分子の速さの分布をプロットしたものを図に示す。
これによれば、分子の質量が大きく温度が低いほど分布は密になり、分子の質量が小さく温度が高いほど分布は疎になる。25℃における[[希ガス]]中での分子の速さの分布をプロットしたものを図に示す。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
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2012年2月27日 (月) 07:53時点における版

マクスウェル分布(マクスウェルぶんぷ、: Maxwell distribution[1])とは、熱力学的平衡状態において、気体分子速度が従う分布関数である[2]マクスウェル=ボルツマン分布: Maxwell-Boltzmann distribution[1])と呼ばれることもある。気体分子運動論により導かれたが、より一般化されたボルツマン分布からも導かれる。

概要

通常の静止した気体では、それを構成する分子の速度ベクトル は、その成分を  とすると、次の式に従って分布する[2]

ここで m は分子の質量、k はボルツマン定数T は温度である。 この速度分布は、最初に見いだしたイギリスの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルにちなんで、マクスウェル分布と呼ばれる。

マクスウェル分布のもとでは、たとえばx方向の速度成分 vx の分布は上記の式を y,z 方向の速度成分で積分して得られ、

となって、左右対称なつりがね状の分布 正規分布 になる。 また、x, y, z 方向の各速度成分の分布は互いに独立で、

が成り立つ。

また、一方で分子の速さ v、すなわち、

の分布は最初の式で速度ベクトル  を極座標で表して、方向に関して積分して得られ、

となる。

これによれば、分子の質量が大きく温度が低いほど分布は密になり、分子の質量が小さく温度が高いほど分布は疎になる。25℃における希ガス中での分子の速さの分布をプロットしたものを図に示す。

脚注

  1. ^ a b 文部省日本物理学会編『学術用語集 物理学編』培風館、1990年。ISBN 4-563-02195-4http://sciterm.nii.ac.jp/cgi-bin/reference.cgi 
  2. ^ a b P. W. Atkins 著、千原秀昭中村亘男 訳『アトキンス物理化学』 上(第6版)、東京化学同人、2001年、26-28頁。ISBN 4-8079-0529-5 

関連項目