門 (小説)
『門』(もん)は、夏目漱石の長編小説。1910年に「朝日新聞」に連載され、翌年1月に春陽堂より刊行された。
『三四郎』『それから』に続く、前期三部作最後の作品。親友であった安井を裏切って、その妻である御米と結婚した宗助が、罪悪感から救いを求める様を描く。
あらすじ
宗助は、かつての親友である安井の妻である御米を得たが、その罪ゆえに、ひっそりと暮らさざるをえなかった。そのため弟小六に関する父の遺産についてもあまり関心を示さず、小六を引き取り共に暮らすことになる。しかし気苦労の多い弟との同居のためなどで、御米は寝込んでしまう。大事にはならなかったが、やがて安井の消息が届き、大家の坂井のもとを訪れることを聞く。
宗助は救いを求めるために鎌倉へ向かい参禅したが、結局悟ることはできず帰宅する。すでに安井は満州に戻り、小六は坂井の書生になることが決まっていた。御米は春が来たことを喜ぶが、宗助はじきに冬になると答える。
参禅の折に出された公案「父母未生以前」という言葉は、「吾輩は猫である」「行人」など、他の作品にも見られる。
登場人物
- 野中宗助
- 主人公。親友から妻を得たことに後ろめたさを感じ、ひっそりと暮らしている。
- 御米
- 宗助の妻。かつては安井の内縁の妻であった。
- 小六
- 宗助の弟。大学に在学中。
- 安井
- 宗助のかつての友人。御米を奪われ、姿を消す。
作品解説
『三四郎』『それから』とともにいわゆる前期三部作をなす作品で、その最後にあたる。この作品は『それから』で友人の妻を奪い返し、高等遊民を脱して職を探しに出た主人公長井代助の「それから」で、社会から逃れるように暮らす夫婦の苦悩や悲哀を描写している。
宗助は唐突に鎌倉に参拝、本来ならば最も緊張感がある場面となるべきであろう、安井の出現が遠くの出来事となってしまい、結果として「それから」で見られたような大きなクライマックスを持たずに終焉を迎えてしまっているが、これは漱石の病状の悪化が原因であるといえる。この作品の連載終了後、漱石は胃潰瘍のため入院。さらに修善寺の大患を経験し、作風が大幅に変わっていくことになる。