通奏低音
通奏低音(つうそうていおん)とは、主にバロック音楽において行われる演奏形態の一つ。低音部の旋律に即興的な和音を付け加えて伴奏する演奏形態である。イタリア語のバッソ・コンティヌオ(Basso continuo)の訳語で、伴奏楽器が間断なく演奏し続けるということからこの名がある。略してコンティヌオと呼ぶことも多い。ドイツ語でゲネラルバス(Generalbass)とも呼ばれる。
通奏低音パートの楽譜には最低声部の旋律だけが示され、旋律楽器は楽譜どおり演奏するが、和音楽器では楽譜を見ながら和音を即興的に付けて演奏する。この和声化の作業をリアライズといい、奏者の力量が問われる。奏者の裁量に委ねられる部分の大きいこうした演奏は、必然的に即興性の強いものとなる。このリアライズの作業のために音符の上または下に和音を示す数字を付けることも行われ、この数字の付いた楽譜のことを数字付き低音という。通奏低音の語がこの数字付き低音のことを指すことも多い。現代では専門教育を受けていないアマチュア用にリアライズを楽譜に書き起こしたものも多く市販されている。
現在は、チェンバロ、オルガンなどの鍵盤楽器や、リュート(テオルボ)、ハープ、ギターなどの撥弦楽器といった和音の出せる楽器に加えて、チェロ、コントラバス(またはヴィオローネ)、ファゴット、ヴィオラ・ダ・ガンバなどの低音旋律楽器によって演奏される事が多い。コントラバスやヴィオローネの場合、他の旋律楽器の8度下をユニゾンで演奏することが通例である。 一般には楽譜に演奏楽器の指定がなく演奏時にこれらの楽器を任意で選択する。但し、歴史的には和音楽器と一緒に低音旋律楽器が使われる事は限定的であった事に留意しなければならない。例えば、イギリスのP.ホールマンによれば「ソナタでこれらの楽器が使われたのは、音楽がオブリガートのバス・パート(コンティヌオのバス・ラインより手がこんでいる)を含むときだったと思われる」という[1]。 バロック時代のオペラやカンタータの"レチタティーヴォ・セッコ"など独唱の伴奏や、小編成の器楽曲では、和音楽器のみの伴奏も多く見られる。 一方、楽器編成の都合上や古楽の様式に則らない近代的な楽団による演奏では、旋律楽器のみで和音を伴わない楽譜どおりの演奏がなされることもあるが、これは本来の通奏低音の形態からすれば不完全なものといえる。
このような通奏低音という形態は、バロック音楽の根幹をなす要素であり、バロック音楽を指して「通奏低音の時代」と称することがある。また、ポピュラー音楽における「コード」の概念にも通じる原理がある。
脚注
- ^ 音楽の友社 A.バートン編/角倉 一朗訳 「バロック音楽 歴史的背景と演奏習慣」 第二章 記譜法、楽器法の項目