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スクリューの後方に配された舵
操舵輪
ロープと丸太を使い造られている原初的なメコン川の観光船の操舵輪

(かじ、ラダー、Rudder)とは、主に船舶の進行方向を自在に定めるための機構、およびその操作部を指す。

水中の板そのものを舵と呼ぶと同時に、船の操縦者である「操舵手」が操作する輪状の操作部も舵、または「操舵輪」と呼ばれる。操舵手が舵を操作することを「操舵」と呼ぶ。

船舶にならい、航空機自動車などでも進行方向を変える操作を「操舵」と呼んだり、その機構を同じく「舵」と呼ぶ場合がある。それらの多様な操向に関しては、動翼ステアリングを参照のこと。

概要

船舶の舵の多くが水中の板によって水流の流れを変えることで進行方向を変化・調節する仕組みであり、その板を舵と呼ぶ。大型船では船体後部の船底、小型船では船尾に取り付けられ、船体中心軸に対する角度を左右に変えることができる。スクリューを持つ船舶では多くがスクリュー直後に位置し、前進回転中のスクリューが生み出す強い水流の向きを右、又は左方向へと変えることで船体の向きを変える。向きを変えられた船体はやがて自らの船首船尾軸方向へと針路を変える。これが「転針」である。このような船では、スクリューが停止していれば舵の効果は下がり、逆回転中は舵効きが極度に悪くなる[1]ヨットなどのスクリューを持たない船舶では、船体が進むことで生じる水流を受け、船体へ反動を伝えることで船舶の向きを変える。

歴史

船の後端に固定舵を取り付けることを案出したのは、西暦紀元後の中国人であり、それまでは左右いずれかの側の船縁(ふなべり)に取り付けられた舵用の櫂、つまり「舵櫂英語版」(かじかい)を操っていた[2][3]。日本でもの造船技術の影響を受けて8世紀以後には和船に広く用いられていた。ヨーロッパでも13世紀までは大型船でも舵櫂が用いられていたが、その後、舵板(かじいた)によって後尾舵が用いるようになった[4]

小型船に用いられる舵には舵面を船上で操作するための「舵柄」(かじえ、ティラー、Tiller)が取り付けられ、直接、人の手で操作されていたが、大きな船では梃子や滑車などによって大きな舵面を簡便に操作する工夫が行われ、ロープを経由して舵を操作する大きな「舵輪」(だりん、ステアリング・ホイール、steering wheel)もこの工夫の1つである。

汽船の時代になると舵も「操舵機」(そうだき)によって機械力で動かすようになったが、その後も船橋や艦橋での舵輪は残り続け[5]、近年になり、わずかな船においてのみ舵輪を廃してステック操作による操舵を採用しているに過ぎない。

種類

1.普通舵 2.吊り舵 3.釣合舵 4.半釣合舵 5.非釣合舵 Aの部分が舵の回転軸である。Bの部分は「シューピース」と呼ばれる。2.は半釣合舵式の吊り舵である。

舵の回転軸の支持方法による分類

舵は回転軸の支持方法の違いによって2つに分けられる。

  • 普通舵(オーディナリー・ラダー、Ordinary Rudder)
    舵の回転軸が上下の両方から支持されているため、構造的に強固となる。キールから延びた部分は「シューピース」と呼ばれる。
  • 吊り舵(ハンギング・ラダー、Hanging Rudder)
    舵の回転軸が上方からのみ支持されているため、普通舵に比べて大きな強度が要求される。船尾船底を深くできない船に向いた舵である。

舵の回転軸の取り付け位置による分類

舵は回転軸の取り付け位置の違いによって3つに分けられる。

  • 釣合舵(平行舵、Balanced Rudder)
    舵を回転させる軸が舵へ掛かる水圧の中心付近にあるため、舵を動かす力が少なくて済む。
  • 半釣合舵(半平行舵、Semi-Balanced Rudder)
    釣合舵と非釣合舵の中間の特性を持つ。
  • 非釣合舵(不平行舵、Unbalanced Rudder)
    舵を回転させる軸が舵へ掛かる水圧を受ける位置にあるため、舵を動かす力が大きくなる。

舵が横方向に受ける力、つまり舵の揚力は舵の中心よりも少し前方になるため、舵の回転軸は釣合舵の場合でも若干前寄りに取り付けられている。

特殊な舵

フラップ付きラダー
港への出入りが多い内航船では、港内での操作性を重視して、舵板の後端部に「フラップ」と呼ばれる可動できる板を取り付けているものが多い。
フラップが最大70度程度まで舵角をとれるので、舵の利きが良くなり狭い港での操船が楽になる。フラップは一般に、主舵面の舵角の2倍まで動くようにできている。
フラップ付きの舵は「ベッカー・ラダー」、「かもめK7ラダー」、「川崎式フラップ・ラダー」といった商品名で売られている。
シリング・ラダー
「シリング・ラダー」(Schilling Rudder)は、特殊な形状の舵板の上下端に整流板が取り付けてあり、舵に当ったプロペラからの水流を逃さずに偏向することができる。最大で70度まで舵角がつけられるので、最大角度ではほとんど前進力は失われ船尾は横に移動する。バウ・スラスターがあれば船を横移動やその場での回転も出来る。
ベックツイン・ラダー(Vec-Twin Rudder)
左右に105度まで動かせる2枚のシリング・ラダーをジョイスティックによって操作するシステム。舵だけで後進も可能になるなど、2枚の舵の方向を組み合わせる事で様々な運動が可能になる。

基本形状

基本的な舵の形状は、水中での抵抗を最小にするために流線型になっている。流体の特性に合わせて、舵の水平断面形状は前方が丸く後半部はなだらかな曲線となり後端部は鋭くとがっている。このため、最も厚みがある場所がやや前方寄りとなる。飛行機の翼にも似た形状であるが、飛行機の翼が上下に非対称なのに比べて、船の舵は左右で同じ効果を持たせるために左右対称となっている。大型船では、左右2枚に分割したり、大小に分けて前後に配置することもある。船首にも舵を設けることも実験的にされたが、あまり効果がなく実用化されていない。

力学

揚力

舵の揚力係数と迎角
1.揚力係数 2.迎角 3.失速点 4.失速後の平衡点

舵が作る揚力は以下の式で表される。

F : 揚力
CL : 揚力係数 舵の形状によって決まり、迎角の関数となる。
ρ : 水の密度
U : 水の流入速度
S : 舵面の面積

剥離

舵の左右両面は「舵面」(だめん)と呼ばれ、舵面が作る角度によって、舵面に当る水流を右または左に偏向する役割を果たす。舵面全体の角度、つまり「迎角」(げいかく)が大きいほど大きな揚力が得られるが、流れに対する裏面側で流れが舵面に沿わずにはがれて流れる剥離が起きると揚力は逆に小さくなる。これが失速であり、飛行機の翼で起きる現象と同じである。

剥離が起きると舵の利きが悪くなるので一般的な舵の舵角は最大で35度程度になっている。フラップ付きの舵はこの剥離を抑えながら舵の角度を大きくとる工夫である。

船体に働くモーメント

舵によって生み出される横方向の力は船全体の質量に比べて小さいために、効果的に船体に回転力を与えるためには、できるだけ船体の端に位置する方が良い。船体へ働く回転力は「回転モーメント」と呼ばれ、回転中心となる重心位置からの距離(=モーメントレバー) × 舵の生み出す横方向の力(=揚力)で求められる。このためもあって、舵は船の最後部付近に位置している。

面舵と取舵

進路方向を右に取る場合は「面舵(おもかじ)」、左に取る場合は「取舵(とりかじ)」と言う。単に「面舵」なら右に15、「(同)一杯」となれば民間船では右に30度、軍艦では35度となり、「取舵」、「取舵一杯」ならその反対である。なぜ「一杯」かと言えば、これ以上は変角効果がないため。

また、船は舵を戻しても惰力により舵を取った方向に動き続ける(大日本帝国海軍と海上自衛隊では「行き脚」という)ため、取った舵と反対方向に舵を切って、船体が振れるのを止める「当舵(あてかじ)」を行う(自動車でいうカウンターステアに似る)。角度は5度が普通だが軍艦の場合だと戦艦は7度、その他輸送船などは10度が多く用いられる。“右に当舵”なら「面舵に当て」と指示する。

これらの表現は航空機にも共通である。

単独の舵を持たない船舶

脚注

  1. ^ 川崎、196-197頁
  2. ^ 欧州域で舵が生み出されなかったのは、当時の竜骨を備えた船体構造では中央に舵を取り付け難かったと考えられている。
  3. ^ 多くの船では右舷(うげん)側に舵櫂が取り付けられていたので、舵櫂が邪魔にならない左舷(さげん)側に接岸することが多かった。このことから、右舷側はステアリング・ボード (Steering board) が変化して「スターボード・サイド」(Starboard side) と呼ばれ、左舷側は「ポートサイド」(Port-side) と呼ばれることになった。
  4. ^ 帆船時代の舵板は、蝶板で船尾に取り付けられていた。
  5. ^ 川崎、162-163頁

参考書籍

  • 川崎豊彦『船舶の基本と仕組み』、秀和システム、2010年6月1日第1版第1刷発行、ISBN 9784798025940

関連項目